裏切りの顛末




「ゼロは私やこのコーネリアの異母弟(おとうと)、神聖ブリタニア帝国元第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。私が最も愛し、恐れた男です」
 ブリタニアからの外交特使シュナイゼルのその一言は、会談に臨んだ黒の騎士団幹部たちに衝撃を齎した。
「ゼロがブリタニアの皇子だってぇ!?」
「それがどうしたというのです」
 驚く他の者を余所に、ディートハルトが冷静に応じる。
「私たちはゼロを系譜ではなく、起こした奇跡に従っているのです」
「しかしその奇跡が偽りだったとしたら?」
 平然とシュナイゼルが問い返す。
「偽り?」
「ゼロには特別な力── ギアスがあります。人に命令を強制させる力です。強力な催眠術とでも考えてもらえばよろしいかと」
「ゼロの奇跡の種がそれだとでも……」
「証拠はありますか?」
「証拠ならある!」
 そう言って突然会議室に扇が一人のブリタニア人女性を伴って入って来た。
「ゼロはギアスという力で人を操るペテン師だ! ゼロはずっと俺たちを騙していたんだ。俺たちを駒として」
「奇跡に種があった。それがどうしたというのです?」
「その力が敵にだけ使われるならな」
 ディートハルトの問いに扇が応える。
「まさか味方にも?」
 それに対応するように、シュナイゼルはカノンに証拠資料を提示させた。
 枢木神社でのルルーシュとスザクの遣り取りのテープ、ギアスを掛けられたと思われる人物たちに関する書類。
「私も掛けられている」
 扇の後ろにいる女性が発言した。
 資料の中には、旧日本解放戦線のメンバーや中華連邦領事館の宦官、ゼロによって虐殺を命じられたとするユーフェミア、そしてジェレミアがあった。
 示された証拠の品々に騎士団幹部たちに動揺が走る。
「これで高亥やジェレミアが寝返ったことも証明がつく」
「俺たちはゼロに裏切られていたのか……」
 幹部たちはすっかりシュナイゼルに乗せられていた。
「待ってもらおうか」
 そのままシュナイゼルの口車にのって、ゼロを日本と引き換えに引き渡すという話になりかけたところで、再び扉が開き、九州で戦っていた本隊からやって来た星刻の声が止めた。
「星刻!」
「神楽耶様まで、一体どうして」
「一体どうして、ではありません。貴方たちは何をしようとしているのですか!」
 突然姿を現した神楽耶、天子、騎士団の総司令である星刻の姿に、扇たちは慌てた。
「ゼロは俺たちを裏切っていたんです。特区の虐殺も、ゼロがユーフェミア皇女にギアスという力で命じたことで、我々はずっとあいつに騙されてきたんです」
「その証拠は?」
 扇が三人を説得しようとするのに、星刻は冷静に返した。
「証拠はここに」
 そう言って扇は、シュナイゼルたちが持ち込んだ資料を示した。
「敵の持ってきた資料を鵜呑みにする馬鹿が何処にいる! 敵が自分たちに不利な証拠を持ってくるはずはないだろうし、持ってきた証拠が捏造されたものである可能性もある」
「そ、それは、ち、千草が生き証人です。彼女もギアスで操られて……」
「ブリタニアの方、ですわね、つまり私たちの敵」
「しかも純血派に属し、ブラック・リベリオンでは黒の騎士団を混乱に陥れた功績を買われて男爵位を得た軍人。そんな人物なら、ギアスとやらを掛けられていても一向に不思議ではない。寧ろそんな人物と一緒にいる君を疑わざるを得ない」
「ど、どういうことです!」
「あら、分かりませんの?」
 神楽耶が無邪気そうな声で言う。
「貴方こそが私たちを裏切っているのではないかと言っているのですわ」
「扇事務総長、君の方こそ、そのブリタニアの女に籠絡されて獅子身中の虫になっているのではないのか!?」
「私はそんなことは……」
