友 人




 俺、リヴァル・カルデモンドには、悪友といっていい友人が一人いる。そいつの名前はルルーシュ・ランペルージ。クラスメイトで、同じ生徒会のメンバー。しかもあいつは生徒会副会長だ。
 友とは、辞書で引けばその定義は、親しく付き合う人、同好の仲間、慰める者、などと出てくるが。
 ルルーシュの友人はとても少ない。あいつが気を許しているのは、俺をはじめとした生徒会のメンバーくらいが関の山だ。そして、あいつが一度認めてその懐に入れた奴に対しては非常に甘いのを知っているのは、あいつが認め受け入れている生徒会のメンバーくらいしかいないだろう。
 そして一番親しいのは俺、だと自負していたが、どうも、フランツ・シュレーダーの方が俺よりももう一歩か二歩ばかり先を行っているような気がしているこの頃。
 そんな中、ルルーシュは皇族の口利きで編入してきた名誉ブリタニア人である枢木スザクを幼馴染の友人、親友と呼び、同じ生徒会に引き摺りこんだ。まあ、確かに他のクラブでは、スザクを受け入れるところは無かっただろう。正直なところ、生徒会だって、ルルーシュという存在が、ルルーシュがそいつのことを友人だと言わなければ、受け入れることはなかっただろうことは明らかだ。
 端から第三者的に見て、フランツとスザクではルルーシュへの接し方、同時に、ルルーシュの二人への接し方は違って見える。よく注意してみないと分からないかもしれないが。
 フランツのルルーシュへの接し方というのは、確かに名前を呼び捨てにしてはいるが、どうも一歩引いたもののように見受けられる。ルルーシュが動きやすいように、さりげなく手を出しているように見える。なんといったらいいか、それは友人というより、主従といった関係に近いような気がする。そんなふうに思ってしまうのは、俺のうがち過ぎだろうか。
 一方、スザクはどうかというと、ルルーシュが一方的にスザクに気を遣っているように見える。ブリタニア人の学園の中で唯一といっていい名誉ブリタニア人。いくら皇族の口利きとはいえ、その事実は変えられない。いや、寧ろ名誉でありながら皇族の口利きで編入してきたというスザクに対して、皆の偏見はどうしても消えない。それを少しでも消そうと努力しているのが、スザクを友人、幼馴染の親友だと告げたルルーシュだ。ルルーシュがいなければ、スザクの学園での生活はもっとギスギスしたものとなっていたに違いない。なのにスザク自身は、ルルーシュのそうした行為を極当然のものとして受け止めている節が見受けられる。友人なのだから、親友なのだから当然の行為だと。ブリタニア人の中で、名誉を名誉としてではなく、イレブン、今は正確には名誉ブリタニア人だが、それをあくまで友人として扱うルルーシュは、ブリタニア人の中にあってはひどく稀な存在なのだということを、スザクは分かっているのだろうか。それを分からず、ルルーシュの行為を当然のこととして受け止めているのだとしたら、それはとんでもない傲慢だと俺は思う。
 そんな中、二人の、いや、三人の関係が微妙に変わった。よく見ていなければ分からないかもしれないが、明らかに変化した。
 そのきっかけは、イレブンのテロリストと敵対しているブリタニアのKMFのデヴァイサーがスザクだと分かった後だ。
 フランツは、より一層、ルルーシュを守らなければ、という感じになってきた。より新密度が増した、と言ってもいいかもしれない。
 それに対して、スザクについてはルルーシュが引き始めた。スザク本人にも、他の周囲の人間にも分からない程度ではあったが。それはスザクが生徒会室で皆がいる時、もちろんルルーシュも含めてのことだが、このエリア11の副総督であり、第3皇女にして、スザクをこの学園に編入させたユーフェミア皇女に対する、端からすれば、そこまで言うかという、異常と思える程の礼讃── 周囲の者は、スザクが言う程にユーフェミア皇女の能力とか実績とかを認めていないのは明らかだ── と、同時に、ゼロは間違っている、と何度も繰り返し自説を述べている時から若干その傾向は見られたし、そんなルルーシュをフランツは気にしていたが、でもそれ程ではなかった。それが明らかに避けているように顕著に見えるようになったのは、スザクがユーフェミア皇女の騎士に任命されてからだ。元々然程親しくしていなかった者には分からなかったかもしれないが、少なくとも生徒会のメンバーには、俺以外にも分かったはずだ。それに、ルルーシュの皇族、貴族、軍人嫌いは少なくとも生徒会、いや、これは生徒会の中だけではなく、クラスメイトや彼のファンの間では有名な、多くの者が知る事実だった。だから軍人であっただけならまだしも、皇族の騎士となったことで、ルルーシュがスザクから距離を取り始めたことについては、実は誰も不思議には思っていなかった。
 ルルーシュの考えを知っていれば当然の反応、というのが、スザク本人を除く生徒会メンバーの認識だった。
