悪逆皇帝と聖女




 神聖ブリタニア帝国第99代“悪逆皇帝”ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと、そのルルーシュがゼロの手にかかって殺された後を受けて、第100代皇帝となった、最後まで実兄たる“悪逆皇帝”と戦った“聖女”と呼ばれるナナリー・ヴィ・ブリタニア。だがその実態が如何に真逆なものであるかを知る者は、この世界にどれくらいいるだろうか。おそらくそれを知るのは、最後までルルーシュに従った者たちだけだろう。
 ルルーシュが“悪逆皇帝”と呼ばれるようになったのは、アッシュフォード学園で開かれた、超合集国連合の臨時最高評議会における、議長たる皇神楽耶の放った一言から。神楽耶は黒の騎士団の日本人幹部たちからの、敵の齎した情報を元にしたゼロであったルルーシュに対する批難だけを一方的に信じ込んだ。それまでのゼロの数少ない言葉も行動も、今は亡き桐原翁の言葉も忘れて。それまで皇帝となってからのルルーシュが行っていたものは、ドラスティックな改革であり、世間からは“賢帝”、“解放王”と呼ばれるものでしかなかったのに。
 一方、“聖女”と謳われるナナリーが何を為したかといえば、まずエリア11の総督として、自分には何もできないと告げる一方で、何ら検証することなく、原因は何であれ一度失敗している“行政特区日本”を再建すると唐突に発表し、結局は失敗に終わった。それはゼロの奸計もあってのことではあったが。
 しかし問題はそこではない。総督という立場にありながら、第2次トウキョウ決戦において大量破壊兵器フレイヤが使用された後、身を隠し、混乱するトウキョウ租界を、エリア11を見捨て、総督としてせねばならぬことを何一つとしてしなかった。結果、民衆に対しては、総督は死亡したと思わせることになった。にもかかわらず、トウキョウ租界の件から何ヵ月も経ってから、父帝を弑して帝位を簒奪したルルーシュは間違っており、自分こそが皇帝であると僭称し、自国の帝都であるペンドラゴンに対してフレイヤの投下を認め、億に上らんとする自国民を虐殺した。彼女こそ史上最大の虐殺皇女に他ならない。



 ルルーシュを筆頭としたブリタニア正規軍と、ナナリーを皇帝として擁する天空要塞ダモクレス── 実質的には彼女はお飾りに過ぎず、シュナイゼルが主体なのだが── に何故か黒の騎士団が参戦してのフジ決戦は、ブリタニア正規軍、つまりはルルーシュ側の勝利で幕を下ろした。
 その後、世界は圧政ともいえるルルーシュの独裁体制の下におかれることとなった。しかし、それは彼の元よりの計画であり、圧政、独裁と言いながら、それは表向きであり、実際に彼が行っていたこととは大きく異なる。ルルーシュは自分以外の人間を等しく平等に扱っただけだ。弱者も強者も関係なく。そしてその一方で、自分がいかに悪逆非道な事をしているかという噂をばらまき、データの捏造を行った。それがさも真実であるかのように。そして人々はそれを信じた。それほどにルルーシュは巧みだったといえる。
 そして戦犯となったフジ決戦での敗者たちに対する処刑パレードで、“悪逆皇帝ルルーシュ”は第2次トウキョウ決戦の際、フレイヤによる負傷が元で亡くなったと黒の騎士団から公式発表があったはずのゼロによって殺された。そのルルーシュの後を継いで皇帝となったのは、敗者であったはずの、“悪逆皇帝”と最後まで諦めずに戦い、“聖女”と称されるに至った実妹のナナリーだった。
 ルルーシュが殺された後、彼の協力者── 寝返ったとした者たちも含めて── だった者たちは、皆、表舞台から姿を消した。ただ一人、ゼロとなった枢木スザクだけを残して。しかしそのスザクもまた、彼が本当のゼロではないと知る黒の騎士団の、主に日本人幹部たちを中心に、そしてまた超合集国連合最高評議会の各国代表たちからも奇異の目で見られ、孤立感を深めていき、やがて静かに姿を消した。彼が何処に行ったのか、それは誰も知らない。
 そしてナナリーを新たな皇帝としたブリタニアだが、当初はルルーシュがかけたギアスによって、ゼロとなったスザクの命令でナナリーのために尽力していたが、その肝心のゼロが姿を消したことにより、シュナイゼルは何もしなくなった。そうなると、もともと為政者としての資質にも能力にも欠けるナナリーに、大国であるブリタニアを治めていけるはずもなく、異母姉(あね)であるコーネリアの協力はあったが、ただそれだけで、次第に荒れ始めたブリタニアを治めきれるわけもなく、荒廃していく一方のブリタニアに対して為す術がなかった。そんな状態の中、人々の中でナナリーに対する支持率が無くなっていくのは当然のことだっただろう。
 歴史的観点からいえば、やがていつか歴史学者などを主として、ルルーシュの業績が見直され、また、ナナリーについても同様のことがされる可能性は否定できない。そしてもし、その結果として全てが明らかになったとしたら、“悪逆皇帝”と“聖女”の名はどうなるのだろうか。

── The End




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