ナイト・オブ・ゼロの反逆




 神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴンにある宮殿の一室、謁見の間では、皇帝と、帝国に反逆したゼロこと、帝国の元第11皇子であり第17位皇位継承権を持っていたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが拘束服を着せられ、彼を捕えたナンバーズ上がりの騎士、枢木スザクにより床に取り押さえられていた。
 スザクは皇帝に告げる。「自分をナイト・オブ・ラウンズに」と。
「友達を売るのか!?」
「僕は中から国を変えてみせる」
「よかろう」
 皇帝はスザクをラウンズの一員に加えることを了承した。そしてルルーシュの左目を抑えることを命じる。
「皇子でありながら反旗を翻した不肖の息子。だが、まだ使い道はある」
「な、何を……」
 皇帝の瞳の赤に、まさか、という思いが(よぎ)る。
「ギアスを……」
「記憶を書き換える。ゼロのこと、マリアンヌのこと、ナナリーのこと、ギアスのこと、C.C.のこと、全て忘れるがよい」
 その言葉にルルーシュは激しく抵抗するが、スザクに押さえつけられままならない。
「やめろ……っ! また俺から奪う気か! 何もかも! 力も! 生きる理由も!」
「シャルル・ジ・ブリタニアが刻む。新たなる偽りの記憶を」
 皇帝の両目から朱の鳥が飛んだ。



 それから一ヵ月余り経ったある日、ラウンズに謁見の間への招集がかかった。
 ワンのビスマルクをはじめ、先日セブンに取り立てられたばかりのスザクも謁見の間へと入っていった。
 謁見の間の玉座には、もちろん皇帝が座り、その隣に一人の少年が立っていた。その少年の姿にスザクは動揺する。
「皆に紹介しよう。過日のエリア11での暴動の際に見つかった、我が息子、第11皇子のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。ただ、その時に追った負傷が元で記憶を無くしている。しかしこれにつけた教師の話では、これには戦略の才があるという。よって、ナイト・オブ・ゼロとして、ラウンズの指揮を任せることとした」
「父上の言われた通り記憶はないが、国のために誠意を尽くしたいと思う。皆、よろしく頼む」
 ルルーシュの言葉に、皆、頭を下げる。だがその中でスザクの心境は複雑だった。
 何故だ? 彼はゼロとして、反逆者として処分を受けたはずではないのかと。
「母君の、今は亡きマリアンヌ様の面影を強くお持ちですな。ご活躍を期待します」
 ビスマルクが告げる。
「そうか? 何分記憶がないので、母上のことは肖像画でしか知らないが」
「記憶喪失というのは、ある日突然に記憶が戻ったりすることもあるそうです。何がきっかけになるか分かりません。一日も早く記憶を取り戻されますよう」
 スリーのジノが、漆黒の黒髪に紫電の瞳を持つ美貌の皇子に見惚れるようにして告げた。
「ありがとう」
「とりあえず、今日は引き合わせのみだ。ルルーシュ、そなたは明日より、彼らを従え我が国の版図を広げるために尽力せよ」
「はい、父上」
 ルルーシュの返事を合図のように、皇帝とルルーシュは謁見の間を去った。それを見届けて、ラウンズたちも次々と謁見の間を後にする。
 その中で、セブンのスザクだけがなかなか動こうとしなかった。両の拳を握りしめ、必死に冷静さを取りつくろっている。そうでもしなければスザクは今にも叫び出しそうだった。
 何故君がここにいる! と。
 スザクは忘れていた。皇帝がルルーシュに対して「まだ使い道はある」と言ったことを。そしてその結果が今なのだ。
 そんなスザクにスリーのジノが声を掛ける。
「おい、どうしたスザク。もう皆出ていくぞ」
 その声にはっとしたように、スザクは頷いた。
「何でもない。戻ろう」
 その翌日から、ルルーシュはラウンズの指揮官たるナイト・オブ・ゼロとしての執務に就いた。
 まずはそれぞれの現状を報告させ、情報を集めることから始めた。
 ラウンズ本人たちからだけではなく、諜報部からも、現在ラウンズたちが攻めている国の状況を報告させる。
 そうして集めた情報を元に、それぞれに指示を出していった。
 元々戦力的に有利であったが、そこにさらにルルーシュによる緻密な作戦が入り、それを元に行われた軍事行動によって、ブリタニアは次々と戦果を挙げていった。自然、ラウンズたちの間にはルルーシュに対する信頼感が増していく。ただ一人の例外、スザクを抜かして。



