離 縁




 エリア11に総督として赴任していた第3皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアがテロリストによって暗殺された。
 暗殺されたきっかけは、クロヴィスの発した整理区画に名を借りたシンジュクゲットー殲滅作戦にある。エリア11は、数あるエリアの中でも最もテロの発生が多いエリアではあった。しかしクロヴィスの行為が、今はイレブンと呼ばれている元日本人たちの大いなる怒りを買い、暗殺にまでいたったのである。
 ちなみに、クロヴィスがシンジュクゲットー殲滅作戦を行うにいたったのは、本国にも内密に行っていたコードRと呼ばれる研究にあたり、その対象を毒ガスと偽って移送中、毒ガスとの話を信じたテロリストに奪われたことが発端であった。本国に、皇帝に知られたなら、自分は廃嫡されるに違いないとの焦りから、真実を隠すため、毒ガスと偽った移送物を取り戻すためであった。しかし、実際には程なくその事実が知られることとなったが、それはクロヴィスが暗殺された後のことであったので、そのことそのものに対する責任はどこにも持っていきようがなく、宙に浮いた形となってしまったが。それでも、代わりというわけではないが、たった一人の皇子を暗殺されたラ家の皇妃は、息子の死に悲哀にくれ、担ぐ御輿がなくなったとして、殆どの後見貴族たちがラ家から離れていき、その凋落振りは大きかった。
 そしてクロヴィスの死によって空いたエリア11の総督に新たに任命されたのが、テロの多発地域でもあったことから“ブリタニアの魔女”の異名をとる第2皇女コーネリア・リ・ブリタニアである。その際、コーネリアはいずれ自分がエリアを平定した暁には、その後任に、と考えて実妹である第3皇女ユーフェミアを伴った。
 その申し出に、当初、母であるアダレイド皇妃は激しく反対した。ユーフェミアはまだ高校在学中であり、しかも専門は福祉。また、未だ公務についたこともなく、コーネリアがいずれ自分の後任にとまで考えていることには、コーネリアがさすがにそこまで口にしていなかったことから想像していなかったが、普段のユーフェミアの考えや行いから考えて、適任とは思えないと激しく反対したものだ。しかしコーネリアは勉強の意味合いも兼ねて是非とも連れて行きたいと皇帝に強く申し出、きちんとそのための教育係を決めて同伴させることを条件に承諾を得た。皇帝が認めた以上、アダレイドに反対し続ける余地はなく、しぶしぶながらも二人を送り出したのだった。
 コーネリアがユーフェミアを伴うことに固執したのは、一つには、異母弟(おとうと)である第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの存在があった。
 ルルーシュの母は、今は亡き第5皇妃マリアンヌであった。マリアンヌは元は軍属の庶民出であり、その功績から皇帝直属のラウンズとなり、更にはその美貌により皇帝に見初められて皇妃となった女性である。しかしマリアンヌは何者かに暗殺された。庶民出であり、唯一皇帝自ら皇妃にと望まれた存在であったことから、マリアンヌを疎む者は多くおり、その中の誰かの仕組んだことであろうというのが、当時の専らの噂であったが、結局犯人は見つからず、単にテロリストによるものと片付けられるにいたった。その際、居合わせた第6皇女ナナリーが両足を撃たれて重症を追い、治療を終えて退院した後は、麻痺のために車椅子が手放せなくなっていた。また、目の前で母が殺されるのを目撃したショックからであろう、両目を閉じてしまった。医師は目に関しては精神的なものであり、いずれそれが克服されれば、再び目を開き、物を見ることは叶うだろうと、彼女の兄であるルルーシュに告げたが、十年近く経った今でも、ルルーシュの懸命の献身的行為にも関わらず、ナナリーがその目を開く気配はない。
