こういう関係に至った原因は、やはり私にあるのだろうか。私が誘ったことになるのだろうか。
そもそものきっかけ、というか大元の原因は、ルルーシュがスザクと二人してゼロ・レクイエムなどという、私に言わせればくだらない、決して彼らの望んだ未来など訪れないだろうこと、つまり意味のないことを決めて、その一環としてルルーシュがブリタニアの皇帝となった後も、以前と変わらずにルルーシュを抱き枕にしていた私にあるのだろう。
ある夜、眠りの中、悪夢に魘されているかのようなルルーシュをどうにかしてやりたくて、私らしくもなく聞こえていないだろうと思いつつも、優しい言葉をかけ、背中を、髪を撫で、顔中に触れるだけの口づけを落とし続けた。どのくらいの間そうしていただろうか。やがてルルーシュがぽっかりと目を開いた。
「……C.C.……」
ルルーシュにしては珍しく、私を呼ぶその声にも瞳にも、常の力は感じられない。本当にあのルルーシュなのかと思ってしまうほどに弱々しい。けれどこれもまた彼の一面なのではないかと思う。ただ普段は他人に対して決して見せないだけで。そしてそれはスザクに対してもそうなのではないかと思う。いや、もしかしたら多少は見せているかもしれないが、そうだったとしてもごく一部にすぎないのではないだろうか。ここまでルルーシュが他人に対して己の弱さを曝け出すことなど考えられない。
これは共犯者たる私の特権と考えてもいいだろうか、との思いがふと頭を過る。
「案ずることはない。心配することなど何もない。私はいつだっておまえと共にいる。最期までずっと共にいる。おまえは私が魔女なら自分が魔王になればいい、などと言ってくれたただ一人の存在。私にとって真の唯一の共犯者。そんなおまえだから、ルルーシュ、愛しているよ」
そう告げて、ルルーシュの唇に己の唇を重ねる。
それは最初は触れ合わせるだけのものだったが、次第に深いものへと変わっていく。そして気が付けば私とルルーシュの態勢も変わっていた。私はベッドの上に仰向けで、その上からルルーシュが私を見下ろしている。
「C.C.」
私を呼ぶルルーシュの声には相変わらず力はない。常らしからぬか細い声だ。これだけ近いから聞き取れるほどのもの。
そのルルーシュの手が、私が寝間着代わりにしているシャツにおずおずと伸ばされてくる。ルルーシュがこれから私に対して何をしようとしているのか、それは即座に理解した。しかしそれを拒絶しようなどという考えは浮かばない。むしろ、私は心のどこかで、何時かこんな時が来るのを待っていたのかもしれない、とすら考える。
ゆっくりとルルーシュの唇が私の首筋に落とされ、移動していく。肌のあちこちにルルーシュの唇が触れるのを感じる。
これまで生きてきた永い時間の中、私は誰にも己の肌を許したことはない。ルルーシュが初めてだ。そしてそれはおそらくルルーシュもそうだろうと察することができる。
胸元にルルーシュの唇が落とされた時、私はルルーシュの頭を掻き抱いた。
それが始まりだった。それからほとんど毎夜のように、二人して肌を重ねあった。そう、ゼロ・レクイエムの前夜まで二人だけの秘め事として。
哀しいと思うのはコード保持者としての不老不死たるこの躰。どれほどにルルーシュと肌を重ね、契りを交わそうとも、その形見を、ルルーシュの血を引く者を遺すことは叶わない。自分が不老不死であることをこれほどまでに呪ったことはない。解放されたいと、死にたいと思ったことは幾度もあった。いや、いつも考えていたと言ってもいいかもしれない。しかしそれをここまで呪い、憎んだのは、おそらく初めてのことではないだろうか。
これから先、どのくらいの永い時間を生きていくことになるのかは分からない。今後、誰かと契約を交わしてギアスを授けようとは思わないから。そうしたら私は永遠にコード保持者のまま、不老不死のままだろう。
だがその先の時間の中で、二度と他の誰かに肌を許すこともないと思える。契りを交わすのはルルーシュが最初で最後だと。これはルルーシュにも告げぬ私だけの秘めた想い。愛するのは永遠にルルーシュただ一人だけ。
もしかしたら、いつか遠い日に、生まれ変わったルルーシュの魂と出会うこともあるかもしれない。しかしそれはたとえ魂はルルーシュでも、その身はルルーシュではないから、私にとってはルルーシュとはなりえないだろうとも思う。
ルルーシュ、ルルーシュ、ルルーシュ────── ッ!
今にもおまえの代わりにゼロとなったスザクによってその命を終わらせようとしているおまえ。
おまえ一人の死でこの世界はそう簡単に変わりなどしないだろう。
けれどこれだけははっきりと言える。
私だけのただ一人の共犯者、ただ一人の魔王。ただ一人、契りを交わしたおまえ。おまえだけを愛しているよ、永遠に。この命あり続ける限り。
── The End
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