続・裏切りの裏切り




 ブリタニアの帝国宰相シュナイゼルによって齎されたゼロの正体、“行政特区日本”における第3皇女ユーフェミアによる日本人虐殺の真実、それらよにってゼロは信用ならない、彼は裏切り者であると黒の騎士団の日本人幹部たちから断じられ、ゼロは排除された。
 とはいえ、4番倉庫に呼び出して射殺しようとしたところ、突然ゼロの専用機である蜃気楼が動きだし、ゼロを救って旗艦である斑鳩を飛び出し、結局はゼロに逃げられたのだが。
 だがそれでも、黒の騎士団からゼロは完全に排除された。黒の騎士団はゼロ死亡の報を、正式なものとして公表することにしたのである。
 そんな中、南は今後の自分の行動を考えていた。
 南は敵であるシュナイゼルの齎した情報の全てを信じてもいいのか、という疑問を持った。加えて事務総長である扇の隣に立っていたブリタニア人の地下協力員という女は、間違いなくブラック・リベリオンの際に、扇に傷を負わせた張本人ではなかったか。
 そしてゼロ。彼は常に危険な前線に自ら立って指揮を執っていた。本当に彼がシュナイゼルのいうギアスという力を持ち、人を自由に操ることが出来るというのなら、彼が自ら前線に立つ必要などない。その力で幾らでも駒を増やすことが出来るのだから、彼は後方に控えて安全なところから指揮を執っていてよかったはずだ。だがゼロは違った。常に最前線に自らの身を置いていた。そんなゼロが本当に裏切り者と言えるのか。特区虐殺の事実とて、ユーフェミアの身内であるシュナイゼルやコーネリアの言葉の全てをそのまま信用していいものか。
 それらの疑問が南を動かした。
 幹部たちがゼロを排除しようとしている旨を告げて、ゼロの身の安全を、彼を慕っているらしきロロに託したのである。
 結果、ゼロはロロの手によって無事に斑鳩を去った。その後、ゼロやロロがどのような道を歩むのかは分からないが、それは彼らの問題である。
 そして自分が考えるべきは自身の今後のことだ。4番倉庫には自分も身を置いた。自分の身の安全を図り、扇たちに同調していると見せた。しかし心の中は違う。扇に対する不信感の方が強い。簡単に敵の齎した情報を鵜呑みにした他の幹部たちへの疑念も多い。そんな相反する意識を持ったままで、このまま黒の騎士団に身を置き続けることが、一緒に行動することが果たして出来るのか。
 考えに考え、南は一つの結論を出した。
 合流した黒の騎士団の総司令である黎星刻に対して、南は退団届を出したのである。
「どういうことか、聞いてもいいかな?」
「ご存じでしょう、ゼロのこと」
 南のその言葉に、星刻は厳しい顔つきで頷いた。
「生憎と俺は、敵であるシュナイゼルたちが齎した事実を、そのまま全て受け入れることは出来ないんです。そして扇のいう地下協力員だというブリタニアの女性も、信用出来ない」
「何か確証あってのことか?」
「ブラック・リベリオンの際、扇に負傷を負わせ本部を混乱に陥れたのがあの女です」
「なんだと? 本当なのか?」
「間違いありません。だから俺は扇の言うことを全て受け入れることは出来ない。彼の方針に従うことは出来ない。そんな俺がこのまま扇に従うことは出来ません」
「しかし君は、黒の騎士団がまだ小さなテロリスト組織だった頃から、ゼロが現れる前から扇の仲間だったのだろう?」
 確かめるように星刻が問う。
「その通りです。それでも、これ以上扇についていくことは出来ません。
 黒の騎士団はゼロを、表向きには死亡と公表したことで、本当のことは表沙汰にされていませんし、それはこれからも変わらないでしょうが、実際には逃亡され、裏切り者として放逐のような形になりました。おそらく無事に逃げ延びて、彼は生きているでしょう。今後、黒の騎士団が彼の死亡を公表した以上、彼がどうするかまでは判断しかねますが。
 そしてそのこととは別に、俺には今までのゼロの行動から、ゼロを裏切り者と断ずることは出来ません。そして扇たちが公表したように、ゼロが死亡していないという事実を俺は知っています。そんな俺が、これから先も黒の騎士団に身を置き続けるのは、自分の意思からしても、その相反する意見からしても、無理があります。ですから俺は身を引きます。黒の騎士団はゼロを排除した形でこれから進んでいくことが既に既定事実としてあるんですから」
「……分かった」
 暫くして星刻は頷いた。
 南の言う通り、意見の違う者同士が、しかも隠さねばならない事実を知った者が、そのままこの黒の騎士団に身を置き続けるのは確かに本人にしてみればきつく辛いことだろう。相当な無理があるだろう。ましてや星刻も自分の預かり知らぬところで起こってしまったこととはいえ、ゼロの放逐を認めてしまったのだ。もっともゼロ死亡の報が出された後のことであるから、認めないわけにはいかなかったというのもあるが。
「君はこれからどうするつもりだ?」
「まだ決めていません。とりあえずここからエリア11に降りて、それから考えます」
「そうか。私は君の意思を尊重しよう。ただ、一つだけ約束してほしい」
「何でしょう?」
「黒の騎士団がゼロを放逐したこと、いや、裏切り者として殺そうとしたところを逃亡されたと言うのが正しいかもしれないが、それを言いふらすのだけは止めてほしい。
 ゼロは、表向きには超合衆国連合の外部機関である黒の騎士団のCEOであったにすぎないが、実質的には、その存在は超合衆国を創設した精神的支柱とも言えるものだった。それを考えれば、いまさら何も知らない他の団員や、ゼロを信奉していると言ってもいいだろう、特に超合衆国連合に加盟している各国の政府関係者はもちろん、民衆に動揺を与えるわけにはいかない」
「それくらいは分かっています。そして、だからこそ俺は黒の騎士団を抜けるんですから」
「済まない」
「貴方の責任ではありませんよ。決めたのは扇であり、俺なんですから。これから先の黒の騎士団をお願いします」
 そう告げると、南は星刻に一つ礼をとってその部屋を後にした。