 そうなった状況下、ヴィ家の唯一の後見貴族であったアッシュフォード大公爵家は爵位剥奪とも言われたが、アッシュフォードが得意とする人型二足歩行兵器KMF開発の関係から、それは惜しいとの声が、特に軍部から多くあがり、大公爵家から侯爵に降格ということで納まり、そのままヴィ家の後見を努めている。ちなみに、アッシュフォード家がヴィ家、というよりマリアンヌの後見となったのは、“閃光のマリアンヌ”との二つ名をとるほどに活躍し、KMFの開発に大いに関与したためであった。
 そして本来、“アリエスの悲劇”と呼ばれるようになったマリアンヌの死亡で、皇帝はヴィ家の遺された遺児二人、ルルーシュとナナリーを、開戦を予定している日本── 現エリア11── に、油断させるために友好親善のための留学生として送ることを考えていたが、アッシュフォードが爵位は降格したとはいえ残ってそのままヴィ家の後見を務めていること、更に、マリアンヌを守りきることができずに死なせてしまったと、彼女が暗殺された当日に初めてアリエス宮の警備に当たっていた、マリアンヌを尊敬してやまずにいたジェレミア・ゴットバルトの実家であるゴットバルト辺境伯家が、ジェレミアの熱意に押されてヴィ家の後見につくことになり、それによって体裁が整ったこと、そして何よりも、いずれほどなく帝国宰相となるだろうことが確実視されている、第2皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアが、まだ幼いとはいえ、その優秀さの片鱗を見せているルルーシュを、自ら教育を施し、いずれ成長したら自分の片腕として置きたく考えていると皇帝に切望して進言したことにより、二人は日本に送られることなく、ルルーシュはシュナイゼルの傍で、シュナイゼルが手配した教師から、時にはシュナイゼル自らの手ほどきを受けた。
 結果、シュナイゼルの見込みに間違いはなく、ルルーシュは現在はまだ高校に通う年齢であり、公的な肩書きはないが、実質的には今では帝国宰相の地位に就いているシュナイゼルの補佐として動いており、庶民出の血を引いている、ということから見下している者がいないでもないが、それでも、彼の優秀さは皆の認めるところとなっている。
 コーネリアは軍人としてはマリアンヌを確かに尊敬していたが、皇族としては、庶民の出ということで見下している面がなかったとは言えない。それはマリアンヌの遺児であるルルーシュとナナリーに対しても言えることであった。そして身体障害を抱えたままのナナリーはともかく、宰相たるシュナイゼルはじめ、多くの者たちからその優秀さを認められているルルーシュに対しての対抗意識があったことは否めない。ルルーシュは、たった1歳しか違わないのだ、妹のユーフェミアとは。だからルルーシュに正式に公的な肩書きがつく前に、ユーフェミアの皇室内における地位を確立しておきたい、という思いがあった。その思いゆえに、コーネリアはユーフェミアに副総督という、他のエリアにはない地位を作って与え、伴ったのである。
 コーネリアは実妹であるユーフェミアを溺愛していた。故に、冷静に判断できていなかったのだろう。ユーフェミアに為政者としての能力が無いということに。実際には、無いのは能力だけではなかったが。そしてアダレイド皇妃は後に激しく後悔した。なんとしても、どのような手段をもってしても、コーネリアがユーフェミアをエリア11に伴うことを止めるべきであったと。



