思 慕 終章




 中華の天子に心を救われたルルーシュは、その力── ギアス── を使ってブリタニア宮廷を掌握した。
 先帝シャルルのラウンズたちだが、まず枢木スザクは、シャルルの暗殺を謀った者としてビスマルクの手にかかって既に果てていた。スザクにはルルーシュの“生きろ”のギアスがかかってはいたが、元々の力量の差、そしてビスマルクの持つ“先読み”の力の前に、スザクは必死に抗ったが無駄に終わり、その命を散らしている。そして残ったビスマルクたちは、“ギアス・キャンセラー”の力を持つジェレミアの前にビスマルクの力が通じることもなく、ジェレミアと彼の指揮を受ける者たちの手によって次々と討ち取られていった。
 ギアスを掛けられることから逃れられ、ルルーシュに対して抵抗していた貴族たちも、ジェレミアたちの前に敗れ、今やブリタニアは完全にルルーシュの支配下にあった。
 そうなったルルーシュを皇帝とするブリタニアは、ブリタニア国内の改革はもちろんのこと、中華をはじめとする諸外国とも和平条約を結び、穏健的な治世を行っている。
 そればかりか、ルルーシュを救ってくれた天子を君主とする中華を筆頭に、他の国々に対しても援助などを行い、その様子にブリタニアに好意的な国は増え、逆にかつてシャルルの下で宰相だったシュナイゼルを信じた黒の騎士団の、特に日本人幹部たちをはじめ、さらに彼らの言葉を信じて、何処までもルルーシュに対する疑いを捨てることの出来ない神楽耶が議長を務める超合衆国連合は、次々と脱退していく国が増え、その凋落は著しい。一時はブリタニアに迫る勢いですらあったのに。
 そんなルルーシュ率いる現在のブリタニアにとって一番の問題は、大量破壊兵器フレイヤを保有したまま行方不明となっているシュナイゼルの動向だ。
 対フレイヤについては、既にその開発の中心的存在であったニーナを保護し、その協力の下、アンチ・フレイヤ・システムの研究開発が進められている。こちらは時間の問題だろう。それを考えれば、そのシステムが完成するまでシュナイゼルには大人しくしていてほしいとも思うルルーシュだった。
 とはいえ、ルルーシュはシュナイゼルに関して何もしていないわけではない。可能な限りでシュナイゼルの動向を調査している。その結果、カンボジアにトモロ機関というシュナイゼル直属の、シャルルでさえ知らなかった研究機関があり、そこで巨大な天空要塞が研究、建造されていることまで突き止めた。おそらくフレイヤはその天空要塞に搭載され、発射出来るようになっているのだろう。しかしそれが判明し、配下の兵士たちを送り込んだ時には、そこは既にもぬけの空だった。
 やがて程なく研究開発中だったアンチ・フレイヤ・システムが完成し、その運用のために、ルルーシュはブリタニア国内の病院で加療し、体調のよくなった星刻の力を借り受けたいと中華の天子と、そして星刻自身に申し入れた。第2次トウキョウ決戦で使用されたフレイヤの威力を知る天子と星刻に否やはなく、その申し入れは二人に快く受け入れられた。後は使用方法の問題、つまり発射後、刻々と組成を変化させていくフレイヤを解析し、その解析データを打ち込んだアンチ・フレイヤ・エリミネーターを投擲することになる星刻、要するに蜃気楼と神虎、ルルーシュと星刻の呼吸の問題だった。それを考えた時、スザクがいたらと、正直、ルルーシュが全く思わなかったといったら嘘になる。しかし現にそのスザクは既にいない。ルルーシュと星刻は何度もシミュレーションを繰り返し、息を合わせることに懸命だった。
 やがて太平洋上に巨大な天空要塞が確認されるに至り、その報告を受けたルルーシュは、遂にシュナイゼルが動いたことを知った。
 その天空要塞から、ブリタニアに、つまりはルルーシュに向けて皇族専用のプライベート通信が入った。
 その通信でルルーシュは驚愕の事実を知らされた。
 かつてエリア11総督であり、第2次トウキョウ決戦でフレイヤの光に巻き込まれて死亡したとされていた実妹のナナリーが生きており、シュナイゼルはそのナナリーこそがブリタニアの皇帝であると称し、そしてまたナナリー自身、ルルーシュに対して「嘘をついていたのですね」と、ゼロであった彼を否定し、敵だと言い放ったのだ。
 愛していた妹。かつてナナリーはルルーシュにとって全てといってもいい存在だった。
 しかし今は違う。
 黒の騎士団に裏切られたルルーシュを、文字通り命を懸けて救ってくれた偽りの、永遠の眠りについた、今では真実の弟と言えるロロ。そしてルルーシュを信じ慕ってくれる天子がいる。
 エリアの最高責任者である総督という立場にありながら、フレイヤの放たれた戦後のトウキョウ租界を、エリア11を放置し、死亡を偽装して隠れていたことに何の疑問も責任も持たないナナリーのことを一番に考えることは出来なかった。いや、許せることではなかった。皇帝としての立場から、エリア総督としてのナナリーのしてきたこと、しなければならなかったのにしなかったことを考えればなおさらだ。必然的にブリタニア皇帝としてのルルーシュは、自国に、皇帝たる己に反逆しようとする、シュナイゼルに担がれただけではあろうが、自分こそが皇帝だと称するナナリーを認めることは出来ず、結果、切り捨てた。そこにはもちろん、表には出さなかったものの、心の痛みはあったが。
