命の在り方




 Cの世界で父シャルルとと母マリアンヌを目の前にし、真実を告げられたルルーシュは驚愕し、ショックを受けていた。
 それでは自分という存在は一体何だったというのか。所詮ただのノイズでしかなかったというのか。
 そしてシャルルとマリアンヌがラグナレクの接続を行おうとする中、我を取り戻したルルーシュがそれだけはさせまいと、最後の抵抗を試みる。そう、神という名の人の集合無意識にギアスをかけるという方法で。
「神よ! 人の歩みを止めないでくれ! それでも俺は明日が欲しい!!」
 人にとって必要なのは人の意識を一つに纏めた嘘のない世界を創ることなどではない、明日という名の未来こそが人類にとって必要なものだ。それさえあれば人は変わっていける、世界は変えていける。
 そう思い、持てる力の全てを込めて、神に対し、絶対遵守の命令ではなく、祈りという名の願いを託す。
 ルルーシュの両の瞳がギアスの朱に染まり、赤い大きな鳥が飛んでいく。
「思考エレベーターが! 儂と兄さんの願いが壊れてゆく!」
 人の集合無意識にかけられたギアスの影響か、シャルルとマリアンヌの躰が徐々に飲み込まれるように消えていこうとしている。
「この愚か者があっ!」
 シャルルが最後の抵抗のようにルルーシュの首を絞めようとするが、かけられたギアスの前にそれは届かなかった。
 遂に二人の躰はCの世界に完全に飲み込まれ、消滅してしまった。
 その様を見届けた後、ルルーシュはC.C.に尋ねた。
「C.C.、おまえも行くのか?」
 おまえも消えいくのかと。
 それに対してC.C.は床に腰を下ろし、微笑を浮かべながら答えた。
「死ぬ時くらいは、笑って欲しいんだろう? それより、おまえたちこそこれからどうするんだ?」
 C.C.は逆にルルーシュとスザクに問い返した。
「シャルルたちの計画を否定し、現実を、時の歩みを進めることを願った。だが……」
 果たして自分に生きていく価値が、理由があるのだろうかとルルーシュは考える。
 そしてもう一方のスザクは剣を構えた。
「ああ、ルルーシュはユフィの仇だ!」
「だから?」
 だからスザク、おまえはここで俺を殺すというのか。
 ならばおまえが今まで殺してきた人たちに対してはどうするというのか。その人たちに対して、遺された人たちに対して、おまえは責任はないというのか。
 しかしそれはあくまでスザク個人の問題だ。
 自分はどうなのかといえば、多くの罪を犯し、人を殺してきた。そしてその一番の理由となったナナリーもいない今、殺されてやってもいいのかもしれない。他に生きる理由はないのだから。
 と、そこまで考えてルルーシュは思った。
 自分が今ここにこうしていられるのは、自分のために死んでいったロロのおかげだ。なのにここで死ぬということは、ロロのしてくれたことを無駄にすることだと。ロロの分まで精一杯生きることが、ロロが自分に対してしてくれたことに対して、自分が一番為すべきことではないのかと。
「悪いがスザク、おまえに今ここで殺されてやるわけにはいかない。それでは命を懸けて俺を救ってくれたロロに対して申し訳が立たない。行こう、C.C.」
 ルルーシュはC.C.に腕を伸ばして立ち上がらせると、Cの世界から出ていこうとする。
 スザクは慌ててその後を追った。このまま置いていかれては、自分一人がこのCの世界に取り残されてしまう。
 Cの世界から、遺跡から出た三人のうち二人は、黙って蜃気楼へと向かった。
「待て、ルルーシュ!」
 Cの世界から無事抜け出たことで暫し呆然となっていたスザクは、剣を構えながら慌てて二人の後を追う。スザクにとってルルーシュはどこまでいっても“ユフィの仇”でしかないのだろう。
「俺はロロの兄として、ルルーシュ・ランペルージとして生きていく。おまえが俺をユフィの仇としてどうしても許せないというのなら殺しにくるといい。だが俺は全力でそれに抵抗する。自分のためではなく、俺を生かしてくれたロロのために」
 蜃気楼に乗り込みながら、ルルーシュはスザクにそう告げた。
 告げ終わると同時にコクピットを閉め、ルルーシュは蜃気楼をエリア11本土へと向けた。
 途中、ルルーシュは自分の身を案じているであろうジェレミアに連絡を入れた。
「ロロが命懸けで俺を救ってくれた。だから俺は、これからはロロの兄として、ルルーシュ・ランペルージとして生きていく。おまえもおまえの生きる道を探してくれ。今まで済まなかった、ありがとう」
『ルルーシュ様! ……』
 何か言いたげなジェレミアだったが、それを最後に通信を切ると、ルルーシュは蜃気楼をアッシュフォード学園に向けた。
 アッシュフォード学園もフレイヤの余波で完全に無事とはいえなかった。ルルーシュたちが住居としていたクラブハウスの居住棟はほぼ完全に破壊されている。
 ルルーシュはうまいこと、学園の地下に蜃気楼を隠し入れると、C.C.と共に地上に上がった。
 生徒会室のある方に足を向けると中から人の気配がして、軽くノックをしてから扉を開ける。
「ルルーシュ!!」
 いたのはリヴァルだった。
 そこにいたのが、先刻の、これが最後のような、約束を守れそうにないとの電話をしてきたルルーシュだっただけに喜びに声を張り上げながら駆け寄ってきた。
「ルルーシュ、無事だったんだな。変な電話してきたから心配してたんだぞ!」
「すまない、心配かけた」
「ロロは? 一緒じゃないのか?」
 その問いかけにルルーシュは顔を曇らせる。
「俺を庇って、死んだよ」
「そうか……。と、ところで、そちらのお嬢さんは?」
 ルルーシュの隣にいるC.C.の存在に気付いて、話題の転換をした方がいいだろうとの配慮も働き、リヴァルはルルーシュに初めて見るC.C.のことを尋ねる。
「ああ、彼女はC.C.。俺の……相棒だ」
 今までだったなら“共犯者”と言うところを、一瞬考えて、変えた。これからはブリタニアを壊すための共犯者ではなく、共に生きていく相棒なのだと。
 その言い方に、ルルーシュの意を察したC.C.は何も言わなかった。
「えー、相棒は俺じゃないのかよ」
「お前は、悪友、だろ?」
 笑みを浮かべながらそう告げるルルーシュに、そうでした、とリヴァルは頭を掻いた。
「何か、俺にできることはあるか? そのために戻ってきたんだ」
「ああ、それだったら……」
 自分を庇って死んでいったロロのために、たとえどんな人生が待っていようと、それこそスザクにユフィの仇としていつか殺される時がこようとも、その時までルルーシュ・ランペルージとして精一杯生きていこう、それが俺のこれからの在り方だ。
 ルルーシュはその思いを強くして、まずはフレイヤの被害を受けた人々の救助のための行動を開始した。

── The End




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