今は合衆国ブリタニアとなった、かつての神聖ブリタニア帝国の最後の皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、ぜロの手にかかってその命を落として一年目のその日、今や世界の中心となった超合集国連合は、それを記念して、外部機関である黒の騎士団の幹部たちも招いて、ルルーシュのために死んでいった多くの人の死を悼み、今後の世界の在り方、進め方を決めるために、常の蓬莱島の本部ではなく、東京にある私立アッシュフォード学園で会議を開催した。
アッシュフォード学園も以前とは随分と様変わりを見せている。学園に通う日本人の姿を多く見出すことが出来た。もともとアッシュフォード学園は開かれた学園であり、日本人も能力さえあれば比較的入りやすい学園だったことも起因している。
臨時の会議場となっている体育館── そこはかつて皇帝ルルーシュを迎えた場所でもある── で、先に亡くなった人々に対して深い哀悼の意を表し、ライトが落とされ、一分間の黙祷が捧げられた。
そのライトが点いた時、中央に彼らの見知らぬ人々の姿があった。
いや、誰もが知らないわけではない、知っている者もいる。ことにその中の一人、ライトグリーンの髪の少女は、名は知られずとも、かつて常にゼロと共にある姿をよく見られていた存在だ。
「C.C.!」
「ジェレミア・ゴットバルト!」
「咲世子さん!」
いずれも黒の騎士団の元、あるいは現役の日本人幹部たちからの声である。
評議会を構成する各国の代表たちの視線が、彼らに集められる。
「今日はおまえたちに真実を教えてやろうと思ってな、わざわざ足を運んでやった」
C.C.が横柄そうにそうのたまわった。
「今どうしておまえたちがこうも呑気にしていられるのか、その真実をな」
C.C.のその言葉に、今は合衆国日本の初代首相となっている扇要も、黒の騎士団の幹部たちも顔色を変えた。今になってゼロがルルーシュであったことをバラそうというのかと。
しかしC.C.たちが狙っているのはその程度のことではない。
ジェレミアの仮面の中の瞳が煌めき、その輝きが会場内を覆った。しかしそれは一瞬のことで、さしたる変化はなかった。だが二人だけ、表情を変えた者がいた。黒の騎士団のエースパイロットである紅月カレンと、今は扇の妻として、“千草”と名乗っているブリタニアの元男爵ヴィレッタ・ヌゥである。二人は何をされたわけでもないのに、記憶の中から欠けていた記憶を今鮮明に思い出していた。
カレンはルルーシュから、自分が何故テロリストをしているのかを聞かれていた。
千草はKMFの情報を述べ、そのキィをルルーシュに手渡していた。
「な、何、これ?」
カレンのその呟きなど解さぬように、C.C.がその両手を広げた。C.C.の額に赤い紋章が浮かび上がり、ライトグリーンの長い髪の毛が舞った。
「な、何だ!?」
その扇の叫びを最後に、そこにいた者たちの意識は飛ばされていた。
少年の前で息絶えた、ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの第5皇妃マリアンヌ。その手の中では幼い少女が両足から血を流し、震えていた。
神社の古い土蔵の中、世話をする者の一人もなく、僅か10歳になるかならぬかの少年は、必死に目が見えず足も動かぬ妹を守っていた。
戦後の焼け野原の中、少年は決意した。
「ブリタニアをぶっ壊してやる!」と。
そして何の変哲もない高校生となった少年と、中学生になった少女。二人はアッシュフォード学園のクラブハウス内にある居住棟で起居していた。
ある日、事故に巻き込まれ、少年は総督であるクロヴィスの親衛隊の前に殺されそうになっていた。それを守ったのはライトグリーンの髪の少女。彼女は少年の前に立ちふさがり、少年に変わって銃弾をその身に受けた。
『力が欲しいか』
少女の言葉が少年の脳裏に響き、少年は頷き、倒れゆく少女の手を取った。
それが全ての始まり。
少年が自分を狙うクロヴィスの親衛隊員たちに向かって何かを告げると、彼らは自ら、その頭を撃ち抜いて死んでいった。それを確認すると、少年ンはクロヴィスのいるG1ベースへと向かい、そしてクロヴィスの命を奪った。
少年は頭の全てを覆う漆黒の仮面と、同じく漆黒の衣装を身に纏った。
ブリタニア軍はクロヴィス暗殺の容疑者たる枢木スザクを連行し、大通りを進んでいた。それを黒に身を包んだ少年が救い出す。
その後、カワグチ湖で開催されたサクラダイトに関する会議の場に姿を見せた一団の者たち。それは、枢木スザクを救い出す際に“ゼロ”と名乗っていた少年と、“黒の騎士団”と名乗りを上げた者たちだった。そしてゼロは告げたのだ。自分たちは正義の味方であり、たとえ何者であろうと、悪を許さない。巨悪には、これに悪をもってしてでも滅ぼすと。
