トウキョウ租界にあるアッシュフォード学園で開催された超合集国連合の臨時最高評議会からの帰還途中、ルルーシュにアヴァロンから緊急連絡が入った。
それは帝都ペンドラゴンに向けて、大量破壊兵器フレイヤが投下されたというものだった。だが同時に、かねてからロイド・アスプルンドに指示しておいたフレイヤ対策が効を奏して、無事に難を逃れたとのことでもあった。
その報告は、やはり懸念していたことが当たってしまったか、という思いと、防ぐことが出来たということに対する安堵感をルルーシュに齎した。
アヴァロンに帰還したルルーシュを待っていたかのように、ロイヤルプライベート通信が入った。誰からのものか想像はついていたが、ともかくもルルーシュはそれを繋げさせた。
画面に映っているのは、ルルーシュが想像した通り、異母兄であり、帝国宰相という地位にありながら行方を晦ましているシュナイゼルだった。
『他人を従えるのは気持ちがいいかい? ルルーシュ』
「シュナイゼル……」
『フレイヤ弾頭は全て私が回収させてもらったよ』
「つまり、ブリタニア皇帝に弓を引くと?」
『私は君を皇帝と認めていない』
「成程。皇帝に相応しいのは自分だと?」
『違うな。間違っているよ、ルルーシュ。ブリタニア皇帝に相応しいのは、彼女だ』
映像の中心からシュナイゼルが僅かにずれて、その後ろを映し出した。
「ナ、ナナリー!?」
シュナイゼルが引いたことで中央に映し出されたのは、ルルーシュの実妹のナナリーであり、その横にはコーネリアの姿もあった。
『お兄さま、スザクさん、私は、お二人の敵です』
それは、トウキョウ租界で投下されたフレイヤによって死亡したと思われていた、ルルーシュが誰よりも愛してやまない妹だった。
「……ナナリー。生きていたのか……?」
『はい。シュナイゼルお異母兄さまのお蔭で。
お兄さまもスザクさんも、ずっと私に嘘をついていたのですね。本当のことをずっと黙って……。でも、私は知りました。お兄さまがゼロだったのですね。
どうして……、それは私のためですか? もしそうなら私は……。私は、そんなことは望んでいなかったのに……』
『何言ってるのよ!』
ルルーシュとシュナイゼルたちとの通信の間に、別の通信が割り込んできた。
『自分がやったことを棚に上げて、ルルーシュお異母兄さまだけを責めて、あんた一体何様のつもりなの!?』
「カリーヌ……?」
通信に割り込んできたのが誰か分かって、ルルーシュはついさっきまでのナナリーからの言葉を忘れたかのように、その相手の名を呼んだ。
『カリーヌだけではないよ。私もいるし、他の兄弟姉妹たちも揃っている』
次に話を振ってきたのは第7皇子のクレメントだった。
盲目のナナリーには見えていなかったが、確かにそこにはクレメントの告げたように、上位皇族たちが揃って顔を見せていた。シュナイゼルがその様に、周囲には分からぬように息を呑みこんだ。
『お異母兄さま方もお異母姉さま方も、お兄さまのギアスによって操られているんです。目を覚まされてください。お兄さまはギアスという人ならざる卑怯な力を手に入れて、変わってしまわれました。そして今、その力でブリタニアを支配しているんです』
ナナリーはギアスを解く方法などもちろん知らなかったが、彼らに疑問を持たせることで何らかの効果が生まれることを期待してそう告げた。しかしそれを迎えたのは嘲笑だった。
『ルルーシュお異母兄さまが私たちに掛けたギアスなら、ゴットバルト卿の持つギアス・キャンセラーでとっくに解除されているわ』
『キャンセラー? ギアスが、解除されている……?』
カりーヌの言葉に驚いたのは、対応していたナナリーだけではない。シュナイゼルもコーネリアも、その表情から驚きを隠せずにいた。誰もキャンセラーの存在を、ギアスを解除出来るなどということを、そして実際に異母兄弟姉妹たちに掛けられたギアスが解除されていることなど知らなかったのだから。
『その上で、父上が何を望み何を為そうとしていたのかを知り、そして今、ルルーシュがしようとしていることに、その政策に共感して、私たちはルルーシュに協力している』
そう応えたのは第1皇子のオデュッセウスだった。
