第2次トウキョウ決戦の終盤、ブリタニアの放った大量破壊兵器フレイヤは、文字通りトウキョウ租界を破壊し、巨大なクレーターを作り出した。被害は黒の騎士団だけではなく、それ以上にブリタニアの軍人や一般市民をも巻き込んでの膨大な数に上った。
そんな中、ブリタニアから外交特使として帝国宰相であるシュナイゼル自らが、黒の騎士団の旗艦である斑鳩に乗り込んできた。
ゼロを抜かした黒の騎士団幹部たちとの会談でシュナイゼルは告げた。
「ゼロは私やこのコーネリアの異母弟です。神聖ブリタニア帝国元第11皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。私が最も愛し、恐れた男です」
「ゼロがブリタニアの皇子だってぇ!?」
玉城がシュナイゼルが告げた事実に驚きの声を上げる一方で、ディートハルトは冷静に対応した。
「それがどうしたというのです? 我々はゼロを系譜ではなく、彼が起こした奇跡に従っているのですから」
「しかしその奇跡に種があるとしたら?」
ディートハルトの言ったような対応は考えていたのだろう、シュナイゼルは次の布石を打った。
「ゼロには特別な力、ギアスがあります。人に命令を強制する力です。強力な催眠術と考えてもらえばいいかと」
「奇跡に種があったとして、それがどうだというのです? 現にその奇跡によって我々はこれまで勝利してきた」
「証拠ならある! ゼロはギアスという力で人を操るペテン師だ!」
ブリタニア人の女性── ヴィレッタ・ヌゥ── と共に後から会議室に入ってきた事務総長の扇が叫んだ。
「ゼロはずっと俺たちを騙していたんだ、俺たちを駒として」
「奇跡に種があったらどうだというのです。寧ろ種のない奇跡など無いと思いますが」
「その力が敵にだけ使われているのならな」
ディートハルトがあくまで冷静に対応しているのに、扇は異論を挟み、幹部たちに動揺を与える。
「証拠ならあります」
そう言って、シュナイゼルはルルーシュと枢木スザクの遣り取りのテープと、ギアスにかけられたと思しき人物たちのファイルを幹部たちに提示した。
「私もかけられている」
扇の後ろにいるヴィレッタが告げた。
「これで高亥やジェレミアが寝返ってきたことも説明できる」
ファイルを見ながら、幹部の一人が口にする。
「……扇、その女、ブリタニア人だよな」
南が突然それまでと関係のない話を持ち出した。
「あ、ああ、地下協力員だ」
どもりながら扇がそれに答える。
「その女、ブラック・リベリオンの時におまえを撃って、本部を混乱に陥れた女じゃないのか?」
「ち、違う! 千草は俺の、俺たちの仲間だ!」
「あの時、おまえを撃ったのは間違いなくその女だ。あれで本部は混乱して、捕えていた学生には逃げられ、その学生たちによってせっかく捕えた白兜に逃げられ、大混乱になって大変だったんだぞ。ブラック・リベリオンの失敗はゼロが戦線を離れたことだけじゃない、おまえの行動にも責任があったんじゃないのか?」
それまで黙って遣り取りを見てきた藤堂がおもむろに立ち上がり、扇に近寄った。
「敵が相手にとって不利になる情報を持ってくることはあっても、自分たちに不利になる情報を持ってくることはない。有利になる偽りの情報は持ってきてもな。そんな敵の齎した情報を果たしてどこまで信用できるのかな。ましてや扇、その女は純血派に属する者だろう」
藤堂は静かに告げた。藤堂の言葉に、その場の雰囲気がまた変わる。
そうだ、敵の持ってきた証拠などどこまで信用できるか分からない。
純血派の女を地下協力員だなどと、どこまで信用できるものか、否、できようはずがない。
「扇、どうなんだよ、どっちが本当の事を言ってるんだよぉ」
玉城はどちらを信用したらいいのか分からず、扇に問うた。
「お、俺は嘘なんかついちゃいない! ゼロの起こした奇跡は全て偽りで、あいつは俺たちを騙し続けてきたんだ!」
「我々を騙して何をしてきたというんだ?」
叫ぶ扇に藤堂があくまで静かに問いかける。
「俺たちをブリタニアと戦わせて……」
「我々はブリタニアと戦うために組織された集団だ、ブリタニアと戦うのは当然の事だろう」
「だが奴は俺たちを駒扱いして!」
「なら何故ゼロは何時も自ら前線に、先頭に立って戦ってきた? 俺たちを駒扱いしているというのなら、彼は常に後方にいて良かったはずだ。だが彼は常に先頭に立ってブリタニアと戦ってきた。第一、ルルーシュ君がゼロだというのなら、自分と妹を見捨てた祖国を、ブリタニアを憎んで当然。俺は八年前に彼が「ブリタニアをぶっ壊す」と言った言葉を今でも覚えている。だからゼロがそちらの言うようにルルーシュ君だというのなら、寧ろ納得するな」
最後の方はシュナイゼルらを向いて告げられた。
「……どうやら私たちの言う事を信じては頂けないようですね」
「当然だ。俺は八年前、人質として日本に送られてきたルルーシュ君たち兄妹を知っているからな」
「何を言っているんだ、藤堂将軍! ゼロはペテン師だ! 俺たちを騙してきた奴だ! そんな奴をどうして信用するんだ!」
「千葉、南、扇と、一緒にいるブリタニア人の女を隔離しろ」
「は、はい」
藤堂の命令に、千葉たちは未だ疑問を残しながらも、興奮して怒鳴り散らしている扇と、その後ろでそわそわしているヴィレッタを拘束した。
「さて」
藤堂は改めてシュナイゼルとコーネリアに向き直った。
「おまえたちが持ってきた情報はどうあれ、一時停戦は受け入れよう。我々は体制を立て直さなければならないし、ブリタニアとしてもトウキョウ租界の惨状を放り出して戦争というわけにはいくまい」
「……この場はそれで納得するしかなさそうですね。あなたが幼い頃のルルーシュを知っていたとは不覚でしたよ」
「ああ、コーネリアは置いていけ、コーネリアは我々の捕虜だ」
その藤堂の言葉に、シュナイゼルはそうとは分からぬ程に眉を顰めた。
「仕方ありませんね。ですがコーネリアは我がブリタニアの皇女、それなりの待遇を要求させていただきます」
「それくらいは良かろう」
「異母兄上……」
「済まないがコーネリア、今暫く辛抱しておくれ。必ず君を解放してみせるから」
そう告げて、シュナイゼルは副官のカノンと共に会議室を後にすると、乗ってきた飛行艇で斑鳩を離れ、残されたコーネリアは独房に監禁されることとなった。
「藤堂さんよぉ、本当にゼロのことを信用していいのかよぉ?」
未だどちらを信用していいのか分からない玉城が藤堂に尋ねる。
「シュナイゼルが齎した情報通り、ゼロがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであるというなら彼を信用していい。彼はおそらく、俺たちの誰よりも、祖国であるブリタニアを一番憎んでいるのだから。それも日本が敗戦する前からな。それとも玉城、扇の言葉を信用しておまえも拘束されるか?」
「わ、分かった、分かったよっ!」
玉城が叫ぶように答えるのを耳にしながら、藤堂はゼロの先の取り乱しようの原因をやっと理解し、改めてゼロの力となることを己自身に誓うのだった。
── The End
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