未来(あした)へ…




 ある日、ルルーシュはシュナイゼルの離宮の中にあるサンルームで読書をしていた。傍らには騎士としてジェレミア・ゴットバルトが控えている。
「ルルーシュ」
 突然の自分を呼ぶ聞き覚えのある若い女性の声に、その声のした方、入口の方へと顔を向けた。
「C.C.!? それに、ロロも!?」
 ルルーシュは読んでいた本を取り落とし、二人の方に躰を向けて、掛けていた椅子から立ち上がった。
 そう、そこにいたのは、ルルーシュを共犯者と呼び、彼にギアスという力を与えたコード保持者であるC.C.と、ルルーシュが記憶を改竄されていた間、弟として彼の側にいたロロの二人だった。
 C.C.はギアス嚮団を襲撃した後、どうしたことか記憶を()くしていた。コード保持者となる前、いや、それよりも前のギアス能力を与えられる前の、奴隷だった頃の記憶しかなく、彼女はルルーシュを「ご主人様」と呼んでいた。だが少なくとも、今現在のC.C.には記憶は戻っているようだが。
 そしてロロはといえば、彼はルルーシュの監視者であり、ギアス嚮団に所属する、人の体感時間を止めることの出来るギアスを嚮団から与えられた暗殺者。ルルーシュの記憶が戻ったら殺すようにとの命令を受けていたのだが、ルルーシュはロロと共に過ごした一年程の時間から彼を籠絡し、結果、ロロはルルーシュを本当に兄として慕い、従うようになっていた。とはいえ、ルルーシュはロロのことは、偽りの弟として、ナナリーの場所を奪った者として、利用し、いずれは殺してやるつもりでいた。そしてトウキョウ決戦の際に使用された大量破壊兵器の光の中にナナリーが呑み込まれた時、斑鳩に戻った後、ルルーシュは酷くロロを罵った。おまえなど嫌いだ、利用していただけだ、殺してやるつもりだったと。
「どうやってここに……?」
「おまえが斑鳩で騎士団の連中に取り囲まれた時、ロロが蜃気楼の中にいたんだよ。で、殺されそうになったおまえを助けようとしていたんだが、あの時の状況はああいった結果になったわけで、その後、シュナイゼルのアヴァロンから攻撃を受けている中、私は蜃気楼に乗っていたロロに救われて共に斑鳩を脱出し、まあ、その後色々あって、今、ロロと共にここにいる、というわけだ」
「随分と端折り過ぎた答えだな」
 ルルーシュは半ば呆れたようにそう告げながら、息を吐き出した。
「兄さん……、兄さんが僕のことを利用していたこと、うっすらとではあるけど、そうじゃないかって思ってた。でも、それでも僕は兄さんの傍にいたかった。兄さんの弟でいたかった。だって、兄さんは僕にとって初めての家族といえる、家族というものを教えてくれた人だったから。それに、あの時罵られたのは、僕にとっては自業自得といえるかもしれないと思ったから。だって僕は、僕にとっては、兄さんの本当の妹であるナナリーは邪魔な存在で、ナナリーがいるから僕は兄さんにきちんと見てもらえない、受け入れてもらえない、そう思い続けて、ナナリーなんていなくなればいいって思ってた。だから、そんなことを考えていた僕に対して兄さんが告げた言葉を否定は出来ない。僕自身にも問題があったから。哀しくはあったけど。
 ただ、どんな思いがあっても、どんなことがあっても、僕は兄さんの傍にいたい。それは本当のことだ。都合のいいことを、って言われるかもしれないけど、それだけは今の僕の真実だから」
 必死で思いのたけを言葉に乗せるロロに、ルルーシュは憐れみを覚えた。ロロを籠絡し、自分の目的のために利用し、挙句は殺そうと思っていたのはルルーシュの紛れもない事実なのだから。だが今は違う。あれ程に罵倒した自分を、それでも必死になって慕い続けてくれる、兄と呼んでくれるロロを、どうして否定出来ようか。思うに、もしあの斑鳩の4番倉庫で本当に黒の騎士団のメンバーによって殺されそうになっていたら、この弟はきっと必死になって全力で自分を助けただろう。そう、たとえ己の命と引き換えにしても。それが分かる。だから、もうルルーシュにはロロを偽りの弟と否定することは出来ない。
 ルルーシュはゆっくりと、ロロに向けて両手を広げた。
