再 会




 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝となったオデュッセウス・ウ・ブリタニアは、超合集国連合に対し、会談の申し入れを行った。今後の世界のことで話し合いの場を持ちたいと、そう国務省を通して超合集国連合に働き掛けた。
 超合集国連合はオデュッセウスの真意を測りかね、どうすべきか、といったところから一歩も進んでいない。そして彼らは、本来、超合集国連合の外部組織であり、政治的発言権のない超合集国連合唯一の軍事組織である、黒の騎士団のCEOであるゼロに相談を持ち掛けた。
 これまでゼロは超合集国連合の存在感を立て、自分たち黒の騎士団はあくまでその外部組織に過ぎないとの立場を通していたが、実際のところは違う。評議会議長である神楽耶を通して、黒の騎士団の、否、ゼロの意思を評議会に通していたといっていい。そしてまた、超合衆国連合設立の経緯を考えれば、ゼロの表向きの立場とは別に、そこに参加する各国にしてみれば、彼は超合衆国連合にとって精神的支柱なのである。
 そこに今回は超合集国連合の方から話を持ち掛けてきたのだ。本来なら有り得ぬ事態であるが、それだけ超合集国連合の方でも、方策に困ってのことなのだろう。
 ゼロは望まれるまま、超合集国連合の最高評議会に参加した、ただしオブザーバーとして。
 一番の問題はシャルル亡き後に皇帝となったオデュッセウスの目的である。一体何を目的として超合衆国連合と話し合いの場を持ちたいなどと言ってきたのか。
 確かに、超合集国連合が結成されたことによって、世界はほぼ二分された形となったといっていい。
 片や多くのエリアを有する神聖ブリタニア帝国、片や多くの国々が参加する、悪い言い方をすれば寄り合い所帯の超合集国連合。そこで一体何を話し合おうというのか。
 確かにシャルル以後、オデュッセウスの御世になってからブリタニアは変わりつつある。かつてシャルルが唱えていた国是である“弱肉強食”は影を顰めつつある。少しずつではあるが、確かにブリタニアは変化しつつある。各エリアについても、未だナンバーズ制度はなくならないまでも、以前の苛烈さに比較すれば、その支配の在り方は温容になりつつある。そんなブリタニアが超合集国連合に何を望むのか、各国代表の議員たちはその真意を測りかね、どう対処すべきなのかを悩んでいるのである。
 そしてオブザーバーとして参加したゼロに意見が求められた。
「そうですね。明らかなのは、シャルル皇帝時代とは異なってきているということです。これは誰の目から見ても明らか。ここで何がオデュッセウス皇帝の目的なのかを議論していてもことは進まないでしょう。とりあえず、実際に会ってみるのも一興かと。ただしブリタニア国内ではなく、こちら側で」
 そうゼロは答えた。
 ゼロであるルルーシュにとっては、オデュッセウスは数いる異母兄弟姉妹の長兄であり、交流は殆どなかったが、その温和な性格はかつてから耳にしていた。父シャルルのような覇権主義、植民地主義ではないだろうとの思いがある。しかしそのオデュッセウスが何を望んでいるのかまでは、流石のルルーシュにも判断しかねた。それを判断するには、あまりにも情報が少なすぎる。第一、シャルルの死からして大いなる疑問があるのだ。宮廷内で事故というのは考えにくいし、あの頑健さを思えば、突然の病死というのも怪しい。一番考えられるのは暗殺である。しかしブリタニアは何事もなかったかのようにオデュッセウスを次の皇帝とし、国政に何ら乱れはない。そこから察するに、もし本当にシャルルの死が暗殺によるものであったなら、新皇帝となったオデュッセウス、もしくはその側近が一番怪しい存在となる。だがオデュッセウスの性格を考えれば、彼が暗殺などという手段を講じるとは考えにくく、それがゼロとしてのルルーシュの思考を乱していた。



