現実の認識




 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア亡き後、世界は超合集国連合を元にして、世界規模で、超合衆国連合を大きく発展させた。これにより、世界は紛争ではなく、何事も話し合いの場で物事の解決を目指していくこととなったのである。
 そして世界にとって貴重な資源であるサクラダイトの産出と分配についての会議が、今年も、かつてのフジ決戦においてルルーシュがサクラダイトを爆発させるという暴挙に出たにもかかわらず、未だ世界一の産出国であり埋蔵量を誇る日本の、霊峰富士を望む河口湖のホテルにて開催されていた。
 その会議場、合衆国日本の初代首相である扇要は屈辱に震えていた。
 彼は現在、会議場の中心に、壁で周囲を囲まれて立っているのである。その姿は以前の超合集国連合の臨時最高評議会に、超合衆国連合への参加表明をして、一人臨んだルルーシュの姿を彷彿とさせた。
「何故サクラダイトの最大輸出国である我が国の首相である私が、このような目にあわねばならない!」
 扇は怒りに震えながら声を張り上げた。
「そう、日本はサクラダイトの最大輸出国だ。埋蔵量も世界一」
「世界経済、各国の発展を考えた場合、サクラダイトの分配は公平に安定的に行われなければならない」
「貴方の日本が最大の産出国だからといって、特別扱いするわけにはいかないのですよ」
 各国の代表が次々と意見する。
「それは分かりますが、これは一国の代表に対する行為ではないと申し上げている!」
「いまさら貴方がそれを仰いますか」
 ある国の代表が苦笑しながらそう告げ、それに同調するように周囲から嘲笑(わら)いが漏れるのが、壁に取り囲まれた扇にも聞き取れた。
「以前、超合集国連合の臨時最高評議会に単身臨まれた、今は亡き神聖ブリタニア帝国のルルーシュ皇帝と同じようにしているだけですよ」
「それは、奴には危険性があり、それを危惧しての安全対策だった。奴と私を同じように考えてもらっては困る!」
「単身で臨時最高評議会に臨まれたルルーシュ皇帝の、一体何処に危険性があったと言われるのか、お聞きしたいですね」
「危険性で申し上げれば、貴方の方が高いのではないですか?」
「何せ国会などでは、口よりも手の方が達者な貴方だ」
「ご自分と自国の保身のために、何をされるか分からないのは貴方の方ではありませんかね」
「何せ貴方は、今は合衆国日本の首相であり、かつては黒の騎士団の事務総長とはいえ、元をただせばただのテロリスト上がり。危険性は、亡くなったルルーシュ皇帝よりも寧ろ貴方の方にあるでしょう」
 扇の前身を述べて、ある国の代表が嘲笑し、他の国々の代表たちもそれにならって侮蔑の笑みを零した。
「そのように怒りや屈辱に震えるのではなく、かつて世界を統一したブリタニアの皇帝ルルーシュと同じ待遇を受けていることを誇りに思ってはいかがですか?」
「それとも貴方は貴方が他人に対して平然と取る行為を当然としながら、それと同じことを自分がやられるのは嫌だと仰るのですか?」
「だからそれはルルーシュに危険性があったからだと、先程からそう申し上げている!」
「危険性は貴方の方が高いと、私たちは申し上げているのですよ、かつての、そして日頃の貴方の行動から」
 扇と各国の対応は平行線をたどっている。
 議長国であるEUのドイツ代表が、流石に痺れをきらして討論に移りましょうと述べた。
 それに各国は同意し、扇だけが壁に取り囲まれ、つまりは檻の中に一人取り残される。
 各国は扇を、つまりは日本を無視して、いかに日本に埋蔵されているサクラダイトを各国に公平に分配するかを決めていった。それでなくても、確かにいまだ日本の埋蔵量は世界一ではあるが、かつてのフジ決戦でルルーシュの用いた作戦の影響により、多大な量が失われているのだ。そんな状態で一気に採掘して数年で枯渇させるような真似をすることは出来ないと、計画的に採掘を行うことで各国は既に合意している。当事国である日本を除いて。
 つまりサクラダイトを埋蔵するのは日本でありながら、その採掘と、分配という名の輸出について、日本の存在は無視され、自国のことでありながら何ら口を挟むことが出来ずにいるのだ。
 その会議の様子は、リアルタイムでマスコミによって世界各国に流されている。
 その在り様に、扇以上に屈辱感を味わっているのは日本人である。
 扇に首相としての能が無いのは、日頃の国会運営から既に日本人は察していた。そして何故そんな扇を首相として認めてしまったのか、日本人は後悔していた。全ては黒の騎士団の事務総長であったという点にのみ目がいって、扇自身の能力を過大評価していたのだと、扇が首相に就任して程なくそれは知れ渡った。
 ある国の代表が言った通り、所詮扇はテロリスト上がりの若造に過ぎないのだと、多くの日本人が思い、そして今、河口湖のホテルで行われている会議の状況を目にし、それに対する扇の態度、各国の扇への、つまりは日本への態度に恥辱を味わわされている。
 そして多くの日本人が思った。
 この会議の終了後の国会は荒れると。野党だけではなく、扇を総裁とする与党も扇落としに走るだろう。いつまでも扇が首相では、各国から日本が貶められるだけだ。ブリタニアの支配下から脱したのに、今度は世界中からサクラダイトの分配について内政干渉を受ける羽目になってしまっている。自国の産出物に対して、何の権利も、大した権益も得られない状況に追い込まれつつある。
 日本人の殆どの者が思った。扇には早々に首相の座から退陣してもらおおうと。
 超合集国連合最高評議会議長を務める皇神楽耶とて、現在の状況を見れば反対は出来まい。反対出来る者がいるとすれば、扇のかつての仲間である黒の騎士団の、それも黒の騎士団結成以前から扇と共に行動していた、主に幹部だった者たちだが、その者たちもフジ決戦の後、超合集国連合が巨大化していく中で、所詮は民間のテロリスト上がりと他国のプロの戦闘集団である軍人たちにとって代わられ、一般団員はともかく、旧幹部たちは自然と脇に押しやられるようになって退団した者も多い。
 もっとも退団していなくとも、戦闘集団である黒の騎士団のメンバーが、いわゆる経済会議である河口湖の会議に口を挟むことなど出来はしないのだが。それは何も今回の会議に限ったことではなく、ルルーシュの時に口を挟んだのが異常なのであって、戦闘集団である彼らには、議題内容によって求められた場合ならいざしらず、本来、会議に一切口を挟める立場にはない。
 時代は変わっている。確かにルルーシュが臨時最高評議会に臨んだ時は、黒の騎士団は本来発言権がないにもかかわらず、会議で他国の議員たちを無視して発言を繰り返していたが、今はもう決してそのようなことが出来る、許される時代ではない。
 黒の騎士団はあくまで戦闘集団、軍事組織であり、政治的、あるいは経済的な発言権はきっちりと押さえられている。シビリアンコントロールの理論から言えばそれが当然のことなのである。
 扇は自分を無視して取り交わされる条約に、何よりも自国が大きく関わることでありながら、何ら発言を許されず、その存在を無視され続ける状態に、自分は何をしているのだ、何のためにここにいるのだ、こんなはずではなかったのにと、ひたすら屈辱感に耐えていた。

── The End




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