宣 言




「“行政特区日本”の設立を宣言いたします!」
 かつて日本と呼ばれた、現在の神聖ブリタニア帝国の植民地の一つであるエリア11、その中心たるトウキョウ租界の中にある私立アッシュフォード学園で開催されている学園祭において、お忍びで学園にやって来ていた神聖ブリタニア帝国第3皇女にして、エリア11副総督たるユーフェミア・リ・ブリタニアは、自分の存在が知られてしまった後、取材に訪れていたマスコミを前に唐突にそう宣言した。



 エリア11最大のテロリストグループである黒の騎士団を率いるゼロことルルーシュは歯噛みしていた。
 よりにもよって自分と妹のナナリーが過ごす箱庭たるアッシュフォード学園で、程なくシンジュクゲットーにおいて独立宣言を行おうとしていた矢先に、ユーフェミアによって行われた“行政特区日本”の設立宣言。
 自分たち兄妹の生活、いや、生命をおびやかしかねなくする状況を創り出し、さらにはこちらが行おうとしていたことの、いわば先手を打たれた形だ。自分がやってきたこと、やろうとしていることを全て無駄にさせてしまいかねないその宣言に、ルルーシュはユーフェミアに対して憎しみを覚えた。
 学園祭、つまりはユーフェミアの宣言の翌日の各マスコミは、その報道の大半をユーフェミアの設立宣言の際の映像とその内容、すなわち彼女の宣言した“行政特区日本”とに割いていた。宣言の際の映像からだけでははっきりとは確認出来ないその特区とやらがどのようなものなのか、識者と呼ばれる人物を招いての討論や、人々の感想、意見を求めてのインタビューなど。
 しかしそれらは巧みに編集されたものなのだろう。皇族たるユーフェミアの宣言に否定的なものは殆ど、というより、一切なかった。あまりにも作為的すぎる。皇族批判ともなるユーフェミアの宣言に否定的なものは全く報道されなかった。ネット上では匿名性があってか、批判的な意見が出ていたが、それが堂々と表に出てくることはなかった。
 ユーフェミアの宣言を受けて行われた黒の騎士団内における幹部会議は割れた。
 ユーフェミアの協力要請を受けて、日本という名、日本人という名を取り戻すことの出来る特区に参加しようという意見。その筆頭は扇だった。
 罠だとして無視しようという意見と、同じく罠だとしながらも、反抗し、交戦すべきだとする意見。
 それらの遣り取りを口を挟むことなく黙って聞いていたゼロは、一通りの意見が出尽くした後、漸く口を開いた。
「式典には出席するが、特区に参加することはない。かねてからの計画を実行する。だが、どうしてもユーフェミアの特区に参加したいと思う者に対してまでそれを強制しようとは思わない。参加したい者は黒の騎士団を抜け、一般人として参加するように」
 その後に続けて、ゼロはユーフェミアの宣言した特区についての己の見解を述べた。



“行政特区日本”開設式典会場──
 晴れ渡ったその日、ユーフェミアは空席のままのゼロのための席に目をやり、溜息を吐いた。しかしそんな彼女に声が掛けられる。
「ユーフェミア様、お時間です」
 その言葉にユーフェミアは立ち上がり、空席を気にしながらもステージの中央に向かった。
 ユーフェミアがステージ中央に置かれたマイクスタンドの前に立った時、それは空から現れた。過日、ゼロによってブリタニア軍から奪われたKMFガウェインだ。そのコクピットが開き、仮面のテロリスト、ゼロが立ち上がる。
「ゼロ、来てくださったのですね!」
 ユーフェミアは両手を広げ、満面の笑みを浮かべた。
「本日は“行政特区日本”の設立、お祝いを申し上げます」
 ゼロはガウェインから降りることなく、ユーフェミアを見下ろすようにしてそう告げた。それに対してスザクをはじめとするブリタニア人たちは抗議の言葉を上げようとしたが、それはユーフェミア自身によって遮られた。
「ありがとうございます、ゼロ。こうして来てくださったということは……」
 ゼロはユーフェミアの続けようとした言葉を遮った。
「私が来たのは呼ばれたから参上したまでのこと。私と、私に従う黒の騎士団がこの特区に参加することはありません」
「ど、どうしてです!?」
 ユーフェミアはそれまで浮かべていた笑みを失い、戸惑いの表情へと変えた。
「答えは簡単。ブリタニアにだけ都合のよい、ブリタニアから与えられる日本人と名乗れる日本などという偽りの日本に興味がないからですよ。私たちが求めているものは、そのような名前だけのものではない、真実の日本、ブリタニアからの独立なのですから」
「そんなことはありません! この特区をきっかけにブリタニアも日本の皆さんも互いに理解し合い、手を取り合って……」
「そのようなおためごかし、偽善は結構! この限られた地域に入ることが出来、日本人と名乗ることの出来る者と、入ることが出来ずに今までと変わらずにイレブンと呼ばれ、虐げられ続ける者。そこには大きな確執が生まれるでしょう。そして入ることの出来なかった者たちは、これまで以上にブリタニアから虐げられることになる」
 会場内の日本人たちがゼロの言葉にざわめき出す。
「そしてもし仮に私たち黒の騎士団が参加した場合、私たちは武装放棄させられることでしょう。そうなれば。私たちは()ち上がり抵抗する手段を奪われることになり、今後どのような事態が起きても何も出来ないことになる。つまり、日本の独立を夢見ることさえ出来なくなるということです」
「そ、それは……」
「貴方方はこの特区を設立し、私たちを取り込むことによってこのエリアにおけるテロ活動を抑え込み、その支配を完全なものにしたいだけだ」
「そんなことはありません! 私はそんなことのためにこの特区を提唱したのではありません! 私は……」
「弱肉強食を謳って各国に侵略戦争を仕掛け、植民地とした国をナンバリングし、そこに住む人々をナンバーズとして蔑み虐げることを国是とするブリタニアの、そんな国の皇族であり、このエリアの副総督という地位にある人の言葉の一体何を信用しろと言われるのか!?」
「どうか私の言葉を信じてください。貴方が、貴方方が今までのことからブリタニアという国を信用出来ないというのは分かります。ですが、私は本当に……」
「先程も申し上げた、偽善は無用と。
 私はここに宣言する。このような偽りに塗れたブリタニアによって創られた、ブリタニアに都合のいい名前だけの日本ではない、真実の日本を! 今、シンジュクゲットーと呼ばれる地を中心として“合衆国日本”の独立を! 人々よ、()ち上がれ! 特区などという偽りではない、真実の日本を取り返すのだ!!」
 ガウェインのコクピット上で、ゼロが力強く宣言する。それに応えるかのように、会場にいた日本人たちが歓声を上げて立ち上がり、次々と会場を後にしていく。
「……ゼロ……」
 それを呆然と見送るユーフェミアにゼロが冷酷に告げる。
「ブリタニアに都合のよい、奸計を持った施しは無用。私たちはあくまでこの国を、日本を、独立国家としてブリタニアから取り戻す」
 そう告げると、ゼロはガウェインのコクピットを閉じて式典会場から飛び去っていった。
 後にはステージの上に力なく座り込んでしまったユーフェミアと、彼女を冷めた瞳で見つめるブリタニアの官僚や兵士たちのみ。参列していた皇をはじめとするキョウト六家の者たちも、いつの間にかその姿を消していた。
 ゼロの宣言により、エリア11── 日本── とブリタニアは新たな局面を迎えることとなる。

── The End




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