それを皮切りに黒の騎士団の活躍が始まる。
キョウト六家の援助を受け、日本解放戦線の“奇跡の藤堂”を助け出すべく行動した。彼らは無事に藤堂を救出、確保し、同時に彼らの前に常に立ちふさがる、彼らが白兜と名付けたブリタニアのKMFのデヴァイサーの正体を知る。それはゼロとなった少年の幼馴染であり、日本を、祖国を捨てて名誉ブリタニア人となった枢木スザクだった。 その日のことをきっかけに、枢木スザクはエリア11副総督たる第3皇女ユーフェミアの騎士となった。
やがてアッシュフォード学園におけるユーフェミアの“行政特区日本”設立宣言。しかしその特区はユーフェミアによって虐殺の場と化した。仮面を取り素顔を晒したゼロが、ユーフェミアの手を取ろうとしたその矢先に。 特区虐殺をきっかけとして開始された、日本解放のための一斉蜂起たるブラック・リべリオン。しかしその作戦の最中、ゼロとなった少年の妹は浚われ、少年はその後を追ったが、さらにその後を追って来た枢木スザクによって撃たれて仮面を割られ、その存在そのものを否定する言葉をもって罵られ、少年は再度撃たれて倒れた。その場にいた黒の騎士団の一人、ゼロを追って来た、ゼロの親衛隊長である紅月カレンは、知ることとなったゼロの正体に、そして目の前で起きた出来事に、逃げ出すようにしてその場を離れた。
枢木スザクによって拘束服を着せられ、床に這いつくばらされて皇帝シャルルの元に引きずり出された少年。
少年が枢木スザクに「友達を売るのか!」と叫ぶ中、皇帝の両目が朱に光った。
それから少年は妹ではなく、それまでいなかった弟と共に、以前と同じようにアッシュフォード学園のクラブハウスで過ごしていた。しかし賭けチェスに訪れたバベルタワーでのテロに、少年の運命は変わる。
少年はライトグリーンの髪の少女によって失われていた記憶を取り戻し、再びゼロとして起ち上がり、ブリタニアに囚われていた黒の騎士団の団員たちを解放した。
そしてバベルタワーでのテロ行為の中で死んだカラレス総督に代わって、新たにエリア11に総督として赴任してきた、一年前まで少年の妹だったはずの少女。
少女によってゼロの否定され、差し伸ばされた撥ね退けられ、少年は一度はリフレインに手を出そうとする程までに落ち込んでいた。
だが少年は立ち直った。ゼロである少年の親衛隊長たる少女は、少年を煽り立てた。「人々に夢を見せた責任を取れ」と。かつて、一度は彼女自ら見捨てた存在である少年に対して。
しかし確かに少女が告げた通り、今やゼロとなった少年は、妹の望む“優しい世界”を生み出すためだけに存在するのではない。彼を信じ、必要とする多くのイレブンのために存在するのだ。しかし妹と対することを避けた少年は、100万の人々を率いてエリア11を去った。
その後、中華連邦の天子とブリタニアの第1皇子オデュッセウスとの婚儀を破談に追い込み、日本と中華を中心として、多くの国々を巻き込んだ対ブリタニアのための一大組織“超合集国連合”を創りあげた。
そしてその最高評議会で最初に決議された日本奪還作戦。その戦いの前、少年は枢木スザクに妹のことを頼むために二人だけで枢木神社で会ったが、枢木スザクは少年の頼みごとなど知らぬ気に、少年の頭を踏みつけ、地面に押し付けた。そこに現れたブリタニア軍。
「裏切ったな、俺を!」
「もう人を信じることはやめたのです。友情は裏切られたのだから」
少年の叫び、心を失った言葉。
かろうじて囚われたブリタニア軍から逃れた少年は、ゼロとしてトウキョウ租界方面に配備していた黒の騎士団に命令を下した。第2次トウキョウ決戦の始まりである。
そんな中で投下された大量破壊兵器フレイヤ。街中で発射されたそれに、政庁を中心としてトウキョウ租界の半径10q四方が消失した。そんな中、少年が半狂乱で叫ぶ。「ナナリーを探せ!」と。
意気消沈して斑鳩に戻った少年は自室に閉じこもったが、ブリタニア軍に囚われており、今回の作戦の中で救い出されたカレンによって、4番倉庫に連れ出された。
そこで少年を待っていたのは、少年に対する罵詈雑言の嵐と、同じく彼に向けられた銃の列だった。
自暴自棄に陥っていた少年は彼らを煽るような言葉を口にした。妹亡き今、彼に生きる理由はなかったから。
しかし少年は救い出された、偽りの弟によって。そして少年の変わりに、その弟が息絶えた。
神根島でブリタニア皇帝シャルルと対峙する少年。彼は神に望んだ、人の刻を止めないでくれと、必死に。赤い鳥が舞い、シャルルたちの姿は足元から消え去っていった。
シャルルを弑し、少年はブリタニア皇帝となった。彼は数多の皇族や貴族たちを自分に従わせた。ギアスという、彼が神に掛けた願いではなく呪いによって。
そうして少年はシャルルの元での古く悪しきブリタニアを壊すべく、ナンバーズ制度を廃し、皇族や貴族たちの既得権益を廃し、財閥を解体した。それにとどまらず、彼は超合集国連合への参加を表明した。
