逆 転




 神根島の遺跡らしき洞窟の中、スザクの銃によって仮面を割られその素顔を曝したゼロ── ルルーシュ・ランペルージ── にカレンは問い掛けた。
「何故、貴方は私たちを利用していたの?」
「俺は世界を支配する。その途中で日本は解放される」


 ルルーシュに銃を向けたまま、スザクが叫んだ。
「おまえは世界から弾き出された存在だ! おまえの存在そのものが間違っていたんだ!」
 スザクの言葉に、ルルーシュの左右の色の異なった瞳が、驚愕と失望に見開かれた。


 スザクが手にする銃の引き金を引き掛けた時、
「そこまでにしてもらえないかしら?」
 聞き覚えのある声がして、スザクは振り向いた。
 そこに立っていたのは、アッシュフォード学園生徒会のメンバーたちだった。
 しかもその全員の手に銃が握られ、スザクに、そしてカレンに向けられている。
「存在そのものが間違っていた? よく言えるわね、父親殺しが! 自分のしたことを棚にあげて!!」
「か、会、長? リヴァルもシャーリーも、ニーナまで、どうして……?」
 スザクと同じようにして振り返ったカレンが問い掛けた。
「決まってるだろ、ゼロを救うために」
 リヴァルのその答えにスザクは目を見開いた。
「皆、まさかルルーシュがゼロだってことを知って……?」
 震える声でスザクが問い掛ける。
「決まってるじゃない。だからルルを、浚われてしまったナナちゃんを救うためにここに来たのよ」
「なんで皆が! おかしいじゃないか! ルルーシュはゼロなんだぞ! ユフィを殺した、ユフィに大勢の日本人を殺させた張本人なんだぞ!」
 スザクが声を張り上げる。
「それがどうしたの? ルルーシュ君は、いいえ、ルルーシュ様はご自分の望みを叶えようとしただけ」
「ブリタニアの皇室から隠れずに、平穏な生活を手に入れるために()ち上がっただけ」
「子供だったとはいえ、貴方のように短絡的に父親を殺すような坊やとは違うわ」
「何故会長たちがそんなことまで知ってるんです?」
 まるで何もかも見通しているかのようなミレイたち生徒会のメンバーの言葉に、カレンは疑問を持った。
「決まってるでしょ、私たちこそが黒の騎士団の本当の幹部だからよ」
「なんだって!?」
「カレン、扇グループとかいう元をただせば小さなテログループが、本当に黒の騎士団の幹部だと思ってたの?」
「そ、それって……」
「黒の騎士団はカワグチ湖で表に出たけど、実際にはその前から活動してたのよ」
「全ては、ルルーシュ様とナナリー様の生活を守るため、そのために私たちは黒の騎士団として活動を始めた。扇グループを利用しようと言い出したのはこの私」
「会長が!?」
 スザクもカレンも信じられないというような顔でミレイをはじめとするメンバーを見た。
「だってその方が活動しやすいじゃないか。日本解放っていう隠れ蓑が出来るし」
「リヴァル! 貴方たちは私たちを利用したの!?」
「だからさっきルルーシュ様が言われたでしょう。ルルーシュ様の目的を達成する途中で日本は解放される。それはつまり貴方たちの目的が達成されるってこと」
「ギブアンドテイクよ、何事も」
「そしてね、父親を殺して日本を敗戦に導いたスザク君、貴方にルルーシュ様を否定する権利なんかないのよ」
「確かに貴方の父親が死ななくても日本は敗戦してエリアになっただろうけど、でも、人を殺して生きている人間に、他の人の存在を否定する権利なんてない」
「ましてやおまえは日本人であることを自ら捨てて名誉ブリタニア人になって、かつての同胞を殺し続けてる。そんな人間の一体何処に、ルルーシュの存在自体が間違ってるなんて言う権利があるんだ? 是非ともおまえのご高説をお聞かせいただきたいものだな」
「カレンもね、普段はブリタニアの令嬢を装っていながら、裏ではテロリストをしているんだから、他の人間が裏で何をしていようと、それを責める資格なんかないのよ。それとも自分は良くて他人は駄目だなんて、そんな自分勝手なことを言うのかしら?」
 ミレイたちは銃を構えたままゆっくりとカレンの傍に、そしてスザクの元に歩を進めた。
