実兄と異母兄 番外編




 私の名前はナナリー。この神聖ブリタニア帝国の第6皇女。母は父である皇帝シャルルの第8皇妃。母の実家は侯爵家。とはいえ、昔に比べると、数代前の当主がかなり散財した結果、財政的には厳しいようだが、格的には結構上位に位置する家柄。
 そんな私には、物心ついた頃から、何故か別の二つの記憶がある。
 一つは、私は第5皇妃マリアンヌ様の娘で、第11皇子であるルルーシュお異母兄(にい)さまの実妹だった。
 母がテロリストによって暗殺され、その目撃者となった私は、母に庇われながらも、ショックから視力を閉ざし、撃たれた両足は麻痺して、車椅子無しには動けない身体障害を負った。そしてさらに、兄であるルルーシュが皇帝である父に対してとった態度から、私たち兄妹は、情勢不安な状態にある日本へと、名目上は友好親善のためという名の人質として送り出された。
 やがてブリタニアは私たちがいるのを無視して日本に対して宣戦布告し、僅か一ヵ月程で日本を占領、エリア11とし、日本人をイレブンと呼ぶようになった。日本は、日本人は、世界から無くなったのだ。
 私と兄ルルーシュは、かつて母が生きていた頃にヴィ家の後見をしてくれていたアッシュフォード家に救い出され、その庇護を受け、偽りのIDの下、一般の人間として生きていた。私の身体的理由も多少はあったのだろうが、アッシュフォードの計らいで、アッシュフォードが建てた全寮制の学園の中、寮ではなく、クラブハウスの居住区に住まわせてもらい、私の面倒を見るために、名誉ブリタニア人の女性を一人つけてくれた。そして兄から愛され、慈しまれ、かいがいしく献身的に世話を焼いてもらいながら、それを当然のこととして受け止めていた。だから、その頃は兄のことを愛していた、と思う。たとえ兄だけではなく私までもが日本に送られた理由が、兄の父に対する言動に原因があったと思っていても。
 そして何年も過ごしたのだけれど、エリア11の総督であった第3皇子のクロヴィスお異母兄さまが殺され、戦後間もなく別れ別れとなった、幼馴染といっていい、日本に送られてから程なく親しくなった、枢木スザクという人がその容疑者として逮捕された。その人を助けたのは、私は見えなかったのでTVから流れてくるアナウンスだけで知ったのだけれど、仮面を被り、黒を身に纏った人が、自分がクロヴィスお異母兄さまを殺したと言って登場し、枢木スザクを救い出し、姿を消した。
 その後、その仮面を被った人は、ゼロ、と名乗り、黒の騎士団、というテロリスト集団を組織してブリタニアと対抗するようになった。とはいえ、この黒の騎士団は他のテロリストとは少し違って、自分たちを正義の使者と名乗り、悪を成しても巨悪を打つとして、時にはイレブンからの被害にあうブリタニア人を救うこともあったし、本来ならブリタニアの警察がやるべきだったリフレインという麻薬の取り締まり、犯人の検挙なんかもしたりしていて、イレブンからは、ゼロは救世主としてあがめられていたようだ。
 そんな中、クロヴィスお異母兄の後任としてやってきたリ家の姉妹であるコーネリアお異母姉(ねえ)さまとユーフェミアお異母姉さま。そこにどんな状況、理由があったのかしれないけれど、そのユーフェミアお異母姉さまの口利きとかで、枢木スザクがアッシュフォード学園に編入してきて、私たちは再会した。その時、その人は、自分は技術部所属で前線に出ることはないと言っていたけれど、後で分かったことだったが、それは真っ赤な偽りで、実際には、第7世代KMFのデヴァイサーだった。そしてさらには、その人をユーフェミアお異母姉さまは自分の騎士として披露した。当時の兄と私は、彼は学校を辞めてユーフェミアお異母姉さまの選任騎士として、その役目に専念するものと思っていたが、彼は、ユーフェミアお異母姉さまがいいと言ってくれているからと学園を辞めることなく通い続けていた。そんな中、執り行われた学園祭。そこを訪れたユーフェミアお異母姉さまと再会することになり、兄も含めて少し話をしたのだけれど、風で吹き飛ばされた帽子のお蔭で、ユーフェミアお異母姉さまのことが周囲に知れて、そこでユーフェミアお異母姉さまは宣言したのだ、“行政特区日本”の設立を。そして騎士であり、私たちにとっては友人といってよかったのだろう枢木スザクは、私たちの、ブリタニアの皇室から隠れているという状況を考えることなく、私たちに特区への参加を促してきた。兄は出来ないと突っぱねていたけれど、彼はなかなかあきらめず、性懲りもなく何度も参加を促してきた。
