排 除




 ナイト・オブ・ラウンズとなった枢木スザクがアッシュフォード学園に復学した。
 本来なら有り得ないことである。皇帝の騎士が何処かのエリアに配置されるだけならまだしも、学園に、生徒として通うなどということがどうして出来るだろう。ましてや、ただ配されただけではない、総督補佐という地位にありながらだ。しかしそれを当然のことと受け止め、何ら不思議に思わずにいられるのが枢木スザクという人間だ。
 実際、かつて第3皇女ユーフェミアの騎士となった後も、スザクは学園に籍を置き続け、その一方でもう一人の皇族、第2皇子シュナイゼルの直轄である特派にも籍を置き続けた。一人の人間が、それも皇族の選任騎士となった者がそんなふうにあり続けること──二人の皇族に仕えるなどということ──は、ブリタニアの常識では考えられない。しかしユーフェミアはそれを許してしまった。故にスザクはそれが間違っているとは考えない。ちなみに当時のシュナイゼルは、本来、自分の部下にあたるスザクを他家であるリ家の皇女に、一言の連絡、挨拶もなく、黙って選任騎士とされた、つまり奪われた立場であり、かつ、当の本人たちは、何も考えず、スザクはそのまま特派に在籍し、特派所有のKMFランスロットのデヴァイサーであり続けたことに、もちろん、寛容にはなれず、不愉快でならなかったが、シュナイゼルにとってみれば、スザクなどすぐにどうにでも出来る存在であり、気にとめるのも、何かの対処をするのも面倒で放っていた、といったところだった。
 そして、今回の復学に関して言うならば、ゼロであるルルーシュの監視という名目が付いているのだからなおさらだろう。とはいえ、それはあくまで極秘事項であって表沙汰にされるものではない。さらに言うなら、ルルーシュの監視は皇帝直属の機密情報局が行っており、そこにラウンズとはいえ、スザクが直接介入するというのはこれまたおかしな話ではあるのだが、そういった上下関係、縦の関係、職務範囲を考えるということに思い至らないのがスザクの欠点なのだが、本人にはそれすらも分かっていない。故に機密情報局からは、自分たちの報告を信用しないのかとの、スザクに対する不信感、不満感が募るのだが、人の機微に疎いスザクはそれすらも理解していない。