「……に、兄さん……?」
「おいで、ロロ。おまえは俺の、俺だけの弟、だろう?」
 優しく微笑みながらそう告げると、ロロは勢いをつけてルルーシュに縋りついてきた。
「兄さん、兄さん!」
 涙を流しながら、ただそう繰り返し、ルルーシュを抱き締める。そしてルルーシュはそんなロロを愛しそうに見つめ、優しく抱きしめ返した。
「さて、感動の兄弟再会が済んだところで、他にも待っている奴らがいるんだが、呼んでも構わないかな?」
「他にも?」
 ロロを抱き寄せたまま、C.C.の冷静な言葉に眉を寄せてルルーシュは尋ね返した。
「そう、おまえをここに戻した連中だ。そいつらがおまえに話があるそうでな、外でずっと待っているんだが」
 ルルーシュは一瞬躊躇い、ロロを見やってから、ロロの「大丈夫だから」とでもいうような瞳を見て、「分かった」と答えた。それを受けて、C.C.は扉の外に向けて声を掛けた。
「入って来ていいぞ」
 C.C.のその声に扉が開かれて入って来たのは、この離宮の主であり、ルルーシュをここに留め置いている帝国宰相の第2皇子シュナイゼルを筆頭として、第1皇子オデュッセウスをはじめとした数人の異母兄姉と、異母妹(いもうと)のカリーヌだった。
異母兄上(あにうえ)方……」
「もう、本当にシュナイゼルお異母兄(にい)さまは狡いわ。ずっとルルーシュお異母兄さまを独り占めして」
「じゃが、やっとこうして無事に会うことが叶ったのじゃ、もうよかろうぞ」
 文句を口にするカリーヌをギネヴィアが宥める。
「そうだね、問題はこれからのことだ」
 彼らは思い思いにルルーシュを取り囲み、座り込んだ。必然的に、ルルーシュもロロと共に座り込む形になる。
「実はな……」
 そう話を切りだしたのはC.C.だった。
 C.C.が話したのは、彼らの父であり、この神聖ブリタニア帝国の現在の皇帝であるシャルルがやろうとしていること。それに賛同する者はなく、一体どうやってそれを止めるか、だった。
 そしてこの後の方針も決まり、後はどう実行に移すか、ということだが、それはC.C.の言葉によって、ある意味、方向性は簡単に示され、決められた。
「シャルルはV.V.から奪ったコードを持っている。だがラグナレクの接続を行うには、コードは一つでは足りない。シャルルは問題ないと思っているようだが、一つだけでは力が足りないのだ。とはいえ、シャルルはラグナレクの接続を果たそうと、アーカーシャの剣を動かすつもりでいるのは間違いない。となれば、たとえ完全にとはいかずとも、ラグナレクの接続の一端くらいは果たされてしまう可能性がある」
「ということは、それが実行に移される前にどうにかしなければならない、ということですね、C.C.殿」
「そういうことだ」
 シュナイゼルの確認するかのような問い掛けに、C.C.は頷いた。
「だが、どうやってそれを止める? 何か方法があるのか?」
「Cの世界に行き、シャルルが実行する前にこちらが神に対して力を使えばいい」
「C.C.、簡単に言うが……」
「簡単な話だ。シャルルたちは“神”と呼んでいるが、それは実際には人々の集合無意識。つまり、人、だ」
 C.C.が何を言わんとしているのか、ルルーシュは直ぐに察することが出来た。
「それはつまり、“人”であると認識して、集合無意識に俺のギアスを掛ける、ということか? 父のやろうとしていることを拒否しろ、否定しろ、と」
「そういうことだ。流石は我が共犯者、察しが早くて助かる」
 そう告げながら、C.C.は人の悪い笑みを浮かべた。
「宮殿の中に、黄昏の間と呼ばれる、Cの世界へと繋がる場所がある。そこからCの世界に入ってルルーシュがギアスを使う。おそらくシャルルは既にCの世界に入っているはず。あまり時間的余裕はない。とれると思える方法は、先程の方法のみ。後は一刻も早く実行に移すことだ」
 C.C.のその言葉に、皆は一斉に立ち上がり、シュナイゼルの離宮から本殿に向かい、さらにはその中にある黄昏の間へ、そしてCの世界へと歩みいった。
