続々・思 慕




 シュナイゼルの誘導によりゼロを、ルルーシュを裏切った黒の騎士団。そんなルルーシュの心を救ってくれたのは、まだ幼い中華の天子の純粋な想いだった。
 星刻たちとの話し合いの結果、ルルーシュはブリタニア宮殿に乗り込み、宮廷を、ブリタニアを掌握した。第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして。
 そして一番最初に和平条約を締結したのが、ルルーシュを救ってくれた天子を君主とする、超合衆国連合を抜ける際に、国名から“合衆国”の名を消した中華だった。
 中華のその行為に、神楽耶を代表とする合衆国日本をはじめとする超合集国連合に属する国々は反発を覚え、天子に対して考え直しを迫ったが、天子はガンとしてそれを受け入れることはなく、寧ろ、変わっていくブリタニアの様子に超合衆国連合に残っていた国々の中にも、超合集国連合を離れ、ブリタニアと条約を結ぶ国も出始めるようになっていった。
 今や賢帝と呼ばれるルルーシュ皇帝の指導の下、良い方向に変わりゆく神聖ブリタニア帝国、そしてその一方、いい意味でも悪い意味でも変わることのない黒の騎士団、特にその幹部たち。
 黒の騎士団の、特に日本人を中心とする幹部たちは、本来、敵であるシュナイゼルの齎した情報を信じ込み、皆、ルルーシュに騙されているのだと、操られているのだと信じて疑わない。
 そんな様子をルルーシュは放置していた。それをどうにかしようとすること自体、無駄なことのように彼には思えたからだ。
 その一方で、その純粋さゆえにだろうか、自分を兄のように慕い、ルルーシュを優しい人だと言ってくれる天子に応えてやりたいと思う。
 かつて幼い天子を傀儡とし、やりたい放題だった、今はもういない大宦官たち。彼らの不正の下、病み衰えた大国中華。人民は飢え、疲れていた。それをどうにかしてやりたいとルルーシュは考える。それが自分を信じ、慕ってくれる天子に対する相応の応えだと考えたから。
 自分は、ブリタニアは中華に対して何をしてやれるのだろうかと考える。
 真っ先に浮かんだのは、病を抱え、余命の少ない星刻のことだった。
 ブリタニアの医療は世界の最先端にある。その技術を使えば、完治は無理でもその余命を延ばすことは出来ないだろうか。まだ幼い天子を誰よりも思い、ひたすらに天子のことを、その将来を考えている星刻。その星刻の命を救ってやることが出来るなら、天子のためにもこれに勝ることはないのではないか。
 そしてある意味、星刻とは別の意味で病み衰えている中華という大国。その国の整備、将来に向けたより良い整備、インフラを整えること。それもまたひいては中華の、そして天子のためではないのか。
 未だその行方を絶ち、何を考えているのか分からないシュナイゼルのことを考えると、出来ることはなるべく早く手を打つ方が良い。
 そう考えたルルーシュは、ブリタニアで開催された和平条約を結んだ国々を集めてのパーティに出席する天子についてきていた星刻を、ジェレミアに言って半ば無理矢理病院に連れ込んだ。むろん、天子には既に話はつけてある。
 天子は、もしそれで星刻の病気が良くなるのなら是非にと否やはなかった。
 それだけではない。国のために何をどうすれば良いのか分からずにいる天子に、ルルーシュは一から教え、そしてそれに対する助力を申し出た。
「どうして私に、中華にそんなに良くしてくださるのですか?」
 小首を傾げながら、不思議そうにルルーシュを見上げて問い掛ける天子。
 そんな天子に、ルルーシュは優しい、かつて妹のナナリーに向けていたような微笑みを浮かべながら答えた。
「絶望していた私に、道を示してくださったのが、救ってくださったのが天子様だったからです」
「? 私は何もしていませんよ?」
「いいえ、十分にしてくださいました。黒の騎士団から裏切られた私を、貴方は信じてくださった。貴方が私に示してくれた好意は他のなにものにも勝るものでした。貴方のおかげで私は生きるという意識、意義を与えられました。そしてブリタニアを、世界を、優しい世界に変えるという目標を思い出させてくださいました。それに報いたいと思うのです。ですから私が貴方と貴方の治める中華のためにしようとしていることは、それに対するお礼、当然のことなのですよ」
 ルルーシュの言うことは今一つ天子には理解しきれないようだった。
 それでも、天子はルルーシュを信じて良かったのだと、それだけは分かった。友人だった神楽耶と離れたのは寂しかったけれど、でもそれ以上にルルーシュという人からの優しさと信頼、そして彼の治めるブリタニアという国から、未熟な自分の治める中華への援助を、また、星刻を助けようともしてくれているのだということは理解出来たから。
 だからこれで良かったのだ、超合衆国連合を抜けてブリタニアと和平条約を結んだのは、ルルーシュを信じたのは間違いではなかったのだと、それは正しかったのだと、天子は再認識した。



 シュナイゼルが世界から身を顰める中、星刻はブリタニアの最先端医療による治療の甲斐あってか、その病を克服しつつあり、中華国内もブリタニアからの、つまりはルルーシュからの援助の元、インフラの整備を進め、民の飢えは癒されつつあった。
 それは確かにまだ道半ばのことで、これから先、中華が豊かに、真に大国と呼ばれるようになるには時間がかかるだろうが、それでもその未来は、不安材料が完全に払拭されたわけではないが、明るい兆しが見えつつあった。それもこれも全ては幼い天子の、ルルーシュに対する純粋な心が招いたものといえた。

── The End




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