敗者の末路




 フジ決戦はルルーシュ側、すなわちブリタニア正規軍の勝利で終わった。それも偏にニーナ・アインシュタインを中心として開発したアンチ・フレイヤ・システム、アンチ・フレイヤ・エリミネーターによるところが大きい。それがなければ、ルルーシュたちはフレイヤの前に一瞬のうちに消滅していたであろうから。
 そうしてアンチ・フレイヤ・エリミネーターでフレイヤを無効化した後、ルルーシュたちは天空要塞ダモクレス内部に入り込み、シュナイゼルをはじめとした皇族三人の身柄を押さえたのである。
 戦後、三人の処分に関しては、処刑も止むなし、いや、当然との声が上がったが、ルルーシュは三人を離宮に一生閉じ込める終身刑を言い渡した。
 三人のうち、シュナイゼルに関しては彼が脱出艇で脱出しようとしたところを抑え、ルルーシュの「我に従え」とのギアスが掛けられている。よって、現在のブリタニアはルルーシュの親政ではあるが、シュナイゼルはルルーシュの影の宰相、ブレーンとして密かに活躍している。
 コーネリアはナナリーと共に庭園にいるところを抑えられたのだが、自分の運命を悟ったのか潔かった。大人しく離宮にて終身刑となることを黙って受け入れた。処刑や軍事刑務所でないだけましだと思っている節がある。寧ろ彼女としては、潔く処刑となることを望んでいたのかもしれない。ペンドラゴンへのフレイヤ投下が、決してシュナイゼルの言うように、避難勧告が出された上でのものではなく、そこに暮らす億に上らんとする人々が一瞬のうちに消滅するように死んだのを承知していたからだ。ちなみにたまたまフレイヤ投下の際にペンドラゴンを離れていて助かったコーネリアの母親のアダレイドであるが、ユーフェミアを亡くし、残ったただ一人の娘であるコーネリアが逆賊として、戦犯として終身刑になったことは黙って受け入れている。何しろ自国の帝都たるペンドラゴンを消滅させたシュナイゼルの陣営に身を置いていたのだ。ただで済むはずがないし、それでは亡くなった親族たちにも顔向け出来ない。寧ろ処刑ではなく終身刑で済ませてくれたことをルルーシュに感謝しているくらいだ。
 そしてそんなコーネリア対して、終身刑という刑を受け入れることなく、反抗的なのがナナリーである。
 ナナリーはあくまで正しいのは自分たちであり、間違っているのは兄ルルーシュである、兄はギアスという力で皆の意思を捻じ曲げて操っているのだと日々叫んでいるという。
 僅か半年で、ナナリーの世話役兼監視役は三人目になっている。
 ペンドラゴンへのフレイヤ投下を容認し、そこに住む人々を大虐殺し、フジ決戦においてはダモクレスの空中庭園で、外で戦闘が行われていることなど知らぬ気に、どのような状況になっているのか何も知ろうとせず、ただ言われるままにフレイヤのスイッチを押し続け、大勢の軍人たちを死に至らしめたナナリーだが、彼女はフジ決戦でのことは認めたものの、ペンドラゴンに関しては、終始シュナイゼルの避難勧告を出したとの言葉のみを信じ、事実を受け入れようとはしなかった。
 それゆえのルルーシュに対する罵倒である。



 現在、ブリタニアは人口比率条項から超合集国連合への参加こそ見合わせてはいるが、“賢帝”と呼ばれるルルーシュの元、ペンドラゴンの被害から立ち上がり、復興の兆しを見せている。
 元々国力はあるし、そこに優れた指導者がいるのだ、立ち直らないわけがない。
 新帝都となったヴラニクスでは、今日も帝都としての形を整えるべく、そちらこちらで多くの作業が行われている。
 世界の動きとしては、ブリタニアの加盟こそ見送られているものの、だからといって世界一の超大国であるブリタニアを無視することは出来ず、拡大した超合集国連合はブリタニアをオブザーバーとして迎え入れ、ブリタニアが世界に対する侵略行為をやめた後、それまであった民族間、宗教間、そのほか様々な問題による紛争がまた頭をもたげてきてはいるが、あくまでも超合集国連合を中心として、何事も話し合いによる解決を図る方向で進んでいる。
 人それぞれ、思惑、考え方などが異なる以上、完全に紛争が無くなるのは未だ先のことだろう。しかしそれも世界の殆どがブリタニアによる圧倒的な支配下にあったことを考えれば、些細なことに思えてくる。
 現にブリタニアは、皇帝ルルーシュは、皇族や貴族たちの既得権益を廃止し、ナンバーズ制度を廃止し、エリアに住む人々もまたブリタニア人と同じ権利があると認めた。
 さらにエリアに関しても、ナンバーで呼ぶことを取りやめ、元の国名をエリアの名の下に取り戻した。例を挙げるならエリア11はエリア日本州というようにである。
 そしてルルーシュは、いずれはエリアを解放することを世界に約束している。即座に解放されないことに異を唱える者もいたが、エリアとなったことで疲弊している国々をそのまま解放するのは無責任に過ぎる、それなりに復興させ、政権を担える人材を育成して後の解放とするとのルルーシュの言葉に、それ以上異を唱える者はいなくなった。