 帝国宰相シュナイゼルは、当初からユーフェミアの能力の無さ、皇族としての意識の低さ── 無さ、と言ってもいいかもしれない── を実感していた。そして、いずれ必ずや何がしかの問題を起こすだろうとも思っていた。故に、誰にも内緒で、副官のカノン・マルディーニ伯に命じてユーフェミアに監視をつけた。誰にも知られぬように、そして、ただ監視して何かあれば報告するだけで、手を出す必要は無いとして。
 そしてシュナイゼルが思っていた通り、ユーフェミアは問題行動を起こした。それもエリア11に着いて早々に。警護を出し抜き── そうされた警護の者たちにも全く問題が無いとは言えないが── 政庁を抜け出したのである。そして抜け出した先で、一人の名誉ブリタニア人と知り合い、ゲットーにまで足を踏み入れ、更にはそこで純潔派の揉め事に首を突っ込んだというのである。
 そしてその際に知り合った名誉ブリタニア人の軍人を、その年齢なら学校に通うべきだと、軍属であるその者を、お願いとして、ブリタニアの私立学校に編入させたのである。皇族の“お願い”は、イコールで“命令”となるこに気づかずに。しかも、その名誉ブリタニア人はアリバイが証明されたために── しかもそれをしたのは帝国宰相シュナイゼルの持つ直轄の組織の主任であり、また同時に友人でもあるロイド・アスプルンド伯爵であった── 証拠不十分であるとして釈放されたが、一度はクラヴィス暗殺犯として逮捕拘留された過去を持つ人物だった。そんな名誉ブリタニア人が、ブリタニア人の学園で温かく迎えられるはずなどなく、編入当初から陰湿な虐めが起きており、それは一向に止む気配は無く、それを庇う者など一人もいなかった。また、当人はそれをユーフェミアに告げることはしなかった。いや、できなかったと言うべきか。名誉ブリタニア人である自分をわざわざ学園に通えるようにしてくれた皇女に対して、そのような事実を言えるはずがなかった。そのようなことをすれば、学園に対して何がなされるか分からないし、他の学園に移ったとしても同じことのくりかえしだろうことが分かっていたからだ。
 そんな中、ユーフェミアはクロヴィス記念美術館におけるセレモニーの際にTV中継されていた内容を見て、適応率の高さから特例としてKMFのデヴァイサーとなっていたその名誉ブリタニア人を、前もって誰に相談するでもなく、根回しするでもなく、唐突にマスコミの前で、己の騎士となる者だと告げたのだ。
 その名誉ブリタニア人は、シュナイゼル直轄の組織に属する者、その組織で開発しているKMFのデヴァイサーである。つまり、彼は確かに名誉ブリタニア人ではあるが、間違いなくシュナイゼルの部下ということになる。にもかかわらず、そのシュナイゼルに対してユーフェミアは事前はもちろん、事後の連絡もしなかった。姉のコーネリアは、マスコミを前に公に発表されたこと、そして名誉ブリタニア人であるということに気をとられ、彼がシュナイゼルの部下であり、シュナイゼルに連絡をとらねばならないということを失念していた。これは、理由、状況はどうあれ、明らかにシュナイゼルを蔑ろにした行為であったが、その時には、二人共にシュナイゼルの存在が頭になかった。ユーフェミアはともかく、せめてコーネリアはその点に気づくべきであったのに。
 皇族、しかも第3皇女が名誉ブリタニア人を騎士として任命したことは本国でも問題になった。しかも、ユーフェミアの騎士に任じられた後も、彼は引き続き、ユーフェミアの望みであったとはいえ、彼女の望みで編入した学園を辞めることなく── つまり常に騎士として主たるユーフェミアの傍にいることなく── 、そればかりか、シュナイゼル直轄の組織にも在籍し続けたのである。それは主任であるロイドの、彼でなければ、適応率の関係からデータが取れない、との訴えにより、シュナイゼルが渋々認めたためであったのだが。そんな状況を、皆、黙ってシュナイゼルの顔色を伺っていた。決してこのままでは済むまいと。この先、もしまた何かあれば、ユーフェミアは切って捨てられるだろうと固唾を呑んで見守っていた。
