悪友という名の親友




 ここエリア11は、かつては日本という名の国だった。しかしブリタニアからの侵略戦争に敗れて、その11番目の植民地、つまりエリア11と呼ばれるようになり、日本人は、ナンバーズとして、イレブンと呼ばれるようになった。既にそうなってから7年程が経過している。
 俺、リヴァル・カルデモンドは、父親との折り合いが悪く、母親と共に、母国であるブリタニアから、このエリア11に密かに渡ってきた。それは、母方の実家の援助があったからこそできたことではあったが。
 そして俺は、全寮制の私立アッシュフォード学園に中等部から入学した。そしてそこで出会ったのが、今では互いに悪友と呼びあえる存在となった、ルルーシュ・ランペルージ。
 ルルーシュは、はっきり言って、非常に人気が高く、モテる。何度も告白も受けているようだ。本人は気付いていないが、いくつもの非公認ファンクラブもあるくらいだ。しかも、それは必ずしも女生徒だけではない。なんと、中には男子生徒もいるのだ。まあ、人の嗜好はそれぞれだから、それに対してどうこう言うつもりはないが。ただし、ルルーシュに危険が及ばない限りにおいて、という但し書きが入るが。
 ルルーシュがモテるのは十分に納得できる。体力的にはいま一つか二つばかり不安があるものの、それ以外の点においては、多少抑えてはいるようだが、実際には頭脳明晰、容姿としては、ブリタニア人には珍しい漆黒の艶のある髪、抜けるような白い肌、そして、一般人にも確かにいることはいるが、皇族によく現れるという紫電の瞳、更に、細身だがスタイルもいい。逆に言えば、これだけ揃っていればモテない方がおかしい。ただし、ルルーシュの人付き合いは悪い。いや、表面的には余程の相手でない限り、ごく普通に差別なく接している。お付き合いの申し出こそ断りはしているが。だが、彼が心を開いているのはごく一部だ。ルルーシュにとっては、その身体に負っている障害があるから尚更なのだろうが、かなりのシスコンで、たった一人の肉親であるらしい妹のナナリーを溺愛している。他には誰もいらない、くらいに。他に信用されている者といったら、ルルーシュたちに仕えているメイドの咲世子さんと、一つ上のミレイさんくらい。それから、他に比べれば俺にも少しは心を開いてくれていると俺は見ているが、あとは本当に表面上だけだ。そしてそれを見抜けている者はいない。みんな、ただ誰にも気兼ねなく、わけへだてなく、と思っているくらいで、それを理解できているのは、それこそ俺くらいだろうと思う。一応、中等部に入って知りあってから、それくらいの付き合いは重ねてきたつもりだ。
 ちなみに、アッシュフォード学園は全寮制だから寮が完備されているが、ルルーシュは妹のナナリーと二人、クラブハウスの居住区に住んでいる。しかも名誉ブリタニア人、つまり元日本人のメイド付きだ。それはナナリーが両足が麻痺していて不自由で車椅子が手放せず、また両目とも見えないことからの特例らしい。はっきり聞いたわけではないが、アッシュフォード家はルルーシュたちと個人的── 家族でと言うべきか── な何らかの関係があったのではないかと思っている。それが故の、現在のアッシュフォード学園におけるランペルージ兄妹の特別扱いなのではないかと。
 そして高等部に入ってからのこと。
 ルルーシュは、会長を務めている理事長の孫娘、ミレイ・アッシュフォードに誘われて生徒会に入り、会長から生徒会副会長に指名された。そんな会長を端で見ていて憧れを抱き、淡い恋心なんてものまでも抱いてしまった俺は、ルルーシュについで生徒会に入った。とはいえ、新聞部と掛け持ちだが。
 高等部に上がって暫くしてから、俺は中等部の間は認められていなかったバイトを始めた。そしてそれがきっかけというか、呼び水みたいになったのだろうか、勤め先のマスターからの頼みもあって、チェスが趣味だと言い、それなりの実力を持っているとおぼしきルルーシュをチェスの代打ちに呼び出し、以来、それが続いている。