 ルルーシュは自らアヴァロンに乗り込み、ブリタニア軍を率いて出陣した。先頭をきるのはルルーシュの騎士たるジェレミアであり、そこには神虎に乗り込んだ星刻もいる。そしてまた、以前のラウンズ戦において、その様子のおかしさからジェレミアのキャンセラーによって、シャルルとマリアンヌの二人からから掛けられていたギアスを解除され、それによってルルーシュに仕えることとしたアーニャ、そしてルルーシュの元に参じたロイドとセシルによって組み立てられたKMFランスロット・フロンティアに乗って戦場に出たC.C.の姿もある。
 シュナイゼルたちのいる天空要塞の周囲には、シュナイゼルや彼に組する貴族たちの私兵はもちろん、日本人を中心とした、かつての規模を考えれば遥かに少なくなった黒の騎士団── 斑鳩や、カレンの操る紅蓮をはじめとしたKMFもあった。
 程なく直接に砲火を、KMF同士の対戦を交えるまでに接近した両軍は戦闘状態に入った。当初は通常戦闘から始まった戦いだったが、やがて天空要塞ダモクレスからフレイヤが発射された。その時はまだ、ルルーシュはそのフレイヤの発射スイッチを押しているのがナナリーだとは知る由もなかった。
 最初に発射されたフレイヤには流石に間に合わず、その時のためにと編成された特務師団を突撃させる形となった。ルルーシュとしては出来るなら使いたくはなかったが、そう言っていられる状態でもなく、そうして次々と発射されるフレイヤを防いでいる間に、遂にルルーシュは完成したアンチ・フレイヤ・エリミネーターを搭載した蜃気楼に自ら乗り込んでアヴァロンから出撃した。
 そして新たに発射されたフレイヤに対して、ルルーシュの蜃気楼と星刻の神虎が申し合わせたように息もぴったりに、アンチ・フレイヤ・エリミネーターを使用してフレイヤを消し去り、その勢いを駆ったまま、フレイヤ発射のために一部ブレイズルミナスが解除された場所から、ブリタニア軍はダモクレスの中になだれ込むようにして入り込んでいった。その中には、ルルーシュはもちろん、星刻、アーニャ、そしてC.C.もいた。流石にKGFのジェレミアは中に入ることは出来ず、ルルーシュに同行してダモクレスに侵入を果たした三人にルルーシュの身を託し、自らは少なくなったとはいえ、外で残る敵と対峙して、次々と向かって来るKMFを撃ち落していった。
 そうして要塞の中に入ったルルーシュたちは、フレイヤの自爆装置を用意し、ナナリーを残して脱出しようとしていたシュナイゼルの身柄をギアスの力を使って押さえ、ナナリーがいるという空中庭園へと足を向けた。
 そこにいたナナリーの両目は開いていた。
 ナナリーの失明は精神的なものと言われていた。実際にはシャルルによるギアスのせいだったのだが。ルルーシュの懸命な、愛情を込めた献身には決して開くことのなかったその両目は、こともあろうに、その兄と対するために、おそらく戦いの最中に落としでもしたのだろう、フレイヤの発射スイッチを探すために、その両目を開いたのだ。かつて母が殺されて以来、ずっと尽くされ続けてきた兄ルルーシュから向けられていた愛情、献身ではなく、その兄に対する憎しみから、その兄を殺すために。
 ルルーシュは自分に憎しみの瞳を向けるナナリーに失望しか持てなかった。母が死んでからナナリーがブリタニアに戻されるまで、彼が彼女に対してしてきたことは一体何だったのだろうと、自分がナナリーに対してしてきたものは無駄なことでしかなかったのかと思った。
 ルルーシュはナナリーのことを星刻とアーニャに任せ、自分はC.C.と共に要塞のオペレータールームへと向かった。星刻をはじめとする者たちが要塞から離れたことを確認すると、ルルーシュは要塞の軌道を変えるプログラミングをした。この巨大な天空要塞も、そして搭載されているフレイヤも、世界にあってよいものではない。そのまま上昇し、太陽に向かうようにセットして、それからC.C.と二人して要塞から脱出したのだった。
 こうして天空要塞ダモクレスが確認されてから僅か半日足らずで戦闘は終了した。それによって名実ともに、確実にブリタニアはルルーシュだけが治めるところとなったのだ。
 ルルーシュを助けるために死んでしまったロロの想いと、そして中華の天子がルルーシュに向ける信頼と慕う心が、ルルーシュを生かし、それがひいてはブリタニアという国の存在を変え、さらには世界の在り様を変えた。超合集国連合は崩壊し、その外部機関であった黒の騎士団も潰えた。今や、世界はブリタニアを、ひいてはルルーシュを中心にして動いていると言えるかもしれない。
 ロロは確かにもう存在しないが、ルルーシュの心の中には未だに生きている。いや、これからも生き続けるだろう。そして今では妹のように思える天子をはじめ、心からルルーシュに仕えてくれる者たちが彼を支えていくことになるのだろう。かつてルルーシュにとって一番の存在だった実妹であるナナリーではなく、そんな彼ら彼女らのために、その想いに応えるために、これからもルルーシュは生きていく。今はもういない妹たちが願った“優しい世界”を築きあげ、それを守っていくために。

── The End




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