スザクはゼロであったルルーシュを、その前言を翻してその命を奪うことなく、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの前に引きずり出した、拘束服をその身に纏わせて。
「陛下、彼、ルルーシュがゼロです。ゼロを捕えた褒美に、僕にラウンズの地位を!」
ルルーシュの躰を床に押さえつけ、スザクはこともあろうに、皇帝に対して己の新たな地位を、皇帝の騎士であり、臣下としてはブリタニアでは最高位であるラウンズの地位を要求した。
「友達を売るのか!?」
スザクの言葉に、ルルーシュは彼を睨み上げて叫んだ。
「君は帝国への反逆者だ。僕はブリタニアの騎士として当然のことをしているまでだよ、ルルーシュ」
二人の遣り取りを一段高いところから見下ろしていたシャルルは、脇に控えていた男を呼んだ。
「ビスマルク」
「はっ」
シャルルに呼ばれて前に進み出たのは、ナイト・オブ・ラウンズの一人、シャルルの信任が最も厚いワンのビスマルク・ヴァルトシュタインだった。
「そこのナンバーズを捕えよ」
「えっ!?」
シャルルから発せられた思いもよらぬ言葉にスザクは驚き、目を見開いて真っ直ぐにシャルルの顔を見上げた。
「そやつは皇族、それも皇子たる我が息子を反逆者として捕えたと、拘束服を着せて儂に地位と引き換えに売ろうとしておる。帝国の臣民にはありえぬことだ。唯一の第7世代KMFのデヴァイサーとはいえ、所詮はナンバーズ。皇族がどういう存在か、騎士とは何かなど、何も分かっておらぬ愚か者よ。捕えて牢に放り込め」
「何故です!? こいつは、ルルーシュはエリア11でクロヴィス殿下やユフィを殺したテロリストのゼロなんですよ、帝国への反逆者なんですよ! その反逆者を捕まえた僕を捕えろとは、一体どういうことなんですか!?」
「ブリタニアにおいては皇族同士の殺し合いなど不思議なことでもなんでもないわ。我が国の国是は弱肉強食。殺された者が弱かっただけのこと」
「そんな理不尽なっ!」
シャルルの言葉に、それではユーフェミアは、ユフィは弱かったから殺されたと、弱かったことが悪かったとでもいうのか。あの誰よりも優しく慈愛に満ちていたユフィに、自分を救ってくれたユフィに生きる価値がなかったとでもいうのかと、スザクは思った。
「皇族の方々にはあらゆる特権があり、そしてそれが皇族方の身を守る。皇族の選任騎士制度もその一つ。貴様はユーフェミア皇女殿下の選任騎士でありながら、その御身を守ることすら出来なかったことをこそ恥じ入るべき。それをせずに皇子であられるルルーシュ殿下を売って己の栄達を図ろうとするとは、厚顔無恥もいいところ。そのような者にブリタニアの騎士を名乗る資格などない!」
スザクはいつの間にか彼の傍まで来ていたビスマルクに、ルルーシュを押さえ付けていた腕を捕まれた。
「何をっ!?」
「何をとは、貴様は陛下のお言葉を聞いていなかったのか。貴様は皇族への侮辱罪によって捕らわれるのだ」
スザクの疑問の言葉に、さも当然のこととばかりにビスマルクは答える。そして抵抗しようとするスザクをものともせずにルルーシュの躰から引き離し、シャルルに言われた通り牢に放り込むべく、彼を連れ去った。
後に残ったのは、拘束服を着せられたまま床に伏せているルルーシュと、それを見下ろすシャルルだけだった。
シャルルは侍従を呼び出すと、ルルーシュを立たせてその拘束具を取り外させた。
「ルルーシュよ」
「……」
ルルーシュはシャルルの呼び掛けに何も答えず、ただ黙って憎々し気に睨み返した。
「そなたがマリアンヌを守れなかった儂を、日本にそなたとナナリーがいるのを承知の上で開戦したのを恨んでおるだろうことは分かっておる。だが、あの時はそなたたちを守るにはそれが一番の方策だったのだ。そのために開戦前にアッシュフォードを、爵位を剥奪したことにして密かに日本に遣わしもした」
ルルーシュはシャルルの言葉に驚いたように目を見開いた。
「そなたが儂を、このブリタニアを憎むのも当然のこと。これからもこのブリタニアに対して牙を剥くというなら、それも致し方ない。そなたはそなたの好きなように生きるがよい。それがある意味、そなたの父であることを捨てた儂の受ける罰なのだろう」
「……父上……」
シャルルの言葉を素直に信じられぬように聞いていたルルーシュは、ただ呆然とシャルルを呼んだ。
「皇族に戻り皇子としてブリタニアに帰ってくるもよし、今まで通り一般人としてエリア11で暮らすもよし、全てはそなたの望む通りにするがよい」
シャルルは慈愛に満ちた瞳でルルーシュにそう告げると、数多いる子供たちの中でも、最も愛する息子に触れることもなく、その場を去った。
後に残されたのは、呆然自失状態のルルーシュと、その傍らに控える侍従だけだった。
数日後、エリア11のアッシュフォード学園に戻ったルルーシュの耳に入ってきたのは、スザクが選任騎士という立場にありながら、守るべき主であるユーフェミア皇女を守らなかった上に、ブラック・リベリオンにおいても途中で身勝手に戦線離脱したとして、本国において── 何故本国で、と周囲は疑問を抱くこととなったが── 騎士の身分を剥奪された上に投獄されたという噂だった。とはいえ、「人の噂も75日」と言われているように、ましてや名誉ブリタニア人一人のことであれば、人々はそう程なく彼の存在そのものを忘れていくだろう。
── The End
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