告 白




「私、ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、今ここに全てを告白いたします」
 それはある日、世界中のあらゆるメディアをジャックした、現在の合衆国ブリタニアの代表である車椅子に座ったナナリーの一言で始まった。
「以前の神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが“悪逆皇帝”と呼ばれるのは、全て私の兄であるルルーシュ皇帝自身の演出、捏造データによるものです。
 ルルーシュ皇帝が虐殺したとされる数多(あまた)の人々の殆どは、私を皇帝として担ぎあげた異母兄(あに)シュナイゼルがペンドラゴンに投下したフレイヤによる被害者です。
 兄ルルーシュは、自分が悪となるり、自分に全ての負の感情を集め、そして正義の象徴たるゼロにより自ら殺されることで、その負の連鎖を断ち切り、後に優しい世界を遺そうとしたのです。
 それは、全ては“優しい世界”を望んだ私のために始まったことです。
 かつて兄と私は、父であるシャルル皇帝の元で行われた日本侵攻の折り、死亡した振りをして、生前の母の後見であったアッシュフォード家の手によって匿われ、エリア11となった日本で暮らしていました。
 アッシュフォードが用意してくれた偽りのIDの元、皇室から隠れ一般庶民として暮らしていました。何故なら、皇室に見つかれば、私たちは皇室内では弱者に過ぎず、また何処かの国に人質として送られるだろうことが兄には見えていたからです。
 そんな中、兄は私の願いを叶えなるために仮面のテロリスト、ゼロとなりました。
 そうです、今のゼロはかつてのゼロではありません。我が兄ルルーシュこそが本当のゼロだったのです」
 告白を続けるナナリーの後ろに、かつての黒の騎士団の旗艦である斑鳩の4番倉庫での映像が流される。
「第2次トウキョウ決戦におけるフレイヤ弾頭の使用により、私が死んだと思い込んだ兄は、黒の騎士団幹部たちから異母兄シュナイゼルによって齎された情報で、裏切り者として殺されそうになったのです。
 話を少し前に戻しましょう。
 エリア11で起こったブラック・リベリオンは、ゼロの突然の戦線離脱により失敗に終わりました。何故ゼロが戦線を離脱せざるを得なかったか。それは私がある者の手によって浚われたからです。
 兄にとっては私の存在が全てでした。ゼロとなり黒の騎士団を創ったのも、全ては私の願いを叶えるためであり、その私の存在()くしては、兄には戦う理由はなかったのです。
 そして私が浚われた地、エリア11、今の合衆国日本の神根島にやって来た兄は、後を追って来た枢木スザクによって捕えられ、父シャルルの前に引き摺り出されました。ちなみにその時、神根島にはゼロの親衛隊長である紅月カレンも後を追ってきましたが、ゼロの正体を知り、彼女はゼロである兄を見捨てて逃げました。あの時、紅月カレンが兄を、ゼロを見捨てなかったら、私を取り戻していたなら、ブラック・リベリオンはまた違った終息を迎えたことでしょう。
 枢木スザクによって父シャルルの前に引き摺り出された兄は、父によって記憶を改竄され、自分が皇族であったこと、ゼロであったこと、そして妹である私のことも忘れさせれられ、偽りの記憶の元、私の代わりに偽りの弟を与えられ、皇帝直属の機密情報局による24時間に渡る監視を、一年もの間受けさせられていました。
 何故、父がそんな回りくどいことをしたのかといえば、兄が自分の唯一の共犯者と呼ぶ不思議な力を持った一人の少女を誘き寄せるためでした。
 黒の騎士団の残党はそんな兄を救い出し、そして兄は記憶を取り戻して再びゼロとして()ち上がりました。
 けれどそんなことを、ゼロの正体が兄であることを全く気付いていなかった私は、自ら望んでエリア11へ総督として赴きました。父がそれを認めたのは、復活したゼロ、つまり兄に対する牽制のためでした。
 その後に起きたことは皆さんもよくご存じでしょう。
 兄は、ゼロは総督として赴任した私と矛を交えることを避けるために、エリア11を脱出しました。そしてブリタニアと対するために超合集国連合を組織するまでに至ったのです。
 そして超合集国連合最高評議会によって決議された日本奪還作戦が実行に移されましたが、その前、兄はかつての幼馴染の友人であり、自分を皇帝に売ってラウンズの地位を得た枢木スザクに、私を守ってくれるようにと頭を下げました。けれどそれは罠でした。枢木スザクはただ一人でこいと呼び出した兄を足蹴にし、再び捕えようとしたのです。その場は兄の信頼する配下の手によって救い出されましたが、その直後に第2次トウキョウ決戦が開始されました。
 そして枢木スザクは、トウキョウ租界の中心で大量破壊兵器フレイヤを使用したのです。
 兄は私を失ったと思い、失望に打ちひしがれていたと聞きおよんでいます。
 そんな中で、先述したように異母兄シュナイゼルが黒の騎士団幹部たちを策を弄して手中におさめ、彼らの指導者であるゼロを、兄ルルーシュを殺させようとしたのです。
 しかしここで、偽りの弟として兄の傍にあった少年の力により、兄はからくもその危機を脱し、神根島で父である皇帝シャルルと対峙し、そして父を弑しました。
 その神根島には、皇帝シャルルを暗殺し、自分をワンに取り立ててもらう約束を異母兄シュナイゼルから取りつけていた枢木スザクもいました。
 そこで何があったのか、詳しいことは私にも分かりません。分かっているのは、兄を裏切った黒の騎士団から兄を守った偽りの弟役だった少年が、兄を守って死んでしまったことだけです。
 そしてどんな遣り取りがあったのか、その時の詳細はわかりませんが、兄と枢木スザクは契約を結びました。兄はブリタニアを、世界を変えるために、枢木スザクは彼が最初に主とした元第3皇女ユーフェミアの仇を討つために。
 それが“ゼロ・レクイエム”と呼ばれる計画でした。今の私はその計画の全貌を知っています。
 最初に申し上げたように、兄はブリタニアの皇帝として世界を一つに纏め、自分一人に世界中の憎しみを集め、兄の代わりにゼロとなった枢木スザクに殺されようとしたのです。
 ただその前に、フレイヤを所持したまま行方を絶っていたシュナイゼルと、そのフレイヤをどうにかしなければなりませんでした。そのために超合集国連合とのアッシュフォード会談を設定したのです。
 そうして兄がブリタニアを離れている間に、私は、異母兄シュナイゼルからゼロの正体が兄であったこと、そして「住民は避難させた」との言葉を信じ、帝都ペンドラゴンへのフレイヤ投下を容認しました。そうです、私は認めたのです。私と異母兄シュナイゼル、異母姉(あね)コーネリアこそが、兄ルルーシュが惨殺したとされる人々を虐殺した張本人だったのです。
 私が生きていたことを知った兄は、私が大虐殺を働いたという事実も含めて“ゼロ・レクイエム”の計画を練り直しました。ペンドラゴンで死んだ人々と同等の人々を、自分が惨殺させたと偽りのデータを創り出し、本来私が背負うべき罪までも背負ったのです。
 兄にとってフジ決戦はフレイヤを無効化させることが何よりも重大なことでした。そして兄はそれを成し遂げました。兄が制した天空要塞ダモクレスと残りのフレイヤ弾頭は、その後、ダモクレスの軌道を太陽に向けることによって、廃棄されました。
 異母兄シュナイゼルこそがフレイヤによる恐怖の支配をしようとしていたのを、“悪逆皇帝”と呼ばれる兄ルルーシュが救ったのです。そうです、フジ決戦で最後に兄がフレイヤを使用してみせたのは、全て兄の演出だったのです。兄は決して“悪逆皇帝”などではなかったのです。
 けれどその時の私は、異母兄シュナイゼルの言葉を信じ、兄は変わってしまったと、以前の優しい兄ではなくなってしまった、兄の罪を討つのは私の役目だと思い込み、兄に対して憎しみしか抱いていませんでした。そのために、私はフジ決戦でフレイヤのスイッチを押し続けていたのです。けれど兄の私に対する愛情は、少しも変わっていませんでした。
 兄は私の望んだ世界を創り出すために、自ら“悪逆皇帝”と呼ばれるように振る舞い、そして、ゼロとなった枢木スザクによって殺されたのです。
 そして私は兄の本心を何も知らぬまま、“悪逆皇帝”ルルーシュと最後まで戦った“聖女”として祭り上げられ、ブリタニアの代表となりました。
 ですが、今の私は全てを知っています。心底から兄に仕えてくれていた数少ない人たちから、真実を知らされました。
 私こそが大虐殺者なのです。“悪逆”と呼ばれるのは兄ではなく、私なのです。私にはかつて私が望み、そして兄が望んだ“優しい世界”を統べる資格などないのです。
 この放送が流されているのと時を同じくして、改竄される前の本当のデータが皆さんの目に流されていることでしょう。
 どうか皆さん、兄ルルーシュを“悪逆皇帝”と謗るのは止めてください。私と、そして兄を裏切った黒の騎士団幹部たちこそが、“悪逆”と呼ばれるべき存在なのです。
 そして私は、私が働いた行為に相応しい罰を受け入れます。ですからどうか、兄の為した業績を見直してください。現在のブリタニアを動かしているのは、全て兄が遺した政策だということを確認し、兄の名誉を回復してくださるよう、お願いいたします」
 そこで始まった時と同様に唐突にメディアジャックは終わった。