 それは会長のミレイには大バレで、ある日、俺一人が会長に呼び出された。ルルーシュはいいのか? と疑問に思いながら、呼び出されたクラブハウス内の生徒会室に入った。その時、そこには会長しかいなかった。というより、他に誰もいない状態、来ない状態で俺一人を呼び出したと言った方が正解だろうか。
「急に呼び出したりしてごめんなさいね。実は、リヴァルにお願いしたいことがあるの」
 俺が部屋に入ると、会長は扉に鍵まで掛けて、いきなり俺にそう切り出してきた。
「い、いったい、何スか?」
「ルルちゃんのこと」
 あ、やっぱり、というのが俺の一番最初に思ったことだった。だって他に考えられることがないから。
「貴方たちが賭けチェスに行っていることは知っているわ。まあ、それも問題ではあるけれど、そのあたりはルルちゃん自身が気をつけているだろうから、さほど心配はしていないのよ。問題はそのチェス以外のこと。学園内ではともかく、外で、となると、ルルちゃんと一番一緒にいるのが、リヴァル、あなた、でしょう?」
「……そう、なりますね」
 少し考えて、確かにその通りだと俺は頷いた。
「それでお願いなの。ルルちゃんを守って欲しいの」
「ヘ?」
 会長が言っていることは分かる。が、意味が分からない。
「ルルちゃんは、あの方はどんなことがあっても、我がアッシュフォード家にとっては、特に理事長であるおじいさまや私にとっては、何よりも守らねばならない方なのよ。もちろんナナちゃんもだけど、優先順位で行けば、一番はルルーシュ様なの」
 ── あの方? ルルーシュ様?
 そう思った俺の疑問を感じ取ったのだろう。会長がそれを受けて言葉を続ける。
「詳しいことは言えないけど、ルルーシュ様たちが今ここに、ああいう立場でいらっしゃるのは、我がアッシュフォード家がお二人の母君をお守りできずに死なせてしまったからなの。だから、ルルーシュ様はどうしても守らなければならないの、いざとなれば、アッシュフォードの全てと引き換えても。まあ、両親や他の一族の者たちは利用することしか考えていないみたいだけど、おじいさまと私にとっては、ルルーシュ様は間違いなく仕えるべき主なのよ」
 俺の記憶に間違いがなければ、アッシュフォード家はもともとは本国でも指折りの貴族だったはずで、それが何か失態をおかして爵位を剥奪されたはず。今の会長の言葉から察すれば、その失策がルルーシュたち兄妹の母親の死を防げなかったことで、そこから先は言われなくても想像がつく。ルルーシュたちって、実は皇族、なのか?
 俺が気付いた、というか、想像したことを察したのだろう。会長が更に言葉を発した。
「みんなには、内緒、よ」
 そうだとはっきり言葉にされたわけではないが、その言葉は、俺が思ったことが間違いではなかった何よりの証拠ではないのか。そして同時に俺に対する牽制、口止めだ。それ以外のなにものでもない。
 それから、会長からの頼みだからというのと同時に、悪友を自認している俺としても、その相手であるルルーシュのことは守りたいと思った。とはいえ、守られている、なんてプライドの高いあいつにしてみればそんなことはしてほしくはないだろうから、彼に分からないようにそっとさりげなく、だったが。
 そして2年に進級してどれくらいっただろうか。ある日のチェスの代打ちの帰り、俺たちは事故を起こした。事故といっても、俺たちに責任があるわけじゃない。俺たちの乗ったバイクの後ろを走っていたトラックが、何やら慌ててているようで、こちらは煽られていた状態で、左右に道を譲りながらもトラックの方でも運転手がうまく対応できないようで、どうしようもできないうちに、トラックの方が勝手に工事中のところに突っ込んで行ったのだ。だから俺たちに責任はない、と思う。あれはトラックの運転手がヘタだったせいだと。