 超合集国連合と神聖ブリタニア帝国皇帝オデュッセウスの会談は、超合集国連合最高評議会議場、そして黒の騎士団の本部がある蓬莱島にて執り行われることとなった。
 もちろん、敵対していた者同士の会談であるから、ブリタニア側、つまりオデュッセウスはそれなりの護衛を連れて来てはいたが、それはあくまで少しばかり過剰な護衛に留まり、ことさら超合衆国連合側を煽る程のものではなかった。何より場所が黒の騎士団の本部がある蓬莱島である以上、地の利は超合集国連合にある。
 今回の会談に当たっても、超合集国連合の要望、さらには何故かオデュッセウスの意向もあって、ゼロが参加することとなった。とはいえ、ゼロはオブザーバーの立場を崩さなかったが。
「超合集国連合最高評議会へようこそ、オデュッセウス・ウ・ブリタニア陛下」
 あくまで対等であることを主張するように、議長である神楽耶がオデュッセウスに出迎えの言葉を述べた。
「この度はお忙しい中、皆さまに時間を割いていただき、ありがたく思います」
「それで、此度の会談申し入れの意味はなんでしょうか?」
 余計な時間は取りたくない、と思ったのか、神楽耶は直球でオデュッセウスに尋ねた。
「私は先帝とは違います。これ以上、無益な争いは避けたい。そこで貴方方と会談を開き、今後のことについて話し合いたいと思った次第です」
「ではこれから先、今までのようなブリタニアによる侵略戦争は起こらないと、そう考えてよろしいのですか?」
「そう考えていただいて結構です。既にエリアとなっている地域に対しても、これからは順次ではありますが、今までのナンバーズ制度のような、極端な差別はなくしていく方向で考えています」
 オデュッセウスのその言葉に議場内がざわついた。
 オデュッセウスの言葉が真実ならば、信頼出来るものであるならば、今後、ブリタニアと戦端が開かれることはない。だが既にエリアとなっている国々はどうなるのか、その問題が残る。たとえ差別を撤廃されていくにしても、植民地であることに変わりはないのだ。
 その後、細かい点はそれぞれの担当官が当たるということで具体的な進展はなかったが、今後のブリタニアの大凡の在り方についてはオデュッセウスからの回答が得られた。
 しかしエリア解放まではオデュッセウスは言明しなかった。超合集国連合の一番の目的は、エリアとなった国々の解放にあるため、話し合いはそこで硬直したが、その日は一旦そこまでとして、会談は終わりとなった。
 夜になって、特に目立った進展はなかったものの、少なくとも今後は先帝シャルルの時代とは異なり話し合いによる解決が図れる可能性が出てきたことを祝い、またわざわざ蓬莱島まで足を運んだブリタニア皇帝へのねぎらいの意味も込めて、ささやかではあったが晩餐会が開かれた。
 主賓席に座るのは、議長である神楽耶と、今回の主役ともいえるオデュッセウスであったが、そのオデュッセウスの特別の要望があって、彼の隣にゼロの席が用意された。
 晩餐会が恙なく終了して解散となった時、立ち去ろうとするゼロにオデュッセウスが声を掛けた。
「ゼロ、君とは是非一度ゆっくりと話をしてみたいと思っていたんだ。これから少しどうかな?」
 周りにいた者たちがオデュッセウスのその言葉にざわめいた。
「……私はあくまで連合の外部機関のCEO、本来なら今夜の晩餐会にも出席出来るような立場ではありません。そんな私と一体何を話そうと?」
 オデュッセウスは小さな笑みを漏らした。
「だがこの連合を創り上げたのは実質君だろう、ゼロ。その頭脳、手腕、どれをとっても、一度直に話し合ってみる価値があると私は判断した。どうかな?」
 穏やかではあったが、それはゼロの否定の言葉を拒否するものといえた。
 ゼロは軽く溜息を吐いてから頷いた。
「分かりました、では少しだけ」
 ゼロの首肯に、オデュッセウスは神楽耶に声を掛けた。
「神楽耶殿、そういうわけだ。何処か部屋を用意してもらえないだろうか。出来れば私とゼロと二人だけで余人を交えずに話をしたい」
 余人を交えず、との言葉に神楽耶は驚きを隠せなかったが、ゼロがオデュッセウスの申し入れを首肯したこともあって、一番小さな会議室が二人のために用意された。