その参加の有無を決めるために開かれたアッシュフォード学園での臨時最高評議会。しかしそこで少年を待っていたのは、少年を檻に閉じ込め、本来発言権のない黒の騎士団幹部たちからの罵詈雑言と内政干渉以外のなにものでもなかった。少年の騎士となった枢木スザクが愛機ランスロットによって駆け付け、囚われの皇帝を、少年を救い出す。
だがそこで待っていたのは、ペンドラゴンにフレイヤが投下され、帝都が消滅したという事実だった。さらにはそれに矢を掛けるように、死んだとばかり思われていた彼の妹からの「敵」発言。
少年は彼の妹である少女こそをブリタニアの皇帝に相応しいとして擁する元帝国宰相シュナイゼル、そして彼が製造させた天空要塞ダモクレスで少年に挑んだ。少年に対したのはシュナイゼルだけではない。黒の騎士団もだ。
少年は開発させたアンチ・フレイヤ・システムであるアンチ・フレイヤ・エリミネーターを用いてそれを無効化し、その隙にダモクレスに侵入、シュナイゼルをギアスの支配下に置き、ダモクレス内の庭園にいた妹からフレイヤの発射スイッチを奪った。妹から「卑怯者」との罵りを受けながら。
そうして迎えたトウキョウ租界での戦勝パレード。それは同時にフジ決戦で敵対した者たちへの処刑パレードでもあったが、実態は大きく異なる。
少年は最初からそのつもりだった。自分と変わってゼロとなった枢木スザクの前に自らその身を差し出し、息絶えた。全ては“優しい世界”を望む妹のため、そして世界のために、少年は自らそのための人柱となったのだ。
会場内の大きなスクリーンには、かつてディートハルトが映像に残した4番倉庫の様が映し出されていた。
「さて、どうです?」
一人の眼鏡を掛けた白衣を纏った男が、その場にいる人々に問い掛ける。
「皆さんが今実感されたことは決して作り事なんかじゃありませんよ。全て事実です。ゼロは騎士団の裏切りにあい、帝都の億に上る民を一瞬のうちに殺され、それまで誰よりも愛し慈しんでいた妹から卑怯な敵とされ、世界のために新たにゼロとなったスザク君によってその命を散らした。そんなたった一人の少年の犠牲の前に成り立った今の世界は、果たしてそれだけの価値があるのでしょうか。裏切り者を英雄と祭り上げ、真に世界のことを誰よりも考えていたルルーシュ陛下を、その真実を何も知ろうともせずに“悪逆皇帝”と罵り続け、大量虐殺犯を聖女と謳う世界の何処に?」
「我々は今後の世界に介入するつもりはない。ただ我々は、今なお口汚く罵り続けられるルルーシュ様の真実を知っていただきたかっただけだ」
「おまえたちが今後どうしていくか、私たちは世界の片隅でしっかりと見させてもらう。けれど今回の件をもってしても何も変わらぬならば、その時は、私たちは例えルルーシュの意思に反そうともこの世界をぶっ壊してやる」
ライトグリーンの髪の少女の言葉を最後に、彼らの周りに煙幕が張られ、それが消えた時には彼らの姿は掻き消えていた。
会場内に流されたディートハルトの遺した映像は、マスコミを通して世間にも流されており、その映像が齎した内容に、人々は驚きを隠せずにいた。
やがてその映像によって真実を知った気になった民衆は、アッシュフォード学園に押し掛ける。
民衆の怒声が聞こえてくる中、合衆国日本の代表であり評議会議長でもある皇神楽耶と、その日本の首相たる扇要、そして黒の騎士団の日本人幹部たち、さらには世界が“悪逆皇帝”と最後まで戦った聖女として持て囃した、真の大量虐殺者たるブリタニア代表のナナリー・ヴィ・ブリタニアに対して、他の国々の代表である議員たちから、言葉は発されなくとも、冷めた突き刺さるような視線が送られる。
それから数日後、神楽耶は合衆国日本代表の座を辞し── もちろんその前に評議会議長の座も他の議員に譲っていた── 蟄居した。首相であった扇は最後まで見苦しく足掻いたが、与野党の一致した結論の元に首相の座から引きずり降ろされ、黒の騎士団の日本人幹部たちも査問会に掛けられるべく、評議会の名によってその身柄を押さえられ、ブリタニア代表であるナナリーは、この一年の間ゼロとしてあった枢木スザクと共に姿を消した。その行方は知れない。ナナリーとスザクが己の犯した罪と真に向かい合い、その罰を受ける日はあるのだろうか。
一握りの者たちによって明らかにされた真実を前に、世界は揺れ動き、超合集国連合と黒の騎士団は新たに生まれ変わるべく動き出した。今度こそ、世界はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが望んだような“優しい世界”を生み出すことが出来るのだろうか。
── The End
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