浮いた存在




 皇族の口利きで学園に編入してきた名誉ブリタニア人、枢木スザク。それはクラスからは浮いた存在だった。
 アッシュフォード学園は門戸を広く開けてはいるが、実際に在籍しているのは純ブリタニア人のみだ。純ブリタニア人からすれば、名誉ブリタニア人などブリタニア人ではない、所詮はナンバーズに過ぎない。被支配民族でしかないのだ。
 そんな名誉ブリタニア人がこともあろうに皇族の口利きで編入してくるとは、一体どういうわけなのか。
 現在このエリア11にいる皇族は二人。総督である第2皇女のコーネリア・リ・ブリタニアと副総督でありコーネリアの実妹でもある第3皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアだけだ。
 総督のコーネリアは徹底した差別主義者で知られている。彼女はブリタニア人とナンバーズをくっきりと区別する。
 となれば、今回の枢木スザクの編入に関与したのは必然的に副総督のユーフェミアということになる。
 副総督と名誉ブリタニア人が一体どういった経緯で知り合い、どういった経緯でその知りあった名誉ブリタニア人をブリタニアの学園に編入させようというのか。
 編入してきたスザクに対するクラスメイト、すなわち純ブリタニア人の視線は、いや、クラスメイトだけではない、学園全体といっていいだろう、自然と冷めたもの、見下げたものとなる。その一方で、教師たちのそれは皇族の口利きによる編入ということで、相手が名誉ブリタニア人であるにもかかわらず及び腰になっている。
 そして当然の如く起こる陰湿な苛め。
 教師たちは生徒たちのそうした行動を、スザクに対して及び腰になりながらも、止めることはしなかった。教師たちにしても出来るなら関わりたくなどない、教え子になどしたくない存在なのだ、名誉ブリタニア人如きは。故にスザクに対してどのような苛めが起きていようと、教師たちは見て見ぬふりをする。
 そんな中で知られた事実。
 それはスザクが高等部生徒会副会長であり、この学園一の人気者であるルルーシュ・ランペルージの幼馴染であり親友であるということだった。
 ルルーシュはスザクが少しでも学園で過ごしやすいようにと、スザクが己の親友である事を堂々と公言し、彼を生徒会に誘い、何かと世話を焼いていた。
 それはまた別の意味で他の生徒たちの反感を買うことに繋がるのだが、当面、表立ってのスザクに対する苛めはなくなった。
 生徒たちのスザクに対する視線は、ある意味羨望が篭もったものとなっていた。何せあの生徒会副会長のルルーシュに世話をされているのだ。羨ましくないはずがない。
 ところが、目に見えてではないが、ある時を境に変化した。何がかといえばルルーシュのスザクに対する視線、態度がだ。
 そのきっかけは、スザクが学園の大学部に間借りしている、帝国宰相シュナイゼル第2皇子直轄の特別派遣嚮導技術部が所有する、現行唯一の第7世代KMFのデヴァイサーだと知れたことだった。
 スザクが軍人であることは知られていた事実だった。しかしそれをまざまざと見せつけられれば、感覚だけで知っていたのとは、自然生徒たちの態度は変わってくる。
 相手がナンバーズのテロリストであろうと、学園に、人を殺して糧を得ている者が存在するというのは正直気持ちの良いものではない。平穏な学園に血生臭い臭いを持ち込まないでくれ、というのが本音だろう。
 だがそれだけでは済まなかった。
 スザクがKMFのデヴァイサーだと知れたと同時に、ユーフェミアはなんと彼を己の騎士に任命したのだ。仮にも副総督という立場にある皇族が、よりにもよって名誉ブリタニア人を騎士に任ずるとは何事か。
 それはKMFのデヴァイサーがナンバーズ、名誉ブリタニア人と知れた時以上の驚愕をもって迎えられた。
 学園ではスザクに対する態度は大きく二つに別れた。
 自分たちの学園から皇族の騎士が選ばれたということに対する誇り。そしてそれと反対に、何故よりにもよってナンバーズ上がりの名誉を騎士に任命したりするのかという、それはスザクに対してというよりもユーフェミアに対する不満。とはいえ、後者については流石に相手が皇族であるだけに表立っては出ないが、その代わりにスザクに対するやっかみとなって表面化した。
 そしてルルーシュのスザクに対する視線が変わった。表面的にはそれまでと何ら変わりない。しかし、人の機微に聡い者や、ルルーシュに近しい者ならばそれなりに分かるものだった。
 だが肝心のスザクはそれには気付かない。
 親友と呼ばれる存在でありながら、本来ならルルーシュにもっとも近い立場の存在でありながらそれに気付かない。
 その不自然さに、眉を顰める者が出てくるのは極当然のことだろう。そしてその筆頭は、ルルーシュの悪友を自他共に認めるリヴァルである。
 故に、クラスメイトたちはルルーシュの変化よりもまずリヴァルの変化によってルルーシュの変化に気付くという状態になった。だがそれでも、当のスザクは何も気付かない。
 やがて騎士叙任式が執り行われ、お祭り好きのアッシュフォード学園らしく、生徒会主催によるスザクへの祝賀会が催された。
 その会には確かに大勢の者たちが出席した。だがその殆どの者は、心からスザクを祝っているというよりも、単にお祭りの名目が欲しかっただけの者の方が多い。
 その祝賀会の中、ルルーシュも、そして彼の妹もスザクに祝いの言葉を掛けていたが、聡い者には分かった、そこに一抹の悲哀が含まれていることに。けれどやはり当のスザクは気付かない。
 何故分からないのか、それが分からないというように、ルルーシュに近しい者たちは眉を寄せる。
 その祝賀会の最中、特派の主任と副官がスザクを迎えにやって来て、スザクは会を途中で抜けることとなり、けれど会は続けられた。会の名目がスザクだっただけで、要は生徒たちは騒ぎたかっただけなのだから、会の主役が抜けようと関係はない。



