枢木スザクは名誉ブリタニア人であるにもかかわらず、エリア11の副総督だった神聖ブリタニア帝国第3皇女ユーフェミアに選任騎士として任命された。
エリア11で盛んだったテロ行為が沈静化されたことを受けて、総督であった第2皇女コーネリアは、次の戦場に向かい、コーネリアが自分の後任にと考えていたユーフェミアは、しかしそれを認められることはなく、本国に帰国することとなり、帰国に伴ってユーフェミアはスザクを同行させた。
公務から離れたことにより、スザクは選任騎士ではなく── 選任騎士を持てるのは皇族でもそれなりの役職にある者のみだ── 私的な騎士となったが、それでもエリア11にあった時と変わることなく、二人は過ごしていた。
そんなある日、ユーフェミアは異母妹である第6皇女ナナリーに茶会に呼ばれた。その席には、珍しいことに異母兄のルルーシュも呼ばれていた。
そこで明らかにされた事実。正確には前もってスザクから簡単な説明を受けてはいたが、スザクとナナリーには同じ記憶があり、その中で、ルルーシュはガブリエッラ皇妃の息子ではなく、もちろんクロヴィスの実弟でもなく、ナナリーと同じくマリアンヌ皇妃を母として生まれ、マリアンヌが暗殺され、ルルーシュとナナリーは当時関係の悪化していた日本に送られ、そこでスザクと出会い、やがて開戦して日本は一ヵ月程で敗戦、エリア11となり、そのエリア11で、ナナリーはルルーシュと共にヴィ家の後見であったアッシュフォード家に庇護され、アッシュフォードがエリア11のトウキョウ租界に設立した学園に籍を置いていたというのである。
しかしユーフェミアにはそんな記憶は無かったし、それはルルーシュにも言えた。
その記憶の有無を確かめるための茶会だったのだと知らされ、スザクに呼び捨てされるまでに至ったルルーシュは気分を害し、出された紅茶に口をつけることもな、くユーフェミアと共に席を立った。
そしてユーフェミアはルルーシュに離宮まで送ってもらったのだが、その際、ユーフェミアはルルーシュから、スザクを騎士から解任することを勧められた。ルルーシュの言うことはもっともなことであり、ユーフェミアはルルーシュの言に従って、スザクを己の騎士から解任した。
解任されたスザクはエリア11に帰るものとばかりユーフェミアは思っていたのだが、そんなスザクを拾い上げた者がいた。スザクと同じ記憶を持つというナナリーである。
第3皇女が解任した騎士を、第6皇女が拾い上げ、己の騎士とした。
その事実が明らかになった時、皇族たちはもちろん、貴族たちをはじめ宮殿にある者たち、騎士という立場にある者たちはおおいに呆れたものだ。
解任された騎士を即座に拾い上げた皇女、解任されたばかりでさっさと他の皇女に乗り換えた騎士。
二人とも騎士というものの本質を何も理解していない、騎士を、ましてや皇族に仕える騎士を一体何だと思っているのかと、多くの者が呆れるだけでなく、怒りに震えた。特に騎士の立場にある者はなおさらである。己たち騎士の存在を、皇女であるナナリーに馬鹿にされているように感じたのである。解任されてもすぐに他の皇族の騎士に乗り換えるような者なのだと。
ナナリーはもちろん、簡単に主を乗り換えたスザクの評価はあっというまに低下した。
元々ナナリーは皇族とはいえ、母は庶民出であり、同じ皇族からも一段低く見られていた。そしてスザクは、元をただせばブリタニアに征服された被征服民族、エリアのナンバーズ上がり、名誉ブリタニア人である。
所詮庶民出の母を持つナナリーも、ナンバーズ上がりのスザクも、ブリタニアの騎士というものを理解していない、その主従の在り方を理解していない、と見られたのである。
当然の反応だろう。
宮廷において、ナナリーはそれでなくても低かった評価をさらに落としたわけだが、その理由が何であるのかを理解していなかった。いや、それ以前に自分の評価がそれ程に低いという認識があまりなかった。それはナナリーが庶民出の母を持つということで、以前から、どちらかといえば他の皇族たちから孤立しがちであり、貴族たちからも侮られている存在であったことがあるかもしれない。
そんなナナリーに仕えることになったスザクは、己に対して向けられる視線がさらに厳しいものに、冷たいものになったような気がしたものの、元々が良いものではなかったために、気のせいか、で済ませてしまっていた。
そんな二人の在り様に、さらに二人に対する評価は悪化する。悪循環である。
高校を卒業してエリア11の総督に任命されたルルーシュが僅か一年余りでエリア11を衛星エリアに昇格させて本国に戻って来た頃には、既に二人の評価は落ちるところまで落ちていた。
ことにスザクに対しては、そうして戻ってきたルルーシュが伴ってきた、同じエリア11出身の名誉ブリタニア人、篠崎咲世子と比較され、これ以上落ちるところはないのではないかというところまで、その評価は一層落ちていった。
それでも面と向かって二人に対してそれを告げる者がいないために、影で愚かしい者たちと囁かれ、また、視線を向けられるだけで、世情に疎く、人の感情を汲み取ることに欠けている二人にはそれは見えていなかった、理解っていなかった。それ故に二人は周囲の人々の自分たちに対する態度に、時に首を傾げながらも、自分たちの何がそんな態度を取らせるのか理解せぬままに、今日も二人して変わりのない日を送り、二人に対する周囲の嘲りだけが大きくなっていく。
ブリタニアの皇族とその皇族に仕える騎士にとって、ナナリーとスザクの存在はあってはならぬもの、許されざる在り方であり、自分たちの視界に入れないように過ごしている。それが生き馬の目を抜くブリタニア宮廷での身の処し方の一つと言えるのかもしれない。
── The End
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