 そこには、C.C.が告げた通り、既にシャルルがいた。それだけではない。V.V.によって暗殺されたルルーシュの母であるマリアンヌまでもがいたのである。C.C.以外は驚きを隠せない。
「は、母上、これは一体……?」
「これが私のギアス、といったところかしらね。死ぬ直前に初めて私の持つギアス、人の心を渡る力が発動して、隠れて様子を見ていた娘、アーニャ・アールストレイムの中に精神だけ逃げ込んで生きていたの。躰は確かにもうないし、この姿をとれるのもこのCの世界の中だけだけど」
 そう言って、マリアンヌはくるっとドレスの裾を翻しながら回ってみせた。
「それよりもC.C.、よく来てくれたな。正直、儂一人ではいささか不安があったのだが、おまえのコードもあればラグナレクの接続は確実なものとなる。とはいえ、随分と観客が多いようだが」
「父上、私たちは皆、誰も父上たちが行おうとしているラグナレクの接続には賛同しておりません。否定させていただきます。そして否定するからには、実行させるつもりもありません」
 皆を代表するかのように、シュナイゼルが面と向かってシャルルにそう告げた。
「ほう? しかし一体どうやって止めると? そのような方法などありはせぬに」
 片腹痛い、とでもいうようにシャルルは嘲笑した。
「C.C.に言われました。貴方方が“神”と呼ぶものは人々の集合無意識、つまり、“人”であると。人であるならば俺のギアスが通じる」
「愚かなことを。王の力では神には勝てぬ」
「これは力ではない、命令ではない、人としての願いだ!」
 シャルルに向けてそう言い放った後、ルルーシュは天高くにある人の集合無意識に向けて、力を込めた瞳を向け、必死に思いのたけの籠った言葉を、祈りを、願いを告げた。
「神よ! 人々の集合無意識よ! 我が父シャルルたちがやろうとしていることは、貴方を否定して殺し、人々の個を()くすということ。そのようなことは認められない。人は皆、それぞれの個があるからこそ人でいられる。個を失くした人はもはや人とは呼べない。そんな世界を俺は否定する。シャルルたちの願いはこの世界を昨日という日で固定すること。だが俺はそれを否定する。たとえどんなに不確定であろうとも、俺は明日を望む。いつか訪れる、招くことの出来る、人々にとっての優しい世界を! だから神よ! どうか(とき)の歩みを止めないでくれ!!」
 その言葉を告げている間に、ルルーシュの左目だけに宿っていたギアスの刻印が右目にも表れ、右目も朱く染まっていた。
「力が増したか」
 その様子を見ていたC.C.が小さな声でそう確信したように呟いた。
 そしてルルーシュの言葉を受け入れたのか、既に天に向かって蠢き始めていたアーカーシャの剣が動きを止め、ボロボロと崩れ始めた。その有り様にシャルルとマリアンヌが愕然とする。
「アーカーシャの剣が……、そんな馬鹿な!」
「儂と兄さんの夢が潰えていく……」
「これで終わりだ、シャルル、そしてマリアンヌ。所詮おまえたちの願いなどというものは、叶えてはならぬものだったのだ。だから神はルルーシュの願いを受け入れた」
 まだ己の躰が消え()せつつあることに気付いていない様子の二人に、C.C.は冷静にそう告げた。
「これで終わりだ。おまえも、マリアンヌも」
 C.C.の言葉に漸く自分たちの有り様に気付いた二人だった。シャルルがルルーシュに躍りかかる。
「この愚か者がーっ!!」
 ルルーシュに向けて伸ばされたシャルルの腕を、ジェレミアがルルーシュの前に立ちふさがり、己の持つ剣を抜いてその腕を切り落とした。
「これ以上やらせはせぬ! マリアンヌ様、私は貴方を尊敬していました。敬愛と言っていいかもしれない。しかし貴方方の思いを、やろうとしていたことを知った今、私は貴方方を否定する! そして我が忠義は全てルルーシュ様のために! ルルーシュ様を守るためならば、喜んで皇帝に手を掛けるという不忠の汚名も着ましょう!」
 ジェレミアの言葉が終わるとほぼ同時に、二人の躰は完全にCの世界に呑み込まれ、消え失せていた。
 暫し呆然と二人のいた場所を見ていた皇族たちだったが、やがてシュナイゼルが気を取り直したかのように告げた。