 そして皆が思っていた通り、問題は起きた。それは先の名誉ブリタニア人を騎士として任命したことどころのものではなかった。騎士としての任命は皇族の権利であり、シュナイゼルがその人事に関係しているとはいえ── 当事者たちにはその認識は全く無かったが── あくまで個人レベルの問題である。しかし、今回は違った。弱肉強食を謳い、名誉ブリタニア人も含めて、ナンバーズは被支配民族であり、虐げられて当然、家畜や奴隷と同様とされているブリタニアの国是に真っ向から反対する政策を発表したのだ。
 それが行われたのは、ユーフェミアの騎士となった名誉ブリタニア人が通う学園における学園祭で、取材に訪れていたマスコミを前に、事前に誰にも── 上司であり姉でもある総督のコーネリアはもちろん、彼女が教育係としてつけたダールトン将軍にも、己が任じた騎士にすら── 諮ることなく、相談することなく、騎士として名誉ブリタニア人を指名した時と同様に、マスコミを前に、副総督として、ユーフェミア・リ・ブリタニアの名をもって、全国放送で公表したのだ、“行政特区日本”の設立を。実を言えば、ユーフェミアはシュナイゼルに相談し、彼は「いい案だ」と答えてはいた。しかしそれはユーフェミアが思ったような単純なものではなかった。その言葉の裏には、これを機に、エリア11で頻発しているテロリストの一掃ができるだろうとの思惑、そしてそれ以上に、次代の皇帝の座を巡っての政敵ともいえるコーネリアの追い落としができるのではないかという思いがあってのことである。ユーフェミアはそんなこととは露知らず、考えること、思いもせず、ただ表面に出された言葉だけで、許された、認められたと思ってしまったのだ。
 ユーフェミアの名で公表された政策が本国に知られると同時に、本国は如何に対処すべきかで紛糾した。ユーフェミアの行為は明らかに皇帝の意に反するものであり、国是に逆らうものである。彼女は自分がこの神聖ブリタニア帝国の第3皇女であるという自覚があるのか。副総督でありながら、上司たる総督をさしおいて何を言っているのか。もしこのことがきっかけで他のエリアでも特区の設立を望む声が上がったらどうするのか。そして更には、溺愛する妹がマスコミを前に公表した事実だからということで、心ならずもそれを認める方向でいるようなコーネリアに対しても批判の声があがる。コーネリアのこれまでの武勲、第2皇女という立場、皇位継承権の高さなど問題ではない。それだけのことをした、と認識されたのだ。もちろん、そこには皇位継承権を巡る思惑も絡んではいたが。
 しかし、そうして紛糾する政府の対応前に真っ先に動いたのは、コーネリアとユーフェミアの実母であるアダレイド皇妃であった。事実を知るや、アダレイドは即座にエリア11の政庁に連絡を入れた。
『ユーフェミア! そなたは一体なんということをしてくれたのじゃ!?』
「何って、私は、人は平等であるべきだと思います。人種で人を差別するのは間違っていると思うのです。だから、互いに理解しあい、手を取り合えることができるようになる場所として、まずは手始めに特区という場所を作ることを考え、発表したのです」
『そなたはどこの人間じゃ!? どの国の皇女じゃ!? 皇族なら、まずは皇帝陛下の意思である国是に従うのが当然のことじゃ!! じゃが、そなたはそれを全く無視しておる! それのどこが我が国の皇族、ましてや一エリアを預かる副総督たる者のすることか! 政治に携わるなら、エリアはあくまで属領、であれば、本国の意思に、皇帝陛下の意思に従い、それによって治めるのが筋であろう!