 そしてルルーシュは、事故の見物人が増えてきた中、下手な親切心でも起こしたのか、サイドカーから降りて一人でトラックの方へと行き、荷台の中に入っていった。とほぼ同時にトラックが動き出して、ルルーシュは、どちらかというと荷台の中に落ちた、と言った方が結果としては正しいのかもしれない。
 俺は故障して動かなくなったバイクを抱え、ルルーシュは行方が分からなくなり、途方にくれた。そんな俺の頭を(よぎ)ぎるのは、会長の「ルルちゃんを守って」という言葉。
 バイクを押しながら歩いていると、軍の飛行艇やヘリが動き出したのが分かった。ってことは、もしかしてあのトラック、軍に対して、ブリタニアに対して何かまずいことをやらかした連中ではないか、ということ。つまり、可能性としては、エリア11では他のエリアに比べて多いというが、テロリストのしたことじゃないのか、という懸念。だとしたら、そのトラックの中に入り込んでしまったルルーシュが危ない。俺は一番近場のところにバイクを預けると、携帯のGPS機能を立ち上げた。そう、俺は会長に言われてから、会長にも内緒で、そしてもちろんルルーシュにも分からないように、彼の目を盗んで、彼の携帯にGPS機能を取り付け、俺の携帯でそれを探知できるようにしたのだ。
 時間はかかったが、なんとかルルーシュのいる場所まで苦労して辿りついた。
 そこでは、ルルーシュはブリタニアの軍人、しかも総督の親衛隊に銃を向けられ、今にも殺されそうになっていた。そしてその傍らには一人の、ブリタニアの、たぶん拘束服に身を包んだ少女がいた。
 そして親衛隊の一人がルルーシュに銃を発射したが、俺は動くことができなかった。その前に、ルルーシュの傍らにいた少女が彼を「撃つな!」と叫んで正面に立って庇っていた。けれど少女は額を打ち抜かれて倒れていった。
 その倒れていく少女の手を掴みながら、ルルーシュが叫んでいた。
「結ぶぞ、その契約!」
 その契約がどういうものなのか分からない。どうやって死にゆこうとしている少女がルルーシュと契約を交わしたのか、それ以前に交わせたのか。第一、死んでしまっては契約も何もないではないか。
 不思議に思いながら見ていると、ルルーシュが親衛隊の者たちに対して何か告げていた。その内容までは聞き取れなかったが、その直後、彼らは自らを撃って次々と死んでいった。残ったのは死体の山。
 そんな状態だったが、俺は恐る恐るルルーシュに近づいて行った。
「……ルルーシュ……」
 俺がいるとは思ってもいなかったのだろう。明らかに驚き、動揺を見せるルルーシュに俺は驚いた。そんな状態を今まで一度も見たことがなかったから。
「……リヴァル……」一瞬躊躇いを見せ、けれど、次に彼は告げた。「彼女を連れてこの場を去ってくれ、俺はまだやることがある」
「やることって、一体なんだよ! おまえも逃げなきゃ!! このシンジュクゲットーには、総督から殲滅するようにって命令が出てるんだぜ!」
「だからだ。頼む、俺を庇って死んでしまった彼女をこのままにしておくことはできない!」
 俺は会長からルルーシュを守ってくれと頼まれていて、それを果たしたかったが、今のルルーシュの頼みを断ることは俺にはできなかった。だから俺はルルーシュに言われるままに、少女の遺体を抱き上げて、振り返ってルルーシュを見やりながらその場を去った。
 その後ルルーシュがどういう行動をとったのかは分からない。だが、GPSで追跡して、どう動いたのかは分かった。暫くシンジュクゲットー内を移動したあと、総督のいるG1ベースに入ったのが分かった。そしてそれから暫くして、姿までは確認していないから怪我とかは分からないが、少なくとも、きちんとクラブハウスに帰り着いたことを。ちなみにルルーシュから託された少女の遺体だが、会長に状況を説明して相談し、とりあえず生徒会長室にあるソファに寝かせておいたのだが、二人して暫く部屋を空けていた間にだろう、どうしたことか、戻った時には少女の遺体は綺麗に消え失せていた。
