騎士団事情




 ゼロには逃亡されたが、シュナイゼルとの取り引きは成功したものとして、扇たちは4番倉庫を後にし、シュナイゼルたちも斑鳩を去った。
 扇たち幹部はこれからのことを話し合うために会議室に向かおうとしているところで、一般団員の数人と擦れ違った。
 すると、その中の一人の表情が見る間に変わった。その場にいる者全てがそうと分かる程に。
「扇事務総長! なんで貴方の隣に純血派の女がいるんです!?」
 名も知らぬ一般団員であるその男からの詰問口調の問い掛けに、扇は言葉を詰めらせた。
「え、何を……」
「その女はブリタニアの軍人、しかも純血派でしょう!?」
 男は扇の隣にいる、彼が千草と呼ぶヴィレッタを指さしながら大声で喚いた。
「純血派?」
「純血派だって?」
 その場にいた他の一般団員はもちろん、幹部たちも“純血派”という言葉に反応し、ざわめき出す。
「本当なのか?」
「俺が見間違えるはずがない! その女のせいで彼女は、俺の恋人は、俺の目の前で殺されたんだ! 結婚を約束していたのに、たとえブリタニア支配下のゲットーの中であろうと幸せになろうって約束してたのに、それをその女が……っ!」
 涙を浮かべながら叫ぶ男に、周囲から同情が、そしてそんな純血派の女を隣に置いている扇に不信の視線が集まる。
「ち、違う! 確かに千草は以前は純血派だったかもしれないが、今は俺たちの協力者だ!」
 自分とヴィレッタに向けられた視線に、扇は慌てて否定の言葉を喚く。
「千草のお陰で、ゼロの裏切りが証明されたんだ、かつてはともかく今は……」
「ゼロの裏切りってどういうことですっ!?」
 扇の言葉を遮って、他の一般団員の男が詰問する。
「外交特使としてやって来たシュナイゼルが教えてくれたんだ。ゼロはブリタニアの元皇子で、かつての行政特区での虐殺もゼロの仕業だって。俺たちがゼロに従っているのも、ゼロの持つ絶対遵守とかっていう、ギアスという異能の力で操られてのことだって」
 身振り手振りを加えながら、扇は目の前の一般団員たちに説明する。
「それは一体どういうことです。敵の持ってきた情報をそのまま信じたんですか?」
「ゼロに操られてって、なら何故、ゼロの裏切りなんて言うんですか!?」
「さっきゼロ専用機の蜃気楼が奪取されたって、追っ手を差し向けるように、撃墜するように指示が出ましたよね?」
「奪取されたんじゃなくて、ゼロが乗ってたんじゃないんですか?」
「貴方方は敵の情報を真に受けて、ゼロを追い落としたんですか!」
「あんたたちは倉庫で一体何をしてたんだっ!!」
「ゼロは何処にいるんです! ゼロを出してください、ゼロに説明してもらえば全てはっきりする!」
 次々と一般団員たちが告発するような発言をしていく。
「ゼロは逃げた! あいつは私たちを裏切った裏切り者だ!」
 扇が言葉に詰まっているのを見かねて、千葉が言葉を挟んだ。
「何でゼロが逃げなきゃならないんだ! あんたたちがそう仕向けたんじゃないのかっ!?」
「あんたらの方こそゼロを裏切ったんじゃないのか!」
「超合集国連合の最高評議会は知っているのか!? 仮にもこの黒の騎士団のCEOであるゼロを追い出すなんて!!」
「いつだって最前線で指揮を執ってくれていたゼロより、敵のシュナイゼルや純血派の女の言うことを信じろっていうのか!?」
 千葉の言葉は、却って幹部たちに対する一般団員たちの反感を買い、さらなる追及を促すものとなってしまった。
 騒ぎを聞きつけて他の一般団員たちもその場に集まり始めた。数で言えば幹部たちの方が完全に押されているし、言っている内容にしても一般団員たちの言うことの方に理がある。
 扇や藤堂ら幹部たちは壁際に追い詰められていく。
 もはやどのような言葉も通じない。却って溝を深め、幹部たちに対する不信を招く一方になっていく。
 そうこうしている中、九州の本隊から黒の騎士団の総司令である黎星刻が、超合集国連合最高評議会議長であり、合衆国日本の代表である皇神楽耶や、合衆国中華の代表である天子が、他の側近の者たちと共に斑鳩にやってきた。
 星刻は早々に騒ぎを聞きつけ、対峙している日本人幹部たちと一般団員たちとを、一番広い会議室に招き入れた。とても廊下で話し続けるような内容ではないからだ。
「どういうことか説明してもらおうか」
「それは……」
 扇が致し方なくといった感じで、シュナイゼルの来訪と、それによって齎された事実、自分たちがゼロに対して行ったこととその結末とを話した。
 それを聞いて星刻は眉を顰めたが、特に何も言うことなく、今度は扇たち幹部に詰め寄っていた一般団員たちの言い分を聞く。それに対して一番最初に扇を責めた団員が口を開き、廊下での遣り取りの全てを話した。
「全てその男の言いがかりです。こっちには千草っていう証人もいるんですから」
 団員の言葉を受けて、取り繕うように扇が述べる。
「だが、理は一般団員の諸君にあるようだな。CEOであるゼロを、敵の齎した確信も取れないような情報のみで最高評議会に諮ることなく処刑しようとするなど、言語道断! 皇議長、何かご意見はありますか?」
 扇に向けて一喝した後、星刻は横にいる神楽耶に問うた。
「言葉もありませんわ。先刻まで戦っていた敵国の宰相の言葉を鵜呑みにして、最高評議会に諮ることもなく休戦を約し、その上、ゼロ様を売るなんて、あっていいわけがありません。彼らのしたことは超合集国連合に対する背信行為です。後はCEOたるゼロ様がいなくなった今、黒の騎士団総司令たる星刻殿に彼らの処分を委ねます」
「神楽耶様!」
「神楽耶様も星刻様も何を言っているんです、日本人を裏切ったのはゼロなんです」
「ゼロが俺たちを……」
「お黙りなさい! 貴方方は自分たちが何をしたか分かっていないのですか!? 貴方方は最高評議会の議決を無視して、黒の騎士団のCEOであるゼロ様を裏切ったのですよ! つまりは超合集国連合を裏切ったのです!」
「そんな……」
「私たちはただ……」
「大勢の日本人を虐殺してきた純血派の女の証言など、何処をどうとったら信用出来るというのですか!」
 扇の言う証人など、証人足り得ないのだと神楽耶は言い切った。
「第一、純血派の、ましてやブリタニアの男爵が、黒の騎士団の地下協力員だなどとそんな話は聞いたことがない」
 星刻が補足するように告げる。
「千草は……」
 そんなことはない、千草は、ヴィレッタの言うことはきちんと信用出来るものだと、扇は必死に言い募ろうとするが、星刻や神楽耶には最早聞く耳はない。
「諸君らは各々処分が決定するまで自室で謹慎しているように」
 星刻は幹部たちに向かってそう告げると、今度は一般団員に向かって告げた。
「彼らを連れていけ。ゼロのことは……、残念だが今は諦めるしかないようだ。蜃気楼の追撃部隊は見失ったと報告してきている」
 途中一人の団員がやってきて、何かを星刻に耳打ちしていたのはそのことだったらしい。
 一般団員たちは悔しそうに、そして憎々しげに幹部たちを睨み付け、星刻の言葉に従って彼らを引き立てていった。
 ゼロを失った黒の騎士団がこれからどういう道を辿るのか、その余りにも大きな損失に、星刻や神楽耶たちは溜息を吐くしかなかった。

── The End




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