続・溺 愛




 シャルル・ジ・ブリタニアを弑したとして、自分が神聖ブリタニア帝国第99代皇帝として名乗りをあげた第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの存在を誰よりも先に認めたのは、第1皇女のギネヴィアだった。元々ギネヴィアは、ルルーシュが幼い頃から彼のことを猫可愛がりしていた節があり、誰もそれを不思議には思わなかった。
 ましてやシャルルによって記憶を改竄されていたルルーシュが、突如ペンドラゴンを、しかもギネヴィアの離宮をC.C.が訪れて改竄された記憶を取り戻すまで、ロロという弟と共にその離宮にいたことは、ギネヴィア以外の皇族は誰も知らない。ルルーシュが皇帝となることを一早く賛同したギネヴィア以外の者に対しては、ルルーシュの絶対遵守のギアスがかけられた。



真実(まこと)にギアスとは不思議な力よの」
 ギネヴィアの離宮で、ルルーシュは記憶を改竄されていた時同様に寛いでいた。その時と違うのはロロがいないことか。
「ロロは、そなたを守って死んだのかえ?」
「ええ。馬鹿な子です、俺を庇ってギアスを酷使して、心臓に負担をかけ過ぎ、挙句俺を守って死んでしまった。愚かな、可愛い俺の弟です」
 ギネヴィアは、ルルーシュがいかにロロを可愛がっていたかをよく知っている。今ではそれが記憶を改竄されていたがゆえのことと承知しているが、それでもルルーシュのロロに対する愛情は本物だったと、ギネヴィアはそう思っている。ゆえにロロはその命を懸けて、ルルーシュの思いに応えたのだろうと。決してロロは自分の運命を呪ってはいないだろうと、誰よりも愛しい兄を守りきることができたのだから、本望だったに違いないと思っている。だが、残されたルルーシュがそれを後悔していることもまた、事実であった。
「して、これからどうするつもりじゃ?」
 ギネヴィアはわざとロロから話題を反らした。
「ええ、皇族や貴族たちの既得権益を廃止する方向で考えています。それからナンバーズ制度の廃止も。異母姉上(あねうえ)にはご納得いただけぬかもしれませんし、ご迷惑もおかけすることとなりましょうが」
「なんの、それがそなたの望むことならば甘んじて受けようぞ。ナンバーズ制度とて昔はなかった。父上が各国に対して侵略戦争を仕掛けるようになってからの事。要は昔に戻るだけじゃ」
「そう言っていただけるとありがたいです。俺の考えるところでは、今のままのブリタニアのままでは、いずれやっていけなくなる時が来ると思っています。確かにブリタニアは世界一の超大国ですが、それも植民地たるエリアがあればこそ。相当の年月を要すると思いますが、エリアも解放していくつもりです。全ては父上が侵略戦争を始める前のブリタニアに戻ることになると思います」
「そなたの考えはよう承知しているつもりじゃ。(わらわ)にできる事があれば、何なりと協力しようぞ」
「そう言っていただけると本当に助かります。異母姉上には俺の記憶が改竄された状態の時から、一体どれだけお世話になっていることか。そのことを考えると、一概に皇族の特権を廃止することも考え直した方がよいのかとも思ってしまいます」
「なんの、妾一人のためにそなたのしたい事を取りやめることはないぞえ。全てはそなたの思う通りにするがよい」
「ありがとうございます。それでも皇族の特権廃止については、やはり少し考えてみます」
 にこやかな笑顔でそう告げる異母弟(おとうと)の顔を見て、ギネヴィアは嬉しそうな微笑みを浮かべた。
 それから暫くして、ルルーシュは超合集国連合との会談に臨むべく、エリア11、すなわち日本を訪れることになった。
「本当に大丈夫なのかえ? 今回の事は、いわば敵陣の中にそなた一人で乗り込むような事じゃ。しかも護衛もなしとは、仮にも一国の君主に対して取る態度ではない。何とかならぬのかえ?」
 エリア11に向かうルルーシュに、ギネヴィアは心配そうに声をかけた。
「大丈夫です、いざとなれば俺にはギアスがありますし。それに行方を晦ましているシュナイゼル異母兄上(あにうえ)と、異母兄上が持ち出したフレイヤの事を考えると、どうしてもそれに対処するためにフレイヤを開発したニーナの身柄を確保する必要があります。そのためにも俺はエリア11に行かなければ」
「それではそのニーナとやらの身柄を抑えるのが第一目的で、超合集国連合との会談は、おまけということかえ?」
 ルルーシュの意図を察して、ギネヴィアは微笑みながら問うた。
「そういうことになりますね、超合集国連合には気の毒ですが。どのみちこちらが持ちかけたブリタニアの超合集国連合参加は、人口比率条項を考えれば、どうしたって飲める話ではありませんからね」