 部屋に入ったオデュッセウスは、扉がしっかりと閉められたのを確認してから、ゼロに声を掛けた。
「会いたかったよ、ゼロ。いや、ルルーシュ」
「!」
 突然予想もしていなかったその言葉に、ゼロ、否、ルルーシュは息を呑んだ。
「な、何を……」
「分かっているんだよ。君が私の異母弟(おとうと)であるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであることは」
「……」
 ルルーシュは仮面の下で冷汗を垂らした。
「君に会うために、君の望みを叶えるために、私は父である先帝シャルルを弑逆した」
「あ、貴方がシャルル皇帝を……?」
 オデュッセウスの言葉に、信じられないというようにゼロは動揺した。
「そう、私が弑した。父上がやろうとしていたことを止めるために。そして君と再び会うために」
「そ、そんな、どうして貴方が……」
「信じられないのも無理はないかもしれない。だが事実だ。私は人として許されざる大逆を犯そうとしていた、父である先帝を弑した。そして同時に、君に会い、叶うならこれからの時を共に過ごすために。君に、私がこれからブリタニアを治めていくための協力をしてほしい」
「大、逆?」
 父、すなわち先帝シャルルが何を為そうとしていたのか、ルルーシュはそちらに興味を惹かれた。
「神殺しだよ。信じられないかもしれないが、神とは人の集合無意識であり、父上はその神を殺し、人の意識を一つに纏めようとしていた。だがそんなことは許されることではない。それでは人の進化は止まってしまう。
 そしてもう一つ。シュナイゼルは父上の下、宰相としてエリアを増やすことをしてきた。そのような者をいつまでも宰相としておくのは、今後の方針を考えると対外的に格好がつかない。ブリタニアは変わった、変わっていくのだということが、内外に示せないからね。その点、君ならば今までブリタニアの政治に関わってきたことがないだけに他の国々からも受け入れられやすいだろう。君の能力は分かっているから何の心配もいらないしね。そして何よりも、私自身が君に傍にいて欲しいのだよ、ルルーシュ」
 愛しい者に告げるような最後の言葉に、ルルーシュは流されそうになった。
「ま、待ってください! 私はゼロです。超合集国連合の外部機関である黒の騎士団のCEOたるゼロです。貴方の異母弟などではない!」
 ルルーシュは必死にゼロとしてのスタンスを取った。だがそれもオデュッセウスから見れば可愛らしいことこの上ない。
「ブリタニアが今後他国と戦うことはない。少なくとも攻め寄せられてこない限りは。そうなれば、必然的に黒の騎士団の存在意義はなくなる。話し合いの場としての連合は残るだろうが。ならばその座を降りて私の元に来てはもらえないだろうか、ルルーシュ」
「わ、私は……」
 言葉が出てこない。
「今すぐに返事を、というのは無理だろう。だが私は本気だ、そのつもりで考えておくれ。ああ、それから、出来るなら一目でいい、君の顔を見せてもらえないだろうか」
 仮面を取れとの言葉にルルーシュは素直に従うことは出来ない。今の自分はオデュッセウスが何と言おうと黒の騎士団のCEOであるゼロでしかないのだから。
「ルルーシュ。この部屋を出たら無理は言わない。今一目だけでいい、君を確認させてくれ」
 再度の促しに、ルルーシュはゆっくりと仮面に手を掛けた。これがシュナイゼルであったなら決してそうはならなかったろう。だが温容なオデュッセウスの執拗な望みに、彼は抵抗しきれなかった。
 仮面の下から現れたのは、ルルーシュの今は亡き母マリアンヌによく似た面差しと、父シャルルに最も近いだろうロイヤル・パープルと呼ばれる紫電の瞳。
 オデュッセウスはゆっくりと両手を広げ、八年ぶりに会う異母弟をその腕に抱き締めた。
「これからブリタニアは変わる。変えてみせる。そのためにも君の力を貸しておくれ、ルルーシュ」
 ルルーシュの耳の傍で囁かれるその言葉に、思わずルルーシュは首を竦めた。
「待っているよ、ルルーシュ」
 その言葉を最後に、ルルーシュへの抱擁を解き、オデュッセウスは態度を変えた。
「次に会う時を楽しみにしているよ、ゼロ」
 そう告げて、オデュッセウスは部屋を出ていった。
 その背を見送りながら、ルルーシュは深い溜息を吐き出した。

── The End




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