否定される騎士




 エリア11副総督であり、ブリタニアの第3皇女でもあるユーフェミアに、本国にいる彼女の母、皇妃アダレイドから通信が入ったのは、ユーフェミアが名誉ブリタニア人枢木スザクを己の騎士に任命する発言を行った翌日のことである。
「お久しぶりです、お母さま」
『ほんに久方ぶりじゃの、ユーフェミア。そちはエリア11に行って以来、一度として(わらわ)に連絡を入れて寄こしもせぬ。それ程この母の存在はそなたの中では軽いのかえ?』
「そ、そんなことは決して」
 モニター画面に映る母アダレイドの表情に、ユーフェミアは怒りを見出して、慌ててアダレイドの言葉を否定した。
 ユーフェミアに言わせれば、慣れぬ副総督という立場に日々を重ね、母に連絡を入れるという心理的余裕が無かったに過ぎない。だがそれはあくまでユーフェミアのみの事情であって、それを理由に母たる自分に連絡の1本も入れてこないのは何事かというのが、アダレイドの言い分である。
 もっとも、それ以前に、副総督といっても、コーネリアのユーフェミアに暗部を見せたくないという心理から、本来為すべき業務を与えられることはなく、慰問や訪問、さして重要性のないイベントなどでのスピーチなどの軽い内容のものばかりであり、周囲の目からすれば、ユーフェミアの意気込みはともかく、“お飾り”の、何も知らない、何も出来ない副総督、でしかないのだが。
『じゃが、現にそなたはこの母である妾のことも、妾の実家、つまりはそなたの祖父母や親族たちのことも考えてはおらぬのじゃろうが!』
「そんなことはありません、お母さま。どうしてそんなふうに思われるのです!?」
 母にそこまでの怒りを向けられる覚えのないユーフェミアは、その疑問を問い掛けた。
『考えておらぬであろうが!』
「ですから、何をもってそのようなことを仰るのですか?」
『分からぬのかえ!? そなたはブリタニアの皇女としての立場を分かっておるのかえ? そう言い切れるのかえ?』
「分かっています。ですから慣れぬながらも懸命にこのエリア11の副総督としての役目を果たそうと……」
『それが! そなたの中ではナンバーズを己の騎士に任命することなのかえ!』
 その言葉に、漸くユーフェミアはアダレイドの怒りの原因を察することが出来た。
 しかし皇族が騎士を選ぶことは、その皇族の権利であり、たとえ母であろうと口出し出来るものではないはずだ。現にコーネリアは、確かにいい顔はしなかったが何も言ってはこなかった。皇族の権利だからと。
「ですがお母さま、騎士を選ぶのは皇族たる私の権利です。そうお姉さまも仰いました。なのにお母さまはその権利を否定なさるのですか?」
『騎士を選任すること自体に関しては確かにそなたの権利じゃ! じゃが! そなたの選んだ騎士は一体何者じゃ! ナンバーズを騎士に選ぶなど、皇族の、しかも高位の継承権を持つ者のすべきことと思うてか!』
「お母さま、スザクはナンバーズではありません、名誉ブリタニア人です! それもシュナイゼルお異母兄(にい)さま直轄の特派が造り上げたKMFのデヴァイサーです!」
『名誉如き、所詮ナンバーズであることに変わりはないわ! それを平然と、第3皇女であり、エリア11の副総督という立場にあるそなたが己の騎士に任命するなど、正気の沙汰ではない!
 ましてやシュナイゼル殿下の直轄の組織の存在ということは、殿下の、つまりはエル家の部下ということぞ。それを分かっていてのことか!?』
「言い過ぎです、お母さま。それに、ブリタニア人もナンバーズも同じ人であることに変わりはありませんし、スザクはKMFのデヴァイサーとして立派に働いています!」
 ユーフェミアは、スザクがシュナイゼル直轄の組織に属しているという事実は知っていても、そのことが意味することについての認識が、明らかに欠けていた。
 だが、差し当たりアダレイドが一番の問題としてきているのは、スザクがナンバーズ上がりの名誉ブリタニア人でるということだけなため、その点について深く追及されることはなく、会話の中では半ば放置されてしまっている状態だ。
『ナンバーズなど、所詮は虐げられるべき弱者に過ぎぬ。それをブリタニア人と同じ人とな! そなたは皇族の、第3皇女の身でありながら、父である陛下の仰る国是に反する気かえ!』
「そんなつもりはありません。ですがナンバーズだからと虐げるだけが能ではありません。ブリタニア人もナンバーズも等しく手を取り合って……」
『それはそなたの理想論じゃ! 妾はナンバーズをそなたの騎士などとは認める気は毛頭ない!』
 アダレイドはユーフェミアの言葉を最後まで聞くことなく、切って捨てた。
「お母さま!」
『ナンバーズを騎士にするような皇女は、このリ家にとっても、妾の実家たるロセッティ家にとっても恥以外のなにものでもない! そなたのこの度の失態は親族一同のいい恥晒しじゃ。それはリ家を貢献してくれている貴族たちにとっても同じことじゃ!』
「お母さま、それはあんまりです!」
 アダレイドの言葉にユーフェミアは半ば泣きを入れながら叫び返した。
『それはそなたの行いのほうじゃ! はっきり申しておく! そなたが騎士に選んだナンバーズ、このリブラ離宮には一歩たりと踏み入れさせることは許さぬ!』
「お母さま! 叙任式はまだとはいえスザクは私の騎士です。それをどうして離宮に入れないなどと仰られるのですか!?」
『ナンバーズ如きを皇女たるそなたの騎士とは認めぬと申した! 騎士でもない者を、それもナンバーズをどうして離宮に入れる必要がある! たとえそなたの姉であるコーネリアが許したとしても、他の誰が何と言おうと、母たる妾は決して認めはせぬ。よいな!』
 その言葉を最後に、アダレイドはユーフェミアとの通信を切ってしまった。
 どうすれば母にスザクを認めてもらえるのだろうとユーフェミアは思う。
 しかしアダレイドがスザクを否定するのは、ひとえにスザクがナンバーズ上がりの名誉ブリタニア人、つまり純ブリタニア人ではないからであって、それを覆すことが出来ない以上、ユーフェミアにアダレイドを説得、納得させる術などないのだが、あれ程に繰り返し言われたにもかかわらず、ユーフェミアはそれには気が付かない。
 そしてスザクが、本来はシュナイゼルの部下であるという点については、正式な叙任式の前であり、騎士にすると宣言しただけの状態であったことからか、アダレイドは会話の中で軽く触れただけで、そのことについて深く追及されることはなかったため、それが後にどのような事態を招くことになるか、ユーフェミアは全く気付いていない。

── The End




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