観察記録




 ジノ・ヴァインベルグはナイト・オブ・スリーの地位にある。元々名門貴族の出身ではあるが、卓越したKMF操縦技術で今の地位を手に入れている実力派だ。
 そんな彼に、シャルルはナイト・オブ・セブンとなった、ナンバーズ上がり、名誉ブリタニア人である枢木スザクが真にラウンズに相応しい者であるか否か、その観察と監視を密名として、ナイト・オブ・シックスのアーニャ・アールストレイムと共にエリア11に、表向きはスザクの手伝いとして遣わした。



 スザクが卓越した身体能力の保持者であることは、ジノは認めるにやぶさかではない。実際に一度対戦している身としては、身を以て知っている状態だ。
 しかし、騎士として、ラウンズとして相応しいかとなってくると話はまた別である。卓越した身体能力だけで騎士として、ラウンズとして認められるわけではない。それに相応しい身体能力以外の力量、能力が要求される。そして何よりも主である皇帝への忠誠。
 スザクがラウンズとなった経緯は、エリア11で最大のテロリスト組織である黒の騎士団の指令であったゼロを皇帝シャルルに突き出した褒賞としてのものというのは、殆どの者が知っている事実である。そしてそのゼロは処刑されたと公表されている。
 しかし、それは事実なのか?
 何故なら、エリア11においてゼロが復活し、捕えられていた黒の騎士団の団員たちを解放したからである。
 自分たちがエリア11に赴くこととなった表向きの理由もそれにあるといっていい。
 処刑されたゼロ、復活したゼロ、果たして同一人物なのか否か。
 ゼロの素顔は仮面で隠されている。従って、処刑されたとされる人物と今現在のゼロが同一人物であるとは限らない。だが少なくともその言動を見る限り、同一人物としかジノには思われない。
 とすれば、スザクが捕え、処刑されたと公表されたゼロは一体どうなったのか。そもそも本当にスザクはゼロを捕えたのかという疑問に辿りつく。
 そんな事を考えながら訪れたエリア11で、スザクは総督補佐という地位にありながら、かつて通っていたアッシュフォード学園に復学しているという。それは果たして、総督補佐という地位にあるべき者のすべきことなのか。
 過去のスザクの経歴を調べてみるに、彼は元第3皇女ユーフェミアの口利きでアッシュフォード学園に編入し、その後、彼女の騎士となったが、それ以降も騎士として常に主たるユーフェミアの傍に常にいることなく、学園に通い続けたとある。それの一体何処が騎士と言えるのか。
 ましてや、ユーフェミアの死を受けゼロを捕まえた褒賞とはいえ、ラウンズという地位を要求し、それが叶えられた。すなわちスザクは主を乗り換えたのだ。ブリタニアの本来の騎士なら、到底そのようなことはしない。仕えるべき主はただ一人のみだ。そこからして、スザクの在り方にジノは疑問を持たざるを得ない。
 そんなふうに簡単に主を乗り換えるような人物を、果たして本当に騎士と呼べるのか。ラウンズとして相応しいといえるのか。
 スザクは異常な程にゼロを憎んでいる。それは、彼が公式では乱心の末に処刑されたとされているユーフェミアを手に掛けた人物だからだろう。その憎しみ方を見ていると、彼が以前に捕まえたといわれるゼロと現在のゼロはやはり同一人物なのではないかと思えてくる。
 何らかの理由があって、皇帝はゼロを処刑せず野に放した。そして一年の時を待ってゼロは復活したということなのではないか。その一年が何に由来するのかは知れないが。
 そしてスザクは復活したゼロが以前のゼロだと、おそらく確信している。それ故のゼロに対する憎しみなのではないか。
 中華連邦におけるゼロとスザクの対立も見ものだった。
 シュナイゼルが止めなければ、スザクはゼロを捕縛しようと食ってかかっていたことだろう。場所柄も弁えずに。
 そして中華連邦の象徴である天子とブリタニア第1皇子オデュッセウスの結婚式当日、ゼロは花嫁たる天子を誘拐した。それを追ったスザクの怒りは相当のものだったと思う。ジノは、やはりスザクは復活したゼロは、以前のゼロと同じだと見ている、確信しているとの意識を強くした。そしてそれ故の疑問も増える。何故捕まって処刑されたはずのゼロが、実際には処刑されずに復活したのか。そもそも、スザクが捕縛したゼロとは一体何者だったのか。
 そんな中、ジノはスザクが復学したというアッシュフォード学園に、特にすることもないという理由で編入してみた。そこにいれば普段は見えないスザクの姿を垣間見ることも出来るだろうということもあってのことだ。暇つぶしという事実も否定は出来なかったが。