「サリー様、本当によろしかったのですか?」
 メディアをジャックして告白をしていたのは、ナナリーになりすました、彼女の死んだとされていた双子の片割れのサリーだった。
「偽りの平和なんか欲しくないわ。人々は真実を知るべきよ。いいえ、知らなくてはならないのよ」
 ミレイの問い掛けに、サリーはそう返した。今、サリーの周囲には、ミレイの他にも、ゼロ・レクイエムに協力した人々が集っている。彼らもまた、ルルーシュがいつまでも”悪逆皇帝”と謗られ続けるのを許せない人々だ。故に彼らはサリーの立てた計画に協力してくれた。
 サリーは思う。
 今頃、代表公邸は大勢の市民たちによって取り囲まれているだろう。放送された内容を、流されたデータの内容を確認するために、世界中の人々が血眼になり始めているに違いない。
 そうして己の双子の片割れであるナナリーは、己の為した罪に相応しい罰を受けるべきだ。
 それは決して兄ルルーシュの望むことではないだろう。自分のしたことは、世界に混乱を招いただけだろう。それでも世界は真実を知る権利と義務がある。偽りの元での平和など、いつかきっと壊れる。自分はそれを少しばかり早くしただけに過ぎない、サリーはそう己の心に言い聞かせた。

── The End




【INDEX】