フジ決戦の終盤、ダモクレスにスザクと共に乗り込んだルルーシュは、シュナイゼルにギアスを掛けた。
ゼロに仕えよ── と。
“悪逆皇帝”ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは殺された。ゼロの手にかかって。
ルルーシュの死に興奮する人々によって解放されたシュナイゼルは、最初は戸惑うだけだった。
何故ルルーシュが死なねばならないのか。
何故フレイヤの恐怖から世界を救ったルルーシュが悪逆皇帝なのか。
何故大量破壊兵器であるフレイヤを放った陣営の己たちが正義と称えられるのか。
何も分からぬまま、シュナイゼルは頭の中に木霊する「ゼロに仕えよ」という言葉に従って、ゼロの前に膝を屈した。
それからはゼロの指示通りの日々を過ごし、作戦を、時には政策を立案する日々が続いた。
しかしそうして過ごす日々の内、シュナイゼルの中に鬱積していくものがあった。
何故己はゼロに逆らえないのか。
それは「ゼロに仕えよ」という命令があるからだ。
だがシュナイゼルの認識では、ゼロは異母弟のルルーシュであり、そのルルーシュは今目の前にいるゼロによって殺された。つまり現在のゼロはルルーシュではないことになる。
「ゼロに仕えよ」というルルーシュから掛けられたギアスのままにゼロに従うシュナイゼルではあったが、ゼロはルルーシュ、ルルーシュはいない、ゼロによって殺された、今のゼロはルルーシュではない、という思いが日々強くなっていく。
ゼロがルルーシュでないならば、今のゼロは従うべき本来のゼロではない、という思いが次第にシュナイゼルの中で頭を持ち上げてくる。その一方で「ゼロに仕えよ」という言葉がシュナイゼルに重く伸しかかってもくる。
「ゼロに仕えよ」という命令のままにゼロに従いつつも、シュナイゼルの中ではゼロ=ルルーシュである以上、今のゼロは本来仕えるべきルルーシュ、つまりゼロではないという思いが次第に強くなっていく。
そしてそれは、やがてサボタージュという行為となって少しずつ現れ始めた。最初は誰も気付かぬような些細な事柄だった。だがそれは次第に大きくなっていく。
ある日、遂にゼロがシュナイゼルに詰め寄った。「何故私の命令に従わないのか」と。
シュナイゼルにとってその答えは決まっている。
「ゼロは私の異母弟のルルーシュだ。だが君はルルーシュではない。何故なら、ルルーシュは君が殺したからだ。私が仕えるべきゼロはルルーシュだ。ルルーシュではない君は、私が仕えるべき相手ではない」
シュナイゼルにとっては簡単な理屈だ。これ以上簡単なことはない。何故今までこれに気付かずに偽物のゼロに仕えてきたのか。そのほうが今のシュナイゼルにとっては不思議でならない。
己が敗れたのはあくまでルルーシュであって、今の偽物のゼロではない。
ギアスを掛けた本人であるルルーシュが死亡しているというのもあったのかもしれない。
しかしそれ以上に、シュナイゼルの中のゼロ=ルルーシュという図式が大きすぎて、それはいつの間にか、ルルーシュの掛けた「ゼロに仕えよ」というギアスを知らず知らずのうちに破っていた。つまるところ、ルルーシュの掛けた「ゼロに仕えよ」というギアスは、完全には働かなかったのだ。いわば半ば不発に終わったようなものだ。
シュナイゼルが敗れたのも、仕えるべきゼロも唯一人ルルーシュのみ。ルルーシュがいないのならば、これ以上シュナイゼルが、ルルーシュではない偽物のゼロに、黒の騎士団に関わる必要性はないのである。
そしてシュナイゼルが唯一執着したといっていいルルーシュがもうこの世にいない以上、加えて己が宰相を務めた神聖ブリタニア帝国── 現在のブリタニアは既に帝政ではない── が存在しない以上、シュナイゼルは己がこの世に存在する価値はないとすら思ってしまう。
それ程までに、ゼロであったルルーシュの存在はシュナイゼルの中で大きかった。
「君がルルーシュでない以上、君の指示に従う必要性を私は感じない」
そう告げて、シュナイゼルはゼロの前を辞し、黒の騎士団から去った。副官であるカノン・マルディーニと共に。
シュナイゼルという、これ以上ないブレーンを失ったゼロが、これから先、黒の騎士団でどう動いていくのか、いや、動いていけるのか。そして世界はどう移り変わっていくのか。いささかの興味はあるものの、シュナイゼルには然程この世に対する執着は何もなかった。
ゼロの元を去ったシュナイゼルには、自発的に何かをしようという意思はなく、ただ静かに世の移り変わりを見ていく日々があるのみだった。そしてその傍らで、カノンもまた、静かに主たるシュナイゼルを見守り続けていくだけだ。
── The End
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