格の違い




 第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアを弑逆して、神聖ブリタニア帝国の第99代皇帝の座に就いたのは、若干18歳のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであった。
 ルルーシュは皇帝の座に就くや、矢継ぎ早に勅命として次々と政策を打ち出していった。
 皇族や貴族たちの既得権益の廃止、財閥の解体、ナンバーズ制度の廃止とそれに伴う差別の禁止、そして順次エリアの解放を行うと宣言した。
 皇族や貴族たちからの反発は大きかったが、帝国随一の実力者であり、宰相でもあるシュナイゼルがルルーシュを支持したことで、その反発は次第になりを顰めた。それでも地方貴族などには従おうとしない者たちがいたが、そういった者たちは、ジェレミア・ゴットバルトをはじめとした騎士たちが討伐を行い、国内を平定していった。
 臣民の間では、民の平等を謳う皇帝に、賛同し、支持する者は多かった。
 それは国内にとどまらず国外においても同様で、先帝の行ってきた国是、弱肉強食、覇権主義、植民地主義を排した新皇帝を支持する国は後を絶たなかった。
 そんな中で唯一反発したのが、かつてのエリア11であり、第2次トウキョウ決戦の後、宰相の裁量により返還された合衆国日本の首相扇要であった。
 扇首相は、ルルーシュの政策を単なる人気取りであるとし、また彼をペテン師と謗り、各国は、民衆は騙されているのだとあらゆる機会に話していた。
 そんな中、ブリタニアの情勢も新皇帝の元で落ち着いたとして、世界の主要各国が集まり会談が開かれることとなった。
 場所は蓬莱島である。
 亡命政権であった合衆国日本のかつての暫定首都であり、現在は超合集国連合の本部があり、またその剣であり盾でもある黒の騎士団の本拠地ともなっている地である。
 そこに、まだ連合に参加していないEU諸国やブリタニアをも集めて、今後の世界情勢について話し合おうというのである。
 EU各国はともかく、ブリタニアでは皇帝がかつての敵地に赴くことに反対の声が大きかったが、これからの世界の在り方を話し合うにはよい機会であるとして、ルルーシュは参加を決め、己の筆頭騎士、すなわちナイト・オブ・ワンであるジェレミアを同伴することで周囲を納得させた。
 会談の前日に行われた歓迎レセプションの主役は、何といってもブリタニアの新皇帝ルルーシュであり、各国首脳の殆どが彼との会話を望んだ。
 各国の首脳に比べれば、ルルーシュはまだまだ若く、彼らの息子や孫といってもいいくらいの年齢であったが、知識は豊富で見識は高く、何よりも先帝を否定していることで好感が持たれていた。
 翌日からの会談では、合衆国日本の首相である扇が、ルルーシュに対してブリタニアは即刻エリアを解放すべきだと迫った。
「順次などといい加減なことを言わずに、さっさとエリアを解放すべきだ。そうでないならただの人気取りとしか思えない!」
 それを微笑んで聞いていたルルーシュは、冷静に回答した。
「各エリアは長いこと植民地としてあっただけに国内が荒れているところが多く、また、ナンバーズと呼ばれていた民は疲弊しています。そのような状態のまま手を離すのは無責任であり、その状況を是正し改善して、また教育をきちんと行い、指導者たるべき人材を見出すことが出来た後に解放するということです。それが、長く植民地として扱ってきた国と、まともな教育も受けることが出来ずにいたその国の人々に対しての責任だと思っていますから。だから時を待っているのです」
「だが日本は荒れたまま返された!」
「日本の返還は先帝の時代のことであり、私の関与するところではありません」
「今、おまえは平和を願っていると言っているが、だったら何故連合に加盟しない!?」
 その言葉には各国首脳が眉を顰めた。仮にも一国の君主を”おまえ”呼ばわりとは何事かと。
 しかしルルーシュは、顔色も変えずに静かに返した。
「超合集国連合最高評議会は加盟各国の人口比率で決定されます。現在まだエリアを解放し終えていない我が国が加盟すれば、連合の過半数以上を抑えることになり、これは不公平を免れません。もし我が国が超合集国連合に加盟するとしたら、その前提条件は一国一票の制度に改まった後。さらに申し上げれば、連合唯一の武力集団である黒の騎士団の幹部が、一国に偏重している現状が変わった後ですね」