 そして総督の死が公表された。しかも暗殺だったと。純潔派は、ある名誉ブリタニア人を暗殺犯として逮捕していたが、GPSで行動を辿っていた俺には── 推測も入っているが── 分かった。総督を暗殺したのは、その名誉ブリタニア人ではなく、ルルーシュだろうと。
 シンジュクのことがあって以来、俺は常にGPS機能を立ち上げたままにしている。
 だから分かった。分かってしまった。総督暗殺犯として逮捕され、連行されている名誉ブリタニア人を救い出した、仮面を被って正体を隠した“ゼロ”と名乗った人物がルルーシュだと。
 俺はさすがに子供の頃のことだから詳細は知らないし、会長もそこまでは何も話してはくれない。ただ、その後色々と自分なりに調べた結果、日本との戦争の際に、日本人によって忙殺されたとされた“悲劇の皇族”とは、他ならぬルルーシュとナナリーなのだと。だが実際に二人は生きている。アッシュフォード家の庇護を受けて。だからこの件に関しては、ブリタニアの公表したことは事実ではなく、嘘なのだ。“悲劇の皇族”は、自分たちに都合がいいようにブリタニアがでっちあげたこと。その前後の出来事も含めて、ルルーシュがブリタニアという国を憎んでいるだろうことも十分に察することができる。だから彼がゼロとして現れたことを否定することはできない。俺はただ見守るだけだ。
 そんなある日、ゼロとなったルルーシュに助けられた名誉ブリタニア人が、こともあろうに皇族の口利きで学園に編入してきた。しかも俺やルルーシュと同じクラスにだ。名誉ブリタニア人の、しかも軍人だ。俺は何か起きるかもしれないと恐れた。たぶん、会長もそうだろう。けど、ルルーシュはその名誉ブリタニア人── 枢木スザク── を、自分の友人、戦前からいたこの地でできた初めての友人、親友なのだと告げた。その結果、それまで続いていたスザクに対する苛めは消えた。この学園で1、2の人気を誇る生徒会副会長から、自分の親友とまで言われる友人、それだけでスザクに対する苛めはなくなった。スザクにはこの意味は分かっているのだろうか、俺には疑問だった。あまりにもスザクのルルーシュに対する態度が、苛めがあった時と、ルルーシュの言葉が発端となってなくなった後でも、何も変わらなかったから。
 スザクの実家である枢木家は日本では名家で、“悲劇の皇族”を預かっていた日本最後の首相の家だったことは、調べてみたらすぐに分かった。だからルルーシュとスザクは互いに幼馴染の親友だと言うのだと。だが、本当にそう言えるのか、言っていいのか、俺には疑問でならない。何故なら、ルルーシュの口利きで生徒会に入ったスザクは、生徒会室に来ると、いつも自分を救い出したゼロを非難し、自分をこの学園に編入させてくれた第3皇女殿下ユーフェミア様を褒め称える。ルルーシュがゼロだとは知らない、気付いていないのだろうから、それは仕方ないかもしれない。自分を助けてくれた相手に対して何を、とは思うが。けれど、少なくともルルーシュのブリタニアに対する感情を知っていると思われるスザクの、ユーフェミア様を褒め称える言葉を聞き続けるのは、さすがにルルーシュにとっては辛いのではないかと思う。何せ、俺や他のメンバーにしても、毎回毎回同じことを繰り返し聞かされるのにはうんざりしているのだから。それに生徒会のメンバーにとっても、ゼロは恩人だ。カワグチ湖に旅行した際に、滞在していたホテルがこのエリア最大のテロ組織であった日本解放戦線に占拠され、人質となっていたのを、ゼロと彼の率いる黒の騎士団によって救われたのだから。それは黒の騎士団という存在の公表という意味合いもあったのは後で分かったが。そして付け加えるならば、黒の騎士団が相手にしているのはブリタニア軍だけではない。守っているのはイレブンだけではなく、ブリタニア人もだということも知れるようになった。ゼロは告げていた、自分たちは正義の見方、弱者を守ると。その言葉通り、確かにイレブンのテロ組織と言っていいのだろうが、時にはブリタニア人も助けることがあったし、本来ならブリタニアの警察が、結果的にはそれを指揮する総督、政庁がすべき案件である、麻薬組織の摘発なども行っていたのだから。