戦後処理




 フジ決戦は、シュナイゼル陣営のダモクレス、何よりも大量破壊兵器フレイヤを制したことで、ルルーシュ側、つまりブリタニア正規軍の勝利に終わった。
 後に残されたのは、敗者たるシュナイゼル陣営と、それに加わった、本来なら超合集国連合の外部機関に過ぎないはずの黒の騎士団の処分である。
 彼らはそれぞれの階級、立場に合わせて、エリア11内にある軍事刑務所に収監されており、こちらは軍事裁判を待つのみとなっている。



 その頃、勝利したブリタニア側では最後のダモクレスでの黒の騎士団の紅月カレンの操る紅蓮と戦った末に戦死を遂げた枢木スザクを除けば、皆それぞれの道を歩み始めている。
 まずはブリタニアという国家そのものに関していえば、現在、ルルーシュの指示のもと、破壊されたペンドラゴンに変わる新帝都ヴラニクスの整備に余念がない。元々ペンドラゴンが帝都となる以前の旧帝都であっただけに素地はあり、必ずしも一から手を付けねばならないという状況ではなく、それがせめてもの救いとなっている。しかし失われてしまった多くの各種のデータ、そして何よりも人命は帰らない。
 そのため、昼夜兼行、急ピッチで整備が進められているが、その中でも真っ先に手を付けられたのが、宮殿の整備であった。なにせ親政を執る現在の第99代皇帝ルルーシュが執務を執る場所である。そこから手を付けなくてどうする、ということになった。ルルーシュはアヴァロン内でも済ませられると一蹴したが、それは周囲の猛反対にあった。仮にも一国の、それも超大国たるブリタニアの国家としての面目もあるというのが反対した人々の意見であり、そこまで言われればルルーシュとしても反対のしようがなく、それでもかつての宮殿に軽く手を入れさせるに留めている。彼自身は華美よりも機能性を重視しており、周囲はそれを熟知した上で、皇帝執務室などの表の部分と、皇帝のプライベート部分とを機能的に管理運営出来るように心がけた。それは十分にルルーシュを納得させるところだった。
 そして宮殿の再建と共に行われているのが、外交上必須と思われる迎賓館と、各省庁の整備である。もちろんそれにはそこに勤める官僚などの人事面も含まれている。
 ただそれらとは別の問題があった。それは宮殿に仕える侍従や侍女のことである。ルルーシュは自分のことは自分でやる主義であり、厨房に立つことも厭わない。しかしそれではブリタニア帝国の皇帝としての威厳の問題に関わるとこれまた意見され、宮殿を維持管理するのに必要最低限の人員を確保することは納得した。
 しかし皇帝自身の身の回りの世話に関しては、元名誉ブリタニア人の篠崎咲世子一人に任せ切っている。他の者の手を借りることは頑として受け入れなかった。それでも、少なくとも人の手が入るということで、これは周囲が諦め顔で納得した。
 篠崎咲世子はルルーシュが、ルルーシュ・ランペルージとして、エリア11でかつてのヴィ家の後見であったアッシュフォード家に匿われていた頃から、彼と彼の妹であるナナリーの世話をしていたために、ルルーシュの嗜好に関しては熟知していたし、また、忍びという出身から護衛を兼ねることも出来、その点では申し分のない存在ではあった。周囲にとって気がかりなのは皇帝の身の回りの世話役がその咲世子一人のみであるという一点につきたが、これは先述したように周囲が諦めた状態である。いずれ時が経ち、皇帝が皇妃を娶れば、さらに世継ぎが生まれれば、必然的に世話役は増えることになるだろうとの憶測も働いていた。
 余談ではあるが、周囲からは以前からルルーシュの傍にいるライトグリーンの髪をした、ルルーシュがC.C.と呼んで傍に置いている少女がその皇妃の第一候補と目されている。ちなみにそのC.C.は我が物顔で宮殿内を歩き回り、皇帝であるルルーシュを平然と抱き枕と言ってのけている。そしてそんなC.C.を責めることもなく好き放題させていることから、周囲の認識はより強いものとなっている。ただし、ルルーシュ本人は周囲がそんな思いを巡らせているなど全く気付いていなかったが。
 ルルーシュの護衛役、つまり騎士に関しては、筆頭騎士は変わらずジェレミア・ゴットバルト卿である。彼のルルーシュへの忠義は揺るぎなく、また実力的にも申し分ないことから極当然のこととして受け入れられている。
 しかし騎士が一人というのはあまりにも問題だろうということになったが、それに関しては、先帝シャルルのナイト・オブ・シックスだったアーニャ・アールストレイムが、どうしたわけかジェレミアが後見人となって、それが縁で今ではルルーシュに恭順し、膝を屈して、現在ではジェレミアに次ぐ位置にある。
 実を言えば、亡きマリアンヌのギアスの支配下にあったアーニャに対してギアス・キャンセラーであるジェレミアが彼女にキャンセラーを発動させ、その結果、彼女はシャルルによってマリアンヌ殺害時の記憶を改竄され、さらに、彼女の記憶の途切れが、死の間際に彼女の精神の中に入り込んだマリアンヌが表面化した時であったことが判明し、その事実を知ったアーニャはエリア11にいた頃に、まだ一般庶民としてアッシュフォード学園にいたルルーシュと個人的に付き合いがあったこともあって、ルルーシュに仕えることを決めた次第である。
 さらに言えば、フジ決戦において黒の騎士団側で戦ったジノ・ヴァインベルグが、戦後、シュナイゼル陣営のペンドラゴンへのフレイヤ投下、しかも避難勧告を出したというのが偽りであり、己の家族、親族はもちろん、何の関係もないペンドラゴンの住民が大虐殺の憂き目にあった事実を知り、現時点ではエリア11の軍事裁判所に収監されているが、ルルーシュに対して恭順の意を示している。裁判の結果がどう出るか今の時点ではまだ確としていないが、既に恭順していることから減刑されるであろうこと、そしてその後はルルーシュの騎士として仕えるだろうことが有力視されている。
 また、トウキョウ租界とペンドラゴン、そしてフジ決戦で使用されたフレイヤと、そのアンチ・フレイヤ・システムであるアンチ・フレイヤ・エリミネーターを開発したニーナ・アインシュタインは、宮殿内の一角に設けられた研究所で、今後の万一のことを考え、アンチ・フレイヤ・エリミネーターのさらなる改良に励んでいる。
 またロイド・アスプルンドは、副官のセシル・クルーミーと共に、ニーナと同じ研究所内で、今後は戦争などではなく、大がかりな土木作業、自然災害などでの救助活動、そして本来の開発目的であった医療方面への利用に関してのKMFの開発に余念がない。結局KMF馬鹿は変わらないということか。変わらないといえばセシルの味覚も未だ健在であり、相変わらずロイドが性懲りもなく犠牲となっている。
 そんな人々に囲まれて、ルルーシュは皇帝として多忙な毎日を送っている。ペンドラゴンを失った余波は思った以上に大きく、それを取り戻すべく政務に勤しむ毎日である。
 ただしあまり根を詰め過ぎてはいけないと、世話役である咲世子や騎士であるジェレミアやアーニャが、時折お茶の時間を無理矢理取らせるという状態が続き、かつ、咲世子は執務時間を午後6時までと決めさせ、それ以上の、所謂残業に関しては、余程の急ぎの案件や時差の関係がない限りさせないように目を見張っている。その点では、やはり咲世子が世話役であるというのは、ルルーシュの健康を気にする周囲の者たちの目からみれば喜ばしい限りの人事であった。



