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フジ決戦から一年ほど経ち、新帝都ヴラニクスがほぼ整備を終えた頃、とある民間ＴＶ局が開始した番組がある。
番組はそのものずばり、名は体を表すで『皇室アルバム』。
毎週日曜の午前に、それまでの一週間の皇族方の姿をとらえた映像や、その週に行われた行事に関する報告、週明け一週間の予定の公表などをメインに行っている。
“賢帝”ルルーシュの人気は庶民の間では元々高く、また、キャサリン皇妃── ルルーシュがC.C.に仮に付けた名前で、民間ではその名で通っている。流石にC.C.では済まされなかったからだ。ちなみに出身は、かつてヴィ家の後見だったアッシュフォード家に頼みこんで、その縁のさる貴族の出ということにしてある── が先頃、目出度く第一子を出産したばかりということもあり、視聴率は番組開始以来高視聴率をキープし続けている。
「早いもので、シャーリー第１皇女殿下がお生まれになってからすでに半年近くが過ぎようとしておりますが、その後、皇女殿下のご成長の方は如何なのでしょう？」
番組司会者が解説者の男性に問いかけた。とはいえ、その解説者なる人物は皇室そのものの歴史や行事には詳しくても、赤ん坊の成長について、となると門外漢なのだが、その点は培ったコネで情報を仕入れ、専門家の意見を聞き、さりげなくその質問に答えていく。
「さる皇室関係者の話によりますと、皇妃殿下は母乳でお育てになられており、そのご成長も順調でいらっしゃるとのことです」
「皇女殿下がお生まれになったことにより、皇位継承権も変動が出ているとのことですが」
「それはもちろん当然のことです。シャーリー皇女殿下は当代陛下の第１皇女としてお生まれになられたのですから、皇女殿下が皇位継承権第１位ということになります。今後、皇子殿下がお生まれになられればその皇子殿下が第１位の皇位継承権を持つことになる可能性もありますが、そのあたりは男子と女子で継承権に差をつけられるかどうか、陛下の御心一つかと思われます。ただ、母君であられる皇妃殿下は、あるいは皇女殿下には皇帝などという重荷を背負わせずに済むようにと、いずれかへのご降嫁をお考えの可能性もあります」
「やはり皇帝陛下ともなられますと、現在は陛下が親政を執られていることもあり、執務もそうとう激務になりますからね。そうなりますと、まだ皇女殿下がお生まれになられたばかりで早い話かもしれませんが、ここは皇子殿下のご誕生が待たれるところですね」
「そうですね。それも優秀な方が。もっともその点に関しましては、あのルルーシュ陛下のお子様でいらっしゃるわけですし、周囲にも優秀な方がたくさんいらっしゃいますから、問題はないと思いますよ」
「そうですね。それではここからは、先週一週間の皇室の方々の動きを追って参りたいと思います」
司会者の言葉に、画面が司会者と解説者の二人から切り替わった。
新たに映し出されたのは皇帝たるルルーシュと、キャサリン皇妃ことC.C.である。画面の中、二人はＥＵの一国であるフランスの元首たる大統領夫妻を、宮殿のエントランスで出迎えているところであった。
「これは火曜日に我が国を訪問されたフランスのミシュラン大統領ご夫妻をお迎えになられたところですね。ちなみに翌水曜日には宮殿内の大広間にて、陛下主催の晩餐会が催されています。画面、切り替わりますか？」
司会者の言葉に、画面は晩餐会の様子を映し出していた。
もちろん主賓席には皇帝夫妻と大統領夫妻が並んで座っている。それに次ぐ席にいるのは、先帝シャルルの皇子皇女たちが皇位継承順位に従って座っている。とはいえ、ペンドラゴンがフレイヤによって消滅させられたことにより、両手に余るほどにまで減っているが。
C.C.も流石に慣れてきたもので、ルルーシュのただ一人の皇妃としてそれなりに相応しい行動を取っている。とはいえ、それはこうした表向きの時だけで、普段は以前とさほど変わらない好き勝手な生活を送っているのだが、それでも母親として、赤ん坊の世話だけはしっかりやっている。もちろん、そこは宮殿の奥を取り仕切っている女官長でもある咲世子の協力を得ての上でのことではあるが。何せ、すでにある程度の年齢に達した子供の世話ならば、過去にマオという経験があるが、赤ん坊の世話は初めてなのだからこれは当然といえば当然のことであり、周囲の勧めもあって、彼女や咲世子が世話をできない時のために乳母を雇い入れている。
その点では周囲の思惑通り、宮殿に、皇族たちに仕える侍従、女官の数は次第に増えてきている。といっても、効率を優先するルルーシュはただ人手があればいいとは考えておらず、必要に応じて増やしているに過ぎないのだが、それでも当初の頃に比べれば柔軟になってきているのは事実だ。
