続・宣言の果て




 エリア11副総督ユーフェミア第3皇女は、己がアッシュフォード学園で行った“行政特区日本”の政策を認めて貰えたなかったことに、失望を隠せずにいた。
 また、それが元で副総督を解任され、本国への帰国が決定された。いずれもユーフェミアの意思を外れたところでの決定である。しかしユーフェミアの意思を外れたというが、それ以前にユーフェミアが国是に反した宣言を行っているのであり、ユーフェミアに己の副総督解任と本国への帰国を勝手に決めた、姉でありこのエリア11の総督であるコーネリアを責める資格はない。
 それでも姉がいつものように自分の言うことを認めてくれさえすれば、上手くいくものだと、そして今回もこれまでと同じように認めて貰えると、ユーフェミアは短絡的に考えていた。
 しかしこれは今までのものとは違う。ユーフェミアとコーネリア姉妹二人だけの問題だけではなく、リ家はもちろん、その親族や後見貴族、果ては国是に逆らうということから、国全体の問題となってくる。ユーフェミアには、己が宣言した内容がそこまでのものだという自覚に欠けていた。
 そしてユーフェミアは、己が騎士と任じたスザクと共に帰国の途についた。



 本国の帝都ペンドラゴンの空港でユーフェミアとその騎士であるスザクを待っていたのは、ごく数名の、とても皇女を迎えるものとは思えない、しかも冷めた目をした、リ家に仕える者たちだけだった。
 エリア11の副総督として、総督となった姉コーネリアと出発した時とは段違いだ。
 ともかくも、ユーフェミアは迎えの車に乗り込んだが、スザクは同じ車に乗車することを許されず、一段と、というよりも、車種としては一番劣った車に乗車させられ、二人は宮殿に、その中にあるリ家の離宮に向かった。
 そこで一つの問題が起こった。
 迎えに出た侍従が、アダレイド皇妃の命により、スザクの離宮への立ち入りを拒んだのである。
「そんな! スザクは私の騎士です。その騎士を離宮に入れることを許さないなどと、お母さまは何を考えていらっしゃるんですか!?」
 ユーフェミアの憤ったその声に、侍従は静かに答えた。
「私は皇妃殿下のお言葉をそのままお伝えしたのみです。仰りたいことは皇妃殿下に直接お話しされるのがよろしいでしょう。ただ、少なくとも今の段階では、皇妃殿下のお許しがない以上、ユーフェミア様がご自分の騎士と言われる名誉を離宮内に入れることは出来ません」
「それではスザクにどうしろと……」
 どうしたらいいのか考えのおよばないユーフェミアに、侍従は軽く答えた。
「とりあえず、中にお入れすることは出来ませんが、庭園内にある東屋にでもいてもらえばよいのではないですか? その後で、皇妃殿下とのお話し合いの結果、中にお入れすることが可能になるやもしれません」
「ああ、そうですね」
 侍従の言葉に納得したように、ユーフェミアはスザクに向かって申し訳なさそうに、そこからも見える東屋を指さして告げた。
「あそこで待っていてもらえるかしら。きっとお母さまを説得して中に入れるようにするから」
「僕のことなら心配しなくても大丈夫。言われた通りに、あそこで待っているよ、ユフィ」
「ごめんなさいね」
 その遣り取りを、ナンバーズ上がりの名誉が、一騎士が皇女を愛称で呼び捨てにするのを、侍従が眉を顰めて聞いていたことに、二人はこれっぽっちも気付いていなかった。二人にとってはそれだけいつもの遣り取りだったのだ。



