続・裏切りの後




 ルルーシュたちはゴットバルト辺境伯家の領内で穏やかに過ごす日々が続いていたが、ある日、帝都ペンドラゴンの宮殿からジェレミア宛に召喚状が届いた。
 それに、もしや自分がここにいることが分かったのでは、ならば出ていかねば、というルルーシュに、ジェレミアはご安心ください、と押し留めた。
「おそらく行方不明だった私が領内に戻っているにもかかわらず、出仕もしないことを訝られたのでしょう。ルルーシュ様がご心配になられるようなことはございません。この姿を見せれば理由はすぐに納得していただけるはず。これより出仕し、直ぐに戻って参ります」
 そう告げて、ジェレミアは供の者を一人だけ連れ、咲世子にくれぐれもルルーシュ様を頼む、と言い残して帝都へと向かった。



 帝都でジェレミアを待っていたのは、まずは宰相のシュナイゼルだった。
 宰相府に赴いたジェレミアだったが、その容姿に奇異の目で見られた。とはいえ、それは覚悟の上のことであれば、ジェレミア本人にとってはどうということはない。
 やがて取次がされ宰相の執務室へと案内される。
 シュナイゼルは鷹揚と構えていたが、流石にジェレミアの容姿には他の者たちと同様に息を呑んだ。
「久しぶりだね、ゴットバルト卿」
 それでも何でもないことのように言葉を向けてくるのは流石というべきか。
「はっ、お久しぶりでございます。宰相閣下におかれましては……」
「ああ、堅苦しい挨拶はいいよ」
 そう言って右手を上げて、ジェレミアの口上を止めさせた。
「エリア11のナリタ連山での戦闘以来、行方不明になっていた君が、最近になって自分の領内に戻っているらしいという話を耳にしてね。その割には宮殿に出仕も何の連絡もしてこないものだから、何があるのかと思って来てもらったのだよ」
「やはりそうでございましたか」
 思っていた通りだったかと、ジェレミアは半ば安堵の溜息を吐いた。
「何があったのか、話してもらえるかな?」
「正直、ナリタ以来の詳しい事は自分でもあまりよく覚えていないのです。自分の意識がはっきりしたのは、ギアス嚮団というところででした」
「ギアス嚮団!?」
 思わぬところで思わぬ名を聞いた、とでもいうように、シュナイゼルは声を上げた。
「ご存知なのですか、ギアス嚮団を?」
「……父上が、暫く前から何やら怪しげな物に熱中していてね。その中に、ギアス、というものがあったのだよ。その父上が行方不明の今、それが何なのか確認のしようもないが」
「私も詳しいところまでは存じません。ただ、ギアスと呼ばれる不思議な力と、不老不死とやらの研究をしている組織のようでした」
「不老不死? それはまた……」
「私の体はそこで改造され、この躰の半分は機械です、生身ではございません」
 その言葉に、シュナイゼルは目を見張り、改めてジェレミアの躰を見やる。
「意識を取り戻した後、嚮団の嚮主からある人物を抹殺するように指令を受け、私はそのように動きました。しかしその指令を実行する前に嚮団は黒の騎士団によって完全に壊滅させられ、私が抹殺するように指示を受けた相手も亡くなり、どうしたものかと考えた挙句に、自分の領地に戻ったのです。宮殿に出仕しなかったのは、このようになりました躰を曝け出すのを避けるためで、他意はございません」
「その、抹殺するように指令を受けた相手というのは?」
 興味を持ってシュナイゼルは尋ねた。
「黒の騎士団のゼロにございます。しかし結局はゼロに先手を打たれ、嚮団の方が壊滅した次第ですが」
「そうか。ゼロは確か第2次トウキョウ決戦の折に死んだのだったね、黒の騎士団からそう発表があった」
「はい。それを受けて、結局故郷である領地へ戻った次第です」
 シュナイゼルは深い溜息を吐いた。
 まさかこんなところでギアスが、嚮団などという組織まで関わってきていたとはシュナイゼルも思わなかった。
「そうか。そのような躰になってあまり人目に付きたくなかっただろうに、こちらは理由が分からなくて呼び出したりしてしまって悪かったね」
「いいえ、とんでもございません。元をただせばナリタでの自分の不徳のいたすところですし、領地に戻りながら何のご連絡も差し上げなかった私の手落ちでもあります」
「そう言ってもらえると助かるよ。で、卿はこれからどうするつもりなのかな?」
「本来なら今まで以上に陛下にお仕えすべきなのでしょうが、今の自分にはそれだけの余裕が、恥ずかしながらございません。これよりは領地にて穏やかに過ごしたく存じます」
「父上の代から異母兄上(あにうえ)の代に変わって、国是の弱肉強食や植民地主義は変わってはいないが、かつてほどの苛烈さはなくなった。卿が自分の今の容姿をあまり人に見せたくないと、領地に引いていたいというならそれもまた良いだろう」
「勝手を申しまして誠に申し訳ございません」
 更に深々と礼を取るジェレミアに、シュナイゼルは気にすることはないと、頭を上げるようにと告げた。
 そのシュナイゼルとの遣り取りを最後に、ジェレミアが帝都に上がることは二度となく、皇帝からの出仕の要請もなくなったという。

── The End




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