続・兄妹と姉妹




 コーネリアとナナリーのヴィ家姉妹が、今はエリア11となっているかつての日本から、総督であるクロヴィスに名乗り出てブリタニアに帰国した後、コーネリアは他国に嫁がされ、ナナリーはまた別の国へと、以前と同様に親善のための留学という名の人質として送り出されたのは、僅か一ヵ月程のちのことでしかなかった。
 人々── 他の皇族や貴族たち── 嘲笑(わら)った。
 わざわざ名乗り出て帰国などせずに、アッシュフォードの庇護の下、エリア11で大人しく留まっていればこのようなことにならずに済んだものをと。
 そんなある日の夜、リブラ離宮では皇妃の一人であるアダレイドが、自分の子供たちであるルルーシュやユーフェミアと晩餐をとりながら、ヴィ家姉妹のことを話題に取り上げた。
「そういえば、先日、出国させられたばかりのヴィ家の姉妹のことじゃが、確かあの二人が帰国した早々に、そなたら、呼び出されたことがあったであろう?」
「ああ、そんなこともありましたね、確かに。それが何か?」
 口の中の物を咀嚼してから、ルルーシュは母であるアダレイドの言葉に頷きながら応えた。
「いまさらなことじゃが、一体どのような理由からだったのかと思うての」
「コーネリアお異母姉(ねえ)さまはおかしなことを仰ってましたわ」
「おかしなこと?」
 ユーフェミアの言葉に、アダレイドはその言葉を繰り返した。
「ええ。なんでも異母姉上(あねうえ)とナナリーには今とは別の、同じ記憶があって、その記憶の中では、母上の子はコーネリア異母姉上とユフィで、亡くなられたマリアンヌ皇妃の子、つまりヴィ家の子は私とナナリーだと。つまり、異母姉上と私の立場が逆だったと」
「その上、お兄さまはブリタニアに刃向かうテロリストになって、クロヴィスお異母兄(にい)さまや、私までをも殺したのだとまで仰っていましたわ」
「何と馬鹿なことを! (わらわ)が腹を痛めて産んだは間違いなくそなたたち、ルルーシュとユーフェミアの二人じゃ。コーネリアのような愚か者を産んだ覚えなぞないわ」
 ユーフェミアが告げたコーネリアが言ったという内容に、アダレイドは怒りを露わにして青筋を立てた。
「ええ。ですから、お二人揃って勘違いしているか、夢を見たのでしょうと言っておきましたよ」
 もうとうに過ぎた過去の馬鹿げた話と、ルルーシュはそう思いながら当時のことを話した。
「ええ。私たち二人にも同じ記憶はないのかとまで聞かれましたけれど、そんなことありませんもの。きちんと否定しておきましたわ。だいたいお兄さまが私のお兄さまじゃないなんて、そんな馬鹿な話ありっこありませんもの」
 ユーフェミアも既に済んだ話だと、前半はそっけなく、しかし後半は多少の怒りを込めて告げた。
 異母兄弟姉妹は数多(あまた)いるが、母を同じくするのは互いだけ。ルルーシュにとって誰よりも愛する大切な妹はユーフェミアだけだし、ユーフェミアにとっても誰よりも尊敬し愛する大切な兄はルルーシュだけだ。ルルーシュとユーフェミア、どちらにとってもコーネリアは異母姉であり、ナナリーは異母妹でしかない。その二人に対して情が全くないのかと聞かれれば、完全に否定しきることとは出来ないが、それはどちらかというと憐れみに近いものかもしれないと思う。
 何よりも強力な後ろ盾であった母親である皇妃マリアンヌを殺され、弱者として一触即発状態といっていい状態にあった当時の日本に送り出された二人。それを考えれば、当時の自分たちはまだ幼くて何も出来なかったが、多少はつきあいもあり、いささかの憐憫はある。しかし決してそれ以上のものではない。ブリタニアの国是は弱肉強食であり、皇帝は兄弟姉妹間の争いすら推奨している。つまり父を同じくするとはいえ、皇位継承争いの相手、いわば政敵でしかないのだ。だからこそ逆に、母を同じくするルルーシュとユーフェミアの間の絆は深いといえる。
 アダレイドは自慢の息子であるルルーシュが、自分の子ではないと言ったというコーネリアとナナリーに対する怒りを完全には押さえきれぬものの、当の二人が既に過去の話と割り切っている様子であるのを認めて、それ以上の追及を止めた。第一、肝心の二人が既にもうこの国にいないのだから、それこそいまさらな話ではある。
 アダレイドにしてみれば、コーネリアとルルーシュが逆の立場などというのは考えつかない。帝国宰相を務める第2皇子のシュナイゼルに匹敵するか、あるいはそれを上回るのではないかとまで言われている優秀な自慢の息子であるルルーシュが、庶民出のマリアンヌの子であり、今回の愚かな行動をとったコーネリアが実は自分の娘だなどと考えたくもない。
 アダレイドは本当に最早何の問題もないと思っている二人の子供たちの様子に一安心し、そしてまた、今回の騒動から、つくづくコーネリアという愚かな娘ではなく、ルルーシュという優秀な皇子が自分の息子であることに感謝した。

── The End




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