友人の真意




“悪逆皇帝”と呼ばれたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがゼロによって殺されてから暫く経って世界が落ち着いた後、トウキョウにある私立アッシュフォード学園を一組の男女が訪れた。二人は真っ直ぐに生徒会室のあるクラブハウスを目指した。そこに彼らの目的とする人物がいることを願いながら。
 中に二人の人の存在を察し、それが目的の人物であればと思いながら、男が扉を軽くノックした後、返事を待たずにその扉を開けた。
 そこにいた突然の侵入者を待ち構えていたのは、生徒会役員のリヴァル・カルデモンドと、かつて生徒会長を務め、今は既に卒業して生徒会役員ではないが、TV局のキャスターを務める、このアッシュフォード学園の理事長たるルーベン・アッシュフォードの孫娘であるミレイであった。
 侵入者である二人は、目的の人物二人共が揃っていたことに、他に人がいないことに、安堵の溜息を吐いた。
「あ、あんた、ルルーシュの……」
 リヴァルがミレイを後ろに庇いながら、震える指先で侵入者の男性── ジェレミア・ゴットバルト── を指差した。
「そうだ。そして彼女はC.C.という」
 そう言って、ジェレミアは己の隣に立つライトグリーンの髪を持つ少女を紹介した。
「い、一体、おまえらが何の用なんだよ!?」
 震える声で、それでも気丈にリヴァルが問い掛ける。
「ルルーシュ様の友人であった貴公らだけにでも、ルルーシュ様の真意を知っておいていただきたいとこうしてやって来た」
「ルルーシュの?」
 そうミレイが口にしたと同時に、ジェレミアの顔半分を追おう仮面の瞳の部分が光った。
「な、何、これ?」
「何だよ、これ!? ルルーシュが、ロロがルルーシュの弟じゃないなんて……」
「一体何故? 私たちアッシュフォードはルルーシュ様を護れなかったのですね……」
 ミレイの頬を一筋の涙が流れる。その様子を見ていたジェレミアが告げる、ルルーシュの真実を。
「母君であるマリアンヌ皇妃を亡くされた後、ルルーシュ様は、当時既に緊張関係にあった日本に、友好親善のための留学という名目で、人質として妹君と共に送られた。しかしブリタニアは日本に侵攻し、」
「それを救い出したのがおじいさまですね?」
「そうだ。それからアッシュフォードは二人にランぺルージという偽りの戸籍を用意し、設立したアッシュフォード学園で匿っていた」
 C.C.と呼ばれた少女がミレイの言葉の後をついだ。
「しかし、いつまでも隠れ住むことが出来る状態ではないと見てとったルルーシュ様は、ナナリー様の望んだ“優しい世界”を創り出すためにゼロとなった」
「ルルーシュがゼロ!? じゃあ、今のゼロは……?」
「話は最後まで聞け」
 C.C.が釘を差す。
「ブラック・リべリオンでナナリー様を浚われたルルーシュ様は枢木スザクによって捕えられ、皇帝の元に連れだされ、皇帝によって記憶を書き換えられ、偽りの弟であるロロをはじめとした監視役によって24時間の監視生活を余儀なくされた。しかし黒の騎士団の残党によって救い出され、C.C.によって失っていた記憶を取り戻したルルーシュ様は再びゼロとして()ち上がった。だがエリア11に総督としてやって来たナナリー様と対決することを良しとせずに中華に亡命して蓬莱島に拠点を移し、やがて対ブリタニア勢力として超合集国連合を創り上げた。
 そして超合衆国連合最高評議会による決議のもと、第2次トウキョウ決戦に持ち込んだが、フレイヤを投下され、ナナリー様を失ったと思われたルルーシュ様の気の落ち様は見ていて痛くなるくらいだった。そんな中、シュナイゼルたちが斑鳩を訪れ、黒の騎士団の日本人幹部たちはゼロの正体を知り、裏切り者として処刑しようとした。それを命懸けで救い出したのがロロだ。
 しかしルルーシュ様を救うことには成功したものの、結局、ロロは死亡し、一人になったルルーシュ様は全ての元凶である皇帝とたった一人で対峙され、これを弑逆、自ら皇帝の地位に就かれた。全ては“ゼロ・レクイエム”と呼ばれる計画を実行に移すために」
「ゼロ・レクイエム?」
 その言葉の響きに暗い印象を受けながらミレイは反芻した。
「自ら世界を征服し、最後は“悪逆皇帝”として、復活したゼロの手にかかることによって、憎しみの負の連鎖を断ち切り、“優しい世界”を遺されようとしたのだ」
「そんなバカな話、どうやって信じろっていうんだよ!」
 叫ぶリヴァルに、駄目押しというようにC.C.がリヴァルとミレイの手を取り、己の中にあるルルーシュの記憶をその力で流し込んだ。
「ば、バカな……」
「バカだよ、ルルーシュの奴。そんなことで世界が変わるなんて……」
 リヴァルとミレイの頬を涙が伝う。
「それに今のが真実なら、ナナリーは、スザクは、それにカレンは、一体何なんだよ! ナナリーはルルーシュの遺した世界に胡坐をかいて、スザクは親友という言葉に甘えてルルーシュの本質を見ようとせずに裏切って皇帝に売り渡した挙句、最後には命まで奪って。カレンだってそうだ。一度は自分からあいつを見捨ててスザクのされるままにして、それでもやっぱりルルーシュが必要だって、再び戦いの道に引きずり込んでおきながら、そして黒の騎士団の中ではルルーシュの本当のことを知りながら黙り続けて、自分の理想ばかりを押し付けて、勝手に裏切り者と罵って殺そうとして、それでいながら平気な顔をして、当然のように学園に復学してくるなんて、普通の神経だったら、そんなこと出来っこないのに!!」
 怒りを、自分の気持ちを何にぶつけたらいいのか分からないようにリヴァルは叫んだ。
「ルルーシュ様の決意を私たちは変えることが出来なかった。神根島の後は、ただただゼロ・レクイエムのためだけに生きておられるルルーシュ様を止めることは出来なかった。だが我々関係者の他にも誰か一人でもいい、ルルーシュ様の真意を知っていて欲しかった。今日この学園を訪れたのはそのためだ。
 どうか、世間のルルーシュ様に対する“悪逆皇帝”などという言葉に騙されてくれるな。ルルーシュ様程、この世界のことを思っていらした方はいらっしゃらない」
「……私たちは、皇帝ではない、ただのルルーシュを知っています。確かに彼は嘘を、アッシュフォードの用意した嘘をついていましたけれど、彼の優しさに偽りはありませんでした。だからこそ、私たちは“悪逆皇帝”と呼ばれる彼を信じることが出来ませんでした。
 でも全てを知った今は違います、ルルーシュはやはり私たちの知るルルーシュだった。それを知るのが、ルルーシュの同志だった貴方たちと、私とリヴァルの二人だけでも、それでも、彼の真実を知ることが出来たことを嬉しく思います。
 そしてルルーシュの友人としてではなく、一報道人たるミレイ・アッシュフォードとして、今直ぐには無理でも、いつか、きっといつの日にか、彼の真実を世界に知らしめたいと思います」
 涙を流しながら決意したようにそう告げるミレイに、ジェレミアとC.C.は、そして傍らで聞いていたリヴァルは黙って頷いた。

── The End




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