「何処が偏重していると言うんだ」
「先だってまで事務総長を務めていた貴方が気が付いていないんですか? 黒の騎士団の幹部の殆どが貴方方日本人で、他は総司令である黎星刻殿とその側近が中華の出であるにすぎません。それ以外の国の方は、全くいらっしゃらないということはありませんが、あまりにも少ない。これが偏重でなくて何と言うのでしょう」
「そ、それは……」
「それに大変申し上げにくいことですが、正直なところ、CEOであったゼロ亡き今の黒の騎士団を、私はあまり信用、信頼出来ないのですよ」
「なんだと!? おまえは……」
「先程から聞いていれば貴殿の物言いは一体なんだね」
 連合に加盟していないEUの一ヵ国の首脳からの声が扇の言葉を遮った。
「とても一国を代表する者の物言いとは思えませんな」
「首相と言っても、所詮はレジスタンス上がりということですか。このような人物を首相に選んだ日本人が信じられません。大方黒の騎士団の事務総長だったということだけで首相に選ばれたのでしょうが」
 各国から上がる扇を批判する声に、扇は憤怒に顔色を、表情を変えた。
「皆、こいつに騙されているのが分からないのか!」
 扇はルルーシュを指さして叫んだ。
「お話になりませんな」
「我々は皇帝となったルルーシュ陛下の執られている政策を見て彼を支持している。君のように根拠もなく否定するほうがおかしい」
「根拠ならある! こいつがゼロなんだ! そしてギアスという異能の力で団員を操って駒として戦わせていたペテン師なんだ!」
「ゼロは第2次トウキョウ決戦の折りに負傷が元で亡くなったのではないのですか? そう発表したのは貴方方黒の騎士団だったでしょう?」
 微笑みながらルルーシュが問い掛けるように告げた。
「……っ」
 扇はそれには返す言葉を持たなかった。ゼロの死亡発表をしたのは紛れもない事実だったからだ。
 会談では、結局日本だけが他から浮き上がっていた。どの国の代表や首脳からも相手にされなかった。一国── それも超大国であるブリタニア── の君主を君主として遇することも出来ぬ者を相手にしようはずがない。
 そして会談は日本だけが反対の立場をとる中、ブリタニアやEUを中心に、現在の連合を発展させた形で新たな世界的な組織を創ることで合意し、いずれ機会を改めてそのための会合を開くことを決めて閉幕した。
 会談の様子を中継で見ていた日本国民の殆どは、心理的ダメージを受けていた。このままでは日本だけが世界から浮いてしまうと。
 それでなくても、扇首相の元では真面な政策が纏まらず、日本は相変わらず貧困なままなのだ。確かにエリアとしてあった時代、子供たちは教育と言える程のものは受けてこれなかった。しかし、それでも元々の力はあるのに、行政が真面に動かないから何も進まない。そのために国民の不満は高まっていた。
 そんな中でのあの会談の在り様である。扇には一国の首相である自覚がないのだと、日本国民の誰もがそう思った。
 そして誰よりもそれを痛感していたのが、蓬莱島に同伴していた首相夫人である千草ことヴィレッタ・ヌゥだった。自分が夫に選んだのはこんな男だったのか、こんな情けない、状況判断の出来ない男だったのかと。
 他の国の代表と比べて、あまりにも格が違い過ぎる。この男は本来一国の首相などになるような、なれるような器の男ではない。ルルーシュと比較したならなおさらだ。
 会談を終えて合衆国日本に戻った扇を待っていたのは、国民からのバッシングの嵐だった。世論調査では、支持率はブリタニアの植民地となる前の代々の首相と比べても最低だった。というよりも、支持者は全くといっていい程いなかった。かつての仲間であった黒の騎士団のメンバーでさえ、もはやあの会談の様子を見た後では、扇を支持してはいなかった。
 早々に開かれた臨時国会では、扇への不信任案が満場一致で可決され、扇は退陣を余儀なくされた。そしてどうして俺ばかりが、と疲れ切った扇が帰宅した官邸では、彼を迎えるべき妻と子の姿は何処にもなかった。

── The End




【INDEX】