 ルルーシュがナイト・オブ・ゼロとなって暫く経ち、スザクが一人、EU戦線で戦っている頃、本国に戻ったラウンズたちは一人ずつルルーシュに呼ばれていた。
 そんな中でジノが尋ねる。
「スザクはよろしいのですか?」
「あれは放っておいていい。あれは裏切り者だ。一度裏切りをした者はまた裏切る。信頼するに値しない」
 そう冷酷に言い切ったルルーシュに、確かにその通りだとジノは頭を下げた。
 それから程なく、ブリタニア本国でクーデターが起きた。ナイト・オブ・ラウンズたちが一斉に皇帝に対して反旗を翻したのである。
 EU戦線でそれを知ったスザクは、しかし戦場から離れることが出来ず、ただ本国からの情報を待つしかなかった。
 そして彼は思うのだ、これも君の仕業か、ルルーシュ! と。
 しかしいくらそう思っても、流石に戦線を放り出すことだけは出来なかった。
 本国ではワンのビスマルクをはじめとする者たちが、ルルーシュの指示の元、皇帝の首を取る寸前まで追い詰めていた。
 皇帝にはギアスがある。一人でかかっては、皇帝のギアスの餌食になるだけだ。それ故、本国に残っているラウンズ全員を一斉に皇帝に向かわせたのだ。
 いくらギアス持ちの皇帝といえど、そして近衛の守りを受けど、ラウンズたちの前には勝負にならない。
 虫の息となった皇帝の前に、ナイト・オブ・ゼロであるルルーシュが、一人のライトグリーンの髪と琥珀色の瞳を持った少女を伴って現れた。
「如何ですか、信頼していた者たちに裏切られるのは? いや、貴方は誰も信頼などしていませんでしたか」
「……ルルー、シュ……、C.C.……そなたら、一体、い、いつ、から……?」
「つい先日からですよ。私の元へやって来てくれたC.C.が、貴方が私に掛けたギアスを解いてくれました。C.C.の動きを捉えきれなかった貴方の負けです。ビスマルク、皇帝に止めを」
「はっ」
 そう答えて皇帝に止めを刺すヴァルトシュタインの瞳は、ギアスの力に赤く染まっていた。



 ラウンズたちを従えたルルーシュが、大広間で他の皇族や貴族たち、文武百官を前に
「我こそが第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである」
 と内外に宣言した。
 ラウンズたちを従えたルルーシュに逆らえる程の剛の者はおらず、ここに、神聖ブリタニア帝国は新たな皇帝を迎えた。
 皇帝となったルルーシュは、まずスザクをラウンズから解任し、騎士候の位も剥奪した。既に一度ギアスを使用済みのスザクに新たにギアスを掛けることは不可能であり、また、自分を売って地位を得たスザクに対する恨みもあった。本来ならば、スザクは自分を皇帝の前に差し出すのではなく、殺すべきだったのだ、ユフィの仇と言う以上。それをせずに地位を強請ったスザクに失望した面もある。結果、スザクは宮殿には身の置き場がなくなり、エリア11に帰る道しか選べなかった。
 ラウンズとはいえ、所詮は皇帝や皇族たちの命令を聞かねばならぬ身であり、ラウンズの地位などいくらでも取り換えがきくものだ。帝国最高位とはいえ、結局は臣下、騎士にすぎないラウンズに、政治に参加する資格はない。つまりラウンズになって中から国を変えるなどということは、たとえラウンズにはなれたとしても、あくまで名誉に過ぎないスザクには、夢のまた夢なのだと思い知らせた形だ。
 それからラウンズたちに命じて各エリアにおけるテロを鎮圧すると、改めてナンバーズ制度の廃止、人種差別禁止、皇族や貴族たちの既得特権の廃止、財閥の解体など、次々と政策として打ち出していった。
 第99第皇帝ルルーシュの下、神聖ブリタニア帝国の新たな歴史が始まる。

── The End




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