箱庭の番人




 ミレイ・アッシュフォードは己に箱庭の番人たることを課していた。そしてまた、番人であると自負してもいた。
 かつてアッシュフォード家が後見を務めながら守りきることのできなかった、神聖ブリタニア帝国第5皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。せめて彼女の遺児である皇子と皇女を何としても守るのだと決めていた。
 いつまでも“学園”という名の箱庭の中だけで済む話ではない。いつかお二人がそれなりの年齢に至れば、新たなものが必要になる。けれど少なくとも今は、せめて兄皇子が大学院課程を終えられるまでは、現在の箱庭を守りつつ、お二方に楽しい時を過ごしてもらうのだと、常にそれを考えていた。楽しい時、という名のイベントに、自分の楽しみも見出していたのは否定しないが。
 しかし時は移ろい、状況は常に変化するものだ。
 最初の変化は、名誉ブリタニア人であり、軍人でもある枢木スザクの学園への編入。
 それは第3皇女の口利きであり、断ることはできなかった。皇族のお願いは、それを口にした皇族自身の意思はどうあれ、それを受けた者にとっては命令以外のなにものでもないのだから。
 けれどその枢木スザクが皇子たちが来日した当初の友人、幼馴染のような関係にあったのだと知ったことで、いささか安堵した部分はあった。例えその彼が、一番最初の出会いの時に皇子に何をしたのかを知っていても、それでも皇子は彼を笑って友人だと話していたから。
 そこまでだったら、完全とは言えないまでも、まだ良かったのだ。
 事態が怪しくなってきたのは、枢木スザクが名誉であるにもかかわらず、現行唯一の第7世代KMFランスロットのデヴァイサーであると知れた時。そして更に、それがきっかけでスザクが第3皇女の騎士に任じられた時。
 その時から周囲にはそれと知られず、本人にも悟られないほどに、皇子とスザクの間に薄い、けれど確実な膜ができたのをミレイは感じ取った。
 そして騎士に任じられたスザクが、皇女がいいと言ってくれているからと、選任騎士という立場にありながらそれがどういう意味を持つかも理解せぬままに学園を辞めもせず、当然のように通い続けることに、このままではいつか箱庭が崩壊するのではないかという不安が増していく。
 そしてやがて不安は現実のものとなる。
 学園祭という、学園最大のイベント。巨大ピザ作成の取材のために学園に来ていたTV局の取材クルー。内緒でスザクの通う学園を見てみたいと訪れた第3皇女。それらの要因が重なった時──
 第3皇女が取材クルーを前にして“行政特区日本”の宣言をした時、ミレイは箱庭が崩れていく音を聞いた気がした。
 学園祭の翌日、アッシュフォードが守ってきた皇子と皇女はその姿を消した。
 そしてさらにその翌日、ミレイは学園理事長である祖父に理事長室に呼ばれた。
「おじいさま」
「殿下から連絡があった」
「本当に? お二人は一体今どこに!?」
「自分たちのことはもう忘れてくれと」
 ミレイは祖父からの言葉に、力なくその場に座り込んだ。
 そして今度こそ箱庭がガラガラと崩れ去った音を聞いた。
「そんな、どうして……。ああ、あの男のせいよ、あの男とあのお姫さまのせいよ! 何もかも知っていながらその実何も理解していなかったあの二人のせいよ!! 許さない、決して許さない!」
 そうして箱庭の番人は、その時から復讐者と化した。

── The End




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