 ヴィレッタが星刻の言葉を否定しようとするも、神楽耶や星刻の言葉に他の幹部たちも訝りだす。
「味方ではなく敵の言うことが真実と言うなら、もっと明らかな、作り物では決してないとはっきりと証明出来るものを示していただきましょう」
「な、何を馬鹿なことを! 神楽耶様も総司令もゼロに騙されてるんです、ゼロのギアスに……」
「みっともないぞ、扇要! 我々を見くびるな!!」
 星刻が扇を一喝する。その声に迷いや人に操られているようなあやふやな感じはない。
 藤堂はディートハルトに命じて数名の団員を会議室に呼び入れた。
「藤堂統合幕僚長、なんのつもりだ」
「裏切り者を捕縛させてもらうだけだ」
 そう言って、入って来た団員に命じた。
「扇とその後ろにいるブリタニア人の女を拘束し、独房に入れておけ」
「何をするんだ! 間違っているのはおまえたちのほうだ、騙されるな!」
 扇は拘束を受けながらも必死に抵抗するが、ヴィレッタは彼らの遣り取りに既に諦めたのか、抵抗はしなかった。
 扇とヴィレッタが拘束されるのを見届けながら、神楽耶、天子、星刻が改めてシュナイゼルに向き合う。
「一時停戦は受け入れましょう。ですが、休戦に関しては評議会を開いて決を採らなければなりません。今日のところはこのままお帰りください」
 凛とした声で神楽耶がシュナイゼルに告げる。
「私の異母弟を返して貰うことは出来ないのかな?」
「自分たちから捨てておいていまさら!」
 神楽耶はシュナイゼルを見上げ、侮蔑を含んだ声でそう言い放った。
「私が何も知らないとでもお思いですか? 私は8年前に母国に捨てられたルルーシュ殿下とは、幼馴染とも言える間柄ですのよ。ですから、あの方がどれ程母国を憎んでおられるか、十分に承知していますわ」
 その神楽耶の言葉に、シュナイゼルは考えを巡らした。この場は一旦引き下がったほうが賢明らしいと。
「どうやら私は貴方たちを見くびっていたようですね。とりあえず、一時停戦で良しとしましょう。コーネリア、カノン、戻るぞ」
 扇とヴィレッタが独房に連れていかれる一方で、神楽耶はシュナイゼルたちが斑鳩を飛び立つのを見送ってから、漸く安堵したかのように大きな溜息を吐いた。
「貴様たちは敵の奸計に早々に嵌って、一体どうするつもりだったのだ」
 星刻が残った幹部たちを責める。
「しかしゼロは中華で虐殺を行ったとの情報もあった。そこにシュナイゼルの齎した情報だ。嫌でもゼロを疑いたくもなる」
「ゼロが殲滅したのはギアス嚮団と呼ばれる集団で、今さっき話に出ていたギアスの研究をしているところであり、女子供といえど、皆そのギアス能力の保持者や研究者だ。殲滅もやむを得まい」
「知っていたのか、総司令?」
「中華で起きたことだ、そのくらい知らなくてどうする。それよりも改めて陣営を立て直すぞ」
「ゼロ様はどちらに?」
 星刻と藤堂の遣り取りの傍らで、神楽耶が天子と一緒に、千葉にゼロのことを尋ねた。
「ゼロでしたら部屋に。ですが、会談の前にも連絡を取っても応答がなくて」
「無理もありませんわね。最愛の妹君を亡くされたのですから」
「えっ?」
「ゼロ様の本名を聞かれたのでしょう? 分からなかったのですか? このエリア11の総督、ナナリー・ヴィ・ブリタニアはゼロ様の実の妹君です」
 神楽耶の言葉に、その場にいた他の者たちは呆然とした。
 それを横目に、神楽耶は黙ったまま自分の隣にいる天子に笑顔を見せた。
「さ、天子様、私たち二人でゼロ様をお慰めいたしましょう」
「ええ、神楽耶」
 天子は笑顔で応え、そうして二人はゼロの部屋へと向かうのだった。

── The End




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