双 子




 ルルーシュには双子の兄がいる。
 その存在を知っているのは、出産に立ち会った産婆と、当時ヴィ家の後見をしていたアッシュフォードの当主たるルーベン、そして当事者である双子の二人とC.C.のみであり、実妹のナナリーはもちろん、幼馴染であり親友ともいえるスザクも知らぬことだった。
 生まれ落ちて直ぐに、ルルーシュの片割れは双子は忌み嫌われるものとして、産婆には口をつぐませてルーベンが引き取った。
 故に、ルルーシュがその兄に出会ったのはブリタニアが日本に侵攻した後、ルルーシュとナナリーがアッシュフォードに引き取られた後のことである。
 ルルーシュの双子の兄は、ヴィクター・ハントという、ルーベンの用意した偽りの戸籍の元、あえてアッシュフォードとは別の学校に通っており、スザクは未だその存在を知らない。
 C.C.から絶対遵守のギアスを受け取り彼女の共犯者となったルルーシュだったが、実際に反ブリタニア組織のリーダーとして()ち上がったのはヴィクターである。
 しかし二人は時々入れ替わっていた。それは主に黒の騎士団の活動のために、相手にギアスを掛ける時などだった。
 その入れ替わりは巧みに行われ、C.C.を除けば誰も気付いていなかった。
 その日、エリア11副総督ユーフェミア・リ・ブリタニア第3皇女の提唱による“行政特区日本”設立式典の日、ユーフェミアにギアスを掛けるために、ルルーシュとヴィクターは入れ替わっていた。思えばそれが不幸の元だった。
 ギアスの暴走により、ユーフェミアには「日本人を殺せ」とのギアスがかかり、特区会場は一転日本人虐殺の場と化した。
 それがきっかけとなって始まったイレブンによるブリタニアに対する一斉蜂起、すなわちブラック・リベリオンの中、ルルーシュとヴィクターは入れ替わるタイミングを失したまま、ルルーシュはゼロとしてKMFガウェインのC.C.と共にその操縦席にいた。
 その最中に知れた、妹ナナリーが何者かに浚われたという事実。ルルーシュはナナリーを救い出すべく、C.C.の導きに従い、戦場から去って一路神根島へと飛んだ。
 それを追って来たのは、ユーフェミアをゼロに殺されたことを恨みに思う彼女の騎士であった枢木スザク。
 同じくゼロを追って来たカレンの前で、スザクはゼロの仮面を割り、その正体、ルルーシュの存在をカレンに明らかにし、君たちは騙されているのだと告げた。スザクはルルーシュの思いを、真実を何一つを知ろうともせず、ただ謎の子供から齎された情報のみを不思議に思うことなく信じ込み、ルルーシュを倒し、己の出世のためにルルーシュを皇帝シャルルの前に引きずり出した。