 ルルーシュは苦笑しながら答える。
「それよりも異母姉上、これは俺の、万が一の事を考えてのことですが、暫くペンドラゴンを離れられることをお勧めします」
「ペンドラゴンを? それはまたどうして?」
「シュナイゼル異母兄上です。俺がいない、首都の警備が手薄になっている隙を狙って、異母兄上がペンドラゴンを狙ってくる可能性を俺は否定できないんです。ですから本当に万が一の事を考えてですが、暫くの間、せめて俺が此処を離れている間は、ペンドラゴンを離れていていただいた方が安全なのではないかと思うのです」
 あまりにも真摯なルルーシュのその言葉に、最初は目を丸くしていたギネヴィアも、ルルーシュの告げる内容にその可能性も否定しきることはできないと思ったのか、頷いた。
「そうじゃな。そなたがそこまで言うのであれば、妾は暫くペンドラゴンを離れていようぞ。そしてそなたの無事の帰国にあわせてペンドラゴンに戻り、そなたを出迎えることとしようぞ」
「そうしていただけるとありがたいです。異母姉上には大変良くしていただきました。異母姉上には是非ともご無事でいていただきたい。まあ、あくまで俺の推測でしかないので、無用の心配に終わればそれが一番なのですが」
「無用の心配という事であれば妾もじゃ。そなたが無事に目的を果たしてブリタニアに戻ってくるのを待っていようぞ」
「はい、行ってまいります」
 そうしてルルーシュはブリタニア軍を引き連れてエリア11へと向かい、ギネヴィアはルルーシュの勧めに従ってペンドラゴンを離れた。
 それが幸いしたのは言うまでもない。
 ルルーシュがエリア11を訪れ会議に参加している間に、ペンドラゴンに対してフレイヤ弾頭が投下されたのだ。
 自国の帝都へのフレイヤ投下を行うというシュナイゼルらの所業は、一つの可能性として予測していたとはいえ、いざそれが実行されたとなると、流石にルルーシュの理解の範疇を超えていた。億からの民を擁するペンドラゴンもシュナイゼルからすれば何の意味もなく、ただ自分たちがフレイヤを所持し、ルルーシュの戦意を殺ぐということでしかなかったのかと、ペンドラゴンの所在したと思われる一帯にできた巨大なクレーターの映像を前に、さしものルルーシュもショックは隠せなかった。
 また最初から敵対すると分かっていた異母兄(あに)シュナイゼルの存在は思っていた通りのことで、さしてショックではなかったが、妹ナナリーが生きていたことは正直嬉しかったが、シュナイゼルにいいように騙された挙句、ペンドラゴンへのフレイヤ投下を認可し、自分に対して敵発言をしてきたことは、ルルーシュにとって相当にダメージが大きかった。
 そんな中での唯一の救いは、自分を愛してくれる異母姉(あね)ギネヴィアの無事であった。
「異母姉上、ご無事だったのですね?」
 皇族専用のロイヤルプライベート回線を通してギネヴィアと連絡を取ったルルーシュは、心底安堵した表情を見せた。
『そなたの言葉を信じて、ペンドラゴンを離れていたことが幸をそうしたようじゃ。
 それにしても、シュナイゼルはともかくナナリーの事はそなたには大変なショックであろうに』
「……ナナリーの事は、ナナリーは第2次トウキョウ決戦の際に死亡したものと諦めていましたから、……やはりナナリーはあの時に死んでいたものと思うことにいたします……」
 苦渋の表情でそう告げるルルーシュを、ギネヴィアは痛ましそうに見やった。
『妾はこれからヴラニクスに向かうつもりじゃ』
 ギネヴィアはルルーシュの意識をナナリーから反らすように話題を変えた。
「ヴラニクスですか?」
『そうじゃ。ペンゴンが帝都となる前の、かつての帝都じゃ。改めて帝都の整備をするなら、ヴラニクスを利用するが一番であろう。何ぞ妾がしておくことなどないかえ? あれば多少なりともそなたのために手配をしようほどに』
「帝都に必要なものは異母姉上には分かっておいででしょう。俺が指示するまでもなく。お任せします」
『嬉しい事を言ってくれる』ギネヴィアは笑った。『ならばそなたが戻る前に、可能な限りの手配をしてみせようぞ』
「流石は異母姉上、期待しております」
『早う戻ってそなたの無事な顔を見せてたもれ』
「はい、俺も異母姉上のご無事な姿を直に確認いたしたく思っています」
 敵対した異母兄シュナイゼル、異母姉コーネリア、そして何より実妹のナナリー。そのことを思えば辛くないはずがない。けれどその一方で、自分を誰よりも愛しんでくれる異母姉のギネヴィアのことを考えると胸が温かくなるルルーシュだった。

── The End




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