 そうして入ってみた生徒会でのスザクの在り様と、副会長をしているというルルーシュ・ランペルージとの間の目に見えるか見えないかという危うい均衡にジノは気が付いた。
 ルルーシュ・ランペルージ。ブリタニア人には珍しい漆黒の髪と、ロイヤル・パープルと呼ばれる、おそらく現皇帝シャルルにもっとも近いだろう色をした紫電の瞳の持ち主。その容貌は、かつて“閃光のマリアンヌ”と呼ばれた今は亡き第5皇妃マリアンヌにとてもよく似ていた。そう、彼女の遺児の一人、日本侵攻の折りに亡くなったとされる長子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを思わせる程に。
 そこでジノは首を傾げた。
 ルルーシュ、同じ名だ。そしてここはかつてヴィ家の、マリアンヌの後見をしていたアッシュフォードの創立した学園。
 ルルーシュ・ランペルージは、実はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアではないのか。
 しかしそうだとしたら、何故妹のナナリーだけが皇室に戻ったのか。そして何よりも、弟だというロロという存在。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの母を同じくする兄弟姉妹は、妹のナナリー一人であるはずで、弟など存在しなかった。しかしルルーシュが兄として弟のロロに向ける愛情は、本物にしか見えない。
 そして戦前からルルーシュとスザクは知り合いだったという。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが戦前の日本で預けられていた先は枢木家。ならば、もし万一ルルーシュ・ランペルージがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであるならば、二人が戦前からの知り合い、友人であることも何ら不思議はない。
 そして自分たち兄妹を捨てたブリタニアを、皇帝シャルルを誰よりも憎んでいるであろうルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがもしゼロの正体であったとしたら、とふとジノは考えてしまった。
 それならば、シャルルがゼロを殺さなかった理由も分かるというものだ。しかし本当に二人は同一人物なのか、そしてゼロなのか。疑問は増えていく。
 しかしその疑問を全てイエスと考えてみれば全てが納得いってしまうのだ。
 ゼロはルルーシュ・ランペルージだった。そしてルルーシュ・ランペルージはルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。だからルルーシュとスザクは戦前からの友人。そしてルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがゼロであったために、皇帝はゼロを処刑することが出来ず、何らかの方法を持って記憶を書き換え、ロロという偽りの弟を護衛として遣わしたのではないのか。それもルルーシュだけではなく生徒会のメンバーの記憶さえも書き換えて。しかも聞いた話では、ブラック・リベリオンの後、生徒の殆どが入れ替わっているという。それはルルーシュ・ランペルージには妹のナナリーではなく弟のロロがいるのだと納得させるためではなかったのか。
 だとしたら、その全てを知っているスザクは友人の振りをして、彼ら全てを欺いていることになる。しかも何ら後ろめたさも感じずに。それ程にゼロであるルルーシュが憎いということなのか。そしてルルーシュの記憶が戻っているかどうかを確かめるために、スザクが学園に復学したのだとしたら、総督補佐という地位にありながら学生を続ける意味も納得がいく。
 これが果たして騎士のすることか。仮にも臣下としては最高位の、そしてまた帝国一の騎士といわれるラウンズのすることなのか。
 人を平気で欺く騎士など、騎士の在り様ではない。そのようなこと、本来の騎士ならば決してしない。騎士とはたった一人の主に仕え、その主を身を挺しても守るべき存在だ。
 しかしスザクはそれが出来なかった。いや、僅かに残された記録を確認した限り、していなかった。主であるユーフェミアを守ることも出来なかった、しなかった騎士の、一体何処がラウンズに相応しいというのか。
 それらのことを考えるに、スザクはラウンズたる資格など持ってはいない、それ以前に騎士たる資格すらないと、ジノはスザクに対する疑念だけを深めていくのだった。

── The End




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