 そして特区の創立記念式典、ユーフェミアお異母姉さまは突然気でも狂ったかのように、日本人を殺し始め、その場にいたブリタニア兵にも日本人を虐殺しろと命じていた。そのユーフェミアお異母姉さまを殺したのは、協力を求められ、特区会場に来ていた、テロリストのゼロ。
 それを契機に、イレブンは一斉蜂起し、ブラック・リベリオンと呼ばれる独立抗争へと発展していった。そんな中で、アッシュフォード学園にいた私は何者かに誘拐され、気が付いたらブリタニアの皇室に戻されていた。私だけが。
 そして一年程経った。相変わらず兄ルルーシュは行方不明のまま。時折、ゼロを捉えた褒賞として、騎士候となり、皇帝の騎士たるラウンズの一人となった枢木スザクが私を訪ねて来たが、彼もルルーシュのことは捜しているが見つからないと言うのみだった。後にそれもまた嘘だったと知れたのだけど。
 そしてエリア11ではゼロが復活し、臨時総督だったカラレス将軍は殺された。私は、馴染み深いエリア11をどうにかしたいという思い、汚辱に塗れて殺されたユーフェミアお異母姉さまの思い、そして自分の兄を捜したいという思いから、エリア11の総督となることを望み、それは叶えられた。
 エリア11へ赴く途中、黒の騎士団の襲撃を受けたりもしたけれど、なんとかエリア11に無事到着し、総督としての就任会見で、私はユーフェミアお異母姉さまの提唱した“行政特区日本”の再建と、それに対してのゼロと、彼の率いる黒の騎士団の協力を訴えた。
 特区開催式典の際、ゼロはモニター越しに顔を見せた。もちろん私には分からなかったけれど。そしてゼロの協力の元、式典会場には100万のイレブン、否、日本人が集まってくれた。けれど私はそれが私の知らないところでゼロと交わされた条件、ゼロの国外追放ということによるものだとは知らなかった。そして、後から聞いた部分もあったが、ゼロは、ゼロは国外追放という条件を逆手に取り、特区会場に集まった人々は皆ゼロとなって、中華の船でエリア11を去っていった。それからのエリア11は、最大のテロ組織である黒の騎士団が不在となったことも大きな要因だったのだろうけれど、テロも少なくなり、ブラック・リベリオン以後、矯正エリアとなっていたが、無事、衛星エリアまで格上げとなった。
 その間に、ゼロは対ブリタニアのために超合集国連合という国際的組織を()ち上げていた。そしてその決議に従って、超合集国連合の外部組織となった黒の騎士団という、もはやテロリストではない、れっきとした軍隊を率いてエリア11を日本として解放すべく、攻め寄せて来た。
 その戦いの中、足が動かないだけならまだしも、盲目であり状況把握が困難な私に変わって、私は帝国宰相たる異母兄(あに)のシュナイゼルに全権を委譲し、対黒の騎士団との戦闘を任せた。そんな中で発射された大量破壊兵器フレイヤ。それがどんなものなのか、それもまた後に教えてもらうことになったが、そのためにトウキョウ租界は消失し、多数の人命が失われたという。そして黒の騎士団だけではなく、ブリタニア軍にも大きな被害が出たと。私自身はシュナイゼルお異母兄(にい)さまのおかげで、政庁から脱出して助け出してもらえていたけれど。ただ、その後、そのままシュナイゼルお異母兄さまから言われた通りに身を隠していたことで、私が死んだと思われていたとは全く思いもよらなかった。
 そして知らされた事実。兄であるルルーシュこそが他ならぬゼロであること。そしてその兄によって異母兄クロヴィスも異母姉ユーフェミアも殺されたこと。さらには兄は皇帝である父を弑逆し、自ら神聖ブリタニア帝国第99代皇帝を名乗って登場した。そう、皇帝位を簒奪したのだ。
 そんな兄の振る舞いに、私たちは、兄が超合衆国連合との会談のために本国を留守にしている間に、帝都ペンドラゴンにフレイヤを投下した。それはもちろん、シュナイゼルお異母兄さまの、民は避難させたとの言葉があったからだ。
 そして、兄と、いつの間にかその兄の傍に侍り、その騎士を名乗るようになっていた枢木スザクの二人に対して敵対宣言をし、多くの犠牲を出しながらも私たちは戦った。巨大な天空要塞ダモクレスと、そこに積載されたフレイヤ、それがあれば負けることはないと、ましてや、ゼロの正体と真実の意図を察し味方となってくれてた黒の騎士団の戦力があれば、絶対に私たちが勝利すると信じて疑っていなかったのだけれど、実際には、私たちは見事に敗北した。兄はフレイヤに対抗する手段を既に手にしており、その余勢をかってダモクレスに侵入、シュナイゼルお異母兄さまたちを捕え、私が手にしていたフレイヤのスイッチを奪い去った。