『異母兄上の仰る通りじゃ。確かに最初は戸惑ったし反発したりもしたが、父上の真実を知り、妾たちの考えは変わった。が、そなたたちはどうなのじゃ? 自分たちの役目を放棄し、自国の帝都に大量破壊兵器を投下し、数多の臣民を殺戮しようとするなど、一体何を考えておる!?』
今度は第1皇女のギネヴィアがナナリーに対して糾弾の声をあげる。
『放棄したわけではありません! シュナイゼルお異母兄さまが、エリアの混乱状況とお兄さまの力のことを考えたら、暫く身を隠していた方がいいと仰ったからそうしていただけです! それに、帝都の民たちのことならシュナイゼルお異母兄さまが避難させたと……』
『避難だって? 誰一人として避難などしていないよ。帝都にフレイヤが投下されるなど、誰も何も知らなかったからね。けれどルルーシュがアスプルンド博士に前もって対策を命じてくれていたお陰で、それが幸いして無事に帝都に着弾する前に防ぐことが出来たから、私たちはこうして無事でいる。第一、私たちが今何処から通信していると思っているんだい? ペンドラゴンの皇宮からだよ』
『そ、そんな、嘘です! シュナイゼルお異母兄さまはきちんと避難させたと!!』
『君はルルーシュたちを嘘をついていたと言って責めたけど、シュナイゼルも嘘をついているとは思わないのかい?』
『シュナイゼルお異母兄さまはお兄さまとは違います! 嘘を仰ったりしません! お異母兄さまお異母姉さま方こそ、お兄さまの嘘に騙されているんです!!』
『あんた、本っ当に盲目なのね。実質的にだけでなく、精神的にも何も見えてないし、シュナイゼルお異母兄さまの言葉を信じるだけで、自分では何も考えようとしていない。ルルーシュお異母兄さまがブリタニアから日本に送られてからこちら、あんたを守ってどんなに苦労してきたのか考えたこともないんでしょう? それが分かっていたら、そんなに簡単にルルーシュお異母兄さまを敵だなんて言えるはずないものね。騙されているのも、何も分かっていないのもあんたの方よ!』
『シュナイゼル、コーネリア、ナナリー、君たちは自分たちの立場を忘れ、責任を放棄し、さらには帝都に対して攻撃を加えた大逆犯。臣民は全てを知っている。皇族という立場にありながら、自分たちを殺そうとした君たちを誰も信じないし、支持することなどありえない。フレイヤに対しての対策も十分だ。フレイヤがあればどうとでもなるなどと簡単に考えているのなら、それは大きな間違い。大人しく帝都に出頭して縛に就くことを勧めるが、シュナイゼル、君はそのようなこと、到底考えないだろうね。今もまだどうにかなると考えているのじゃないかな』
『異母兄上の仰られた通りりじゃ。せめて潔う自分の身の処し方を考えることじゃな。
ルルーシュ、はよう帰ってきやれ。皆、そなたを待っておる故な』
「は、はい」
ギネヴィアがルルーシュのその返事に嬉しそうに頷き、それを最後に、ペンドラゴンの皇宮からの通信は切られた。
ナナリーとペンドラゴンの皇宮にいる皇族たちとの遣り取りの間、口を挟むことも出来ず、ただ聞いていることしか出来なかったルルーシュだったが、気を取り直したように、改めてナナリーに、ひいてはその背後にいるシュナイゼルとコーネリアに向けて言葉を発した。
「信じる信じないは別として、オデュッセウス異母兄上方が仰られたことは事実です。私としては降伏されることをお勧めするが、貴方方にそのような気はないでしょうね。それであれば、私はブリタニアの皇帝として全軍をもって貴方方を迎え撃つまでのこと。今から丁度一日、24時間の猶予を差し上げます。皆様方が仰っておられたことをよくよく考え、これからどうするかをお決めになることです」
それを最後に、何かを言いたそうにしているナナリーを無視してルルーシュも通信を切った。
あの異母兄弟姉妹たちとの通信で、ナナリーが考えを改めたか、少しでも真実を知ることが出来たか、あるいは知ろうとする気になったか、それはルルーシュにも分からない。ただ、例え実際に観ることは叶わなくとも、現実に目を向けてくれればよいと、ルルーシュはそう思う。
「急ぎ本国に帰還する」
「イエス、ユア・マジェスティ」
ルルーシュの命令に、オペレーターを務めているセシルが応じ、アヴァロンとその護衛艦は、速度を上げて祖国ブリタニアに向かうのだった。
── The End
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