“悪逆皇帝”と呼ばれたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがゼロによって殺されて以降、世界は民意が反映されるようになった。
それも全てはルルーシュの遺産であることに気付いている者は殆どいない。彼は一人の独裁者による政治ではなく、民衆の意見が取り入れられる、人に平等な優しい世界を目指し、その種を植え付けた後で、己がゼロという民衆の望む英雄に倒されることによって、そのような世界を遺したのである。 故に各国の首脳たちは、常に民意に曝され、過ちなど犯せない状況におかれていた。
それはいかなる国においても同様である。
例えば、黒の騎士団の事務総長だったというその肩書だけで、戦後、合衆国日本の首相にまで登りつめた扇要。民衆が彼を選んだ時、彼に一国の首相たる資格があると本当に信じられていたかといえば、否、ということになるだろう。ただ単に黒の騎士団の事務総長だったというそれだけで、名前だけが先行し、それなりの能力があってのことと判断されただけで、正直、彼が政治家として有能かどうかということは民衆には分かっていなかった。故に彼が首相となって以降、新しいブリタニアの代表となったナナリーヴィ・ブリタニアと良好な関係を持ったことはさておき、それ以外の内政に関していえばマイナス点しか付けられていない。
扇はかつてゼロが唱えた「人種にこだわらない」という点を失念していた。確かにブリタニアとは良好な関係を築きあげはしたが、それは外交上のことであって、国内にいるブリタニア人に対してどうかといえば、かつての虐げられてきた意識から抜け出せず、ブリタニア人に対しては必然的に圧政を強いている。日本人に対するよりも税率が高いのがそのもっとも顕著な例だろうか。そしてまた、民衆もエリアでいる間、ナンバーズとして虐げられ続けた意識から抜け出すことが出来ず、ブリタニア人に対する暴行が横行していた。そしてそれに関する取り締まりは殆ど曖昧にされている。従ってこの点に関していえば、扇のとっている政策と民意とは掛け離れてはいない。一部の識者たちから苦言を呈されても、逆にその識者たちが非難を浴びる状態である。故にその点は未だ失点とはなってはいない。
しかしそれ以外はどうか。戦後、復興しなければならないかつてのゲットーの整備は遅れに遅れている。何処から手を付ければよいのか分かっていないというのが実情である。そしてまた民衆の間にゲットーの復興に応えられるだけの能力が欠けていたことも挙げられる。それだけブリタニアの支配下にある間に、日本の産業はずたずたにされたのである。それならばブリタニアの企業の力を使えばよいだけの話なのだが、そこにヘタなプライドが邪魔をして、ブリタニアの力など借りられるかというように、はなからブリタニア企業は除外される。そういったことが続けば、ブリタニアの企業は必然的に日本を去り、結果として税収は下がる。それはつまり国内整備のために必要な財源がそれだけ失われること、雇用が失われること、つまり失業者がそれだけ増えること、結果、復興が遅れることを意味するのだが、扇にはそこまで考えが至らない。
そして民衆はどうかといえば、当初こそ扇のブリタニア人に対する態度に共感を覚え支持していたが、次々とブリタニア人が日本から去ることにより、就職先が失われて失業率が上昇し、また、それに伴う税収の不足を補うために必然的に未だ貧しい日本人たちに対する増税策が取られることとなり、そしてまた、そこまでしても思うように復興が進まないことから、次第に民意は扇から離れつつあった。一刻も早く復興を遂げなければならない状況において、満足にその指示を与えることの出来ない扇に対して、民意は離れ始めていた。
一方、中華においては、問題は象徴たる天子の年齢である。政治は長いこと、大宦官たちによっていいようにされ、天子は傀儡とされ、為政者としての真面な学習を受けていない。必然的に周囲の大人たちがこれにあたることになる。しかしその周囲の人間が為したことでも、最終的な責任は天子にいくのである。
中華連邦であった時代と殆ど変らぬ貧困な生活、極一部の者だけが贅を極める生活、それに対して民衆が叛意を示すのは当然のことであったのかもしれない。ゼロによって政治への民意の反映を示された後だけに、余計にその傾向は強くなっている。
また、ブリタニアにおいては、今は亡きルルーシュの意図せぬナナリーの代表就任を受けて、国内政治は混乱していた。ルルーシュはかつてのエリアをその復興の度合いを確かめながら順次解放していくようにと、ゼロとなったスザクに言い残していたのだが、ナナリーは各国の要望があるのだからと、ゼロの反対を押し切ってエリアを即時解放してしまったのである。これに困ったのは現地に入植しているブリタニア人たちである。突然のエリア開放、それにより、今までナンバーズとして虐げてきた相手から、逆にブリタニア人であるということだけで暴行を受けたり、国家から犯罪者のように扱われたりと、真面な対応を取ってもらうことを望めず、必然的に皆本国へ帰還することとなる。しかしそうやって大量に帰国してきた民衆に対してナナリーが何を為せたかといえば、殆ど何も対処出来なかった。富裕な者はまだいい。しかし中には命からがら、殆ど身一つで本国に帰国したような者もいた。そんな突然の人口の増加に対して、住宅の供給不足、仕事の不足、そうした人々に対する援助の遅れなど、挙げればきりがない程に対応が遅れていた。ゼロの参謀役として残された、ギアスに掛けられたシュナイゼルの手腕をもってしても、これは想定外のことであり、如何に優秀といわれるシュナイゼルにしても全てに完全に対応しきることは出来なかった。ましてやゼロはブリタニアにばかり構ってもいられないのだ。そうなればゼロの参謀役であるシュナイゼルも必然的にブリタニアにだけ固執しているわけにはいかず、民衆の不満はナナリーにぶつけられる。それでなくとも帝都であったペンドラゴンを失い、それはルルーシュが存命している間に新首都となったブラニクスによって補完されてはいるが、完全には至っていない。そしてそのペンドラゴンの消滅に関して、フレイヤ弾頭によるものだということが明らかになってしまってはたまったものではない。当時フレイヤ弾頭を所持していたのは、ナナリーを第99代皇帝として擁したシュナイゼル陣営だけであり、必然的にペンドラゴンにフレイヤを投下して消滅させたのはナナリーということになる。自国の首都に大量破壊兵器を投下するような人物を、果たして代表として仰ぐことが正しいといえるのか。答えは否である。たとえどのような理由があれ、自国の帝都を爆撃し、平然と代表の座に治まっている者の神経を疑う民衆が殆どだった。
多かれ少なかれ、各国の首脳たちは民衆の意に沿う政治を行えているか否かが問われてくる。そうしてそれに反した者たちは、やがて大きな民意の下に政権の座から追われていくこととなる。
特に大きな問題を抱えるブリタニア、ついで合衆国中華、合衆国日本は、それぞれの代表が本当に相応しい人物であるのか、必然的にそれを見る民衆の目は厳しいものとなっていく。
代表たちの執る政策がとても相応しいものではない、認められるものではないとなれば、民意は彼らをその座から引きずり落とすだろう。そしてそこには既にゼロの介入する余地はない。ゼロこと枢木スザクは、ルルーシュの意に反して自分の手から離れてしまった事態に対して、シュナイゼルを擁してすらなんら友好的な手を打つことも出来ず、ただ民意を受け入れるしかない。
各国の代表の上には、民意と言う名のダモクレスの剣が下げられている。その剣が落ちるのは、決してそう先のことではないだろう。彼、彼女らの無能さ、無知さ故に。
── The End
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