「さあ聞かせて貰おうか、おまえの身勝手なご高説を」
 リヴァルがスザクに向けて言い放つ。
「ルルーシュは! ルルーシュはユフィを殺したんだぞ! あんなに日本人とブリタニア人の共存を望んでいたユフィを! そんな奴の何処に生きる権利があるっていうんだ!」
 リヴァルはスザクの答えに呆れたように、あからさまな溜息を吐いてみせた。
「それを言うのか、父親を殺し、同胞である日本人を殺し続けてきたおまえが?」
「僕はルールに則っているだけだ!」
「なら私たちもルールに則っているだけのことよ。ブリタニアのルールは一言で言えば、力が全て」
「それはつまり私たちが強者になればいいってこと。強者になれば、誰に怯えることもなく暮らしていける」
「だから私たちは黒の騎士団を創ったのよ、私たちが強者となるために。そしてルルーシュ様とナナリー様が安心して暮らせる世界を創るために」
「ユーフェミア様のことは気の毒だったとは思うけど、殺されたってことは結局弱かったから」
 ニーナの言葉にスザクの瞳がカッと見開かれた。
「それに一つ聞きたいんだけど」
 ミレイが首を傾げてスザクを見た。
「ユーフェミア様が殺された時、ボクは何処にいたの? ユーフェミア様の騎士ということは、その傍で主を守るのが役目。でもユーフェミア様がゼロの手にかかった時、貴方、ユーフェミア様の傍にいなかったわよね。それの何処が騎士なのかしら?」
「!?」
「貴方が本当にユーフェミア様の騎士だっていうなら、ユーフェミア様の傍にいて守っていたはずだよね」
「ぼ、僕は……」
 ミレイとシャーリーの問い掛けに、スザクは答えを持たなかった。何故なら確かに彼女たちの言うように、ユーフェミアがゼロに撃たれた時、その傍に自分はいなかったからだ。
「主を守ることの出来ない騎士なんてブリタニアの騎士じゃない。所詮おまえは騎士のなんたるかを知らない、まがいものの騎士でしかなかったのさ」
「リヴァル!」
 まがいもの、との言葉に、スザクは手にしていた銃をリヴァルに向けていた。
 自分はまがいものなんかじゃない、間違いなくユーフェミアの騎士だと。
「常に主の傍らにあり、己の命を懸けても主を守るのが本当の騎士。それが出来ずに、主の許可があるからとはいえ、主の傍を離れて学園に通い続け、傍にあるべき時にあることもせず、主であるユーフェミア様は死に、おまえは生きてる。それがおまえが本物の騎士ではない何よりの証拠だよ」
「僕はユフィの騎士だ!」
「主を愛称で呼ぶ騎士なんて、そこから間違ってる」
「ところでカレン、貴方、ゼロの親衛隊長でしょう?」ミレイがカレンに向けて問い掛けた。「なのにゼロの正体がルルーシュ様だからって、それが分かったからって、利用していたの、なんて何を言ってるの? 貴方の役目はゼロを守ることでしょう? 自分たちが利用されただけだなんてスザクに言いくるめられて、ゼロであるルルーシュ様を守ろうとしないなんて、それの何処が親衛隊長なのかしら?」
「だ、だって、ルルーシュは現に私たちを利用して……」
「ルルーシュ様は仰ったわよね、目的の途中で日本は解放されるって。きちんと貴方たちの目的に付き合ってあげてるじゃない」
「それにさっき言ったじゃない。この世はギブアンドテイク、片方だけがいい思いをするなんてこと、ないんだよ」
 シャーリーとニーナはいつの間にかカレンの傍らに、そしてミレイとリヴァルはスザクの直ぐ傍まで来ていた。
「銃をこちらに渡しなさい。そうしたら命だけは助けてあげるから」
 ミレイはカレンを見、そして次いでスザクを見てそう告げた。
 遺跡の扉の前、ルルーシュは生徒会のメンバーが姿を現した時から、一言も口にすることなく、ただ彼らの遣り取りを黙って見つめている。
 シャーリーは殆ど力を失くして呆然としているカレンから銃を取り上げた。
「さあ、後はおまえだけだぜ、スザク」
 スザクに銃を向けるリヴァルの声が、やけに大きく洞窟内に木霊した。

── The End




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