それに、スザクの言う正しい方法なんて、イレブンには取れない。それがルールだから、そして何よりも自分ができたことだからその思いを強くしているのだろうが、大きな間違いだ。スザクは特例中の特例だ。イレブンは、誰でも望めば名誉ブリタニア人になれるわけでもないし、ましてやなれたとしても必ずしも軍や警察に入れるとは限らないし、ブリタニア人にとっては、イレブンも名誉ブリタニア人もさして変わりはない。被支配民族、奴隷や家畜のようなものだということを理解していない。戦後から今まで過ごしてきて、そんなことも理解できないのだろうかと、スザクがあまり勉強できない── それ以前に、イレブンや名誉に勉強の機会は与えられていない── のは知っているが、いくらなんでも常識がなさ過ぎると思うのだ。
 けど、それだけならまだよかった。ゼロが、つまりルルーシュが率いる黒の騎士団が対峙している最強と言っていいだろうKMFのデヴァイサーがスザクだと知れたのだ。周囲は、何故名誉ブリタニア人が、と騒いでいたが、俺にとってはそれは二の次だ。加えてそれ以上に問題なのは、ユーフェミア様がスザクを自分の騎士になる者だとマスコミを前に公表し、やがて騎士叙任式も執り行われたことだ。なのに、どうしてかスザクは変わらずに学園に籍を置いたまま、来続けている。騎士となったなら、常に主の傍にいるべきで、ならば学園を辞めるべきではないのか。なのにユーフェミア様がいいと仰ってくださっているからと、一向に辞める気配がない。これには皆呆れていた。そしてルルーシュの心境はより複雑だっただろう。名誉ブリタニア人となり、しかも軍人となり、更には特例だろう、ルルーシュたちと敵対しているKMFのデヴァイサーで、遂には皇族の選任騎士となった親友。しかも、そのせいでゼロに対する非難とユーフェミア様への賛美は尚一層強くなっている。スザクが皇族の騎士となったことで、周囲に対する調査だって行われているだろう。それを考えると、隠れているといっていいのだろうルルーシュとナナリーの立場はどうなるのだ。もし見つかったらどうなるのだろうか。そして隠れているのだろうルルーシュたち兄妹だけではなく、そんなルルーシュたちを庇護しているアッシュフォード家は、そして会長は。スザクはそのことを何も考えていないのだろうか。たぶん普段の態度から察するに、何も考えていないのだろうと思う。それを考えると、俺はスザクに対して、早く辞めてくれ、この学園を去ってくれ、と思ってならない。
 俺はとうとう行動を起こした。ルルーシュの、すなわちゼロの居場所はGPSで把握済みだ。つまり、黒の騎士団のアジト、と言っていいのだろうか、それは把握済み。だから多少の恐れもあったが、思い切ってそこを訪れた。
 対応に出たきた数名の黒の騎士団の団員たち、もちろん、みんなイレブンだが、彼らから銃を向けられ、正直、冷や汗が流れた。けど、俺は懸命に告げた。
「ゼロに会いにきた。会長の命令で、リヴァル・カルデモンドが来た、そうゼロに伝えてもらえないだろうか」
 彼らは相談し、ゼロに連絡を入れ、その間に俺は他の団員に身体検査をされた。まあ、俺はブリタニア人だし、仕方ないよな。それに何よりゼロに、ルルーシュに会うのが俺にとっては何よりも重要だから。
 やがてゼロの許可が出たらしく、俺は団員にゼロの私室まで連れて行かれた。扉の前で、その団員が俺のことを告げると、中から声がした。
「鍵は開けてある。入れ」
 その声に俺たちは中に入ったが、ゼロは、団員に「そのブリタニアの学生だけを残して下がっていろ」と告げた。その言葉に、さすがに団員は「ですが……」と食い下がりかけたが、もう一つの声がそれを遮った。
「ゼロの命令を無視するのか?」
 明らかに少女が発したものと思われるその言葉に、団員は慌てて部屋を出て行き、そう発した少女は扉に鍵をかけるとゼロの隣に立った。
