続・皇族と庶民




 その日、ロロ、カリーヌ、クリスチャンたちは、いつものようにアリエス離宮のテラスでお茶をしていた。ルルーシュはまだ学校から帰って来ていない。
 そんな中、ロロが口を開いた。
「実はさ、一昨日、宮内省にちょっと行って来たんだけど、面白い話が聞けたよ」
「宮内省に? 一体何があったの?」
 手にしたカップを置いたカリーヌが、不思議そうにロロに尋ねた。
「この前、コーネリアたちの話をしたことがあっただろう?」
 ロロの言葉に、カリーヌとクリスチャンは頷いた。
「で、気になって、宮内省に聞きに行ったんだよね。あの三人、本当にいないかって」
「少なくとも異母兄弟姉妹の中にはいないだろう?」
 あまり馴染みのない年の離れた異母兄弟姉妹を思い浮かべながら、クリスチャンは答えた。
「うん、でももしかしたら遠戚や貴族たちの中にいる可能性を否定出来ないかな、って思って」
「それだったら、宮内省より枢密院で調べた方が確実だったんじゃなくて?」
 首を傾げながらカリーヌは答えた。
「うん、それは聞いた後で僕も思ったけどね。でも、そう思っていたら職員の一人から面白い話を聞けたんだ」
「面白い話?」
 カリーヌとクリスチャンは、ロロの様子に瞳をキラキラさせて尋ね返した。
「そう。実はね、先日、一人の庶民が宮内省にやって来て、自分は、自分と姉と妹は皇族だって、そう言ってきた女の子がいた、って」
 ロロは二人に顔を寄せてそっと呟いた。
「ちなみにその娘の名前はユーフェミア、姉はコーネリアで妹はナナリーっていうんだって」
「えーっ!?」
「それ、本当に?」
 カリーヌとクリスチャンの二人は驚いたように声を上げ、それから慌てて両手で口元を抑えた。
「自分たち姉妹は今は庶民として暮らしているけれど、皇族として生きていた記憶があるんだ、自分たちは本当は皇族に違いないって、宮内省までわざわざ来たんだって」
 ロロの言葉に、カリーヌは呆れたような顔をして応じた。
「もしかしたら、って思ってたけど、本当にいたのね、三人共」
「しかも自分たちが皇族だって? じゃあ、今の彼女たちには、彼女たちの本当の両親はいないの?」
 クリスチャンもまた、カリーヌ同様呆れたような声でロロに尋ね返した。
「うん、その娘、ユーフェミアが言うには、自分たちには確かに両親はいたけど、同時に自分たちが皇族だったという記憶も間違いなくある。何処かで何か間違いがあって、自分たちは宮廷から引き離されたんじゃないのかって、そう言いにきたらしいよ」
「両親がいたってことは、今はいないってこと?」
「亡くなったらしいね。そこへ、自分たちが皇族だったっていう記憶があって、兄さんをはじめとする他の異母兄弟姉妹の記憶とか、自分たちの母親の記憶、アダレイド皇妃やマリアンヌ母様の記憶があるから、間違いないって、本人、中々引き下がらなかったらしいよ」
「ふーん、ユーフェミアらしいというかなんというか」
 呆れたように言いながら、カリーヌは再びカップを手にして喉を潤した。
「何処をどう捜したって、コーネリアたちが皇族だっていう記録なんか出てこないのにね」
「確かに僕たちは三人のことを知ってるけど、それは知っているだけで、現状は全く違うのに」
 カリーヌに同調するかのようにクリスチャンも告げた。
 ロロたち三人には、他の異母兄弟姉妹たちと違って、記憶がある。いや、正確にいえば、三人だけではなく、異母兄姉の一部にもあるようなのだが。
“常勝将軍”、“ブリタニアの魔女”と異名を取った第2皇女コーネリア、そのコーネリアに溺愛され闇を知らずに育った第3皇女ユーフェミア、そして自分たちが敬愛してやまないルルーシュの実妹でありながら、その兄を信じることをせず、彼と戦って、遂には死においやったナナリー。
 三人とも、その彼女らの記憶があるが故に、彼女たちがルルーシュに対して何をしてきたかを知っている、記憶しているが故に、冷静ではいられないと同時に、また、彼女たち三姉妹が庶民として、しかも皇族としての記憶をもって現世に生きていると知り、その上、自分たちは皇族なはずだと宮内省に名乗り出るなどという行為をしたことに対して呆れ、そしてどうにかしてやりたいと思う。
