二人の妹




 アヴァロンに戻ったルルーシュたちを待っていたのは、シュナイゼルからの通信だった。
『他人を従えるのは気持ちがいいかい? ルルーシュ』
「シュナイゼル……」
『フレイヤ弾頭は全て私が回収させてもらった』
「つまり、ブリタニア皇帝に弓引くと?」
 皇帝としてシュナイゼルに対峙するルルーシュに、シュナイゼルは優雅な微笑みを見せた。
『私は君を皇帝とは認めていない』
「成程、つまり皇帝に相応しいのは自分だと?」
 先帝シャルルがいた頃、もっとも皇帝位に近いとされていた男。自分こそが皇帝だと言いたいのかとルルーシュは問い掛けた。
「いいや、違うな、間違っているよルルーシュ」
 画面から下がりシュナイゼルは自分の斜め後ろを示した。
『ブリタニアの皇帝に相応しいのは彼女だ』
 その時、アヴァロンに艦橋にいた全ての者が息を呑んだ。
 そこに映し出されたのは、トウキョウ租界でフレイヤによって死亡されたとされたルルーシュの妹であり、エリア11総督のナナリーであったからだ。
「ナナリー」
 車椅子に座ったままのナナリーは、硬い表情で、厳しい言葉を口にした。
『お兄さま、スザクさん、私はお二人の、敵です』
「ナナリー……、生きていたのか?」
『はい、シュナイゼルお異母兄(にい)さまのお蔭で。
 お兄さまもスザクさんも、ずっと私に嘘をついていたのですね、本当のことをずっと黙って。でも私は知りました。お兄さまが、ゼロだったのですね』
「それがどうしたというの? 気付かなかったのは貴方の方でしょうナナリー。あれ程お兄さまの傍にいながら、貴方は何も気付かなかった。私は画面越しに一目見ただけで、それだけでたった一度しか会ったことのないルルーシュお兄さまだと分かったというのに」
 そう言葉を発したのは、リリーシャだった。
『あ、貴方は誰です、それにお兄さまを……』
 ナナリーがリリーシャの言葉に慌てた。自分と同じようにルルーシュを兄と呼ぶその女性は誰なのかと。
「私はルルーシュお兄さまの双子の妹。双子は不吉だと、生まれてすぐにアッシュフォードの手によって他家に預けられた身。つまりナナリー、貴方にとっては姉。シュナイゼルお異母兄さまにも、初めまして、ですわね」
『ルルーシュの、双子の妹?』
 その突然の登場には、さしものシュナイゼルも驚いた。しかしリリーシャと名乗るその人物の容貌は、髪の長さと女性であるということを除けばルルーシュに瓜二つであり、双子ということを簡単には否定しかねるものだった。
「ナナリー、生まれてからずっと、お母さまが亡くなられてからもずっとお兄さまの傍にいたのに、貴方はお兄さまのことを何も気付かなかった。気付こうともしなかった。
 貴方にとって、お兄さまは自分の世話をしてくれる都合のいい存在でしかなかったのでしょう?」
『そんなことはありません!』
 ナナリーはリリーシャの言葉を否定するが、リリーシャはそれを鼻で笑った。
「本当にお兄さまを理解していたというなら、この一年、貴方は何をしていたの? 行方不明のお兄さまを捜すでもなく、皇族に戻ってその生活を満喫して、ゼロであるお兄さまを牽制するためだけのものだったのに、エリア11の総督という地位を得て、あげく戦後の、投下されたフレイヤによって混乱するトウキョウ租界を、エリア11を、その地位を、責任を、民を見捨てて死を偽装して、そうして貴方は何をしてきたの?」
『わ、私は見捨ててなどいません! 勝手なことを言わないでください!』
 ナナリーは怒りに顔を赤くして声を荒げた。
「見捨てたでしょう? 貴方がそこにそうしているのが何よりの証拠だわ。本当にエリア11のことを思い、総督としての責任と自覚を持っていたなら、今頃そんなところにいないで、エリアでフレイヤからの復興に、戦後の混乱の収拾にあたっていたはずよ。それをシュナイゼルお異母兄さまのところでのんびりして、今頃現れて皇帝位を望むなんて、何を考えているの? 一エリアの総督すら満足に務めることが出来ない人間が皇帝ですって? 馬鹿も休み休み言ってもらいたいものだわ」
 心底ナナリーを馬鹿にしたようにリリーシャは言葉を投げつける。
『他人の貴方にそんなことを言われる覚えはありません! それに私は総督として出来る限りのことをしてきました! それを否定される謂れはありません!』
「だから私はルルーシュお兄さまの双子の妹で貴方の姉だと言ったでしょう? 確かに今まで一度も会ったことはないし、貴方は私の存在など知らなかったでしょうけれど。ついでに本音を言わせてもらえば、こんな馬鹿な妹なんて、他人でいたいと思っているのも、さらに言わせてもらえば、ルルーシュお兄さまのことを二度と兄と呼んでほしくないと思っているのも事実だけど。