「父上が亡くなられた以上、今後のこともあります。戻ってこれからのことを考えましょう」
「そうじゃな。まずは、これからやらねばならぬことを決めねば」
 頷いて応えるギネヴィアの言葉に、皆一様に頷いて、C.C.の導きに従い、彼らは元の世界へと戻っていった。



 それから一か月後──
 帝国宰相シュナイゼルの名で、世界各地のブリタニア軍に対して停戦命令が発せられた。そしてまた同時に、皇族や主だった貴族、閣僚や官僚、高位軍人たちに招集が掛けられた。その中にはもちろんシャルルのラウンズたちの姿もある。
 玉座の間と呼ばれる、宮殿内で最も大きな広間が大勢の人々で埋め尽くされる。彼らの間では、この一月余り、一向に姿を見せないシャルルのことや、今回の招集が帝国宰相によるものだったことで、憶測を交えた様々な意見が小声で交わされていた。
 やがて玉座のある壇上に、帝国宰相シュナイゼルを先頭に、第1皇子オデュッセウスをはじめとする上位皇族の何人かが次々と姿を現した。その中には、日本侵攻の折りに死んだとされていた第11皇子ルルーシュの姿もあり、それに気付いた人々の中から、小さくはあったが驚愕の声が漏れ出ていた。
 しかしそのルルーシュの姿にもっとも驚愕したのは、ナイト・オブ・セブンの枢木スザクだっただろう。言葉こそ発しなかったが、一体何故、という驚愕の表情を隠せずにいた。
「まずは皆がこうして集まってくれたことに礼を言う。そして、公表が遅くなってしまったことを詫びたいと思う」
 最初にそう口を開いたのは、やはり今回の招集を掛けた宰相のシュナイゼルだった。
「我々は第98代皇帝であった我が父シャルル・ジ・ブリタニアの死を確認した。その後、今後の国政の有り方などについて話し合いを進めてきた。思ったより時間がかかってしまったために、先程シュナイゼルが告げたように公表が遅れたことを私からも詫びたい」
 シュナイゼルの言葉を引き取ってそう告げたのは第1皇子のオデュッセウスだ。
「既に各地にいる軍に対して停戦命令は発しているが、第98代皇帝シャルル陛下の死をもって、世界各地への侵略戦争を中止する。そして現在、我が国の植民地となっているエリアについては、手順を追って、時間はかかるだろうが解放していくこととなる」
 そう告げたのは常勝将軍とも呼ばれる第7皇子クレメントだ。
(わらわ)たちの話し合いの結果、次代の、つまり第99代皇帝には、第11皇子のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが就くこととなった。これはここに並んでいる者たち皆の総意である。故に、反論は受け付けぬ。じゃが、我が国は弱肉強食が国是。それも間ものう無くなろうが、反対する者はかかって参るがよい。返り討ちにしてくれようぞ」
 ギネヴィアの言葉によって、広間は騒然となった。そんな中でカリーヌに手を取られ、ルルーシュが歩み出て玉座へと腰を降ろした。
「第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。皆様には疑念や不満などもおありでしょうが、これは既に決まったこと。私を認められぬという方は、ギネヴィア異母姉上(あねうえ)が仰られたようにかかってこられるとよい。ですがその前に、我が騎士を紹介しておきましょう」
 ルルーシュのその言葉に、皇族ではない、明らかに騎士と分かる衣装に身を包んだ三人の者が姿を現し、ルルーシュの後ろに立った。
「ナイト・オブ・ワンにはジェレミア・ゴットバルトを、ツーにはロロ・ランペルージを、スリーにはアーニャ・アールストレイムを。今はこの三人だけです。今後の予定では、増える可能性は全くないとまでは言いませんが、少ないでしょう。計画通りに運べば争いは少なくなるはずですから」
 名を呼ばれると、一礼していく三人を微笑んで見ながら、ルルーシュは静かに、しかしはっきりと告げた。