 ユーフェミアは、何故か母の居間ではなく、応接室の一つに通された。そのことに疑問を覚えている間に、リ家の主たるユーフェミアの母、アダレイドが入って来た。
「お母さま!」
「久しいの、ユーフェミア。とりあえずは掛けや。話も出来ぬ」
「は、はい」
 何処か他人行儀な印象を受けながら、ユーフェミアはアダレイドに言われた通り、椅子に腰を降ろした。
 何を話せばいいのか、どう切り出せばいいのかユーフェミアは悩んでいる。しかしアダレイドはそんなユーフェミアの様子を見ているだけで自ら口を開こうとはしない。
 そうしているうちに、侍女の一人が応接室に入って来た。彼女の持つトレイには紅茶の淹れられたカップが置かれている。侍女はそのカップを二人の前に置くと、何も言わず礼をして下がっていった。
 それを見届けて、ユーフェミアは意を決したように口を開いた。
「お母さま、何故スザクを、私の騎士をこの離宮に入れることを認めてくださらないのですか?」
 最初は疑問に思ったことを口にした。それに何より、いつまでもスザクを東屋で待たせているわけにはいかないという彼女なりの思いもある。
「ナンバーズをこの離宮に入れるなど、もってのほかじゃ」
「ナンバーズではありません! 名誉ブリタニア人です。そして何より私の騎士です、お母さま」
「名誉などといったところで、結局はナンバーズと同じじゃ。(わらわ)はナンバーズを騎士とは認めぬ」
「そんな! 認めぬなどと仰いますが、騎士を任命するのは皇族たる私の権利だと、お姉さまも仰っておられました。そしてスザクは私が任命した私の騎士です!」
「……その騎士に、主であるそなたは自分のことを愛称で呼ぶことを許すのかえ?」
「え?」
「そなたらを出迎えた侍従から報告があった。そのナンバーズはそなたを「ユフィ」と呼び捨てにしていたと」
「そ、それは、確かに私が認めたことです。スザクには親しくそう呼んで欲しいと。けれど公式の場ではスザクは決してそのようなことはいたしません!」
「公式の場であろうがなかろうが、主を愛称で呼び捨てにする騎士など、このブリタニアの何処を捜してもおらぬわ! 結局は皇族に仕える騎士ということがどういうことか、何も分かっておらぬそなたらくらいのものじゃ」
「そんな……」
 自分たちの在り方をアダレイドに否定されて、ユーフェミアはショックを受けていた。
「それよりも、問題はそなたの発言じゃ」
「発言?」
「エリア11で、ナンバーズを認める特区とやらを誰に相談することもなく勝手に発言したであろうが!」
「それは! 確かにお姉さまたちには相談はしませんでした。でもシュナイゼルお異母兄(にい)さまに相談して「いい案だ」と言っていただけました。誰にも相談しなかったわけではありません!」
「事はエリア11の内政じゃ。それを上司の総督たるコーネリアにすら相談せず、皇位継承争いの、いわば政敵たる相手の一人であるシュナイゼル殿下に相談したとて何になる。そなたは相談すべき相手を間違えておる。そなたが相談すべきは、コーネリアが教育係りとして付けたダールトン、もしくはコーネリアに直接相談すべきであって、あのような唐突な発表を行うべきではなかったと申しておる!」
「でも、あの場にはイレブンの皆さんもいましたし、マスコミもいたし、発表するには良い場だと思ったんです。それに第一、イレブンとブリタニア人が互いに手を取り合って仲良くやっていける、互いを理解出来る場所が作れれば、エリア11の混乱も治まっていくと……」
「それはそなた一人の勝手な理屈じゃ! そなたがしたことは、ナンバーズは差別すべき相手との国是に逆らったもの。そんなことを行えば、そなただけではない、このリ家はもちろん、親族や後見してくれている貴族たちに迷惑がかかるとは考えなんだか、この浅慮者が!!」
「浅慮だなんて、そんな! 私は私なりにきちんと考えています」
「本当にきちんと考えていたなら、少なくともあのような発表の仕方はなかったであろうよ。全てはそなたのことをコーネリアや教師たちに任せきりであった報いじゃな。
 そなたのやり方を見ているに、そしてエリア11に赴いてからのことを見、そして聞く限り、そなたには人の上に立つ資格などない。そのような皇女はさっさと何処ぞに嫁いだ方が身のためじゃ!」
「お母さま!!」
「そなたの騎士は、先程も告げたように認めることはない。即刻エリア11に戻らせるがよい。そなたに関しては、よい嫁ぎ先が決まるまでこの離宮内で謹慎じゃ!」
「そんな、あんまりです、お母さま! もう少し私の話を聞いてください!」
「最早そなたから聞く話などない!」
「お母さま!」
 アダレイドは応接室の端に控えていた侍従と侍女に目をやって、
「ユーフェミアをこれの私室に閉じ込めや。(わらわ)が良いというまで出すこと相ならん。それから庭園にいるこれの騎士とやらいうナンバーズは即刻エリア11に追い返せ、これ以上、庭園といえどこのリブラ離宮に留まるなど許しておけぬ」
「ま、待ってください、お母さま! スザクは私の騎士です! それをエリア11に追い返せなんてあんまりです!」
「全てそなたが誰にも諮らず勝手にマスコミを通して発表したことばかりじゃ。妾は知らぬ」
「そんなっ!!」
「早うユーフェミアを連れていきや!」
 指示された侍従は「失礼いたします」とユーフェミアに一声掛けてその腕を取り、応接室から連れ出した。
「待って、お母さま、まだ話は……」
 ユーフェミアの声がリブラ離宮に木霊するが、それを気にする者はいない。
 そして残っていた侍女は、アダレイドの指示を伝えるべく応接室を出ていった。
「これで、あとはユーフェミアの嫁ぎ先を探すことのみか。
 とはいえ、あのようなナンバーズを騎士とし、ましてや実際には行動に移されなかったとはいえ、国是に逆らったことを口にするような皇女を誰がもらってくれるやら。親族の中から適当に探すしかないか」
 そうアダレイドは一人呟いた。
 ユーフェミアとスザクの二人は、実情を知ろうとせず、ただ理想だけで走り抜けようとした。理想は願えば叶うものだとそう簡単に考えていた。アダレイドの指摘したように、二人ともあまりにも浅慮すぎたのだ。
 そしてユーフェミアは離宮内で謹慎生活を送らされ、スザクはリブラ離宮に仕える侍従の手によって、強制的にエリア11に送還となった。全ては二人の考えの足りなさが、現実を考えない、先走った理想主義が招いた結果である。

── The End




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