 それにしても、あんな状態で総督として出来る限りのことをした? 馬鹿なこと言わないで欲しいわね。貴方のしたことといったら、税金の無駄遣いをして一度失敗した特区を再度造り上げ、そしてまた失敗しただけのことじゃない」
『でも! エリア11は矯正エリアから衛星エリアに昇格しました! それは私の……』
「貴方の功績だと本気で思っているのだとしたら、とんだお笑い草だわ」
『何を言うんです! 実際に昇格したではありませんか!?』
「それはお兄さまであるゼロが、反乱分子を率いて中華に身を退()き、エリア11からテロがなくなったから。そして貴方の周りにいた文官たちが優秀だったからにほかならないわ。それぐらいのことも分からないの? 貴方自身がしたことなんて何もないのよ」
『何も知らないのに、いい加減なことを言わないでください!』
「何も分かっていないのは貴方のほうでしょう? あげく自国の帝都にフレイヤを落として、億からの民を虐殺しておきながら」
『ペンドラゴンの皆さんは避難させたはずです! シュナイゼルお異母兄さまがそう仰いました!』
「はっ! 億からの民を一体どうやってフレイヤから避難させることが出来るのか、そんな方法があるなら是非ともお聞かせいただきたいものですわね、シュナイゼルお異母兄さま。そしてそんな馬鹿な出来もしないことを本気で信じているなんて、本当にこれ以上ないくらいの愚か者だったのね、ナナリー」
『シュナイゼルお異母兄さまはお兄さまとは違います! 嘘なんか仰いません。貴方のほうこそいい加減なことばかり言うのは止めてください!』
「よくまあ丸め込まれているものだこと。本当にこんな愚か者がお兄さまの妹だなんて、私と血が繋がってるなんて、信じたくもないわ」
 二人の妹の遣り取りを唖然と見ていたルルーシュは、口を挟もうとしたが、リリーシャに止められた。
「ルルーシュお兄さまは黙っていらして! この愚妹には何を言っても通じませんわ! お兄さまには残念なことでしょうけれど、あんな愚かな妹がいることなどお忘れになって」
「リリーシャ……」
 自分が「敵」といったはずの兄の言葉が聞こえて、ナナリーはほっとしたが、同時にそれが自分ではなくルルーシュの双子の妹と、自分の姉だと名乗る女を呼んだことに怒りを覚えた。
『お兄さま! お兄さまはそうやってギアスという力で人の意思を捻じ曲げ操ってご自分のいいようになさろうとするんですね。そのようなことは許されることではありません』
「許されないのは貴方たちのほうよ、ナナリー。エリア11の被災者を見捨て、億に上るペンドラゴンの民を殺す、そんな人間を許す者がいたとしたら、是非お目にかかってみたいものだわ」
『ですから! 私はエリア11を見捨ててなどいませんし、ペンドラゴンの皆さんは避難させました。言いがかりは止めてください!』
「何も知らないというのはある意味愚かであると同時に幸せなことね。今貴方がそこにいる、それがエリア11を見捨てたことを証明しているし、ペンドラゴンの民は避難などしていなかった、それが貴方が目が見えないからと見ることを背けている事実よ。
 ルルーシュお兄さま、お兄さまにはお気の毒ですけれど、ナナリーは帝国に、皇帝たるお兄さまに反逆する国賊、大逆犯として討たなければなりませんわ。死んだ、いえ、消滅させられたトウキョウ租界とペンドラゴンの民のためにも。そしてそうやってルルーシュお兄さまと戦うことが、シュナイゼルお異母兄さまのお望みのようですし、ここは受けて()つべきですわ」
「……残念だが、リリーシャの言う通りのようだな。最初にこちらを敵だと言ったのはナナリーだ。戦わねばならぬだろう、フレイヤという兵器をこの世から消すためにも」
『お兄さま! 私と戦うというのですか!?』
「先に敵だと言ったのはおまえの方だろう、ナナリー。確かに俺はゼロであることをおまえに隠してきた、大勢の人間を死に至らしめてきた。だがそれ以上に、おまえたちは自国の帝都に大量破壊兵器であるフレイヤを落として無辜の民を大虐殺した。それはおまえたちがどう取り繕うと変えられぬ事実だ。たとえおまえが俺にとってどれ程愛しい妹であろうと、ブリタニアに、皇帝たる俺に弓引く者を放っておくわけにはいかない。俺たちの間にあるのは、互いの力を出し尽くしての戦いのみだ」
 リリーシャの言葉を受けて、ルルーシュはもう一人の妹との避けられぬ戦いを決意した。

── The End




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