 ちなみに、アーニャはアリエス離宮に行儀見習いとしてあがっていた際、マリアンヌ暗殺現場を目撃し、マリアンヌの精神が彼女の中に入ったことに加えて、シャルルからギアスを掛けられていた。それをジェレミアが解除したことから、元々の彼女の望みであったルルーシュの騎士となった次第だ。
「これからのことについては、追ってまた公表させていただきます。ああ、ですが一つだけ告げておきましょう。シュナイゼル異母兄上には、これまで通り帝国宰相として、私の政務の補佐を務めていただくことになっています。
 それでは今日のところはここまでとして、解散してよろしい」
 ルルーシュのその言葉を最後に彼らは壇上から下がり、それを見届けて、広間にいた者たちもそれぞれに言葉を交わしながら広間を後にした。
 目の前で繰り広げられた様に暫し呆然としていたスザクだったが、やがてはっとしたように己を呼ぶジノの声も耳に入らぬかのように、慌ててシュナイゼルの後を追った。
 やがてスザクはシュナイゼルが今いるという、皇帝執務室の前に辿り着いたが、衛兵に硬く拒まれた。
「皇帝の代替わりと共に、おまえはもうラウンズではなくなった。騎士候とはいえ、元をただせば一介の名誉ブリタニア人に過ぎぬおまえに、皇帝の執務室に入る権利などないよ」
「C.C.!」
 廊下の一角から姿を現し、スザクにそう告げたC.C.に対して、衛兵はスザクに対してとは真逆に深く頭を下げて扉を開け、彼女が中に入ったのを確かめると、歩を進めようとするスザクを止めるかのようにまた閉ざしてしまった。
 致し方なく、スザクはシュナイゼルが出て来るのを待つことにした。
 暫くして、副官のカノンと共に出て来たシュナイゼルを認めて、スザクはその前に立った。
「やあ、枢木卿。私に何か用かな?」
「大切なお話があります。お時間をいただけますか?」
「ふむ。ここではなんだし、宰相府まで戻るのも面倒だ。私の部屋へ行こうか」
 カノンが止めようとするのを視線で止めさせ、シュナイゼルはスザクに己の後について来るように促した。
 少し歩いて、スザクはカノンと共に、シュナイゼルの部屋に入った。
「で、話というのは何かな?」
 シュナイゼルはソファに腰を降ろしながらスザクに問い掛けた。しかしスザクに座ることを勧めることはせず、必然的に、スザクは立ったまま話し掛けることになる。副官のカノンはシュナイゼルのすぐ傍らに控えて立っている。
「殿下はご存じのはずです! ルルーシュがゼロであったこと、そしてルルーシュの持つギアスのことも! なのに何故……!?
 そうか、貴方は、いや、貴方だけじゃない、あの時壇上にいた方々は皆、既にルルーシュのギアスにかかっているんですね!? だから……」
「やれやれ、何かというと君はルルーシュの、いや、陛下のことを、ゼロは、ギアスは、と責める。そして自分の考えだけが正しいかのように、他人にそれを押し付けようとする。君は一体何様のつもりなんだろうね」
「なっ!?」
 思ってもみなかった言葉を投げ掛けられ、スザクは息を呑んだ。
「私の方から言わせてもらうなら、君こそ、なんだがね。
 まず、ルルーシュが日本に送られ、君の家に預けられた時、君はルルーシュにいきなり殴りかかったね。まあ、これは子供の時のことだ、よしとしよう。
 そしてルルーシュのブリタニアに対する思いを知りながら、君は名誉となり、ブリタニア軍に入った。これもまあ、君には君の考えがあってのことだから、ここまではまだ許容範囲だ。
 しかし、その後がいただけない。
 君は自分を救ってくれたゼロを、つまりはルルーシュを拒み、ユーフェミアのお願いと言う名の命令のもと、アッシュフォードが逆らえぬのを気付かなかったのかな、ルルーシュたちのいるアッシュフォード学園に編入した。
 そこまでならまだしも、ルルーシュたちの立場、状況を知りながら、ユーフェミアの手を取って選任騎士となった。皇族の選任騎士がいる。それも名誉ブリタニア人の。それがルルーシュたちにとってどれ程の危険を齎すか、君のことだ、考えもしなかったのだろう。アッシュフォードに匿われ、ブリタニア皇室から隠れ続けているルルーシュの不安を一層募らせた。