 そして、私たちが処刑されるための戦勝パレードの中、何故かその正体であるはずのゼロが現れ、玉座にいた兄ルルーシュを刺し殺したのだ。民衆は歓喜に沸いた。何故なら、兄は“悪逆皇帝”と呼ばれる程の非道を働いていたから。けれど、玉座から私の元に滑り落ちて来た兄に触れた時、兄の真意が私の中に流れ込んできて、私は知った。全ては私のため、そして心ならずも殺すことになってしまったユーフェミアお異母姉さまと私の願った“優しい世界”を創るため。兄はそれまでの世界中の全ての負を自分に集め、自分が殺されることによってその連鎖を断ち切り、新しい優しい世界を築くために、自らそのための人柱となったのだと。
 それからもう一つの記憶。
 その時の私には、もう一つの先の記憶があった。けれど立場は違った。私はシュナイゼルお異母兄さまの実の妹として生まれていた。そして兄のルルーシュはマリアンヌ様の一人息子で、マリアンヌ様もテロリストに殺されたりしておらず、健在でいらした。ルルーシュお異母兄さまは異母弟妹たちにとても優しく、よく彼らを招いてはお茶会など開いていた。だから弟妹たちも懐いていた。でも私は一度もそのお茶会に出席したことはない。私の中にあった記憶が、どうしても私を素直にしてくれなかった。出席してみたいという気がなかったわけではない。でも実行出来なかった。そうこうするうちに、ルルーシュお異母兄さまからの招待状が届くことはなくなった。
 また、その記憶の中ではルルーシュお異母兄さまは、やはり帝国宰相となっていたシュナイゼルお兄さまの元で、宰相補佐として公務を務めるようになっており、シュナイゼルお兄さまは、妹の私よりもルルーシュお異母兄さまを慈しみ、大切にしているように見受けられた。実の妹である私のことは避けているようにしか見えなかった。いや、避けているだけではない、蔑んでいるようにすら感じた。それは、私がシュナイゼルお兄さまやルルーシュお異母兄さまと違ってあまり優秀ではないから、だったかもしれないとは思うけれど、それにしても、母を同じくする実の兄と妹でありながら、何故、という疑問は常にあった。いくら不出来な妹であったとしても、もう少し考えてくれてもいいのではないかと。
 そんな二つの記憶を持つ現在の私は、第8皇妃の一人娘で、帝国宰相であるシュナイゼルお異母兄さまの元には、ロロという名の実の弟がいる。そしてルルーシュお異母兄さまは、今度もまたマリアンヌ様の一人息子で、宰相補佐の地位にある。ルルーシュお異母兄さまが異母弟妹たちに優しく、よく彼らを招いてお茶会を開いているのは、前の記憶と変わりないけれど、その中でも、シュナイゼルお異母兄さまの弟、自分にとっては異母弟のロロをその中でも殊の外慈しんでいるように見受けられる。シュナイゼルお異母兄さまにとっては、前回同様、誰よりもルルーシュお異母兄さまを慈しんでいるような感じだけど、ロロのこともとても可愛がっている。それ程特に優秀には見えないのに。私が妹だった時の前の記憶の時とは雲泥の差だ。
 私が持っている二つの記憶の中に、ロロ、なんていう存在はいなかった。もしかしたら単に私が知らなかっただけかもしれないけれど、それにしても、何故、私はシュナイゼルお異母兄さまからもルルーシュお異母兄さまからも疎まれているようなのに、ロロは可愛がられ慈しまれているのか、その現実を受け入れることが出来ない。どうして私だけ爪弾きされているのだろう。
 私が持っている二つの記憶は、夢なのだろうか。でも夢というには余りにも現実味をおびているような気がしてならない。
 叶うならロロと立場を変わりたい。あるいは、ルルーシュお異母家さまの実の妹であったなら、と何度思ったかしれない。でも現実は違う。今もまた、私はルルーシュお異母兄さまの主催する弟妹たちのために開いてくださっているお茶会に出席することなく、これといって親しくしている異母兄弟姉妹もなく、一人、離宮に籠って日々を過ごしている。

── The End




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