 ある日のこと、スザクは同じ生徒会メンバーのシャーリーに呼び出された。
 曰く、「ルルのことで相談があるの」とのことで、しかも内緒で、との念押しつきだ。
 シャーリーは何か思い出してしまったのだろうか、そう思ったスザクは、内心はどうあれ、表面的には快くシャーリーの誘いを受けた。
 人がいないところがいいとのシャーリーの言葉に、二人は租界外縁部に来ていた。
「見晴らしがいいね」
「そうだね」
「ここからだとゲットーの在り様一目瞭然。租界とゲットーってこんなに違うんだね」
「ああ」
 シャーリーに言われるまま、スザクもそこから目に入るゲットーを見て、唇を噛んだ。
 整備された綺麗な租界と、荒れたゲットー。それらは全てブリタニアの侵攻によるものだ。
 その思いに、スザクは必ずブリタニアを変えてみせるとの意識をより一層強くする。そんなこと出来ようはずもないのに、それすらも分からずに、何も理解しようとせずに、己の価値観のみで動く。ただし、ルールに則って。しかもそのルールはあくまでスザクの自己解釈に過ぎず、スザクが現在所属しているブリタニアに関していえば、スザクのそれは大いに間違っているのだが。スザクが考えるルールの解釈がどうあれ、ともかくもルールに則っていれば、それがどんな誤ったルールであろうと己の間違いではないのだから、スザクに責任はないということになる。スザクは無意識にそういった道を選んでいるのだ。
 けれどスザクのように考える者ばかりではない。
「ねえスザク君。スザク君はゼロを捕まえて、その褒賞でラウンズになったんだよね」
「そうだよ。それが何か?」
 ルルーシュの件で呼び出されたはずなのに、何をいきなり、と訝しみながらスザクはシャーリーに尋ね返した。
「ゼロはこのエリアを、日本をブリタニアから解放しようとしてた。だから日本人から支持されてた。なのにスザク君は、同じ日本人のはずなのにゼロを捕まえたんだよね。何故? 日本を解放して欲しくなかったの?」
「ゼロのやり方は間違ってる。彼のやり方は犠牲を出すだけだ。日本を解放するためには、ブリタニアを内から変えていかなければ駄目なんだ」
「スザク君はそれが出来るの?」
「そのためにラウンズになった。いつかワンになって、日本を所領として貰い受ける。そうすれば日本は返ってくる」
「それは違うよ」
「え?」
 何が違うというのか分からなくて、スザクは目を見開いた。
「たとえスザク君がワンになって所領としてこのエリアを、日本を貰っても、ここはあくまでブリタニアの属領、エリア11であることに変わりはないんだよ。それは日本を解放することにはならない。それに、多くの犠牲を出しているのはスザク君もゼロと変わらない。ううん、ゼロより酷い。だってスザク君は、本来同胞であるはずの日本人をたくさん殺してる。それにここに戻って来る前にいたEUでは、もっと多くの人を殺してきたんでしょう? “白き死神”なんて二つ名を付けられるくらいに」
「シャーリー、何が言いたいんだ!? 第一、今日はルルーシュのことで話があったんじゃないのか?」
「そうだよ。だから話してるの」
「シャーリー、君は……」
 知っていて、そして思い出しているのか、ルルーシュがゼロだということを。そう問い掛けようとしたシャーリーの手にいつの間にか銃が握られていた。
「シャ、シャーリー!」
「私、知ってるの。ゼロの正体がルルだってことも、スザク君がそのルルに何をしたのかってことも」
「シャーリー、その銃を捨てるんだ。君はそんなものを持っていてはいけない」
 言いながら、スザクはシャーリーを処分しなければならないのかとの思いを強くした。
 処分──それすなわち死だ。叶うならシャーリーを殺したりなどしたくないとスザクは思う。
「私、ううん、私たち、ルルを殺した人間を許せないの。ルルを追いつめた人たちを許せないの。だから排除することにしたの。だからヴィレッタ先生たち、機密情報局の人たちも排除したわ」
 その言葉に、だからここ数日機密からの情報が上がってこなかったのかと、ヴィレッタたちの姿を見掛けなくなったのかとスザクは思いを巡らした。
 シャーリーは“私たち”と言った。つまり、知っているのは、行動を起こしているのはシャーリーだけではないということだ。では誰だ、他に誰がいるんだ? 次々と顔が浮かんでは消えていく。
 スザクは自分の運動神経には自信があった。ましてや相手のシャーリーは素人だ。最初の一発さえかわすことが出来れば後はどうとでもなると思い、一歩踏み出した時、シャーリーの銃から最初の弾が放たれた。
「ぐっ!」
 利き足である右足を撃たれていた。
 何故? 何故よけられなかった。
「駄目だよ、よけたりしようなんて考えたら。そんなこと無駄なだけだから」
「無駄だって?」
 苦痛に顔を歪めながらスザクはシャーリーに問い掛ける。
「そう、無駄。だって私が銃を撃つ時はスザク君の時は止まってるんだもの」
「何? どういうことだ?」
「シャーリーさんが言ったでしょう、私たち、って」
 ふいに脇から聞こえてきた声に、スザクはそちらへ顔を向けた。そこに立っていたのはロロだった。そのロロの手にもシャーリーと同じ銃が握られている。
 ルルーシュの監視役の偽物の弟。機密情報局の人間。そのロロが何故シャーリーと? 疑問だけがスザクの中で膨らんでいく。
「ロロ、君は裏切ったのか!?」
「裏切り? 先に兄さんを裏切った貴方には言われたくありませんね」
「僕が先に裏切ったってどういうことだ! 元をただせばルルーシュがゼロなんかになったからっ!」
「違うよ、スザク君。スザク君はルルを守るって誓ったんでしょう、子供の頃に。なのにルルが憎んでるブリタニアに従属した。名誉になって軍人にまでなって、挙句、ユーフェミア様の騎士にまでなった。それの何処がルルを守ることだったの?」
「それは、力を付けてルルーシュたちを守るために……」
「そんなこと、ルルは望んでなかったのに。なのにスザク君は自分の理念だけ、理想だけをルルに押し付けるんだね。皇族の騎士が主以外の者を守ることなんて出来ない、許されることではないのに。それどころか、スザク君が皇族の騎士となったことで、ルルの立場は一層危なくなったのに、そんなことにも気付かずに学園に通い続けた。そうしてルルを捨てて、手を取ったユーフェミア様を捨てて、皇帝の騎士になって、最後はルルを殺した」
「殺した? 僕がルルーシュを!? 何を言ってるんだ、ルルーシュは生きて……!」
 二発目はロロから撃たれた。当たったのは右脇腹だ。いつ銃の引き金が引かれたのか、スザクには分からなかった。動体視力にも自信があったのに、全くその気配を感じ取ることが出来なかった。
「貴方は知らなかったんでしたっけ? 僕のギアス」
「な、に? ロロ、き、君も、ギアスを……」
「ええ、そうですよ。僕は人の体感時間を止めることが出来るんです。だから貴方は僕たちの放つ銃弾からは逃げられない」
 スザクがロロの言葉を理解した時には、シャーリーの放った三発目の銃がスザクの左頬を掠めた。
「スザク君がルルを殺したんだよ。私たち、一緒にそれを見てたの。そして決めたのよ。ルルの邪魔をする人、殺そうとする人達を排除しようって」
「排除、って、シャーリー、君は、自分が何をしているか、分かっているのか?」
 スザクは脇腹を押さえながらシャーリーに問い掛ける。自分が何をしようとしているのか理解させ止めさせようと。
「分かってるよ、十分に。それより、そろそろ終わりにしてあげようか、ロロ」
「そうですね」
 シャーリーの言葉にロロが頷き、二人同時に銃の引き金を引くのが分かった。
 だが、スザクの記憶はそこまでだった。二人の撃った弾は、スザクの額と心臓を撃ち抜いていた。
「これ、どうしようか?」
 シャーリーが足元に転がっている、死体となったスザクを指してロロに尋ねた。
「ここから突き落としましょうか。この高さから落ちれば、うまくすれば顔とかも判別つかなくて、誰だか判明するのも時間かかるかもしれませんし」
「そうだね、そうしよう」
 二人は協力してスザクの持ち物の中から、IDや身元を証明するような物を抜き取ると、その死体を租界外縁部から放り投げた。
「これでまた一人終わったね」
「ええ」
「出来ればナナちゃんもどうにかしたいけど、こっちはちょっと無理かな。何せ総督だもんね」
「それに枢木はともかく、ナナリーが今いなくなったりしたら、兄さんが悲しみます」
「それもそうか。でも後でどうにかしないと駄目だよね」
「これから考えましょう、時間はまだありますから」
 そう話しながら、二人は租界の中心部に向かって歩き始めた。

── The End




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