「さて、と……」
ロイド・アスプルンドは己の他には誰もいない特派のトレーラに内にある己の研究室で、腰を降ろしていた椅子から立ち上がった。向かうは彼の開発した第7世代KMFのある格納庫。
ロイドの手には、そのランスロットのキィがあった。
チョウフ基地で、スザクの騎乗するランスロットで、テロ組織“日本解放戦線”の重要なメンバーの一人、“奇跡の藤堂”の異名をもつ藤堂鏡志朗の処刑が行われるはずだった。
しかしそれはその場に乗り込んできた藤堂の部下たちである四聖剣と、彼らに協力した黒の騎士団の手によって果たされることはなく、藤堂は奪われた。
その様をクロヴィス記念美術館のモニターで観ていた、エリア11副総督ユーフェミア・リ・ブリタニア第3皇女は、
「私が騎士とするのはあそこにいる方、枢木准尉です」
そうスザクを指示しながらマスコミに答えた。
ユーフェミアがスザクを騎士に任命したことが、ロイドが唯一主と認める存在にどのような影響を与えるかは、そう深く考えるまでもなく分かった。
ロイドの主── ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア── は、今現在、ルルーシュ・ランペルージという名で皇室から隠れ、かつてヴィ家の後見であったアッシュフォードの庇護下にある。
そのアッシュフォード学園に、スザクは皇族であるユーフェミアの、お願いという名の命令によって編入した。そこまでだったならまだ良かったかもしれない。
しかし皇女の騎士に任命された今、スザクに対する徹底した身辺調査が行われるだろう。そうなったら、必然的に彼の親友としてあるルルーシュ・ランペルージについても調べられるだろう。そしてその結果は、ルルーシュの存在を危険に曝すものになりかねない。
ましてや今はまだ多分にロイドのみが気付いていることであり、他の者は気付いていないようだが、ルルーシュは反ブリタニアのテロ組織、黒の騎士団の仮面のリーダー“ゼロ”である。
今までロイドはルルーシュのために進んで動いてはいなかった。何故ならルルーシュがそれを望まなかったからである。
ロイドはまだルルーシュが本国にいた頃から、ルルーシュの騎士になることを望み、彼にもそれを伝えていたが、肝心のルルーシュは頷かなかった。それはルルーシュの母であるマリアンヌが庶民の出であり、皇族たちの間では自分と妹が侮られた存在であることに気付いており、そんな自分のために、仮にも将来は伯爵となることが決定済みのロイドを、自分に縛り付けるようなことを避けようと思ったからかもしれない。しかしルルーシュが諾と言わずとも、ロイドの心は既にルルーシュの元にあった。ルルーシュの存在を守ることが己の任務と、ロイドはそう認識していた。
故に皇族の口利きという状態でアッシュフォードに編入し、ルルーシュの親友を名乗って傍にいる名誉ブリタニア人枢木スザクの存在に、そこはかとない不安を感じていた。
そこにもってきて、今回の騎士任命である。
ただの名誉ブリタニア人だったならまだ良かった。しかし皇族の騎士ともなれば話は違ってくる。
スザクが騎士に任命された後、何気にロイドはスザクに尋ねた。
アッシュフォード学園はどうするのかと。
それに対するスザクの返事は、騎士としては到底認められるものではなかった。
主となったユーフェミア皇女がいいと言ってくれているので、これまで通り学園に通います、とのことだったのである。
騎士とは何か。それは常に主の傍らにあってその身を守るべき者のことだ。それが守るべき主の元を離れ、学校に通うという。
しかもそれが何を意味するか分からずに。スザクが親友と呼び続けるルルーシュ・ランペルージ── ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア── の存在を表立ったものにする可能性に気付きもせずに。
故にロイドはそれまで辛抱していたことを止めた。これから先は、ルルーシュから正式に認められてはいないが、彼の騎士として彼を守るために動こうと。
ただスザクを除く、セシルをはじめとした自分について来てくれている特派のメンバーには申し訳ないと思いながら、それでもルルーシュを守るために、ロイドはランスロットのパイロット席に着いた。
「殿下、今僕がお傍に参ります」
── The End
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