決 戦




 神聖ブリタニア帝国と超合集国連合臨時最高評議会の決裂、そしてシュナイゼルによるブリタニアの帝都ペンドラゴンへのフレイヤ投下を受けて、ルルーシュは黒の騎士団を支配下に置いたシュナイゼルと、エリア11── 日本── のフジにおいて決戦の時を迎えた。
「この戦いこそが、世界の命運を懸けた決戦となる!
 打ち砕くのだ、敵を、シュナイゼルを! 天空要塞ダモクレスを!!
 恐れることはない、未来は我が名と共にあり!!」
 ルルーシュの力強く響き渡る声に、ブリタニアの兵士たちは鼓舞される。
「「「オール・ハイル・ルルーシュ!」」」
 ルルーシュの演説に、彼を称える声が木霊する。
 ブリタニア軍の先鋒を勤めるのはルルーシュのナイト・オブ・ワンであるジェレミア・ゴットバルト。その両脇に、ナイト・オブ・ツーとなったフランツ・シュレーダー、そして、先帝シャルルの元で、コーネリアと並んで“常勝将軍”の名を欲しいままにしてきた第7皇子のクレメントがおり、その幾分後方にルルーシュの双子の妹リリーシャ、C.C.、さらには式根島で奇跡的に命を取り留めたロロがいる。そして彼らが騎乗するのは、KGFサザーランド・ジークのジェレミアを別にすれば、いずれもロイドが開発したランスロット・シリーズの発展形だ。
 片やシュナイゼル陣営は、ダモクレスを別にすれば、黒の騎士団の他には、シャルルのナイト・オブ・スリーのジノ、シックスのアーニャとセブンのスザクがいる。そしてダモクレスを後方に、斑鳩をはじめとした黒の騎士団がその守りを固めている。その先鋒を務める、というよりも、いささか突出している感のあるのはカレンの騎乗する紅蓮だ。
 神根島でシャルルとマリアンヌを消滅させた後、その場── Cの世界── に残ったのはルルーシュと、C.C.、そしてスザクだった。
 スザクは何処までもルルーシュを「ユフィの仇」といい、ルルーシュの命を狙ってきた。しかしその場は、Cの世界を出るのが先と一旦はそのままその場を後にして現実世界に戻った三人だったが、ルルーシュの命を奪わんとするスザクを、そこに駆けつけて来たジェレミアが阻み、ルルーシュとスザクは道を別たえた。スザクはあくまでユフィの仇としてブリタニアの皇帝となったルルーシュを狙い、シュナイゼル陣営に身を置いている。



「敵軍、航空部隊を広範囲に展開させようとしています」
 そう告げたのは、アヴァロンの艦橋でオペレーターを務めるセシルだ。
 ルルーシュは皇帝となるとシャルルのラウンズであった者たちを真っ先に解任した。
 そして、ルルーシュがまだ幼い頃、ルルーシュの騎士となる事を望んでいた男── ロイド・アスプルンドを説得し、その副官であるセシル共々己の陣営に引き入れ、シュナイゼルとの決戦に備えての戦力増強、機体性能の向上を図らせ、その一方で、身柄を確保したニーナを含めて、フレイヤ対策のために今この時も勤しんでいる。
「まずは通常戦闘でくるか」
 この戦での問題はフレイヤだ。
 アヴァロン内の研究室では、今この時もなお、ニーナを中心としてアンチ・フレイヤ・システムであるアンチ・フレイヤ・エリミネーターの開発が進められている。あとは時間との勝負だ。
 ルルーシュは次々と指示を出し、陣形を変えていく。
 ブリタニア軍が動けば、シュナイゼルもそれに合わせて陣形を変えていく。実際の火花は未だ散ってはいないが、既に戦は始まっているのだ。
 陣形を変えるだけで一向に戦闘に突入しない状態に、スザクやカレンたちが気をもみ始めている。他の機体よりも突進傾向にあるのがそのいい証拠だ。
「フランツ、相手はスザクだ、いけるか?」
「イエス、マイ・マジェスティ! あのような騎士ともいえぬ輩に簡単にやらせはしません」
 ルルーシュの問い掛けに、フランツはすかさず応答した。
異母兄上(あにうえ)は紅蓮を!」
「了解した」
 クレメントもルルーシュの指示に即座に返してきた。
「ジェレミアはモルドレッドを! 機会をみてモルドレッドに、アーニャにキャンセラーを掛けて揺さぶれ!」
「イエス、ユア・マジェスティ!」
「リリーシャ、C.C.、ロロは彼らの援護だ! ジノや黒の騎士団の相手を」
「分かっていますわ、お兄さま」
「了解だ、ルルーシュ」
「大丈夫、やってみせるよ、兄さん」
 彼らはそれぞれに答えて、部下たちと共にシュナイゼル陣営、黒の騎士団の部隊に突っ込んでいった。
 シュナイゼルからすれば、ルルーシュの方から先に手を出してくるのは織り込み済みだっただろう。しかしそれをも見越して、ルルーシュは先手を打って出た。