 そしてコーネリア! そなたはこのユーフェミアの行為をどうするつもりじゃ! 今回に限ったことではないぞえ。あろうことか名誉ブリタニア人を騎士として任命したこともじゃ。そなたはこのようなことをしでかし続けるユーフェミアをきちんと教育しておるのか!?』
 スクリーンに映るアダレイドの表情は憤怒に満ちていた。
「母上のお気持ちは分かります。ですが、マスコミを前に公表されたことを覆すのは……」
『つまりそのためなら、ユーフェミアの行った行動を守るためなら、皇帝陛下の意に反しても構わぬと思うているということか!?』
「それは……」
「大丈夫です、お母様。シュナイゼルお異母兄(にい)さまに相談したら、「いい案だ」って言っていただけました」
 真っ青な顔をしているコーネリアの隣で、自信ありげにユーフェミアは告げる。
『シュナイゼル殿下が!? そなた、その言葉をそのまま真に受けたか!? この愚か者が!!』
「お母様?」
 アダレイドの言葉の意味が分からず、ユーフェミアは驚いたように目を丸くした。
『帝国宰相の地位にあり、国是のもとに政を行っている、しかもリ家にとっては政敵と言えるエル家のシュナイゼル殿下が、何の思惑もなく、本当にそなたの思いをそのままに「いい案だ」と申したなどと思うているのか!?』
「え? 違うのですか?」
 これにはコーネリアも驚いてユーフェミアの顔を見た。スクリーン上のアダレイドの表情には、一瞬呆れ顔が浮かんだが、またすぐにその表情は改められた。
『もうよい! 現在、本国では今回の件をどうするか協議中じゃ。決して良い結論は出まいよ。が、その前に(わらわ)から申し伝えておくことがある。
 今この時をもって、そなたら二人、我がリ家から勘当じゃ。もやは娘とは思わぬ。そなたらは我が国の皇女とは思えぬ行動をしておるのじゃからな。もはやそなたら姉妹は我がリ家とは無関係、離縁する。リ家の子はクリスチャンだけじゃ。皇帝陛下にもそう申し上げる。さすれば、これまでそなたらを守ってきた、リ家の後見たる貴族たちもそなたらを見放すであろうよ。母たる皇妃の妾がそなたらと縁を切ったとなれば、そなたらはリ家の者ではなくなる、つまりは皇族とはいえ名のみのものとなるも同然じゃ。もっとも、この後の決定の如何によっては我がリ家だけどころか、皇室から廃嫡となるやもしれぬがな』
「母上っ!? どうしてそこまで……!?」
「そ、そんな、お母様!?」
 二人とも母アダレイドの言葉に驚いて声を掛けたが、アダレイドは最後に冷たい言葉を告げて通信を切ってしまった。
『もはやリ家とは何の関係もなくなったそなたらとの話はこれで終わり、最後じゃ。今後どうなるか分からぬが、全てはそなたらの招いた責任、そなたらに少しでも我が国の皇女としての自覚があるなら、それに相応しい行動をすることじゃ。さらばじゃ』
 何も写さなくなったスクリーンを前に、コーネリアとユーフェミアは呆然としていた。母からあそこまでの言葉、態度をとられるなど、考えてもいなかったのだ。そして本国がどう動くのか。また、コーネリアにしても、ユーフェミアが自分には何も言わず、シュナイゼルに相談していたということも憤懣でしかなかった。なぜ自分に相談してくれなかったのか。そうすれば絶対に止めていたのに、そうすればこのようなことにはならなかったろうにと。



 神聖ブリタニア帝国、アダレイド皇妃のリブラ離宮では、疲れた顔で通信室から居間に戻ってきたアダレイドを、リ家末子の第15皇子であるクリスチャンが出迎えた。
「母上、どうされたのですか、そのように疲れたお顔をされて」
「いや、たいしたとこではないよ」
「もしかして、姉上たちのこと、ですか……?」
「……知って、おるのかえ……?」
 一瞬驚いたような顔をしたあと、アダレイドはクリスチャンに尋ねた。
「はい、今日、ルルーシュ異母兄上(あにうえ)のところのお茶会でも話題になっていましたから」
 クリスチャンのその答えに、アダレイドは頷いた。
「そうか、今日はルルーシュ殿下の宮で茶会があったか」
 ルルーシュは中学に入った頃から、異母弟妹たちを集めて茶会を催したりしていた。クリスチャンによれば、参加する者もいれば、ルルーシュを庶民腹と見下して最初から参加しない者もいるが、ルルーシュは参加した異母弟妹たちには分け隔てなく優しく、時に厳しく、色々な話をしてくれる、教えてくれるとのことだった。