 そして深く考えることもせずにユーフェミアの提唱した“行政特区日本”に賛同し、危険を招く以外のなにものでもない特区への参加を、ルルーシュに促し続けた。
 さらには、己が選任騎士として為すべきことをしていないことを無視して、初めて会った何者かもしれぬ子供の、彼にとって、そして多分君にとっても都合のいい言葉だけを信じて、ゼロであるルルーシュだけを責め、その存在を否定し、撃った。その挙句、己の出世と引き換えにルルーシュを父上に売った。そもそもゼロが現れたのは、クロヴィス殺害の容疑者とされた君を助け出すのが最初だったのに。そのためにルルーシュは予定を早めて反逆の狼煙を上げたというのに。
 それだけではない。君は自分があれ程に忌み嫌ったギアスを、父上がルルーシュに使うのを容認し、手伝い、ルルーシュだけではない、自分に対してよくしてくれていたはずのアッシュフォードの人たちにもギアスが掛けられるのを手伝った。随分都合のいい思考回路をしているものだ。
 ラウンズとなってからは、ゼロに対して、犠牲を出して、ユーフェミアを殺して、とゼロのやり方を否定しながら、君自身、ブリタニアの名の下に、ゼロがした以上の人殺しをし続け、“白き死神”の二つ名までついた。そう、君はブリタニアが侵略戦争を仕掛けた国々の人々を殺し続け、彼らにとっての、あるいは遺された人にとっての、君のユーフェミアを殺し続けた。そんな君の一体何処に、ゼロとなったルルーシュの行為を責めるなんてことが出来るんだろうね。私は不思議でならないよ。本当に君の頭は、君だけに都合のいいように出来ているらしい。
 皇帝が代替わりしたことで、君はもうラウンズではなくなった。君の部隊だったキャメロットは解散し、既にロイドたち、元の特派は私の部下に戻った。つまり、ランスロットのデヴァイサーでもなくなったということだ。今の君は名誉ブリタニア人あがりのただの一介の騎士候の一人に過ぎない。しかもその騎士候の位とて、いつまでのことかしれないがね。
 それとは逆に、ルルーシュは今やこの神聖ブリタニア帝国の第99代皇帝陛下だ。そのために父上にも分からぬように私たちが動いてきたこともあってのことだがね。ああ、だから一つだけ感謝しているよ。君が発射したフレイヤのおかげで、私たちはルルーシュを取り戻すことが出来たのだから。
 話は以上だ。君からは何も聞く気はないのでね。さっさと私の目の前から消えてくれると嬉しいんだが」
 最後の止めともいえるシュナイゼルの言葉に、スザクは何一つ言い返すことも出来ぬまま、カノンによって部屋から追い出される形となった。
 その頃、玉座の間では、たった一人、これまで何も知らされていなかったナナリーだけが、車椅子に座ったままポツンといた。
 ナナリーを気に掛ける者は一人もいない。皇帝となったルルーシュの実の妹という立場であるにもかかわらず。玉座に座ったルルーシュが、一言でもナナリーのことについて触れていればまた違ったのかもしれないが、ルルーシュはナナリーに視線を向けることすらもしなかった。そして広間にいた者たちは皆、それに気付いていた。そして思ったのだ。皇帝となったルルーシュは、その間に何があったのかは知らないが、ナナリーに対しては最早何の感情もないのだと。だから平気でナナリーを無視する。そうすることが出来るのだと。
 ルルーシュとその周囲の者たちは、明日を、未来を望んだ。
 しかし、明日どころか現在のことすら何も分からぬ、どうしていいか見当もつかぬ愚か者が二人。その状態を招いたのは真実を知ろうとしなかった当人たち自身にあるのだが、それすらも気付いていない。そんな二人に、ルルーシュたちが望んだ“明日”が来ることがあるのだろうか。そしてそれはまた、ゼロや斑鳩、多くの団員たちを失った黒の騎士団と、ゼロが創り上げたといってもいい超合集国連合にも言えることかもしれない。
 神聖ブリタニア帝国は、新皇帝、第99代皇帝ルルーシュの指導の下、新しい時代に向かって既に動き出している。

── The End




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