 一般のイレブンとしてゲットー── エリア11は日本として完全に返還されてはいない── で過ごしながら、南は黒の騎士団の動きを注視していた。
 行方の知れなかったゼロが、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがブリタニア皇帝として姿を現した時は驚いた。
 そしてルルーシュが超合集国連合の臨時最高評議会に出席するためにエリア11にやって来た時は、アッシュフォード学園まで足を運んだ。遠くに見掛けたルルーシュの白い衣装に、ふと“死装束”という言葉が脳裏を掠めた。そしてまさか、と頭からその言葉を振り払う。
 アッシュフォード学園の体育館で行われている臨時最高評議会の様子は、仮住まいしている家に戻ってTVで観た。
 一体何をしているのかと、歯噛みした。
 神楽耶様は完全に扇の言葉を、シュナイゼルたちの言うことを信用しきっている。これまでのゼロの何を見てこられたのか。何をもってゼロの妻を自認してこられたというのかと。
 そして黒の騎士団幹部たちの、ブリタニア皇帝であるルルーシュに対して取った行動。それの何処が一国の君主に対して取る行動か。南は思わず頭を抱えた。
 その後、ルルーシュの騎士であるナイト・オブ・ゼロたる枢木スザクが、KMFランスロットで会議場となっている体育館に乗り込んだのもある意味当然のことであり、非は明らかに黒の騎士団と超合衆国連合の最高評議会側にある。
 南は誰にも何も言うことなく、黒の騎士団の行動を見つめ続けた。
 そして迎えたフジ決戦。
 黒の騎士団は、超合集国連合は何を考えているのか。
 何をもってシュナイゼルたちと手を取り合ってルルーシュと対しているのか。何故ブリタニアの宰相に加担するのか。いくら議員たちをルルーシュに人質として取られているとはいえ、元をただせば黒の騎士団と議員たちの行動に端を発するというのに。
 今は第三者の立場にあるからこそ、南には見えるものがあった。
 このエリア11、トウキョウ租界にも落とされたが、それ以上に、自国の帝都に大量破壊兵器を打ち込むような者たちに正義はないと。しかし黒の騎士団はそのシュナイゼルの陣営に加わった。つまり、フレイヤを容認したということだ。たとえ彼らにその意識はなかったとしても、世間からはそう受け止められてもいたしかたない状況だ。、
 戦闘はルルーシュ側の勝利で終わった。黒の騎士団のメンバーや超合衆国連合の議員たちは、戦争犯罪人として処刑されようとしている。
 ゼロは、ルルーシュは何を考えているのかと思いながら、南はパレードの行われている大通りにいた。
 そして突然姿を現したゼロ。
 そのゼロが本物でないことは、南は分かっている。ゼロはルルーシュだ。ならばあのゼロは何者なのか。
 考えを巡らしているうちに、ゼロの姿をした者はルルーシュを刺殺した。
 それを見て南は思う。
 自分が思ったことは間違いではなかった。あれはやはり死装束だったのだ。ルルーシュは最初からこのつもりだったのだ、死ぬつもりだったのだと。
 ルルーシュが死に、処刑のために磔にされていた者たちが解放される。ブリタニアの魔女、純血派と呼ばれた女たちと、それに組する者たちの手によって。
 これは何だ。何が行われている、これの何処が正しいというのか。彼らには分かっているのか、ルルーシュの死の意味が。
 残された者たちを考えた時に、その彼らの頭を占める考えに思いを巡らせた時に、南は明るい未来を描くことが出来なくなった。

── The End




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