 父であるシャルルすら知らぬルルーシュの双子の兄ヴィクターは、ゼロとして捕まったルルーシュを救い出すべく、C.C.と共に行動を開始した。
 それはルルーシュがシャルルに記憶を改竄されエリア11に戻されて直ぐのことである。
 ルルーシュがスザクに捕らわれたことを知って直ぐに動こうとしたヴィクターだったが、C.C.は、シャルルの目的は自分の確保にある以上、ルルーシュを殺すことはせず、自分を釣るための餌とするだろうとのC.C.の言葉に従ったからである。そして結果はC.C.の言った通りだった。
 ルルーシュはシャルルによって記憶を改竄され、エリア11のアッシュフォード学園に戻された。偽りの弟、ロロという存在をあてがわれ、24時間の監視を受けて。
 シャルルすら知らない自分の存在が、ルルーシュの改竄された記憶の中でどうなっているのか分からなかった。だがそれでも、ブリタニアの監視下にあるルルーシュを救わねばとヴィクターはC.C.と共に動き出した。
 そんな彼に、黒の騎士団残党の手を借りるという考えはなかった。何故なら、ルルーシュがスザクに捕まった要因の一つは、ゼロの親衛隊長であるカレンがゼロを見捨てたからであり、また、本来のゼロがルルーシュではなくヴィクターであることを知らぬ彼らを納得させることは無理だろうと判断したからだ。
 そしてある日、ルルーシュが弟であるロロと共に買い物に街中に出た日、ヴィクターとC.C.は行動を起こした。
 昼時、とあるレストランに食事に入ったルルーシュとロロの内、ルルーシュが一人洗面所に入ったところを抑えたのだ。
「誰だっ!?」
 そう叫ぶルルーシュの口をヴィクターが慌てて抑えた。
 そうしたのが自分と瓜二つの容貌の相手であることにルルーシュは目を見開いた。
 その様にヴィクターは己のことも記憶から消えているらしいと知れていささか意気消沈したが、ならばなおのこと、自分のことをはじめとした記憶を取り戻してもらわねばとの思いを強くした。
「C.C.」
 ルルーシュの口を押えたまま、C.C.を呼ぶ。
 その声に姿を現したC.C.を目にしたルルーシュの柳眉が寄せられる。
「静かにしていてくれ、そうすれば手荒なことはしない」
 耳に吹き込まれるその言葉に、口元を抑えられたままルルーシュは頷いた。
 その頷きに、ヴィクターはルルーシュの口元を押さえていた手を離した。そして時をおかずして自分に寄せられるC.C.と呼ばれた少女の顔。
 間抜けたようにそれを見ているルルーシュの唇に、少女の唇が重なった。
 途端、ルルーシュの脳裏を駆け巡る数々の記憶。
「!」
 ルルーシュは己の隣に立つ、己に瓜二つの容貌をもつ少年を見つめた。そしてゆっくりとその唇から少年の名が紡がれる。
「……ヴィック……」
 名を呼ばれたことに、ヴィクターは喜色の笑みを浮かべた。
「思い出してくれたか、ルルーシュ」
 ヴィクターの声にルルーシュは頷き、二人は抱擁を交わした。
「私のことを忘れられては困るな」
 軽い咳払いの後、C.C.は二人にそう告げた。
「ああ、済まない、C.C.」
「二人ともずっと一緒に行動してたのか?」
「いや、そうでもない。私は半分は黒の騎士団の残党と行動していた」
「ただし今回のことに関しては俺たち二人だけだ。黒の騎士団の連中におまえのことを話すわけにはいかなかったからな」
「ましてやカレンにおまえには双子の兄がいて、そっちの方が本物のゼロだなど、そう簡単に信じさせることも出来ないと思ってな」
「じゃあ黒の騎士団の残党は、あくまで俺がゼロだと?」
 ルルーシュの疑問に二人は頷いた。
「いずれ今日とは別に、カレンを中心としておまえの奪還行動が行われるだろう」
「そうか」
「アッシュフォードでは24時間体制でおまえに監視がついている。とにかくその監視を行っている機密情報局── 機情── を抑えねば、おまえが自由に動くこともままならないだろうから、今暫くは監視されていてくれ。何かと不自由だとは思うが」
「あまり長くこうしていても、ロロに不思議に思われる。詳しいことはまた改めて話をしよう」
「ヴィック」
 ヴィクターにそう告げられ、C.C.にもその通りだと頷かれて、ルルーシュは後ろ髪を引かれる思いで、己を待つロロの元に戻った。
「遅かったね、兄さん」
「ああ、ちょっと混んでてな」
 言いながら、何もなかったようにルルーシュは椅子に腰を降ろした。
 今ではもう偽りの存在だと気付いてしまったロロ。フォークを手に取りながらルルーシュは思った。学園で機情に監視を受けている自分の状況を考えれば、まずは今目の前にいるロロを自分の側に引き入れるのが先決かと。

── The End




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