ルルーシュがミレイたちに一通りの説明を終え、今日はもう休もうと言い出した時、扉がノックされた。そして返事を待たずにその扉が開けられた。そこに立っていたのは、ライトグリーンの長い髪と琥珀色の瞳を持つ一人の少女だった。
「話は終わったのか、ルルーシュ?」
「C.C.、ああ、今終わったところだ」
「C.C.って、さっきルルーシュが言ってた不老不死だという!?」
そう叫んだリヴァルはもちろん、ミレイ、ニーナの視線がC.C.に集中する。
「そうだ、私がC.C.。不老不死の魔女。それで」答えながら部屋に入って来たC.C.はルルーシュを見やった。「ニーナの協力は得られることになったのか?」
「ああ」
嬉しそうにルルーシュが頷いた。 「うん。私、自分が犯してしまった罪を償うためにも、アンチ・フレイヤ・システムを構築することにしたの」
ルルーシュに続いてニーナも頷きながらそう答えた。
「そうか、それは良かった」
C.C.が彼女にしては珍しく笑みを浮かべた。余程ニーナの協力を得られたことが、我がことのように嬉しいらしい。
「話が終わったのならさっさと寝るぞ、ルルーシュ。おまえがいつまでも戻ってこないから、私も眠れやしない」
「「「えっ?」」」
C.C.の言葉に三人が反応し、次いでルルーシュにその視線を向けた。
それに気付いたルルーシュは慌てたように否定した。
「ち、違うぞ! 俺とC.C.はおまえらが今考えたような仲じゃない!」
「ルルーシュは私の抱き枕だ」
「抱き枕ぁ?」
リヴァルはその言葉を思わず反芻していた。
「そうだ。いささか痩せすぎで骨が当たるところがあるのが難点ではあるが、その点を除けば、丁度いい抱き枕だ」
「抱き枕って、ルルちゃん……」
「ルルーシュ君……」
「ルルーシュ、おまえ、これだけの美少女を前にして、手を出してないのか!?」
憐れむような女性二人に続いたリヴァルの叫びに、ルルーシュは思わずずっこけた。
「リヴァル! 冗談じゃないぞ、魔女相手に手なんか出せるかぁっ!!」
ルルーシュにとっては渾身の叫びだった。息を切らしている。
「じゃあ、本当にルルちゃん、このC.C.って人のただの抱き枕、なの?」
ミレイが再確認するように聞いてくる。
それに対し、ルルーシュはがっくりと肩を落として頷いた。
「ええ。折角あれだけピザを食い散らかしてチーズ君っていう抱き枕を手に入れたのに、C.C.が実際に抱き枕にしてるのは、紛れもなく俺です」
そう告げるルルーシュの声に力はなかった。
「以前、やたらとクラブハウスにピザの宅配が来てたのって、そのせい?」
「はい」
ミレイが一年前の一時期、しょっちゅうクラブハウスに出入りしていた宅配ピザの業者のことを思い出して尋ね、ルルーシュは頷いた。
「チーズ君抱き枕を手に入れるって、それってよっぼどのことじゃねぇか」
「つまりその頃、C.C.さんはクラブハウスにいたってこと、よね?」
「もしかして、その頃からルルーシュ君、抱き枕にされてたりしたの?」
「……」
ルルーシュは三人の言葉を、否定も肯定もしなかった。それはつまり、言葉にしなかっただけで肯定したということだ。
「ルルーシュ、おまえ、男としてそれはどうなんだ?」
憐れむようにリヴァルが告げた。
それを半ば睨むようにしながら、ミレイはルルーシュに同情するかのような視線を向けた。何気にニーナの視線も多分に同情を含んでいる。
C.C.の、ルルーシュ抱き枕は今に始まったことではないので、既にそれを知っているジェレミアはあえて黙って主のルルーシュを見守っていたが、その視線には僅かに憐れみが含まれていた。
「とにかく、話が終わったなら寝るぞ、ルルーシュ。どうせ明日も早いのだろう」
そう言うと、ルルーシュの答えも待たずにC.C.は彼の右腕をむんずと掴み、ルルーシュを引きずるようにして部屋を出ていった。
「……憐れな奴……」
その前まで行われていた真剣な話し合いが嘘のようなその展開に、三人の頭は付いていけなかった。既にジェレミアも、C.C.とルルーシュの後を追って部屋を出ている。
「……とにかく、あのC.C.って人とルルちゃんのことは本人たちの問題だから、私たちは気にしないで、今夜はもう休むことにしましょう」
漸く、といった形でミレイが建設的な意見を出し、残る二人はルルーシュたちが出ていった扉を見ながら頷いた。
── The End
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