 余談であるが、超合集国連合は、それまで最高評議会議長であった合衆国日本代表の皇神楽耶を廃し、外部機関たる武力集団の黒の騎士団は、名称を変え、組織も大きく変更された。また、何かと問題を醸していた人口比率条項を改正して一国一票制とし、ルルーシュが治める神聖ブリタニア帝国をはじめとして、フジ決戦までどちらつかずでいた国々も加盟し、世界規模になりつつある。そして、現在の“超合衆国連合”という名称の変更も検討されている。それは、国家の名に“合衆国”とつかない国々が参加しやすくなるように、との配慮からである。
 ちなみに、現在の超合集国連合の最高評議会議長は、世界唯一の超大国であるブリタニアの皇帝ルルーシュである。
 ルルーシュは当初これを固辞したが、他に議長たる適任者がいないとの多くの国々からの声により、その座に就任した。そして出来るだけ早くその座を降りたいと思っているのは当人だけで、他国は可能な限り長くルルーシュに議長の座にいてもらう腹積もりである。以前の先帝シャルル時代のブリタニアであれば考えられないことであるが、ルルーシュは弱者救済、人の平等を説いており、未だブリタニアのエリアとなっている国々も、やがて時が経って復興がなり、ルルーシュの計画通りに独立すれば、新たに超合集国連合── その頃には既に名称が変わっている可能性が高いが── に加盟するものと思われている。その意味でも、旧宗主国となるブリタニアの君主が超合集国連合の議長を務めているというのは、それらの国々に対して超合集国連合への加盟を促しやすかろうとの判断でもある。それもこれもルルーシュの、皇族や貴族たちの既得権益の廃止、財閥の解体、ナンバーズ制度の廃止を受けての見解である。そんなルルーシュの元であるならば、エリアの反発も少なかろうというのが各国の判断である。
 こと程左様に、世界は、確かに未だそちらこちらで小さな紛争など起きており、完全になくなってはいないが、武力ではなく、話し合いによって運営していこうという機運に満ちている。それもこれも全てはブリタニア皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの手腕によるところ大なのである。ただ本人はそこまで自分の影響力が大きいという自覚に今一つも二つも欠けている。かつてはゼロとして活動し、そのカリスマ性によって世界の半分を纏めあげ、超合集国連合を築き上げた本人であるにもかかわらず。
 もっとも普段の彼を知る周囲の人間に言わせれば、それがまたルルーシュらしいということになるのだが。



 ブリタニアの新帝都ヴラニクスにある宮殿内の研究所の一室では、ロイドがルルーシュが気分転換に作った菓子に舌鼓をうちつつ、「あー、今日も平和だねー」などと呟いている。
 後はこの平和を如何に保つかだろうが、それも世界唯一の超大国である神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの手腕一つであろうことは言うまでもない。

── The End




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