ある日ある時、エリア11の某所から、本国の某所に1本の電話を入れている青年将校がいた。
「父さん、どうしよう、どうしたらいいんだか分からないよ」
その電話があってから数日後、エリア11のトウキョウ租界にあるアッシュフォード学園に、黒塗りのリムジンが数台、入っていった。
学園では既に授業が終わり放課後となっていて、皆部活に勤しんでいる時間帯であり、それに気が付いた生徒たちの視線が自然とそのリムジンの後を追う。
そんな中、最も高級そうなリムジンが横付けされたのは、クラブハウスの前だった。
前の席から降り立った侍従らしき人物が、後部座席の扉を開けると、そこから降りてきたのは誰あろう、知らない者のない、神聖ブリタニア帝国の第2皇子にして帝国宰相の地位にあるシュナイゼル・エル・ブリタニア、その人であった。
それが分かった生徒たちがおろおろとし始め、遂には騒ぎ始めて、その様子にクラブハウスの前の出来事を察知した教員が慌てて職員室に駆け込んでいった。
クラブハウスの中にある生徒会室では、表でそんな状態になっているとも知らない生徒会のメンバーが珍しく全員揃い、いつもの如く会長のミレイが溜めこんだ書類の山と格闘していた。
コンコンと軽く扉がノックされると、ミレイが、
「はい、どうぞ。誰よ、この忙しい時、に……」
ぞんざいな口調で応じながら扉に目をやり、そのまま固まった。
それはミレイだけに限らず他のメンバーもだったが、中でもその態度が顕著だったのがルルーシュで、彼は持っていたペンを取り落とし、顔色を真っ蒼にしていた。
それもそうだろう。副会長のルルーシュ・ランペルージとは仮の名、本名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、七年前の日本侵攻の折りに死亡したとされている神聖ブリタニア帝国の第11皇子だったのだから。
「ああ、やっぱり本当に間違いなかったね。ルルーシュ、君が生きていると聞いた時はどれ程嬉しかったことか。使いの者を差し向けるなんて真似は出来なくて、私自ら来てしまったよ」
言いながら、部屋に入って来たシュナイゼルはルルーシュに近付いていく。
「シュナイ、ゼル殿下……」
「殿下だなんて他人行儀な。昔のように“異母兄上”と呼んでくれないか」
シュナイゼルはルルーシュの手を取るとそのまま立ち上がらせて抱き締めた。
「ああ、本当に大きくなって、マリアンヌ様にそっくりになって」
ルルーシュの肩に手を回して抱き寄せたまま、シュナイゼルはミレイを見た。
「アッシュフォードのご令嬢、君たちがルルーシュとナナリーを保護してくれていたんだね。ああ、そういえば君はルルーシュの婚約者でもあったか」
「で、殿下、一体、どうして……」
分かったのか、と最後まで言う前に、シュナイゼルが笑顔で答えた。
「ユフィが一名誉ブリタニア人を贔屓しているというので、その名誉を追い落とそうと企んだメンバーの一人が、以前マリアンヌ様の離宮の警護をしていた者でね、周辺を探っているうちに傍にいるのがルルーシュではないかと気付いて本国の身内に連絡してきて、そこから回り回って私のところに情報が入ったんだよ。そうしたらいても立ってもいられなくてね、こうして私自ら迎えに来たのだよ」
貴方のせいで! と、キッとミレイはスザクを睨み付けた。
ミレイに睨み付けられたスザクはどうしていいか分からず、ただその場でおろおろするばかりだった。
その一方で、カレンはルルーシュを睨み付け、リヴァルとニーナは呆気にとられ、シャーリーは言いようのない絶望感に襲われていた。
「さあルルーシュ、ナナリーのところへも案内しておくれ。本国への帰国は用意もあるだろうから明日の午後で手配してある」
ルルーシュは最早為す術はないと諦めたように、シュナイゼルに抱き寄せられるままに生徒会室を出ていこうとした。と、そこでシュナイゼルが足を止めた。
「そうだ、ミレイ嬢、だったかな、アッシュフォードのご令嬢」
「は、はい」
「よければ君もルルーシュやナナリーと一緒に本国へ向かうかい? 改めて婚約披露も必要だろう」
「よ、よろしいのですか? アッシュフォードは既に爵位を剥奪されて……」
「そのくらい私の方でどうにでもしてあげられるよ。何せ今までルルーシュたちを守ってくれていたんだからね。さしあたり伯爵あたりの位があれば問題はないだろう。流石に以前と同じ大公爵を、というのは私の裁量ではいかんともしがたいがね。さ、行こうか、ルルーシュ」
そうして生徒会室を出た二人の後を、扉の外で待っていたシュナイゼルの副官であるカノンや侍従たちがついていく。
ルルーシュたちが去った後、ミレイは改めてスザクを睨み付けた。
「やっぱりなんとしても貴方の入学を認めるんじゃなかった! 皇族のお願いと言う名の命令でなければ、決して軍人である貴方なんか入学させなかったものを!」
そう叫んだ後、ミレイは理事長であり祖父であるルーベンに今後のことを相談すべく、生徒会室を飛び出していった。
「スザク、ルルーシュが皇子って、ホントなのか?」
代表して確認するようにリヴァルがスザクに問い掛ける。
「……」
スザクは黙って頷いた。
「日本開戦の前に、僕の家にナナリーと二人で親善留学っていう名目で送られて来たんだ」
俯いたまま、ゆっくりとスザクは答える。
「じゃあ、あの悲劇の皇族って、ルルーシュ君とナナリーちゃんのことだったんだ」
何気に皇族のことに詳しいニーナが補足するように告げる。
日本侵攻の折りに、日本にいて日本人に殺された皇族が二人いるとして、戦後、悲劇の皇族として、名と顔は伏せられていたものの有名な話だった。
リヴァルとシャーリーは、ルルーシュが皇子であったということと、ミレイがその婚約者だったということで失恋が確定したことに、ショックを隠せなかった。
そうして翌日、シュナイゼルたち一行と一緒に、何が待っているかと不安にかられながらエリア11を離れたルルーシュとナナリー、そしてルーベンとミレイを待っていたのは、ルルーシュの宰相補佐という地位と、シュナイゼル主催による第11皇子、第6皇女の生還祝賀会兼第11皇子とアッシュフォード伯爵令嬢の婚約披露パーティーだった。
ルルーシュを中心とした一行の思いは、今までの苦労は何だったのだろうというものだった。何のために匿ってもらっていたのか、匿っていたのか。
だが、ルルーシュが今の年齢になったからこそのこの状況であり、戦後はやはり隠れるより他に方法はなかったのだとも思う。
そしてこれからは、宰相であるシュナイゼルの後ろ盾があるとはいえ、宮廷では他の皇族や貴族たちとの足の引っ張り合い、権力争いが待っている。エリア11でゼロとして反逆の狼煙をあげようとしていたルルーシュだったが、ある意味、それ以上の戦いが待っているのだ。
その頃、遠く離れたエリア11のアッシュフォード学園では、既に分かっていたこととはいえ、改めて本国からのニュースで知らされた『第11皇子ルルーシュ殿下とアッシュフォード伯爵令嬢ご婚約』の報告に、涙にくれるリヴァルとシャーリーの、そして僕のせいで、と深く落ち込むスザクの姿があった。
── The End
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