「して、今回の件、ルルーシュ殿下は何か申しておられたか?」
「……ユーフェミア姉上の理想は、決して間違ってはいない。本来人間はそうあるべきだろう。だが、それはたとえ皇族といえど、言えば叶うなどという簡単なものではない。そしてそれは何も我が国だけに限ったことではないとも。第一、我が国の国是は姉上の理想とするところとは真逆と言ってもいいのだから、もし本当にそれをなしたいと思うなら、何をどうすればいいのか、必要なことを学び、それを行うための手順を考え、順を追って行っていくことが必要で、事前に相談も根回しもなくいきなり公表するのは大きな誤りだ。そしてそれ以前に、姉上には自分の副総督という立場、我が国の第3皇女という立場の意味が分かっていない。分かっていれば、先の名誉ブリタニア人をいきなりマスコミの前で自分の騎士だなどと告げることもなかっただろう。だから、まずは自分たちが皇族であること、そして皇族である以上、自分たちがこうしてあることができるのは、国民がいればこそ。自国の国民のこと、そして他国との関係を考えていくことが大切。それをしっかり自覚して考えて行動するように、と。
 他にも色々仰ってましたけど、大意はそんなことでした」
 向かい合って座り、クリスチャンの言葉を聞いていたアダレイドは深い溜息を吐いた。
「さすがはシュナイゼル殿下がお認めになリ、ご教育された方だけのことはあるの。
 クリス、そなたはルルーシュ殿下のことをどう思うておる?」
「時には厳しいことを仰られることもありますけど、それは僕たちのことを思ってのことですし、基本的に僕たち弟妹にはとても優しい方で、僕たちの知らないこと、分からないでいることを、分かりやすいように、根気強く説明して話してくださいます。とても優秀な方だなって思います。正直、憧れてます。いつかはルルーシュ異母兄上のようになりたいと思います。とても難しいと思いますけど」
 瞳を輝かせるようにしてルルーシュのことを語るクリスチャンを、アダレイドは微笑ましく見つめていた。
 正直、昔はルルーシュのことを、まだ彼の母であるマリアンヌが存命であった頃から見下していたのは事実だ。しかし、だいぶ前からルルーシュの優秀さは認めていた。認めざるを得なかった。何よりも、宰相たるシュナイゼルが傍に置いているのがその証拠だ。優秀でない者をシュナイゼルが認めることは決してない。表面上はともかくとしても。そして今のクリスチャンの話を聞く限り、クリスチャンはルルーシュから良い影響を受けているようだと思う。変えることのできない血筋はともかく、ルルーシュの優秀さ、その能力を認めるのは、弱肉強食という国是に照らしてみても、間違ってはいないのだと改めて思う。
「クリス、妾は先ほど、コーネリアとユーフェミアに離縁を申し渡してきた。もはやリ家とは無関係だと」
「母上っ!?」
「あれだけ国是に逆らうことをしたのじゃ、まだ結論は出ておらぬが、ただでは済むまい。それを考えれば、今のうちにそうしておいたほうが、このリ家の、そしてそなたのためになろうと思うての。そなたにとっては実の姉のことじゃ。寂しいこととは思うが、状況を察してたもれ。そして既にこのリ家のただ一人の子となったそなただけが、この家の、そして妾の実家や後見貴族たちのための存在となる。
 今後もルルーシュ殿下から色々学び、いずれ公務に就くことになる時には、そうして培ったもので、我が国のために働いてたもれ。それがリ家のためであり、今の妾の望みじゃ」
 幾分寂しげな表情でそう告げるアダレイドに、クリスチャンはただ、「分かりました」と頷くしかできなかった。



 そうしてアダレイドからルルーシュ宛に、クリスチャンのことを今後もよろしく頼むと、よく教え導いてやって欲しいとの書面が届いたのは、それから程なくのことであった。
 一方、エリア11ではコーネリアとユーフェミアは本国の決定を受けて総督、副総督の任を更迭され、皇室からも廃嫡された。既にリ家から縁を切られた身であれば、本国に戻されても、皇宮、その中にあるリブラ離宮はもちろん、母アダレイドの実家に行くこともできず、幾ばくかの下賜金だけを持ってどこへ行ったのか、帝都内のどこかに姿を消して、その行方は知れない。

── The End




【INDEX】