別れ道




 神根島の遺跡── Cの世界── において、ルルーシュは両親の在り方を否定し、人の集合無意識たる神に、ギアスと言う名の願いを掛けた。
「『神』よ! 集合無意識よ! (とき)の歩みを止めないでくれ! 俺は明日が欲しい!!」
 神は、その願いを聞き入れ、シャルルとマリアンヌは神に拒絶されてその姿を消した。
「C.C.、おまえはいいのか?」
 一人残ったC.C.にルルーシュが声を掛ける。
「最後くらい、笑って死なせてくれるんだろう?」
 常のC.C.らしからぬ声に、しかしその言葉にルルーシュは頷いた。
「それより、おまえたちはこれからどうするつもりだ?」
 C.C.はルルーシュとスザクに問い掛けた。
「ああ、ルルーシュはユフィの仇だ」
 そう言ってスザクは剣を構える。
「……おまえにはユフィのことしかないんだな」
「どういう意味だ?」
「おまえが殺した、誰かにとってのユフィのことを考えたことはないのか?」
「どういう意味だ?」
 本当に分かっていないように、スザクは先と同じ言葉で問い返す。
「EU戦線でおまえはどれだけの人間を殺してきた? その誰にも、おまえにとってのユフィのような存在がいた。彼らは己の祖国を守るために、自分にとって大切な誰かを守るために戦った。だがおまえはどうだ? ブリタニアの騎士、ラウンズとして、ブリタニアの版図を広げるために、そして己の出世のために、刃向かってくる者たちを殺し続けただけだ。そのおまえが殺した人々に、おまえにとってのユフィは、大切な存在などいはしなかったとでもいうか」
「そ、それは屁理屈だ! 君がユフィを殺したことに変わりはない!」
「ああ、確かにユフィを手に掛けたのは俺だ。だが翻っておまえ自身はどうなのだと聞いている」
「ぼ、僕はルールに則って……」
「それはブリタニアの掲げる国是であって、ブリタニアの侵略を受けている国のものではない。敵国の侵略から国を守る、それの何処が間違っていると?」
「そ、それは……」
 名誉ブリタニア人となり、ブリタニアのルールに則ることを良しとしたスザクに返せる答えはない。
「それにおまえは俺をユフィの仇というが、本当にユフィがたった一発の銃弾で死んだと思っているのか」
「どういうことだ?」
「ブリタニアの医療技術をもってすれば、即死でない限り、たった一発の銃弾で死ぬようなことは有り得ない。あの時のユフィは既に皇籍奉還をしていた。皇族ではなくなっていた」
「な、何が言いたいんだ、ルルーシュ」
「ユフィには満足な治療が為されなかった。つまり、ユフィが死ぬことになった直接の原因は、確かに彼女を撃った俺にあるが、ブリタニアはそのユフィに満足な治療を施さず、死ぬに任せた。まあ、俺の打った銃弾の他に、おまえの愚かな行動も拍車を掛けたのだろうが、最終的にユフィを殺したのはブリタニアという国家そのものだ」
「な、何を……?」
「おまえは討たれたユフィをランスロットでアヴァロンに運んだ。急激に変わる気圧の変化、それがユフィの傷に与える影響を、おまえは考えなかったのか?」
「そ、それじゃ、ユフィが死んだのは……、僕があんなふうにユフィをアヴァロンに連れていったりしなければ……」
「いずれにしろ、満足な治療を与えられなかったユフィを待っていたのは、最終的には“死”以外ではありえなかっただろうがな」
 スザクは足元が崩れる音を聞いたような気がした。
 自分がユフィに対して取った行為が、そして他ならぬブリタニアという国が、ユフィを殺した。ゼロ、つまりルルーシュの撃った銃弾はきっかけでしかなかった。
 ユーフェミアが撃たれた時、自分を含め、本来彼女を守るべき者は誰一人として彼女の傍にいなかった。だからああも簡単にゼロはユーフェミアを撃つことが出来た。
 そのことを思い出したスザクは愕然とした。
 あの時、誰か一人でもユフィを守るために傍にいたら、いや、騎士たる自分がユフィの傍にいれば、ユフィがああも簡単にゼロに撃たれることはなかったのだと、自分はユフィの騎士としての役目を果たしてはいなかったのだと、そう気付いたスザクは力なく床に崩れ落ちた。
「俺は父シャルルを殺した者として、やるべきことをやるためにブリタニアに戻る。おまえもおまえの道を探すがいい。ただし、俺はおまえに殺されてやる気はないがな」
 そう告げて、ルルーシュはC.C.と共にCの世界を後にした。



 それから暫く後、ブリタニアではシャルルの死が公表され、彼の第11皇子であったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが第99代の皇帝となったことが世界に向けて発表された。
 皇帝に即位したルルーシュは、それまでの先帝シャルルの元にあった国是、即ち弱肉強食を否定、ナンバーズ制度を廃止し、皇族や貴族たちの既得権益を廃し、財閥を解体するなど、次々とドラスティックな改革を行っていった。いずれエリアがブリタニアから解放されるのも時間の問題だろうと思われている。
 そんなルルーシュは、世界では“賢帝”と呼ばれている。
 一方、Cの世界に取り残された、祖国を捨て名誉ブリタニア人となり、唯一の主であったはずのユーフェミア皇女が死ぬや、イレブン、すなわち日本人の希望であったゼロを売って、己のみの立身出世を望んでシャルル皇帝のラウンズとなった、日本人にとっては裏切り者でしかない枢木スザクの行方は、その後依然として分からないままだ。

── The End




【INDEX】