「そういえば先帝の第15皇子、ルルーシュ陛下の異母弟君であられるクリスチャン殿下が、来年、イギリスのオックスフォードに留学されることが本決まりになったとの情報がありますが、これは確かですか？」
画面は宮殿内の一室を映し出しており、そこにはルルーシュたち皇帝一家の他に、歓談しているクリスチャンを含む皇族たちの姿が映っている。
「何をご専攻されるかまでは未だ情報は入ってきておりませんが、留学に関しては確定されたようです」
「それは皇族の方々にとってはお寂しいことになりますね。とはいえ、それはクリスチャン殿下の方こそより寂しい思いをされることになられるかと思いますが」
「そうですね。クリスチャン殿下はルルーシュ陛下を大変尊敬なされ、執務に関しても、いずれは政治に関わられることになるからと色々とご指導いただいているとのことですから。ですがこのご留学で、また一歩も二歩も、皇族として、為政者として、相応しくご成長あそばされるのではないでしょうか」
「陛下ご夫妻は大変仲睦まじくいらっしゃいますし、殿下がご留学を終えてご帰国される頃には、もしかしたらまたお一人、ご家族が増えている可能性もありますね」
「そうであることを国民も等しく願っていると思いますよ。それもできますれば皇子殿下を」
司会者の笑みを浮かべての言葉に、解説者も同じく笑みを浮かべながら、そうあればよいとの共通の認識の元で会話を続けている。
「さて、来週ですが」画面は再びスタジオに戻った。「皇帝陛下は皇妃殿下と共に明日月曜にはブリタニアを発たれ、蓬莱島で開催される超合集国連合の定例最高評議会にご出席。その後、その足で合衆国中華を正式にご訪問されるご予定です。
それと入れ替わるように、現在エリア日本州の総督を務めておられる先帝の第７皇子であられるクレメント殿下が、ルルーシュ陛下ご不在中の執務を執り行うために一旦ご帰国のご予定になっておられます。このあたりはすでに恒例となっていることですね？」
「かつての帝都であったペンドラゴンの消滅により、当時ペンドラゴンにいたほとんどの皇族方が亡くなられ、今ではクレメント殿下は数少ない皇族のお一人。しかもルルーシュ陛下も頼りになされていらっしゃる方です。
シャーリー皇女殿下のご誕生でクレメント殿下の皇位継承権は第２位となられましたが、ルルーシュ陛下にとってはクレメント殿下も、さきほど話題になったクリスチャン殿下同様、あるいはそれ以上に無くてはならぬ存在でいらっしゃると思います」
「それでは来週はルルーシュ陛下ご夫妻の超合集国連合の最高評議会出席と、それに続く合衆国中華公式ご訪問を中心にお送りすることになるかと思います。また、シャーリー第１皇女殿下のご成長につきましても、何か情報があれば逐一ご報告してまいる予定です。
本日はどうもありがとうございました」
司会者は最後に解説者にそう告げて軽く一礼し、それを合図に画面はＣＭに切り替わった。
オープニング、エンディング、ＣＭを入れても僅か30分の番組に過ぎないが、庶民にとっては雲の上の存在である皇族たちの日常を知ることのできる貴重な番組としてすっかり定着している。
先帝シャルルの時代にはとても考えられなかったことだ。皇帝が表に、ＴＶなどに出るのは何かしらあって演説を行う時のみだったからである。
そういった点でも、ルルーシュの代になって、相変わらず皇族が雲の上の存在であることに変わりはないが、それでも庶民にはより身近に感じられる存在となってきており、余程ひねくれた者や幼い子供らを除けば、シャーリー第１皇女の誕生は国民には我がことのように受け取られ、その成長ぶりも楽しみにされている。
番組が開始されてから早四年。
司会者は、番組の企画を持ち込んだミレイ・アッシュフォードに代わって２代目になっているが、今後もこの番組は続くだろうと皆に思われている。
ちなみにミレイが企画を持ち込めたのは、ひたすらにルルーシュとの個人的な関係があったればこそのものであった。ミレイといえば、ごく一部の存在を除いてほとんど知られていないが、皇帝であるルルーシュが頭が上がらない数少ない存在の一人だ。
そしてこの番組のおかげで国民にとってより身近な存在となった皇帝と皇室だが、その誰も、ルルーシュがいずれは自らの親政から立憲君主制に変えていこうと考えているとは知る由もない。だがそうなったとしても、番組は相変わらず続いていくだろう。さほど予算を食っているわけでもないのにそれほどの人気番組なのだ。皇室が存続する限り、番組の終了は有り得ないのではなかろうか、多分に。
── The End
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