 皇族の選任騎士となった以上、スザクは退学するものと誰もが思っていた。常に主の傍にあって主を守るのが騎士だからだ。
 ところがスザクは主であるユーフェミアが許したからといって、退学することなくそのまま学園に在籍し続けたのである。単に特派に所属する軍人であっただけの時とは違い、ユーフェミアの騎士となったことで任務は増え、必然的に出席率は落ちたが、それでも彼は在籍し続けた。
 そんなスザクに向けられる視線は、戸惑いを生み、やがて忌避するものへとなっていった。皇族の騎士というものを理解していないのかと、所詮はナンバーズに過ぎない、こんな者を何故ユーフェミアは騎士に任命したのか、あまつさえ自分の傍を離れ学園に通うことを何故許しているのか。多くの生徒が疑念に思う。
 そして日を追うごとに、ルルーシュのスザクに対する視線は冷めたものに、あるいは諦観したものに変わっていくのが、ルルーシュと然程親しくない者にすらも分かるようになっていた。
 だがやはり当のスザクは気付いていない。それはルルーシュの表面の態度が変わっていないからなのだが、ではそれの一体何処が親友と呼べる存在なのかと、周囲のほうが訝しみだす。
 親友と互いに言い合いながら、一方のみが相手に気を遣い、その相手は気を遣われていることに気付かない。いや、あるいはそれが当然のことと思われているのか。そんな一方的な関係を親友とは呼ばない。いや、呼べない。
 そんな状態に気付いたクラスメイトたちのスザクに対する視線は、寧ろ彼が編入してきた時よりも── つまりは単に彼が名誉ブリタニア人だから、というだけのものからだけではなく── 冷めたもの、見下げたもの、侮蔑を含んだものとなり、スザクが登校してくるとクラスの雰囲気は一気に変わるようになった。
 そこまでして漸くスザクは眉を寄せ、首を傾げ、そうしてルルーシュに聞くのだ。
「何かあった?」と。
「いや、何も」
 さりげないルルーシュの答えに、スザクは納得したかのように席につく。
 そうして休み時間になれば、スザクが騎士となってから恒例となったユーフェミアに対する礼讃と、テロリストのゼロに対する非難が始まる。
 何故騎士でありながらそこまで礼讃するユーフェミアの元にいない。テロリストとはいえ自分を救ってくれた存在をよくもまあそこまで悪しざまに罵れるものだと、クラスメイトのスザクに対する温度が下がる。
「?」
 流石にその差に気が付いたのか、スザクはきょろきょろと周囲を見回すが、何処も変わったところはない。それに気のせいかと、また同じ話を始める。最早誰もそれを真剣に聞いてなどいないというのに、本人だけが何も気付かない。

── The End




【INDEX】