 こうして世界が進んでいく中、一向に変わらないのがナナリーの態度のみである。
 先述したように、シュナイゼルはギアスにかかっていることもあり、影に徹しているがルルーシュの参謀役として役立っている。コーネリアは黙って己の現状を受け入れている。ナナリーだけが不満をまき散らし、ひたすら、お兄さまは間違っています、皆騙されているんです、と叫び続ける日を送り続け、監視役の不興を買い、しかしだからといって監視役がナナリーに対して何を出来るわけでもなく、せいぜいが世話の手を抜くくらいが関の山だ。しかしそれでもいつまでも止まぬナナリーの罵声にいい加減嫌気がさすのか、次々と人が入れ替わっている状態が続いている。
 そんなナナリーに対して、かつては友人であったスザクが彼女の元を訪れ、ペンドラゴンの真相を告げたりもしたが、彼女はスザクを兄と一緒になって嘘をついていた、信じられるはずがない、と全く意に介そうとせず、さすがのスザクも彼女の説得を諦めた程だ。
 最早ナナリーは誰の言葉も信用出来ないのだろう。
 視力が回復したこと、トウキョウ租界のフレイヤ投下の後の巨大なクレーターの跡を見た時には流石に驚愕していたが、それだけで、ペンドラゴンに関しては、一体にトウキョウ租界以上のクレーターが出来ていても、住民は避難させたのだから街一つが消えたからといって何の問題がある、責任があるとすれば、それは己らにそうさせた兄ルルーシュにあるのであって、自分たちには責任はないと言い逃れている。一国の、しかも自国の帝都を壊滅させたことに対する反省の色は全くない。それが何を意味するのか全く理解していない。ただ人の被害は出ていないのだからいいだろう、とそれを繰り返すのみだ。仮に人の避難が無事に出来ていたとしても、経済的な損失は計り知れないし、命以外のものも全てが失われたのだ。加えて、避難した後のその人々の暮らしについても何も考えていない。いや、そんなことを考えるだけの能もないということか。しかもその人の被害がないこととて、ナナリーがそう思い込んでいるに過ぎないのだが、本当にナナリーは何一つとして理解していない、理解しようとすらしていない。あるいは、理解したくない、という無意識の現れなのかもしれないが。
 こと程左様に己のしたことに対して責任を持つことをしないナナリーに、ルルーシュも手を焼いていた。
 全ては自分がナナリーを甘やかし世間の荒波を知らせずに育てたことに起因しているのだろうと思っていたが、ナナリーのそれは単にそれだけではない。
 信じていた兄と誰よりも親しくしていた友人と思っていたスザクに裏切られたとの思いにより、何もかも信じられなくなっているのだ。終身刑として離宮に閉じ込められているとはいえ、TVなどにより外の情報は入っているにもかかわらず、己が正しいとのみ主張し、ルルーシュたちの意見に耳を傾けようとは決してしない。
 ルルーシュ自身も、影のブレーンとしてシュナイゼルがいるとはいえ、親政を執っている以上、そして帝都であったペンドラゴンを失った以上、やるべきことは山積みしている。いつまでもナナリー一人のことで頭を悩ましている暇はない。
 その多忙の中、いつしかルルーシュの頭の中からもナナリーに対しての思いやりは失せていっていた。何をしても、何を言っても変わらないナナリーに対して、自分が手を差し伸べるのは無駄でしかないのだと漸く悟った形だ。
 誰もが既にナナリーを説得するのを諦めていた。
 もはや、誰一人としてナナリーの言う言葉に耳を貸す者はいない。コーネリアの潔さと比較され、同じ元皇女でありながら何と違うことかと呆れられているだけだ。
 ナナリーに残された道は、誰にも相手にされぬまま、閉じ込められた離宮でただ朽ちていくだけだ。

── The End




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