 ただスザク本人だけがそれを知らなかった。気付いていなかった。友人だったらそれに気付くのは当然だろうと思っていたのだが、どうやらスザクにはそんな気はなかったらしい。友人、親友、幼馴染、それらのことで、全て、そう、スザクがどんな行動をとろうと、ルルーシュはスザクを許すと、認めると思っている節が見受けられて、それは違うだろう、と俺をはじめ生徒会のメンバーは思っていた。いくら友人だとはいえ限度がある。自分の許容範囲を超えた行動をする相手を、何処まで認められるというのだろうか。なのにスザクはユーフェミア殿下の騎士となったことで、万人に認められたかのように、ゼロは間違っている、ユーフェミア様は素晴らしい方だと以前以上に礼讃し、自説を披露し続けている。それを聞いている、聞かされているルルーシュの── 実を言えば、ユーフェミア皇女に対して、彼女を女神とでもいうように傾倒していると言っていいだろうニーナを除く俺たちもだが── 気持ちなどお構いなしに。そしてそんな中、何か口実をつけてはフランツがルルーシュを生徒会室から連れ出し、会長であるミレイはそれを黙認している。普段だったら、逃げるの、とでも言って引き留める会長が。きっと会長とフランツは、俺たちの知らないルルーシュの何かを知っているのだろうと俺は思う。そして本当なら、スザクもそれを知っているはずなのだと、二人の態度からそう思う。だが当人であるルルーシュが何も言わない、言えない、というなら、それを無理に聞き出そうとは思わない。友人だから、悪友だからといって、相手の全てを知らなければならない、知って当然、というのは違うと俺は思うから。
 ゼロの率いる黒の騎士団を中心としたイレブンの反乱軍が起こしたブラック・リベリオンの後、その少し前から休学していたフランツが学園に戻って来たのは、ブラック・リベリオンと呼ばれるその騒乱が収まって少ししてからだった。
 そんなフランツの態度は、以前と少しも変わっていない。いや、寧ろ以前以上にルルーシュを大切にしているかのように見える。まるで過保護な親のように、というのは、少し大袈裟だろうか。
 そしてブラック・リベリオンが終結してから一年程経ったろうか。
 突如として、かつての仮面のテロリスト、ブリタニアで処刑されたと言われていたゼロが復活を遂げた。そして程なく、そのかつてのゼロを捕縛し、その褒賞として帝国最強の騎士たる十二人のうちの一人、ナイト・オブ・ラウンズのセブンとなったスザクが、このエリア11に戻って来て、学園に復学してきた。
 皇帝の騎士が、それもよくよく聞けば総督補佐だというスザクが、学園に復学なんて、そんなことがあっていいのだろうか、許されるのだろうかと思う。本来ならその任務を全うするのが当然のことではないのか。なのに学園に復学するなんて、任務から逸脱していることだと思うのは俺だけだろうか。そしてその復学に何か意味があるのではないかと疑ってかかるのは、俺だけだろうか。
 スザクの復学で、フランツのルルーシュに対する態度、守らなければ、という感じはより一層強まったように見受けられる。それだけじゃない。スザクに対して直接向けられることはないが、スザクを見る時のフランツの瞳は、怒りと憎悪に満ちているように思う。フランツだけじゃない。互いに顔を見合わせている時や共にある時の態度は、以前とさして変わらないように思えるが、ルルーシュのスザクを見る()も、そしてまたスザクのルルーシュを見る瞳も、フランツと同様に、憎しみと憎悪に満ちているように思えてならない。
 俺たちの知らないところで、三人の間に何かあったのは間違いない。三人もそれを隠してはいるが、互いに相手に分からないように取っている態度、そして何よりその瞳がそれを現している。
 三人の間に何があったのか、知ろうとは思わない。全く知りたくないのかといえば嘘になるが、それはあくまで三人の問題であって、俺がしゃしゃり出ていい問題だとは思えない。だから俺はこのままでいい。
 ただ、俺にとっての一番の友人、悪友はルルーシュで、フランツでもスザクでもない。それはこの学園に入って中等部でルルーシュに出会い、友人になりたいと思って自分からルルーシュに声を掛けた時から少しも変わっていない。いや、出会って、親しくなって、ルルーシュの人柄、性格を知って、より強くそう思うようになったといえると思う。
 俺には三人の間のことは何も分からない。けど、フランツが何よりも、誰よりもルルーシュを大切にしていることと、そして、俺の一番の悪友はルルーシュだということだけは間違いない。俺にとってはそれが一番大事なことで、そのルルーシュがスザクを排除するというなら、俺はそれに対して何も言うことはない。一度身内認定した奴に対してはとことん甘くなるルルーシュがそういう態度をとるということは、それだけのことをスザクがルルーシュに対してしたということなのだろうから、俺はルルーシュの態度に同意する、それだけだ。
 スザクが帝国最強の騎士の一人であり、かつ、総督補佐であることは間違いない。けど、その立場でありながら学園に復学したのは何か目的とすることがあってのことで、そしてそれは多分、確信はないがルルーシュに関してのことではないかと俺は思う。だが俺にとってはスザクよりもルルーシュの方がずっと親しい悪友だし、フランツの態度からしても、ルルーシュが、というより、スザクがルルーシュに対して何かした、としか正直、俺には思えない。だから、俺はルルーシュを第一に考える。まあ、フランツ程にはいかないし、何より俺にとって一番大切なのは会長だから、正確にはルルーシュは二番目だけど。でも俺はそれでいいんだと思う。ルルーシュが他人判定── 距離を取っているというのはそういうことだ── したのなら、俺はそれに従って、表面上の付き合いに留めるだけだ。ルルーシュとスザク、どちらが正しいのかは分からないが、それが俺のスタンスだ。
 そしてスザクが変わってしまったのなら、せめてフランツのルルーシュに対する態度は変わってほしくないと、身勝手にも思ってしまう。

── The End




【INDEX】