 現在のコーネリアたちは紛れもなく皇族ではない。本人たちが如何に主張しようと、皇籍に彼女たちの名はもちろん無く、誰も彼女たちを認めないだろう。
 けれどそれだけでは面白くない。
 ルルーシュを認めず、ルルーシュを苦しめ、遂には死に至らしめた存在。それだけでも許しがたいのだ。なのに厚顔にも自分たちを皇族だと主張するコーネリアたち。
 その状況は推測の域を出ないが、おそらく周囲からも浮いた状態なのではないだろうか。
 そんなコーネリアたちに対して、何かしてやれることはないだろうかと、三人はそれぞれ思いを巡らせる。もちろんそのしてやれることというのは、いい意味で、ではない。
 互いに考えていることが表情に出ていたのだろうか。
「考えることは、同じ?」
 カリーヌがロロとクリスチャンに、一層顔を寄せて呟くように尋ねた。
「「もちろん!」」
 二人はカリーヌに対して頷いて、クスクスと笑いあった。
「じゃあ、具体的にどうしようか?」
 クリスチャンが小首を傾げながら二人に尋ねた。
「その三人が今何処に住んでいるか、分かってるの?」
「うん」ロロは頷いた。「職員からその話を聞いて、受付で確かめた。一般庶民が宮内省に来るなんて、まず有り得ないことだし、万一その場合は、どんな用事であれ、本人の身元をしっかり確かめるのが筋だからね」
「じゃあ、三人が今何処でどうやって暮らしているのか、分かってるのね?」
「細かいところまでは、今、調べさせているところだからまだ分からないけど、住んでいる場所は確認済みだよ」
「何処?」
「ペンドラゴン市内。中心からは少し離れてるけど。どうやら両親が遺した家に三人だけで同居してるみたいだね」
「それだけだって、自分たちは皇族じゃないって分かりそうなものなのに。それなのにわざわざ宮内省に足を運んで自分たちは皇族だって言い張るなんて、本当に馬鹿だったのね、ユーフェミアは」
「仕方ないよ、世間知らずこの上ない人だったから」
「違う立場に生まれてもそれは変わらないってことね」
「人間、本質はそう簡単に変わらないってことかな?」
 ルルーシュを苦しめた三人、特にあれ程に慈しまれながらその恩に報いることもせず裏切ったナナリーを、三人は許せない。
 自分たちを皇族のはずだと名乗り出た三人。そう信じたいのならそうさせてやってもいい。けれど皇族でもないのに皇族だという主張をする三人を、ただで見逃す手はない。
 彼女たちは自分たちは皇族ではなく、ただの一般庶民なのだと思い知らせてやればいい。いいや、それだけではなく、一般庶民の分際で、皇族だと名乗りを上げることの愚かしさを思い知らせてやるべきだ。
 三人の考えは一致している。
 ロロが進めさせている調査が済んだら、それをもって一般庶民でありながら皇族だと名乗ったと、身分違い、考え違いも甚だしい誤解、誤認を周囲に明らかにし、追い詰めてやろうではないか。
 ルルーシュを苦しめた彼女たち三人が、記憶のない、あくまでただの一般庶民として暮らしている状態であったならばともかく、自分たちが為したことを忘れて、ただ皇族としてのプライド、贅沢な暮らしを望んでいるだけで今回のことをやったのなら、自分たちが如何に愚かな真似をしたかを思い知らせてやるべきだ。
 コーネリアたち三人は皇族ではない。それは現状間違いのない正しい事実なのだから、それをきちんと認識させ、皇族を騙った罪を受けるべきだ。
 ルルーシュがこの話を知る前に── もっともルルーシュにはナナリーたちに関する記憶そのものがないので、仮に話を知っても何のリアクションもないかとは思うが── 自分たちで片を付けようと、三人は顔を見合わせながら思うのだった。



 しがない一般庶民でありながら、自分たちは皇族であると騙った三姉妹が、司直の手に抑えられるのはそれから程ないことだった。
 もちろん、それはルルーシュをはじめとする殆どの皇族は知る由もないことであり、ホンの一時期、世間を騒がせた出来事でしかなかった。

── The End




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