有名芸能プロダクションであるアムスペース社のジョー・エルムズに、ルルーシュがスカウトされたのはつい先週のことである。
その後の展開は早かった。お祭り大好きな生徒会長のミレイがこの話題を見逃すはずもなく、いつの間にやら本人であるルルーシュを差し置いて、ジョーとミレイの間で話が進められ、あれよあれよという間にカメラテストの話になった。いやいやながらもミレイに引っ張られるようにして出掛けたルルーシュだったが、待っていたのは怒涛の展開。ミレイ持参の、ルルーシュを隠し撮りした数々の写真、そして何故か来ていたスポンサーの意向で、カメラテストも無しにいきなり本番、ポスター用の撮影に入ったのである。そして週明けにはCM撮影、という話にまで進んでいた。その間、ルルーシュが口を挟むような隙はなく、彼を無視するかのように、ジョー、ミレイ、そしてスポンサーやスタッフたちの間でとんとん拍子に話が進められたのだ。
ルルーシュは自分を心配するロロに事実を打ち明けられなかった。どう説明してよいやら分からなかったということもある。故にルルーシュの監視をしている機密情報局── 機情── がそれに気が付いた時には後の祭りとなるのだが、それは現時点では先の話。今はまだ誰も知らない。
ポスター撮影の翌週、これまたミレイに引きずられるようにしてスタジオに引っ張られていったルルーシュは、これまた何を言う余地もなく、ただ言われるままにカメラの前に立っていた。
ルルーシュとしては自嘲するしかない。
── 一体なんでこんなことになってるんだ……?
それがルルーシュ本人の偽らざる本音である。そして叶うことなら現状を否定したいと思う。だが目の前で行われていることを否定することは出来ない。しかも大変不本意なことに、その出来事の中心にいるのは他ならぬルルーシュ自身だ。おそらくミレイがいなかったらここまでの展開にはならなかったに違いないと思う。しかし何故かミレイには弱いルルーシュのこと。ミレイが乗り気で話を進めている以上、最早ルルーシュ自身にはどうにも出来はしない。 今日、撮影しているCMの放映と、先に撮影したポスターの公開は同日になるらしい。それが皆の目に触れた時の反応を考えると、いささか恐ろしい気がする。というか、全く想像がつかない。
そしてその日はやってきた。
ミレイとルルーシュ本人を除く生徒たちがそれに気付いたのは、放課後のことだった。
放課後、街に出た生徒たちが張り出されたポスターに気が付いて嬌声を上げたのだ。さもあらん。学園でも1、2の人気を誇る生徒会副会長のポスターが街のいたるところに貼り出されているのだ。夜になってTVをつけ、流れるCMに気付いた生徒たちもいて、寮のいたるところで嬌声が上がった。
その事態に流石に機情も気付く。既に遅かったが。
クラブハウスの居住区にあるリビングで、ロロを前に、ルルーシュは乾いた、疲れ切った笑いとも言えぬ笑いを浮かべていた。
「兄さん……」
「……どうしてこんなことになってるんだろうな? 俺にも分からないよ。全ては会長の仕業だ。会長がいなかったら……」
そう呟いて、ルルーシュはがっくりと肩を落とし俯いた。
その様子に、ロロはルルーシュにとって、今のこの状態は明らかに不本意であることは理解した。そして多分、ルルーシュがミレイによって引っ張られて出掛けていった時点で、既に止めようがなかったのだろうとも。
機情は今頃上を下への大騒ぎだろう、とロロは思う。しかしいまさらどうしようもない。
翌日、ルルーシュは引き籠った。クラブハウス内の自室に鍵を掛けて閉じ籠ったのだ。
校門の外にはマスコミ、それも主に芸能系が押し掛けている。対応しているのは、自称ルルーシュのマネージャーである生徒会長のミレイだ。流石のミレイも鍵を掛けて閉じ籠っているルルーシュを引っ張り出すことは出来ず、名刺などの連絡先を受け取り、インタビューなどについては後で連絡を入れますので、ここは学園内でもあることから今はお引き取りくださいと追い返している状態だ。実際、現在とれる対応はそれしかない。
機情のメンバーはヴィレッタをはじめとして、皆、どうしたものやら、とモニターに映っている校門の様子を見ながら溜息を吐いている。
当のルルーシュも、自室で朝から溜息の連続だ。ロロも窓から校門の様子を見て溜息を吐いている。意気盛んなのは多分ミレイくらいなものだろう。生徒会の他のメンバーはあまりのことに目を剥いている、といったところだろうか。
夜になって、ロロの携帯にミレイから連絡が入った。
「あ、ロロ? ルルちゃんたら携帯の電源まで落としてるみたいで連絡つかないから、ロロから伝えて。明日の放課後、クラブハウスのホールを使って記者会見だって」
「えっ? 本当ですか?」
「もちろん、嘘なんかつかないわよ。アムスペース社からエルムズさんもくることになってるわ。ってことで、ルルーシュが明日も引き籠りのようだったら、ロロがルルーシュを連れてきてね」
「は、はぁ……」
「じゃあ頼んだわねー」
ミレイは明るくそう告げて、携帯は唐突に切れた。
これからどうなるんだろうと、自室に閉じ籠っているルルーシュのことを考えながらロロは思った。そして機情のメンバーも頭を抱えてるんだろうな、とも。
ロロ自身もどうしたらいいのやら、と思わなくもないが、ともかくミレイに言われた通り、明日の放課後になったらルルーシュをなんとか引っ張り出してクラブハウスのホールに連れて行くしかない。ロロの立場としてはそれしか道はないのだから。ただ、ルルーシュを部屋から連れ出すことが出来るかどうか、今一つ自信は持てなかったが。
その点を除けば、ロロは機情の他のメンバーよりは幾分気が楽といえるかもしれない。ロロに監視者としての責任が全くないとは言わないが、それでも機情のメンバーと比較すれば、その点に関しては多少は責任は軽いだろう。ロロは元からの機情の者ではなく、他の組織から、いわば出向してきているような立場であり、監視そのものはあくまで機情の担当なのだから。
とりあえず、兄さんが芸能デビューしたことがエリア11内のことだけで済み、本国にバレなければ大丈夫、なんとかなるだろう。そしてそれは今頃、機情のメンバーも同じように考えているだろうことは違いない、とロロは思う。 そしていささか無責任に、とりあえずは明日の兄さんの状態だよね、とロロはどうなるかなぁと思いを至らせる。
── The End
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