「フランツ! どうして君がルルーシュなんかの騎士なんだ!?」
「どうして? 決まっている。私は幼い頃からルルーシュ様の騎士たるべく育てられてきた男だ! 貴様のような騎士のなりそこないとはわけが違う!」
「何をっ!?」
「主を守りきることも出来ず、友人を売り、そして己が出世に固執して主を乗り換える貴様など、騎士とは言わぬ! ルルーシュ様の望まれる明日(みらい)を創るためにも、貴様は生かしておくわけにはいかん。たとえルルーシュ様が貴様に掛けたギアスがあろうと、私は貴様を倒してみせる!」
「僕はユフィの騎士だ! ユフィを殺したルルーシュを許しはしない! 君を倒してルルーシュを討つ!」
「させるかっ!!」
 互いに死力の限りを尽くして剣を交わす。
 スザクに掛けられた「生きろ」のギアスと、フランツのルルーシュに対する騎士としての矜持の戦いだ。
 その一方で、紅蓮を駆るカレンは、ルルーシュの異母兄(あに)クレメントと対峙していた。
「国でもなければ復讐でもない! 野心の欠片も持っていない! 戦う理由がない奴は引っこんでな!」
「戦う理由? 理由なら立派にあるさ。君たちは私の母国ブリタニアの帝都を消滅させた。それはそこにいた私の親族や知人、友人たちを皆殺しにしたということだ。これは復讐だよ。そしてそれ以上に、ルルーシュの創る新しいブリタニアのためでもある」
「あんた、一体……!?」
 カレンは自分の対峙している相手が誰か知らなかった。ただ、ランスロット・シリーズに騎乗していることから、ルルーシュのギアスに操られた、他の者より少しばかり能力の高い奴、その程度の認識だった。
「私が誰か、ということかい? 私はルルーシュの異母兄のクレメントだよ!」
 紅蓮の繰り出す輻射波動を避け、スラッシュハーケンを打ち込みながら名乗りを上げた。
「クレメント!?」
 ルルーシュの異母兄のクレメント、つまり、常勝将軍と謳われている先帝シャルルの第7皇子と知って、カレンは一瞬身震いした。
 しかし所詮はこの男もルルーシュのギアスに操られているに過ぎないと、カレンは気を取り直して再度輻射波動を繰り出す。
「フレイヤに支配される恐怖の世界など許すわけにはいかない! ルルーシュのため、そして私自身と世界のために、私は君を倒す!」
「そんなこと! この世界をルルーシュの好きにさせるわけにはいかない! 引っ込んでなさいよ!」
「君にはこの戦の意味が分かっていない! この戦でルルーシュが敗れれば、待っているのはフレイヤによる恐怖の支配だということが」
 クレメントの指摘した通り、カレンには分かっていなかった。カレンにあるのは、ただルルーシュを許しておくわけにはいかない、それしかなかった。ルルーシュが敗れた後の世界のことなど、カレンの頭の中にはなかった。ただルルーシュを倒す、倒せばいい、それしかなかった。



 それぞれに互いが互いに引けぬ戦の中、それでも、ジェレミアやフランツ、クレメントをはじめとしたルルーシュ陣営は、次々とシュナイゼル陣営を、黒の騎士団を圧倒していった。
 その戦場の様子をアヴァロンの艦橋でルルーシュは見守っていた。己の騎士たち、大切な者たちの無事を、勝利を願いながら。
 そんな艦橋に一人の男── ロイドが入って来た。
「フレイヤの恐怖に支配される世界ねぇ。そんな強制された平穏が、果たして平和と呼べるのかなぁ?」
 そんなロイドの、緊迫した戦場にあるとは思えないのんびりした声に、ルルーシュは口角を上げると、オペレーターを務めるセシルに指示を出した。
「これより最終ミッションに入る」
 言いながら、ルルーシュは座っていた指揮官席から立ち上がった。
「イエス、ユア・マジェスティ」
 セシルが全軍に対して伝令を告げる。
 それを確認して、ルルーシュは艦橋を立ち去る。その後ろ姿を、艦橋にいる手の空けられる全員が最上級の礼を持って送り出した。
 ルルーシュは艦橋を出た後、ニーナと二人で格納庫に向かって歩いていた。
「理論上は可能なはず。でも……」
 心配気に告げるニーナに、ルルーシュは頷いた。
「分かっている。だが俺たちはこれに懸けるしかない。そして」ルルーシュは歩みを止めて真っ直ぐにニーナを見つめた。「君には感謝している。ユフィを殺した俺に、ゼロである俺に力を貸してくれたことを」
「ゼロを許すことは一生出来ないと思う。でも、私も私の犯した罪と向き合わなきゃって思ったから。その機会を与えてくれたルルーシュ君には感謝してる」
 ルルーシュを見返しながらニーナは答え、それを最後に二人は別々の方向へ歩きだした。



 出撃した蜃気楼を先頭としたKMF部隊に向けて、ダモクレスからフレイヤが発射される。
 ルルーシュは与えられた僅か19秒という短い時間でフレイヤの解析を終えてそれを入力する。
「フランツ!」
 ルルーシュが掛けたスザクへの「生きろ」のギアスをも打ち破って彼を倒したフランツが、ルルーシュの声に応えた。
 蜃気楼から切り離されたアンチ・フレイヤ・エリミネーターを、発射されたフレイヤ目がけて投擲する。ルルーシュが目指す明日のために。

── The End




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