破 滅




 ロイドとジェレミアはの二人は、手順を踏んでまずは宮内省に申し入れた。
 エリア11で死んだとされていた、第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下を見つけ出し保護したと。
 慌てたのはもちろん宮内省である。
 とにかくルルーシュ殿下本人であることに間違いないかどうかを確かめるのが先決と、宮内省はペンドラゴン市内にあるロイドの邸宅にいるルルーシュ本人から、確認作業のために必要なことですから、と言って血液の採取と毛髪数本を貰い受け、宮内省内に残されている第11皇子ルルーシュのDNAと一致するかどうかの確認から始めた。
 その鑑定作業と並行して、ルルーシュに対しての質疑も行われた。生まれた時はもちろん無理だが、物心がつき、記憶がはっきりし始めた頃から、日本に送られるまでの出来事についての確認。そしてまたこれは第11皇子本人か否かの確認とは異なるが、戦後、どのようにして生きてきたのか。質疑はルルーシュのみに留まらず、ロイドと、同じくロイドの邸宅に滞在しているジェレミアに対しても、どのようにしてルルーシュを、すなわち第11皇子殿下を見つけ出したのかという内容のものが執り行われた。
 これは彼ら── ロイドとジェレミア── にとっては想定内のことであったので、特に問題はなかったし、ルルーシュにとってはなおさらである。
 DNA検査の鑑定を待って、質疑によって得られた内容と合わせ、宮内省は第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下に間違いないとして宮内省長官が皇帝シャルルに進言におよんだ。
 報告を受けたシャルルは、直ちにルルーシュを宮殿に連れて参内するようロイドとジェレミアに命令を下し、それを受けて、二人はその翌日にはルルーシュを伴って宮殿に参内した。
 宮内省長官の案内を受けてルルーシュたちが通されたのは、謁見の間であった。そこで待っていたのは、皇帝シャルル本人と、ナイト・オブ・ワンのビスマルク・ヴァルトシュタイン、そして侍従が数名である。
「ルルーシュか?」
 ルルーシュの顔を見て、その中に今は亡き皇妃マリアンヌの面影を見出したシャルルは懐かしそうにその名を呼んだ。
「はい、父上」
「ナナリーはどうした?」
「エリア11に。あの子の目と足は変わりありません。そうである以上、あの子はここでは弱者でしか有り得ない、そう判断してアッシュフォードに託してきました」
「アッシュフォードか。マリアンヌの後見だったな。アッシュフォードがこれまでそなたとナナリーを匿ってきたのか」
「はい」
「昨日のうちに、宮内省に命じてアリエス離宮を整えさせた。今日よりアリエスにて起居するがよい。その生活が落ち着いた頃を見計らって、皆への披露目をしよう」
 そこまでルルーシュに告げてから、シャルルは彼の後ろに控えている二人に目を向けた。
「アスプルンド、ゴットバルト、両名ともよくルルーシュを連れ戻してくれた。今後もこれの力となるように」
「はい」
「畏まりました」
 二人の返事に大きく頷くと、シャルルはビスマルクたちを連れて謁見の間を去った。
 残されたルルーシュたちは、宮内省長官に引き続き導かれるままに、本殿から遠く離れたアリエス離宮へと至った。アリエス離宮はシャルルが告げた通り、これまで七年もの間住む者なく荒れていたのが嘘のように綺麗に整えられ、また宮内省によって手配された侍従や侍女たちが詰めて、ルルーシュの到着を待っていた。
「お帰りなさいませ、ルルーシュ殿下」
 それがルルーシュを出迎えた侍従の第一声だった。
 そうしてルルーシュのアリエス離宮での生活が再開された。



 ルルーシュがアリエス離宮で生活し始めて一週間程経ったその日、ルルーシュの後見の一人であるロイドが訪ねて来た。一人の少女を伴って。
 ルルーシュはロイドと少女を己の居間に通させた。そして騎士として己の傍にいるジェレミアを残して侍女を下がらせ、四人だけになると、ルルーシュはここで初めてロイドに向けて口を開いた。
「その少女が、おまえが言っていた女か?」
「そう、私がC.C.だ」
 そう言って、少女は己の金色の髪に手を掛け、思い切り取り去った。金色の髪はウイッグだった。その下から現れたのはライトグリーンの髪。
 C.C.はルルーシュがアリエス離宮に入って間もなく、ロイドと接触し、彼を通してルルーシュに繋ぎを取ったのだ。ブリタニアに来る前に、ロイドたちから記憶の逆行の話を聞いていたルルーシュは、半信半疑ながらもその少女をアリエスに連れて来ることに許可を与えていたのである。
 そしてC.C.と名乗った少女は、やおらルルーシュに近付くと顔を寄せ、その唇を奪った。
「!」
 直ぐに離された唇。しかしそれと同時に様々な記憶がルルーシュの中に流れ込んできた。
 そしてルルーシュだけが分かるギアスという名の力の疼き。
「C.C.」
「思い出したか、ルルーシュ、私の魔王よ」
「ああ思い出した、C.C.。俺の唯一の共犯者たる魔女よ」
「さて、思い出していただいたところで殿下、これからどうなさいます?」
 二人の様子を黙って見ていたロイドが、ここで漸く口を挟んだ。
「そうだな」
 ルルーシュは顎に手を当てて暫し考え込んでから、徐に口を開いた。
「ロイド、神根島の例の遺跡、破壊出来るか?」
「神根島の遺跡ですかぁ? んー、出来なくはないと思いますけど、エリア11に渡らなきゃなりませんから今すぐってわけにはいきませんよ」
「だが出来るんだな?」
「ええ。あー、戻らなくても出来るかな。あっちにはニーナ君と咲世子さんがいるから、二人に連絡取れれば何とかなるかも」
「方法は任せる、とりあえず破壊しておいてくれ」
「わっかりましたー。で、殿下は?」
「いつになるか分からないが、父上に会った時、隙を見てギアスを掛ける。とにかくラグナレクの接続を阻止するのが第一目標だ。父上を俺のギアスでこちらに取り込むことさえ出来れば、後は黄昏の間とやらを通して中華にあるギアス嚮団の方はどうにでも出来るだろう」
「殿下、私は何をすればよろしいのでしょう?」
 一人取り残された感のあったジェレミアが、ルルーシュに問い掛けてきた。
「おまえにはギアス嚮団を壊滅させる時に思う存分働いてもらうつもりだ。前のようなキャンセラー能力はないから無理は出来ないだろうが、頼む。ロイドはそういった力押しのことは無理だろう?」
「よくお分かりで」
 苦笑を浮かべながらロイドは答え、ジェレミアは黙って首肯した。



 エリア11でロイドから連絡を受けたニーナと咲世子が神根島にある遺跡を破壊している頃、ブリタニアの帝都ペンドラゴンにある宮殿の中、玉座の間と呼ばれる大広間において、エリア11で見つかったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの披露目が行われていた。
 その時、既にシャルルがルルーシュの持つ絶対遵守のギアスの支配下にあったのは言うまでもない。
 ルルーシュに支配されたシャルルの元、ブリタニアはこれから緩やかに変化していく。

── The End




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