 そしてどこか見覚えのあるその少女の姿に、ふと俺は思い出して、つい指を差して叫んでいた。
「消えた死体ーっ!」
 そう、それは、以前に俺がルルーシュに頼まれて運んだ、死んだ少女の遺体だった。それが生きて動き、話をしている。
「そうか、私をあの場所に運んだのはおまえか。黙って消えて悪かったな」少しも悪びれたふうもなく、少女はそう告げる。「私の名はC.C.。不老不死の魔女であり、ゼロの共犯者だ」
「不老不死?  マジで?」
 俺は思わず目を見開いて尋ね返していた。
「実際、一度は確実に死んだのに、現に今またこうして生きて動いているのだから、そんな者が存在するとは信じられないだろうが、分かるだろう?」
 C.C.の言葉に、俺は頷くことしかできなかった。
「おまえがここに来たということは、分かっているのだろうな」
 そう言いながら、ゼロは仮面を外し、口元を覆っている布を下げた。そこから現れた顔は、紛れもなく俺の悪友のルルーシュだった。
「報告では、会長の命令で、ということだったが?」
 その問いかけは、会長も知っているのか、と確認したいのだろう。
「誰にも話してない。会長にも。知ってるのは俺だけ。会長のことを出したのは、その方がおまえに会いやすいかと思って」
「そうか……」
 俺の言葉に、ルルーシュは安心したかのように息を吐き出した。自分がしていること、つまり自分がゼロだということを、会長はもちろん、他の誰にも知られたくないのだろう。そしてそれは、おそらく妹のナナリーちゃんにも。スザクは論外だ。
「俺がここに来たのはさ、おまえに言っておきたいことがあったから」
 その俺の言葉に、ルルーシュは顔を上げてまっすぐに俺を見つめてきた。
「ただの生徒会副会長のルルーシュよりも、ゼロであるルルーシュに言った方がいいかなと思ってさ。
 俺、いや、俺だけじゃない、口にはしないけど、学園の殆どの者は知ってる。おまえが皇族や貴族、軍人を嫌ってること。けど、おまえが友人だと、親友だと言っているスザクは、その全てに関わっている。そして、たぶん俺の知らないことも含めて、おまえのブリタニアに対する感情を知ってるはずだと思う。その上であの言動だ。だから伝えたかった。スザクが何を言っても、何をしても、確かにおまえのしてること、さすがに全てを認めることは無理だけど、でも理解はできる。だから、俺はブリタニア人の単なる学生で、ゼロとしてのおまえには何の役にも立たない存在だけど、それに詳しいことは会長も話してくれないから全部は知らないけど、そんなこと関係なしに、俺はおまえの悪友、親友だから。親友っていうのは俺だけの勝手な思い込みかもしれないけどさ。ただ、この先何があってもその思いは変わらないから。たとえスザクが何を言おうと、何をしようと、俺はおまえを信じてる。そして学園で何かあったら、俺を頼ってくれ、あてにしてくれ。外じゃなにもできないけど、学園内だったらできることはあるからさ。それだけ伝えておきたかった」
「よかったな、ルルーシュ。理解者がいてくれて」
 ルルーシュの傍らで、C.C.と名乗った少女が微笑みながら告げる。
「……ありがとう、リヴァル……」
 少し俯き加減に、ルルーシュはそう応えてくれた。それだけで、俺はここにきてよかったと思った。
「ここにはもう来ないから。そのほうがいいだだろう? じゃ、明日また学園でな」



 去っていったリヴァルから告げられた言葉を思い返しながら、ルルーシュは思う。
 ── そうだな、俺の言葉を傍で聞いていながらそれを忘れたように、俺たち兄妹の立場を分かっているはずなのに、それを何も考えずに皇族の騎士となったスザクよりも、悪友のおまえの方が、今の俺にとっては本当の親友だ。



 ルルーシュがそんなふうに思ってくれていることなどまったく知らず、俺は学園へと道を急いでいた。少なくとも、学園の中だけでは普通の日常生活が送れるように努力しようと思いつつ。

── The End




【INDEX】